日常生活、ビジネスを問わず、さまざまなシーンで言及されることが増え、盛り上がりを見せているメタバース。電通グループでは2022年8月~9月に「メタバースに関する意識調査2022」を実施。一般ユーザーにおいてもメタバースの認知度は急速に高まっており、市場規模は今後も成長が見込まれています。
本記事では、調査に携わった電通グループの「XRX STUDIO」から森岡秀輔氏、金林真氏、堤史門氏にインタビュー。前編では、調査の概要や、結果から読み取れるメタバースの広がり方についてそれぞれの見解を紹介しました。後編では、メタバースが生み出している新たな文化やビジネスにおける今後の可能性について探っていきます。
メタバース上のファッションや空間が、リアルの源泉に
Q.今回の調査では、メタバースの認知の広がりと共に、利用者の年間の課金額・利用金額に関しても、前年と比べて1.6倍〜2.2倍に増えているという結果でした。このメタバースへの「お金の使い方」についてはどのように捉えていますか。
森岡:課金対象としては、「デジタルファッション」がかなり大きな割合を占めていると思います。いわゆるメタバースプラットフォーム上で使うアバターやスキン、アイテムなどですね。今回の調査で特徴的だったのが、特に若い世代の女性を中心に、ファッションを楽しむためにメタバースを使っているということです。
株式会社 電通グループ 森岡 秀輔氏堤:デジタル上のファッションをリアルの自分のコーディネートの参考にする、という話は興味深かったですね。そうした考察を踏まえると「こういう機能を増やせば若い女性のユーザーが増えるのでは?」など、新たな機能やサービスを考える参考になるのではないでしょうか。
森岡:他にも、若い世代では、プラットフォーム上で作った空間を自分の住まいのインテリアやレイアウトのアイデアにするなど、デジタルで試してからリアルで再現して楽しむといった、新たな使い方が生まれています。
一方、40代、50代になると、宇宙空間やファンタジー世界といった「非日常の空間を楽しみたい」という意見が多く見られました。「バーチャル渋谷」など、リアルな街を再現しているような空間に対する参加率も高かったですね。
Q. 若者の「自分のリアルを考えるためにメタバースを活用する」というお話はとても興味深いですね。以前、金林さんは、メタバースを「コミュニケーションを前提とする空間」と話していましたが、デジタルファッションの盛り上がりなどについても、やはりユーザー同士のコミュニケーションが関係してくるのでしょうか。
金林:そうですね。 これまでも「オンライン上の自分をリアルな自分とひも付ける必要はない」という考え方の人は多かったのではないかと思います。そうした中で、見た目や格好まで含めて「オンライン上では、リアルな自分とは全く違う存在を作ってしまおう」という動きが、メタバース上では顕著に行われています。特にVR加工をやっているユーザーに多い傾向で、彼らは自分がなりたい姿でメタバースの中で暮らす、ということをしています。
一方それと時を同じくして、10代を中心に起こっているのが、森岡の話にあった、「自分がなりたい姿をメタバースで再現した結果、その格好を自分のファッションの参考にする」というような潮流です。メタバース上で理想的な格好でコミュニケーションを取り、気に入ったらそれをリアルにも反映させていくわけです。さらに、メタバース内で知り合った人をただ単に「ネットの友達」として捉えるのではなく、リアルな友達の延長線上として捉えている人たちも多いですね。趣味が合えばオフ会などで会うこともあるかもしれませんし、ここでもバーチャルからリアルへという流れが生まれています。
株式会社 電通 金林 真氏森岡:コミュニケーションに関しては、SNSだと文字と画像、映像でしかやり取りできないけれど、メタバースのサービスは「自分のアバターを通して立体的にコミュニケーションが取れる」といった好意的な意見もありました。コロナ禍でメタバースにハマったという女性は、アバターのオシャレに気を遣いながら、リアルで友人らと語り合うかのようにお互いのアバターを褒め合うといったコミュニケーションを、メタバース上で楽しんでいるようです。こうした動きはとても興味深いですね。
業務最適化から自社製品紹介まで。メタバースのビジネスへの生かし方とは
Q.一口にメタバースと言っても、世代や使っているサービスなどに応じて、多様なカルチャーやコミュニケーションが生まれているんですね。そうした中で今後、メタバースがビジネスにどのように生かされていくのか。その可能性や発展性についてはどのようにお考えですか。
森岡:この1、2年で、企業やブランドのメタバースへの参入事例は増えてきました。ただ、「メタバースをやろう」と飛び込んだものの、結局ゴーストタウン化してしまっているという例も多いかもしれません。1、2年目はメディアバリュー・PRバリューを考えるだけで良かったけれど、3年目になれば結果やパフォーマンスが求められてくる。成功事例に学びながら、ブランドスペースや世界観といったものを作り上げるときに気をつけるべきポイントを、徹底的に精査していく必要がありそうです。
そんな中でも、私はやはりデジタルファッションの分野に可能性があると感じています。ニューヨークのファッションスクールと組んでデジタルファッションコースを新設したメタバースプラットフォームの事例もあり、「デジタルファッションデザイナー」なる肩書きも生まれています。新しいコミュニケーションの場にブランドとしてどうやって入っていくのかを考えた時、やはりアバターやスキン、アイテムがカギを握ることになる。このデジタルファッションの分野にファッションブランド以外の企業も含め、いかに参入していくのかが、今後の1つのポイントになるのではないでしょうか。
Q.なるほど。ファッションやエンターテインメント分野以外でも、自社事業でメタバースへの参入を検討している企業は多いかと思います。メタバースを活用した新たなビジネス領域としては、どのようなものが考えられるでしょうか。
堤:例えば、自社業務において「この部分はメタバースでできると良いよね」というように、業務やプロジェクトの一部分の最適化に使われていけば、可能性はさらに広がると思います。企業内で気軽に手が出せるものになり、世の中にとって当たり前になっていけば、ビジネスはさらに加速していくかもしれません。
株式会社 電通 堤 史門氏金林:1つ注目しているものを挙げると、BtoBでのセールスにメタバースを使う取り組みです。特に、スライド資料だけだと説明しにくいものに関して、有用に働くケースがあると思っています。
ある企業は、工場で部品を作るときに使う自社製品の機械について、メタバースを使って紹介する、という取り組みを始めたそうです。資料だけだと分かりにくいところを、メタバースの中で立体的に説明することでより分かりやすくなるし、体験としても面白い。これは素晴らしい好事例だと思っていて、こういった事例は今後も増えていくと思います。われわれもぜひ、そういった取り組みをお手伝いする機会を増やしていきたいですね。

さまざまなプラットフォームやサービスが登場し、盛り上がりを見せているメタバース。テクノロジーの進化やユーザー側の多様な使い方によって、独自の経済圏や新しいカルチャーが次々に生まれています。デジタルとリアルとの関係性やコミュニケーションの在り方にも変化が見られ、そこには新たなビジネスチャンスが眠っていると言えそうです。