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広告の手法で広告じゃないモノを作った件。でガチ対談!

備後 一治

備後 一治

株式会社 WOWOW

後藤 花鈴

後藤 花鈴

株式会社 WOWOW

中尾 孝年

中尾 孝年

株式会社 電通

次世代動画スターを目指す7組の「ガチTuber」たちが、動画制作を競い合うリアリティーショー「ガチTube」。WOWOWオンデマンドで現在絶賛配信中のこの番組は、電通のクリエーティブ・ディレクター中尾孝年氏が企画。同局の番組コンペで約800案の中から選ばれました。

広告クリエイターとしてテレビCM制作に長年携わってきた中尾氏のクリエイティブのエッセンスが、番組制作にどう盛り込まれているのか?「ガチTube」の演出も担当する中尾氏と、WOWOWのプロデューサー備後一治氏、後藤花鈴氏が番組制作を振り返ります。

ガチTube
中尾孝年氏:江崎グリコ「AKB48江口愛実」、「イモトのWiFi」、サントリー「レモン沢富美男」シリーズなど数々のヒットCMを手掛けてきた広告クリエイター。備後一治氏:バラエティーでは「電波少年W~あなたのテレビの記憶を集めた~い!~」の制作にも携わるプロデューサー。後藤花鈴氏:2018年からWOWOW制作部に所属。普段は 2.5次元ミュージカルや宝塚のレギュラー番組のプロデュースを担当。

挑戦者の「脱落」ではなく、「成長」にフォーカスした番組

中尾:番組は1月から配信が始まり、もう終盤戦やね。昨年8月に制作がスタートしてから、あっという間でした。

備後:早いですね。昨年私たちが実施した番組コンペには、「WOWOWの中に新しい風を吹かせる」という大きな狙いがありました。約800案の企画から3案を採用したのですが、その一つが中尾さんが企画した「ガチTube」でした。「リアリティーショーへの挑戦」という、これまでにないWOWOWの方向性を示せたと思います。

ガチTube

後藤:「動画クリエイターたちのサバイバル」という企画は、私たちでは思いつかなかった。「ガチTube」の企画書を読んで「こんなことができるんだ……!」と驚きました。

備後:驚きといえば、「動画制作」を戦いのテーマにすることで、「WOWOW」と「動画サイト」という、ともすれば対立的に捉えられがちな二つのメディアを融合するというアイデアも斬新でしたね。リアリティーショーの企画提案は多数あったけど、中尾さんの企画ほど新しいものはなかった。それで、ぜひトライしたいと思ったんです。

ガチTube

中尾:コンテンツとしてもリアリティーショーは人気があるから、ぜひ提案したいなと。でもドロドロの人間模様が繰り広げられるだけの番組にはしたくなくて……。単に勝ち負けを競うだけでなく、「教官Tuber」として人気動画クリエイターを登場させることで、挑戦者はもちろん視聴者も「トレンドである動画配信についてのスキルが身につけられる」という要素を盛り込みたかった。そんな思いをWOWOWさんがすごく大切にしてくれたのがうれしかったな。

後藤:教育&スキルアップ系のリアリティーショーって、今までなかった気がします。

中尾:これまでのリアリティーショーって、「脱落」に目が行きがちだったけど、「ガチTube」で提供したいのは、「成長」にフィーチャーした新しい番組の楽しみ方。脱落に対するネガティブな笑いを誘うのではなく、挑戦者の成長を楽しみながら、ポジティブな方向で笑ってもらえるようにこだわっています。

これは僕が長年携わってきたテレビCM制作の影響が大きい。広告って批判にさらされやすいジャンルなんだけど、批判されるのは制作者ではなくて、発注者であるクライアントです。だから制作者は責任重大。表現など、すごくデリカシーを持って作っています。広告制作ではネガティブなことで笑いをとるのはNGで、ポジティブな笑いが常に求められる。その感覚が番組作りにも生かせていると思います。

後藤:中尾さん自身がとにかく明るいですもんね。「ガチTube」は、他の制作現場以上に笑いがあるし、みんなをハッピーにしてくれます。

中尾:うれしいなあ!そう言ってもらえて。みんながハッピーな関係性じゃないと人をハッピーにするものなんて作れないと思っていますから!

