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DENTSU DESIRE DESIGNが考える、「欲望理論」からのマーケティング再構築No.16

100年続くお煎餅屋さんが「欲望」視点から見いだした、新たな付加価値のヒントとは?

2024/10/03

「DENTSU DESIRE DESIGN(電通デザイアデザイン:以下DDD)」は、企業から見えにくくなってきた現代の消費者像を、今一度「欲望(Desire)」を起点とした消費意識からひもとこうとするプロジェクトです。

DDDでは、“顧客の心の奥底にある「欲望」を具体化し、それを満たす”ことを目的とした「心が動く新商品開発プログラム」を提供しています。このプログラムはDDDが活動の中で見いだした現代の新たな「11の欲望」と、定期的に実施している「心が動く消費調査」のデータベースに集約される約2万人分のリアルな声を基に、消費者の欲望視点から新商品の開発に伴走するものです。

2023年8月 、創業100年を迎えた老舗米菓店「中央軒煎餅」において、同プログラムを活用した商品開発プロジェクトがスタート。事前インプットやDDDメンバーも含めたワークショップを経て、約10カ月 の短期間で新商品「ディップするおかき」が誕生しました。

ワークショップ参加者による座談会の様子をお届けした前回記事に引き続き、本記事では中央軒煎餅で常務取締役を務める武井みどり氏とDDDの千葉貴志氏にインタビュー。
100年企業が抱えていた課題と、そこに応えるDDDのプログラム・考え方、「参加者の心も動かした」という新商品開発の裏側に迫ります。

■プロジェクトの具体的な内容などについてはこちらをご覧ください

 

DDD#16_メインカット
写真左よりDDDの千葉氏と中央軒煎餅・武井氏
<目次>
商品開発のプロセスを変え、「もの」起点からの脱却を図る

見つけた瞬間に「これだ!」。
 既存客へのイメージもロジカルに表された「11の欲望」と欲望クラスター


全部署から参加のワークショップ。密度濃く「楽しい」一日が49ものアイデアを生む

既存のイメージから「半歩ズレる」ことが、好奇心を誘う“違和感”に

ロジックで良い商品は生まれない。「発想」を広げるのは、“根拠ある妄想”

心を「動かす」のではなく、自然に「動く」ことを大事にして取り組みたい

商品開発のプロセスを変え、「もの」起点からの脱却を図る

──まずは武井さんにお伺いします。1923年の創業からまさに「100年事業」を続けてこられる中、貴社の商品開発はこれまで、どのように行われてきたのでしょうか?

武井:当社では「商品部」という部署がマーケティングをはじめ、開発の全般を手掛けています。また、直売店の販売員がお客さまの声や要望を聞き出して記載する独自のヒアリングシートを用意しており、特に新商品やリニューアルした季節限定品の発売時には、率直な感想などを収集して開発の参考にしてきました。

千葉:プロジェクトに参加された店舗の方も、普段からお客さまの声をきちんと聞くことを大事にしているとおっしゃっていましたね。ニーズをしっかり吸い上げることをずっとされてきたのだろうなと感じました。

武井:はい。ただ、そうした形で上がってくる声は、比較的“機能”面に関するものが多い状況でした。もちろん「味がとてもおいしかった」という声もたくさんいただけますが、商品の具体的な改善点としては、価格帯や内容量、箱のサイズなど、買いやすさに関わるものが多く、新たな付加価値のヒントを見つけるのはなかなか難しかったのです。

──お客さまのニーズをくんだ商品開発をする場合も、機能面の検討が増えがちだったのでしょうか?

武井:そうですね。どうしても「もの」起点で検討することが多く、商品開発のプロセスそのものを変化する必要性を感じていたことが、ご相談の発端になりました。

同時にビジネスの課題としても、当社が主軸を置くギフト市場が十数年前から大きく変化し、お中元・お歳暮などが減少して、パーソナル/カジュアルギフトが中心になっていく潮流がありました。デジタルサービスから注文できるギフトの需要も伸びていく中で、ギフトに求められる価値そのものが変わってきていると感じていたのです。

DDD#16_武井氏ソロカット①

武井:こうした流れの中で、ギフト市場におけるヒット商品ではなく、世界に目を向けた新商品として「Risocotti(リゾコッティ)」というお米でできたビスコッティを開発するなど、いろいろなチャレンジを重ねてきました。ただ、どうしても「もの」を起点にスタートする従来の商品開発プロセスから抜け出すのは難しい状況だったのです。

見つけた瞬間に「これだ!」。既存客へのイメージもロジカルに表された「11の欲望」と欲望クラスター

──電通へはどういったきっかけで依頼しようと思われたのでしょうか?

