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未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.25

アイデアで「この指とまれ!」しゃべるおもちゃばこがクラファンに挑戦するまで

2023/10/11

電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center(FCC)」は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティでサポートする80人強による集団。この連載では、「Future×クリエイティビティ」をテーマに、センター員が実際の取り組みについて語ります。

今回は、2021年FCCアイデアコンテストから誕生した、しゃべるおもちゃばこ「ぐ〜ぐ〜モンスター」の開発秘話を紹介。「ぐ〜ぐ〜モンスター」は、イヤイヤ期の子どものお片付けに、ゲーム性が加わることで楽しくなるプロダクトです。親子の新たなコミュニケーションを育むきっかけを作りたいという一人のアイデアから始まり、その思いに共感したメンバーが集結し、それぞれのスキルを生かして実現しました。

チーミングにあたり「フラットでオープンな関係が重要だった」と語るのは、企画者である電通FCCのアートディレクター・佐藤香織氏です。クリエーティブプロデューサーの電通クリエーティブフォース・押尾昌美氏、テクニカルディレクションを担当するKonel・荻野靖洋氏、ダンボール製造を行うタカムラ産業・本宮寿行氏とともに、プロジェクトの歩みを振り返りました。

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子育て世代を応援する「回収エンターテインメント」のアイデア誕生

佐藤:「ぐ〜ぐ〜モンスター」は、2、3歳のイヤイヤ期の幼児から小学校低学年の子ども、その保護者を対象にした「回収エンターテインメント」です。ダンボール箱とスマートフォンの画像認識機能の組み合わせにより、モンスター型の箱から片付けてほしいもののオーダーが出て、おもちゃを入れるとさまざまな音声の反応が返ってくる仕組みになっています。


佐藤:きっかけは、友人の子どもと遊んでいたときに突然始まったレストランごっこでした。子どもが「何食べたい?」と聞いてくるので、「赤いものが食べたいな」などと返すと、それを一生懸命探してきてくれて。これはお片付けにも応用できるかもしれないと思ったんです。イヤイヤ期の子どもは親から「片付けなさい」と言われるのを嫌がる一方、「自分でできるもん」という気持ちももっています。モンスターがオーダーしたおもちゃを自分で探して与えて、フィードバックを得ることで、子どもの自己効力感を伸ばすことができるのではと考えました。

モンスターが発する「食べたい」もののオーダーは、色や形、「ふわふわ」「つるつる」といったテクスチャに加え、「甘い」といった味覚などさまざまです。ランダムにオーダーが出ることで、子どもは想像力を働かせて探します。また親子の間で「これ甘そう」「何で甘いと思うの?」といった新たなコミュニケーションが生まれることも期待しています。

押尾:お片付けを「回収エンターテインメント」に広げたのは、お片付けの定義がご家庭や環境によって違うからです。一カ所にものをまとめただけではお片付けではないというご家庭もありますし、保育園などでは種類ごとに区分けして、次に使う人にとって使いやすくすることまで含んでいることも多いと思います。

佐藤:ぐ〜ぐ〜モンスターはダンボールでできていますが、これを梱包する外箱のダンボールにも一工夫加えました。腕や羽などのパーツのイラストをプリントして、色を塗って本体に切り貼りするなど自分だけのモンスターをアレンジできるようにしたのです。これに目玉のシールと、親子でぐ~ぐ~モンスターの世界に入るための導入絵本もセットにしました。親子でダンボールを組み立てて、目入れで魂を入れて完成させるというストーリー性を込めています。

届く
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絵本を読む
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目玉を貼る
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食べさせる
食べさせる

横並びのスキル持ち寄り型チーミングで生まれた、二度の技術革新

佐藤:プロジェクトの協力者を集めるにあたり、私はアイデアを持って、自分ができること・できないことをオープンにして相談の行脚をしました。私はコミュニケーションを考えるのは得意なものの、それを実行に移すのが苦手です。そこで、実行力のある押尾さんに相談したところ企画を面白がってくれたため、チームに入っていただきました。それから、荻野さんにテクニカル面でのご相談をしました。

荻野:アイデアをどう形にするかというゼロベースでのご相談だったので、プロトタイピングを得意とする自分たちの強みが生かせると思いました。自分もイヤイヤ期の子どもがいる当事者なので、このアイデアにすごく共感しました。プロトタイピングでは、まず体験としてどのくらい子どもに響くかを検証するため、ごみ箱をもとにした筐体(きょうたい)を作りました。私の自宅でも実験を行ったのですが、息子が怖がってギャン泣きする予想外の展開になりましたね。

「ぐ〜ぐ〜モンスター」4つの歴代モデルと開発メンバー
「ぐ〜ぐ〜モンスター」4つの歴代モデルと開発メンバー(左から)電通クリエーティブフォース 押尾氏、電通 廣瀬大氏、タカムラ産業 本宮氏、Konel 荻野氏、Konel 佐藤隆聖氏、電通 佐藤氏、フロントエンドエンジニア 君塚史高氏

押尾:初期のぐ〜ぐ〜モンスターは今の姿からは程遠く、プラスチック製で、おもちゃを食べると目が光る仕様でしたからね。それから当初、親子のコミュニケーションの一つとして、親がスマホを操作して音声を出す仕様にしていました。しかし保育士さんにご意見を伺ったり、いろいろなご家庭で試してもらったりした結果、かえって保護者の手間が増えてしまうことがわかり、オートメーションに変更することにしました。プロトタイプの実装化にあたり、荻野さんとは約半年かけて話し合い、最終的にスマホで全ての動作を完結させることに。これで潮目が大きく変わりましたよね。