番組を生配信して、日常の動画投稿と融合させる

備後:「ガチTube」は全12回の配信予定ですが、事前収録だけでなく生配信の回があるのも特徴です。私はこれまで音楽や情報番組の生配信はやってきましたが、バラエティー番組では初めて。最初、中尾さんから「生配信やりませんか?」と提案されたときは、正直面食らいました(笑)。

中尾:「動画サイトへの投稿」って日常的に行われているのに対し、「番組配信」は毎週土曜の夜9時~とか時間が決まっていますよね。この時間軸が違う二つのものをどうコラボするかが、僕の中では一番の課題だった。ガチTuberたちは動画を作ったら投稿していくんだけど、その流れの中に、生放送(WOWOWオンデマンドの場合、生配信と呼んでいるけど)の番組を入れ込みたかった。そうすることで、ガチTuberが投稿した動画と番組の相互視聴に拍車がかかると考えたんです。

それともう一つ、生配信を入れたかった理由は、WOWOWの番組制作力をアピールしたかったから。パソコンを中心に動画投稿している人と比べて、放送局で番組制作に携わっている人の力が最も発揮されるのは「生」だと僕は思っています。番組の制作現場で育った人たちは、生放送(生配信)の技術を長年磨いてきている。それを見せたかった。

「ガチTube」では、ステージごとに脱落者発表があるのですが、番組の特に肝となるこの回を生配信しています。自分の作品への評価をガチTuberたちがどう受け止めるのか?撮り直しの利かない「生」だからこそ、「挑戦者のガチさ」を効果的に伝えられたのではないかな。

後藤:確かに。視聴者の中には生配信を心待ちにしてくれる方もいて、SNSでも、「脱落したガチTuberの作品をもっと見たかった」というつぶやきがたくさんありました。生配信をリアルタイムで見ている人がこんなにいるというのが、WOWOWでは新鮮な感覚でした。

広告のノウハウが生きた、「ガチTuber」の選考

ガチTube

備後:番組制作では、挑戦者「ガチTuber」たちの選考も大きなポイントでしたね。オーディションをするに当たり、僕は一人一人キャラが立ったバラエティー豊かなメンバーを集めたかった。その方が、視聴者は自分の「推し」の頑張りを見ながら、番組に没入できそうだと思ったからです。

中尾:そうだね。一人一人キャッチーな人にしたいという思いは僕も一緒だった。そこで、エントリーシートを見ながら、「エリート」「お嬢さん」「崖っぷち芸人」「動画得意」「今時の若者代表」といったように応募者をカテゴリー分けしてみたり、備後さんと「この人だったらどういうキャッチコピーを番組でつけるかな?」と考えたりしたよね。最終的に「キャッチコピーをつけやすい人=個性がバシッと際立っている人」という視点で挑戦者を選ばせてもらいました。

「ガチTuber」たちのキャッチコピー
LA育ちの8頭身女子大生
世界一真面目なリーゼント
猪突猛進!イケメンライダー俳優
超アスリート女性お笑いコンビ
車上生活のドン底芸人コンビ
東大院卒の天才タレント
動画ネイティブ世代代表

備後:キャッチコピーをつけるというのは、広告に携わっている中尾さんならではですね。でもその発想が番組の原動力を生みました。MCのチョコプラ(チョコレートプラネット)さんが、ガチTuberの皆さんを料理するときの原点にもなっています。

後藤:中尾さんの狙い通り、キャッチコピーがあるから、視聴者の「推しへの愛」がぐっと高まった気がする。WOWOW社員の間でも、誰を推しているか話題になっていて、キャッチコピーをフックにコメントくれる人も多いんですよ。SNSでの反応もいいですし、業界の人たちからも「WOWOWって新しいことをやっているね」と評価いただいています。

番組作りはマラソンで、広告制作は100メートル走。広告で鍛えたダッシュ力を生かす

中尾:尺で考えると、番組はマラソンで、15秒のテレビCMは100メートル走というイメージ。でも、尺の長い番組の中にも、視聴者をぐっと盛り上げるためにダッシュする瞬間があると思う。その時に、普段広告制作で培ったアイデアや経験、感覚が生かせる。それに、僕の頭の中は、短い構成が積み重なって長い尺ができるという考えになっています。

備後: 30分という短い番組の中に、涙あり笑いありの物語を詰め込み、それぞれのキャラクターを魅力的に見せる番組は、これまでのWOWOWにはないものです。ガチTuberの皆さんもチョコプラさんもイキイキして、視聴者に愛されていると感じます。