武井:若い世代の方にどうやって「おかき」を選んでいただくか、新たな機会をどうつくっていくかが社内の大きなテーマになっていました。けれども、その上で必要な付加価値やお客さまのニーズを見いだすのは、自社での分析だけでは難しい。

専門家による生活者のタイプ分けやニーズの分類のようなものがどこかに存在しているのであれば、そこを起点に考えられるのではと関連情報を探索したところ、Do! SolutionsのサイトでDDDさんの「11の欲望」に関する情報を発見しました。見つけた瞬間に「これだ!」と思い、無料の資料をダウンロードしたらご連絡いただけ、勇気を出して相談会に参加したことでプロジェクトが始まりました。

千葉:僕はその最初の相談会から参加したのですが、今回実施した商品開発プログラムは、その時点でほぼできあがっていました。まだ世の中に情報としては出していなかったのですが、お話を伺ったら中央軒煎餅さんの状況にドンピシャでは?と思いまして。

DDD#16_千葉氏ソロカット①

──DDDのアクションともタイミングがピッタリだったんですね。相談会でお話を聞き、千葉さんは中央軒煎餅さんの課題や施策に関してどんなことを思われましたか?

千葉:ミーティングの2日後ぐらいに実際に店舗に行って、商品を買わせていただきました。お煎餅って年代問わずに楽しめるもの。なのに、それが伝わっていないのはなぜだろうと考えながら店舗に伺ったら、イメージしていた「お煎餅屋さん」そのものですごく安心しました。一方で、その安心感って、たまたま通りかかった人が立ち止まるきっかけにはならないと思ったんです。

ここに新たな商品をと考える場合、お煎餅やフォーマルギフトの中に「いかに“違和感”をつくるか」がとても大事になると感じました。武井さんは、若い世代といっても30~40代にお煎餅の魅力をきちんと知ってほしいと希望されていた。僕自身がターゲット世代だったこともあり、この年代が手に取るきっかけとなる“違和感”が必要だと強く感じました。

──武井さんは先ほどDDDの情報を見つけた時に「これだ!」と思ったとおっしゃいましたが、「11の欲望」の考え方についてはすぐに理解できましたか?

武井:そうですね。「11の欲望」と「欲望クラスター」についての説明があったのですが、しっかり分類されていたので分かりやすかったです。クラスターの方は時間の都合で理解しきるところまではいきませんでしたが、人物像なのでイメージはつきやすく、既存のお客さまにも「こういう方いらっしゃるな」と感じました。

DDD#16_図版01
DDDが定義した、現代の新たな「11の欲望」※ワークショップ当時のもの。2024年3月に同内容については見直しを実施(リリースはこちら)。

千葉:中央軒煎餅さんは、店舗スタッフの方がとてもきめ細やかに来店者をリスト化されています。それは素晴らしいことであると同時に、どうしても人の力に依存してしまう部分があったので、その点をロジカルに把握できるような情報をご提供しました。感覚的にこうだよねと思っていた部分と合致することが大事だと思いまして。

また、今回のプロジェクトでは、クラスターで人のタイプを区切るよりも、その根っこにある「欲望」をいかに満たすかを目指した方が、商品を考えやすいと思いました。欲望クラスターは「11の欲望」の組み合わせによってタイプ分けをしたものですが、こちらを起点に考えると、「このクラスターは対象ではない」といった議論が生まれてしまいます。

それよりも「欲望」そのものに根ざして考え、「この人にも、この人たちにも、届くのでは?」と議論をした方がいいと思ったので、事前インプットでは「11の欲望」に主軸を置いてご説明しました。プログラムの形はあっても、ご一緒する企業さんによって、そうしたアレンジは柔軟に行いたいと考えています。

全部署から参加のワークショップ。密度濃く「楽しい」一日が49ものアイデアを生む

──ワークショップに参加するメンバーは、どのような基準で選定されたのでしょうか?

