未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.24
大塚製薬カロリーメイトが切り拓く未来。幸せそうにパンを食べる女の子の朝に込めたものとは?
2023/08/04
電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center(FCC)」は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティでサポートする80人強による集団。この連載では、「Future×クリエイティビティ」をテーマに、実際の取り組みを紹介します。
GW明けの5月8日、こんな新聞広告が掲載されました。紙面の一部分だけに映し出されたのは、朝食のパンを食べて幸せそうな女の子の画像。そして1枚めくると、女の子の周囲に先ほどは見えなかった「慌ただしい朝の景色」が登場します。
これは「カロリーメイト リキッド(大塚製薬)」の新聞広告。同製品は、子育てや仕事で忙しい30〜40代の「責任世代」をターゲットにしており、その人々に朝食での活用を提案したもの。広告制作メンバーが実際に製品を使う中で「朝食」に的を絞ったといいます。写し撮られた慌ただしい朝の風景も、子育て家庭から聞かれた“あるある”がベースに。SNS上では共感の声があふれました。
このキャンペーンはどのように作られたのでしょうか。大塚製薬 ニュートラシューティカルズ事業部 製品部の岩﨑央弥氏と、同事業部宣伝部の梶綾子氏、電通FCCの井戸真紀子氏(クリエーティブ・ディレクター/プランニング・ディレクター)が振り返ります。
「チーム責任世代」が冷蔵庫にストックすることで見えてきた風穴仮説
岩﨑:カロリーメイトには、ブロックタイプ、ゼリータイプ、リキッドタイプの3種類があり、そのうちリキッドタイプ(以下、リキッド)は、経口流動食をルーツにした“飲む”バランス栄養食です。食事だけでは栄養が足りないと感じたときに飲み物で補えるのが特長で、コロナ禍での健康意識の高まりや、日々の忙しさの中で近年ニーズが高まっていました。
なかでも子育てや仕事の負担が大きくなる、また、自分自身の健康に気遣うようになる、30〜40代の「責任世代」の需要が高く、その層に対してより価値を届ける広告コミュニケーションを考えていたのです。
とはいえ、正面から「栄養をバランスよく摂りましょう」と製品を訴求しても、当たり前すぎて心には届きにくい。“風穴”をあけるような方法を模索している状況で、FCCの井戸さんにご相談しました。
井戸:風穴をあけるために、時代の栄養問題を解決するカロリーメイトとして、責任世代のどんな栄養問題を捉えるのか、この世代の中でも特にリキッドを強く必要とする人やシーン、タイミングを明確にし、それをコミュニケーションの突破口にしたいと考えました。
そこでチームを全員責任世代にし、メンバーの自宅と会社の冷蔵庫にリキッドを常時ストックして、誰がどういうときに飲んだか、なぜ飲みたくなったかを日記式で自ら記入するところから始めました。
梶:実際の調査結果も細かく見せていただきましたよね。
井戸:調べていくと、特にリキッドがよく飲まれる機会が複数出てきました。その一つが、子育て家庭(特に共働き家庭)の朝です。本当は子どもに栄養たっぷりの朝食を作ってあげたいけれど、朝はバタバタしていて難しい。とはいえ栄養は気になるので、朝食を補う飲み物としてリキッドを出すことが多かったのです。
また、日々の生活の中で、責任世代の親同士で必ずといっていいほど盛り上がる話題が「朝、何を食べさせている?」かということ。忙しい中でも、決して子どもの栄養バランスを諦めていません。そこに親の愛情、本能があると感じていました。
これらをふまえて、子どもの朝食の栄養を補うものとしてリキッドを提案しよう、突破口にしようと決めたのです。
梶:私も子どもが2人いる共働き世帯の母親なので、この提案には共感しましたね。家族の栄養バランスのことはいつも考えていながら、朝は特に忙しさで後回しになってしまうことが多かったので。
井戸:お互い盛り上がりましたよね(笑)。さらに今回は「パン一枚+リキッド」という組み合わせを“キラーメニュー”とし、それを軸にキャンペーンを展開することに決めました。なぜならパンは朝食出現率が約70%というデータがあり、また、私たちのメンバーが生活に取り入れた結果、パンと味の相性がいいと感じたからです。
忙しい朝を、全肯定したい。制作プロセスには、朝のリアルへ寄り添うこだわりを
梶:これらを経て、コロナが5類になり、生活者のスタイルが大きく変容するタイミングでもあり、朝の忙しさを強く感じているであろうGW明け初日にキャンペーンを開始しました。まずは新聞広告で2面にわたるメッセージを発信。1面目は、パン一枚を幸せそうに食べる女の子の姿が載り、紙面をめくると、その周りに忙しい朝の家庭のあるあるシーンが登場する構成です。
いろいろなこだわりが詰まっていますが、まず大切にしたのはコピーですよね。1面目は