荻野:最初は音声スピーカーを搭載したIoTデバイス化を考えていましたが、ハードウエアを作ると後々のメンテナンスやトラブルシューティングが負担となります。スマホで完結させることができて本当によかったと思います。

押尾:筐体についても、プラスチック製はコストがかかるため、それに代わるものを模索しました。毎日、佐藤さんとオンライン会議で途方に暮れる中、ある日突然ダンボールで作るというアイデアが降ってきたんですよね。それでプロトタイプ1個から作ってくれる会社を探して、タカムラ産業さんに一般問い合わせフォームから連絡しました。そしたら怪しいセールスだと思われて返事がしばらく来ず(笑)、電話で説明したら本宮さんをすぐにご紹介くださりました。

本宮:最初にお話を伺ったとき、片付けというものにゲーム性を持たせている点が面白く、ダンボールを親子で組み立てて命を吹き込むというアイデアにも引かれました。当社ではダンボール製の子ども向け遊具などを製造していますが、このようなストーリー性のある企画開発は初めてだったので、ぜひご一緒したいと思いました。

佐藤:子育て世代を応援したいという思いと、ぐ〜ぐ〜モンスターをモノにして世の中に出したいという思いに共感していただき、ゴールに対してお互いのスキルを持ち寄る形でチームができました。お互いにフラットに意見が出し合える雰囲気にしたかったので、横並びの立ち位置で制作を進めています。

荻野:皆が自分の手札を見せながら一緒に考えられる関係だからこそ、電通さんからスマホのアイデアがあがったり、私たちからも体験について提案したり、チームとしてとてもやりやすかったです。

押尾:日頃お付き合いのない会社と連携して取り組む面白さや楽しさがありましたし、クリエイティビティというのはアイデアを突き詰めることだけでなく、あらゆる工程のデザインをするうえで必要なのだと感じました。商品を楽しく届けるために、最後の最後まで粘り強く見直していますが、それを荻野さんも本宮さんもいつも笑顔で支えてくださっていることに感謝しかありません。

本宮:私たちも電通さんを通してKonelさんと一緒に取り組むことができて、デジタルとアナログの組み合わせの可能性がすごく楽しみになりました。

商品化はユーザーのリアルな反応次第。初のクラウドファンディングへの挑戦

佐藤:この商品開発に関わるまで、おもちゃ業界の知識が全くなかったので、押尾さんと一緒におもちゃコンサルタントの資格を取得して、1500人ほどが来場するおもちゃまつりにも出展しました。たくさんの子どもたちが楽しそうに遊んでくれて、何度も戻ってくる子もいるなど、反応は上々でした。

押尾:「しゃべるおもちゃばこです」と呼びかけると、親御さんも構造が気になって口の中をのぞき込んだりしていましたよね。ダンボールとスマホの組み合わせで、おもちゃ箱として機能するという点に良い意外性を感じていただいたようでした。

佐藤:「お片付け」というのをあえて打ち出さずにいたら、親御さんの方から自発的に「お片付けにいいかも」と言われていて、思いが通じたようでうれしかったです。また子どもと一緒に親御さんも、ぐ〜ぐ〜モンスターの「シェフを呼んでください」といったシュールな言葉に笑っていました。親子が一緒に同じ空間で過ごす中で、くすっと笑えて少し変な存在でいるのがちょうどいいのかなと思いました。あとは遊んでいただいた反応を見て、頭の形に丸みを加えたりサイズ感を調整したり、本宮さんに相談しながら改良を加えました。

アイデアからプロトタイプ、プロトタイプから利用者の体験、そしてこれから商品化に向けての第一歩として、クラウドファンディングを行うことになりました。本当にこれが世の中に求められるものなのか、ユーザーのリアルな反応を実感として得たいと思っています。

押尾:将来的にご興味を持っていただいた方々やクライアントの方々と一緒にぐ~ぐ~モンスターを飛躍させていける場合に、クラウドファンディングでの実績やきちんと製品化に向けて検討をした土台があると挑戦の幅が広がるのではないかと思います。ご支援いただいた方から助言をいただけることにも期待しています。

本宮:通常、ダンボール商品を量産する場合、製造コストを抑えるため、型の起こしが必要になります。当社でも初期投資をして商品を売り出してからお客さまの反応を見るというのが常ですが、型を作る前にどのくらいの販売が見込めるのかを見られるのは、クラウドファンディングの大きなメリットだと思います。

荻野:ぐ~ぐ~モンスターはまだ精度を上げていく途中ですが、その段階で一つの体験の問いとして世の中に出していくのに、クラウドファンディングはぴったりだと思います。共感してくれる方や、一緒に育ててくれる方から改善のフィードバックを得たいですね。そうしてこのぐ~ぐ~モンスターという一つの製品が浸透すればどんどん面白いことができると思います。

佐藤:All or Nothingで、目標額を達成できなければぐ~ぐ~モンスターはお届けしません。なので、まずはクラウドファンディングを成功させて、ユーザーの声を集めること。ぐ~ぐ~モンスターは、サイズや色を自在に変えられますし、声も、例えば関西弁や、離れて暮らす親の声にするなど組み合わせが自在です。回収する対象もおもちゃだけでなく、不要なペットボトルや衣類などにも使えるので、老若男女関係なく、幅広く活用できる可能性を秘めています。「回収エンターテインメント」として、いろんな形にトランスフォームしていければさらに面白くなりますね。クラウドファンディングは、ぐ~ぐ~モンスターへの反応をうかがう場として挑戦し、今後の可能性を模索する場としたいと考えています。

・「ぐ~ぐ~モンスター」クラウドファンティングはこちら  

      

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