武井:従来ですと商品企画は商品部が行いますが、今回は電通さんとの新商品開発が決まった段階で、全社参画型の部署横断プロジェクトにしようと決めていました。理由の一つに毎年社内で実施している「働きがい」に関わるアンケートで、商品企画に参加したいといった声が他部署から複数上がっており、それを試してみようと。

同時に、全社で同じ目標に向かって各自の強みや役割を発揮しながら、連帯感を持って進められる組織にしていきたいという想いがありました。そのため製造、営業、販売、企画、販促の各部署から合計12名が参加することになりました。

千葉:プロジェクトではまず、11の欲望の中から今回のテーマにする欲望を4つ決めました。各欲望を消費によって満たされた人たちの、フリーアンサー(以降FA)は1つの欲望につき600~1000個あるのですが、今回はその中から100~200個を使いました。そのFAを参加者全員に読んでいただきました。かなり大変な宿題でしたが、全部読んで「このコメントいいな」と思うものを皆さんで見つけましょうと。

武井:大変でしたが、とても面白かったです。「これはどういう感情なんだろう」「何が心を動かしたんだろう」といった視点で読むと今までと見え方がガラッと変わり、気づきもありました。

千葉:皆さんすごくきちんと読み込んでくれていましたね!今回の「宿題」のポイントは、なぜ回答者の心がそれぞれの消費によって満たされたのか、該当の商品あるいはサービスを心が動いたものとして挙げてくれたのか、その背景を想像することなんです。

例えば「無理のない自由への欲望」だとしたら、その中で全然違う性年代の人が、全然違う物で、自由でいたいっていう気持ちを満たされたと答えてくれている。全く異なる消費行動なのに、実は満たされた欲望が共通しているものを見つけ、「欲望ハッシュタグ」という形でまとめることをワークショップのテーマにしていました。

そのためには宿題をいかにしっかりやってくださるかが大事でした。また、同じFAでも人によってその背景の想像が異なるのも大事な点で、それが議論の中心になっていきます。皆さんが意欲的に取り組んでくださったからこそ、最初からすごく盛り上がる議論になったのだと思います。本来なら2日に分けたいくらいのボリューム感を1日にギュッと詰め込みましたが、楽しく取り組んでいただけたのが本当に良かったですね。

DDD#16_千葉氏ソロカット②

武井:電通さんからもたくさんの方が参加して、サポート体制と環境を整えてくださり感謝しています。本当に明るく楽しい雰囲気の中、丸一日笑顔で取り組んでいる様子を見て、私もやってよかったと思いました。

千葉:朝、欲望ハッシュタグを考えるところから、新商品のアイデアシートを作るまでを行い、最終的に1日で49個のアイデアが生まれました。開発上の難易度・実現度については、特にわれわれDDDチームは度外視したところもあったのですが、そこも含めてもバリエーション豊かでしたね。

既存のイメージから「半歩ズレる」ことが、好奇心を誘う“違和感”に

──49個あったアイデアの中から最終的に「ディップするおかき」になった決め手は何だったのでしょうか?

武井:「本質的なおかきのおいしさを、再発見してもらえる」ところですね。

DDDのメンバーの方から、「おかきそのものがとてもおいしいので、プラスアルファの価値を付けることによって、もっと商品を高められるのでは」とご提案をいただき、やっぱりそれが一番大事なことだと思って決めました。ソースの力を借りて、さらに当社のおかきを高めていけるかなと。

──商品化に向けては電通からどのような支援をされましたか?

千葉:僕らは商品の中身についての具体的な話はせず「誰向けの商品になるのか?」「店舗でどんな商品の伝え方ができるといいのか?」といった部分を考えました。その際には最初にお話しした“違和感”……つまり「お煎餅屋さん」から外れすぎないけれど、「ちょっとチャレンジングな領域」をどう見つけていくかを意識していました。

「ディップするおかき」は、中央軒煎餅さんの中でも、「きりのさか」というブランドを中心に展開されています。その「きりのさか」ブランドのイメージからいかに“半歩”ズレられるかを、密なコミュニケーションを取りながら検討しました。「どういうシーンで楽しんでもらうものなのか」といったコンセプトやステートメント、世界観をきちんと共通認識できる言葉をつくり、明確化できるようにと。

DDD#16_店舗・商品
東京駅グランスタ内の店舗に並べられた「ディップするおかき」。

千葉:本商品は展開の拡大や新規POP UP開催などを検討しているということで、販売店の店長さんへのヒアリングにも同席させていただきました。お話を聞いて感じたのが、中央軒煎餅さんでは今回のプログラムのテーマ「心が動く」に通じる哲学を、商品そのものにおいても接客でも、もともとお持ちだったという点です。その気持ちや心意気を持った方たちが売ることを想像した上で、どういう商品であるべきか考えることを大事にしました。

武井:あの時間は販売スタッフにとってもたいへん貴重でした。そこからまた接客意識が活性化し、どうしたらお客さまに「また会いたい」と思っていただけるような接客ができるかを、毎月販売員たちの会議で考え取り組んでいるので、良いきっかけになりました。

ロジックで良い商品は生まれない。「発想」を広げるのは、“根拠ある妄想”

──「もの」起点で考えていた時と、商品開発時の思考の仕方に違いはありましたか?