中尾:ガチTuberの演出は、CM制作で素人を起用するケースに近いと感じます。素人の方はプロの俳優とは違い、「こうしてください」とお願いしてもその通りにならないことがある。その場合は、起用した方の魅力を見極め、どう引き出すかを考えます。それは“やらせ”ではなくて、あくまでもその方の“持ち味”が出るように導くということ。思い通りにいかないことをポジティブに受け止めて面白くする工夫が必要です。

いやー、それにしても「ガチTube」で番組制作を経験して、こんなこと言うたらあかんけど、もう広告の仕事をするの、嫌やわ(笑)。15秒とか短すぎる!普段のCM制作では15秒にまとめるために、いろいろなものをそぎ落としながら、超濃厚なエスプレッソを作る気持ちでやってます。でも、エスプレッソじゃない部分にも世の中の人が喜んでくれるものがいっぱいあるんだよね。

特に今の時代は、そぎ落とされる前の素材を、それぞれの視聴者がそれぞれの視点で見て、楽しむことを求めている。完成品を与えられるんじゃなくて、一緒に完成させるぐらいの感じで見せてよって。

だからこうやってちゃんと尺を与えてもらって行間も含めて発信できるのは、クリエイターとしてすごくうれしいし、普段の広告とは違う世の中の反応を引き出せるから、やっていてすごく楽しい!

さまざまなジャンルのクリエイターをもっと起用していきたい

備後:これからも「ガチTube」のように、新しいコンテンツをどんどん作っていかなければ。そのためには、いろいろなジャンルのクリエイターの力が必要だと感じています。すでに、新進気鋭の劇作家にMV(ミュージックビデオ)を作ってもらうなど新しい取り組みも始めていますが、個人的には、文章を書くことを職業にしている人をもっと映像に引き込んでいきたい。脚本家や放送作家だけでなく、例えば、専門書を書いている人を引っ張ってきて、著書をドラマ化してみたい。

後藤:備後さんと同じく、私も番組制作に携わったことがないクリエイター起用の必要性を感じています。今は、テレビや動画などメディアの垣根がどんどんなくなってきている時代。だからむしろメディア以外で活動している人を起用するのも面白いかもと思っています。クリエイターでなくても、異業種界の人にアドバイザーみたいに入ってもらってもいいかもしれません。 

中尾:今は、どれだけ細分化したニーズに番組が応えられるかが求められる時代。そのぶん深い知識とレベルの高さが求められるし、いろいろなジャンルのプロフェッショナルの力が発揮できると思う。

備後:僕たちが抱いているWOWOW像とは、「ニッチなものをキュレーションしている放送局」。ニッチな番組を見て「そうそう、こういうのが見たかったんだよね」と評価いただける。そんな特徴を今後さらに生かしていきたいです。

中尾:うん、そういうことを WOWOWが他のメディアに先駆けてどんどんやってほしいな。力をお貸しできることがあればもちろん協力しますよ!

【番組概要】
「ガチTube~次世代動画スター育成サバイバル~」
配信日:毎週土曜21時 (一部生配信) 全12回
MC:チョコレートプラネット

【視聴方法・出演者情報は番組公式サイトをご覧ください】
https://www.wowow.co.jp/extra/gachi_tube/
※WOWOWオンデマンドで過去エピソードも視聴可能

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著者

備後 一治

備後 一治

株式会社 WOWOW

制作部

プロデューサー

番組制作会社勤務を経て、2008年に株式会社 WOWOW入社。プロモーション部、編成部、人事部を経て2020年より制作部勤務。

後藤 花鈴

後藤 花鈴

株式会社 WOWOW

制作部

プロデューサー

2016年に株式会社 WOWOW入社。放送サービス部、プロモーション部を経て2018年より制作部勤務。

中尾 孝年

中尾 孝年

株式会社 電通

4CRP

クリエーティブ・ディレクター/コンテンツディレクター/コミュニケーションディレクター

京都府出身。主な仕事はサントリーこだわり酒場のレモンサワー「レモン沢富美男」シリーズ、集英社週刊少年ジャンプ「ハイキュー!!」ユニフォームプロジェクト、江崎グリコアイスの実「AKB48江口愛実」、「大人AKB48」、エックスコムグローバル「イモトのWiFi」、サノヤス造船「造船番長シリーズ」など。カンヌ、スパイクスアジア、ACC賞など国内外で受賞多数。

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