ビジョンドリブン型の事業開発メソッドを活用し、多くの企業の未来事業やその構想を創出する電通「Future Vision Studio」。その特徴は、電通のクリエーターと共に飛躍的なアイデアで未来を考え、イラストやCGでビジュアライズし、そこから現実に引き戻す形で今できることを具現化するということです。
「Transformation SHOWCASE」では、同プロジェクトのコアメンバーである株式会社 電通 榊良祐氏、佐藤香織氏、市川大介氏にインタビュー。後編では、同プロジェクトならではの独自性、今後力を入れたい領域について聞きました。
ビジョンドリブン型の事業開発は、新たなスタンダードに
 株式会社 電通 榊 良祐氏
株式会社 電通 榊 良祐氏Q.「Future Vision Studio」の発足から約2年半が経ちましたが、現状の手応えはいかがですか?
榊:クライアント企業さまのニーズは、明らかに増えています。私がビジョンドリブン型の未来構想を提唱し始めた2018年頃はそこまで多くはありませんでしたが、今は共感してくださる企業も多く、事業開発の新たなスタンダードになりつつあると感じます。
私たちが提供するプログラムも、1年目に比べると精度が高まっています。新たなフレームワークの開発やアップデートを続けてきたので、満足度の高いものが仕上がりつつありますね。
佐藤:個人的には、「Future Vision Studio」を通じて、「電通にはこんなに面白い人材がたくさんいるんだ」と気付けた点が大きかったです。社内にはクリエーティブに軸足を置きつつ、全く違うスキルを持つ人が意外といるということを知りました。例えばある若手コピーライター・CMプランナーは、趣味でイラストを描いているらしいと聞いたので、このプログラムではイラストレーターとして、普段の仕事とは異なる役割で参加してもらいました。今後はメンバーを増やしたいので、興味のある方にはぜひ参画していただきたいですね。
 株式会社 電通 佐藤 香織氏
株式会社 電通 佐藤 香織氏Q.「Future Vision Studio」から生まれた未来構想の事例を教えてください。
榊:大手システムインテグレーターと共に、防災・レジリエンスサービスの未来を描く取り組みを行いました。共にビジョンを策定し、さらに高解像度で可視化したビジュアルをWebサイトやホワイトペーパーで発信していただいております。
また、「日経ビジネス」で「日本2050 ムーンショットが示す未来」という連載も行っています。今、内閣府を中心に、2040~2050年までの社会課題を解決する「ムーンショット型研究開発制度」が日本で始動しています。その研究者に取材し、「Future Vision Studio」のクリエーターが飛躍的な物語とビジュアルを描いています。
未来の生活者視点で飛躍的なビジョンを生み出す
Q.企業と共に未来を考えたり、未来事業の開発をサポートしたりするサービスは他にもいろいろと存在していると思うのですが、その中で「Future Vision Studio」の独自性、他にはない魅力は何だと考えていますか? 
榊:電通の広告クリエーターが加わることで、企業視点ではなく未来の生活者視点でアイデアを発散しているという点が1つ。また、生活者にとって魅力的にビジュアライズされているので、心から「これを使いたい」と思えるようなアイデアを提案することができる点も独自性だと思います。
もう1つは、やはり飛躍的なアイディエーションです。バラバラのパーツから「実はこれを組み上げるとこんな素敵なものになる」という飛躍的なビジョンを生み出す力は私たちの強みだと思います。さらに、ビジョンを言語化・可視化できるのも、広告のクリエーターとして活動してきた私たちならでは、ではないかと思います。
市川:ただ未来を描くだけでなく、関連企業と連携してファクト情報に基づいた未来構想を行える点も魅力です。プロトタイピングできる技術チームもいるので、アウトプットのバリエーションも1つの強みですね。ムービー制作、展示会への出展などにもつなげることができます。
 株式会社 電通 市川 大介氏
株式会社 電通 市川 大介氏未来は一人の妄想から生まれ、社会の選択が育てる
Q.「Future Vision Studio」は、榊さんが自発的に始めたプロジェクトです。ご自身の思いからプロジェクトを立ち上げ、チーム組成まで行い、社内外を巻き込んでいく。そのモチベーションはどこから来ているのでしょう。
榊:私には、「未来は1人の妄想から生まれ、社会の選択が育てる」という思想があります。誰かの未来のビジョン、ワクワクする妄想がたくさんの人を引きつけたら、それが現実になっていく時代だと思っているので、それを立証したいという思いがありました。
食産業の未来を構想する「OPEN MEALS(オープンミールズ)」は、その活動の1つ。ただ、このプロジェクトはビジネスとしては成立しておらず、そういう意味では持続的なものではないと感じていました。そこで「OPEN MEALS」でやってきたことをフレームワーク化し、なおかつ持続的にするためにビジネスとしても成立するようにしたいという課題感から、「Future Vision Studio」を立ち上げました。
1人では実現できないので、社内外から意欲のある方々を集めましたが、メンバーが増えればその分クライアント企業さまとのコンタクトポイントも増えますよね。ビジネスとしても成立するかもしれないという思いもありました。
市川:私たちが新しい領域にチャレンジしていく上でも、クライアント企業さまの未来事業を一緒に開発したり、研修を通じていろいろなことを学び考えたりするのは意味があることですよね。結果的に、今までお付き合いのなかった部署やチームの皆さまとも新たにつながっていくような展開も起こり始めています。
榊:私たちも、広告を作るというコアコンピタンスは持ちつつも、あらゆる課題を解決し、事業、都市、未来などあらゆるものをつくっていかねばいけないと感じています。共にプログラムに取り組むクライアント企業さまも、“クライアント”というより“パートナー”に近い関係性でご一緒させていただいています。共創ワークショップが実践できれば、クライアント企業さま含めたメンバー同士の距離も近くなりますし、「Future Vision Studio」はこれからの仕事のやり方のスタンダードになっていくかもしれない、そんな期待を抱いています。
Q.最後に、「Future Vision Studio」へのご相談を検討いただいている企業さまがいらっしゃるとして、そのような方々にメッセージをお願いします。
榊:未来構想支援プログラムでは、遠い未来を考えるため、実際にアウトプットするには時間がかかります。そういったこともあって、現時点においては、本格的に実装フェーズまで行くケースはまだ少なく、構想フェーズ案件が中心を占めています。ですが今後は、私たちのもう1つの強みであるアウトプットのデザイン力、つまり魅力的なムービーを制作するスキル、イベントを設計するノウハウ、プロトタイプを魅力的に実装する力を生かし、アウトプットのイメージをより強固にしていく。その先には、一気通貫して未来事業を開発するところまで並走したいと思っています。
「Future Vision Studio」は、ビジョンドリブンで未来を実装していくためのプロジェクトです。企業の方々もパートナーとして集まり、みんなでディスカッションして、クリエーターやテクノロジストと一緒に未来をつくっていきたいという思いから、このスタジオという名前にしたという経緯もあります。ワークショップで終わらず、事業開発までチャレンジしていくのがプロジェクトの目指すところです。ぜひ多くの方とご一緒したいと思っています。

 
混迷を極める時代、「Future Vision Studio」のメソッドはますますニーズが高まりそうです。未来へジャンプする飛躍的なアイデア、ビジョンを可視化するイラスト、実現に向けたアプローチなど、幅広い専門能力を備えた「Future Vison Studio」と共に、未来事業を構想・具現化してはいかがでしょうか。