「パン一枚だっていい。そんな、」
と書かれ、2面目にその“続き”として
「騒がしくて愛おしい、すべての朝に。」
と載せています。
井戸:騒がしい朝を、そしてパン一枚の朝食を全肯定する内容にしました。大塚製薬の皆さんから「慌ただしい朝を前向きに応援できるものにしたい」とお話しいただき、この形に決めました。実際に広告を見た方からもポジティブな感想が聞けて、本当に良かったと思います。
岩﨑:私たちは、すべての栄養をカロリーメイトで摂ってほしいと思っているわけではありません。あくまで食事が一番であり、それを補うものとしてカロリーメイトがあります。パン一枚だからダメではなく、むしろ大切に残してほしい部分なのです。
その考えはコピーだけでなく、女の子の表情にも込められています。この朝食風景をうしろめたく感じられる親もいるかもしれませんが、忙しい合間を縫って食事を用意していること自体が素晴らしいはずです。だからこそ女の子がおいしそうに食べている表情は重要で、やはりこの状況を全肯定したいという意味が込められています。
井戸:女の子の周りで起きている忙しい朝のあるあるシーンについては、SNSのリサーチや責任世代の子育てインフルエンサーへのヒアリングで聞いたものを反映しました。また、画像は合成ではなく、すべてテグスで吊り上げて撮影。制作プロセスにも、現代の朝のリアルに寄り添いたいという想いを込めました。
梶:「男の子が棒を振り回して牛乳をこぼす」や「赤ちゃんがティッシュ引き抜き大散乱」など、一つ一つの朝のあるあるに、自分の家のエピソードの話しが尽きませんでした(笑)。さらに、足りない栄養を補うことができるカロリーメイト リキッドは、もちろん、朝の忙しさに対する「ひと工夫」ではありますが、本当の意味で、共働き世帯の忙しい朝を応援するために必要なのは、ただメッセージで伝えるだけでなく、「楽しく、忙しい朝を乗り切るために、実際に役立つヒント」を提供することなのではないかと考えました。そんな慌ただしい朝を乗り切るためのヒントを集めた「MORNING HINTSサイト」も用意しましたね。
井戸:これも実際の子育て経験者の声がもとになっています。ためになるヒントが多くて、たとえば忙しい朝、待てない子どもには「ちょっと待ってて」の代わりに「ちょっと踊ってて」と言ってみるとか(笑)。
またリアルイベント「MORNING HINTS ビュッフェ」も開催し、さまざまなメディアでご紹介いただきました。
梶:今回の施策に関して、SNSでも多くの方に共感していただき話題にしていただけたことがうれしかったですね。カロリーメイト リキッドの製品理解が進んだ声はもちろん多かったですし、お子さまがリキッドを飲んでいる様子を見て大人世代の方も飲みたくなるという声もあり、製品としての広がりも生まれたと思います。
開発者の想い、先人たちの活動の積み重ねから紡ぎ出す未来
井戸:今回のお仕事で印象的だったのは、「カロリーメイトが売れない社会が一番いい。あくまで理想は食事による栄養補給であり、それができない方がいたり、タイミングがあったりするから、カロリーメイトは存在する」というブランドの存在意義がとても明確で、社員の皆さんが同じ未来を目指されているということです。そのため、オリエンからフィードバックまでいつも明快なお話をいただけ、プランニングがしやすかったです。
岩﨑:そもそもカロリーメイトは医療がルーツの製品で、開発に携わった人たちは、点滴でしか栄養が摂れない、食べ物を口にできない人のつらさを医療現場で見ています。だからこそ、「食事こそが大切である」というのが大塚製薬の姿勢であり、その想いの上に現在のブランドがあるのです。
井戸:40年前の開発者の方の想い、何を実現したくて製品を生み出したのかを、引き継ぎ続ける。その上で、今の時代に何をすべきか考えるということを、社の文化として大切にされているんですね。
岩﨑:その想いを継承するための記念施設や書籍もあり、今でも読み返すことがあります。
梶:「大塚製薬の人は製品を愛していますね」とよく言われます。カロリーメイトもそうですが、どの製品の機能、ルーツ、歴史も含め知れば知るほど独創的な製品が多いです。流行りに流されるのではなく、守るべきものをきちんと守っていくことも私たちの使命だと思っています。
岩﨑:カロリーメイトは今年40周年を迎えます。どんな時代にも必ず栄養の問題は存在しますが、私たちがやるべきことは変わりません。現代の栄養問題は何かを捉えて、それに合ったコミュニケーションで課題を解決していくことです。
梶:栄養の問題は「わかっていてもできない」ものです。その中で、少しでも自分ごと化できるコミュニケーションや共感できる発信をして、皆さんの健康に貢献したいですね。これまでのブランドの歴史は大切にしつつ、今の生活者に伝わる発信を今後もしていきたいと思っています。
井戸:企業、事業が実現したい未来に向かって、同じ想い、熱量で併走できる存在でありたいと思っています。一人でも多くの方の栄養問題を解決するために必要なことを、私たちも考え続けたいと思います。