武井:全く違いました。各部署の社員がワークショップから一緒に開発をしたことで、全社的に「心が動く」がキーワードになりました。どんなプロセスにおいても、「これで本当に心が動くのだろうか」「そんな商品を作れるのだろうか」といった共通認識が生まれたことには非常に大きな意義があります。

「できること」を考える、または「できないこと」を先に見つける開発ではなく、どう実現するかという形の思考法に変わりました。その考え方によって、可能性が大きく広がった気がします。

──取り組んでいる方々の心も少し動いたところがあるのでしょうか。

武井:とてもあると思います。当社ではこれまでは、「ものづくり」にとてもこだわっていて、品質への意識が大きかったように思います。100周年を迎えるにあたり、そこから次のステージへ向かうべく「ものづくりのメーカーから、笑顔づくりのクリエイター・チームへ」というビジョンを掲げました。

今回の商品開発プロジェクトではまさしく、それを体現できたように思います。笑顔をつくる、「お客さまの心を動かす」ことが一つのテーマだと、おそらく参加メンバーの全員が感じていたのではないでしょうか。

DDD#16_武井氏ソロカット②

──千葉さんは「心が動く商品開発プログラム」最初の事例として取り組みを終え、気づいたことなどはありますか?

千葉:49個のアイデアの中には、今までに挙がった案と近いものも絶対あったと思います。けれど、今回はそこに至る背景として、「欲望」を起点に、購入者にどんな気持ちになってほしいのかまでをしっかり考えて出されたアイデアだということが大事だったと思います。

商品開発は必ず「発想」が必要なものなので、確実なロジックを作ることはできません。むしろロジックだけで固めた商品はきっとそれほどおいしくないし、売れないものになりがちだと思いますが、開発者の中での理屈というか……“根拠のある妄想”ができることが、世に新しいものを生み出すためにはすごく大事なのだと改めて思いました。

心を「動かす」のではなく、自然に「動く」ことを大事にして取り組みたい

──今後の展望についてお聞かせください。

武井:実施前の課題の一つとして、商品企画が属人化されていたことがありました。それを商品開発の「プロセス」としてしっかり構築することが、私自身の課題でもあったので、その一歩が踏み出せたように思います。今後はこの流れを「仕組み化」していくことがとても重要だと思います。

また、視点を変える効果は非常に大きいことを実感しました。これまでの積み重ねの中で、自分たちの限界や「できること」を決めてしまうこともあります。けれど、電通さんとの取り組みで私たちの作っている商品には、可能性が無限にあることを再確認できました。今回は「心が動く」という考え方がキーになりましたが、一旦視点を変えられると、可能性の広がりは全く違ってくると思います。

千葉:プロセス全体を通して、われわれも楽しく、参加くださった皆さんもとても楽しそうに取り組まれていました。実は、その点が一番大事だったのではと思っています。

アイデア出して終わりではなく、商品として開発して販売し、お客さまに楽しんでもらうことまで考えると、その全ての過程を支えるモチベーションが必要になります。そのときに、アイデア出しを楽しい時間にできることはとても重要だと感じました。今回「あの時間、楽しかったよね」という共通の思い出を持っているメンバーが、商品のリリースまで一生懸命に頑張れたことは大きかったのではないでしょうか。

DDD#16_トークカット

千葉:プログラム名にもなっていますが、DDDも僕自身も、「心が“動く”消費」という言い方を大事にしています。心が“動かされる”とか、お客さまの心を“動かす”ではなくて、“動く”です。自分が何かから影響を受けるのではなく、自分の中の欲望などをベースに向かっていく……、外的要因ではない形で心が動くのが大事だと僕らはいつも思っています。興味を持ってくださった方はぜひ気軽にお問い合わせをいただけるとうれしいです。

【DDDへのお問い合わせはこちら】
E-Mail:ddd-project@dentsu.co.jp 担当:千葉
 

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