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DENTSU DESIRE DESIGNが考える、「欲望理論」からのマーケティング再構築No.5

新しい欲望に、名前をつけてやる。

2022/08/22

    本連載では、電通の新たな消費者研究プロジェクト「DENTSU DESIRE DESIGN(電通デザイアデザイン:以下DDD)」メンバーが、「欲望」を起点とした消費者インサイトへのアプローチ方法と今後の展開について紹介していきます。

    43種の「根源的欲求」と45種の「現代の価値観」を統合する試み

    欲望は変化する。その時、その時代の欲望は、人がそもそも持っている「根源的な欲求」と、環境によって形成・強化される「価値観基盤」との掛け算によって生み落とされる。

    この発想に基づいて、今の欲望を考察しあぶり出すDDDの活動。第3回までは、マズローやシュワルツをはじめとする根源的欲求に関する定説を統合した「欲求オクタグラム」をまとめ上げた経緯と、調査への応用を説明した。

    今回は、実際に調査で得られた、43種の「根源的欲求」項目と45種の「現代の価値観」に関する回答データを、どのように欲望として統合していったかをお伝えしたい。

    DDD連載#5_図版01DDD連載#5_図版02

    コロナ禍、経済低迷、SNS…現代ならではの要因を背景に新たな欲望を探る

    分析作業の大まかな流れは、こうだ。まず、第3回の記事で紹介した「根源的欲求」に関するアンケートの質問からグループを作る。例えば「自由&安楽」という括り方だ(下表)。

    DDD連載#5_図版03

    次に、この「自由でいたい」「自分らしく生きたい」といった根源的欲求に高い関心があるグループの中において、価値観の偏りを探す。例えば特に低く出る項目、逆に高く出る項目を整理してみる。すると、彼らの「自由&安楽」という根源的欲求が、今の価値観基盤というフィルターを通って生まれた「新しい欲望」が見えてくる。

    DDD連載#5_図版04

    具体的に示そう。「自由&安楽」というグループにおける価値観の偏りは以下のようになっていた。

    DDD連載#5_図版05

    これらの偏りの意味についてDDDメンバーで多角的に評価分析をする。その際には、現代社会の価値観を大きく左右している幾つかの要因を意識した。

    1つ目は「コロナ禍という体験」である。世界的なパンデミックが人々の生き方や考え方、死生観にまで大きく影響を与えたことは間違いない。また、2つ目の要因として「長期化する経済の低迷」を挙げたい。実質賃金が上がらず、人々の暮らしは決して楽ではない。格差の拡大や増え続ける貧困の問題も、すでに目に見える形になってきている。これらは特に消費行動や人生100年時代のライフプラン、未来への期待値などに影響を与えていると考えられる。

    そして3つ目が「SNSというインフラ」である。濃度としては希薄ながらも、常に他者とつながり続ける社会。検索すれば関心ごとや疑問への答えがすぐ分かるスピード感。フェイクニュースや匿名性。仲間や悪意の可視化。個人の発信力強化とその一方での炎上。これらさまざまな事象が人々の生活や心理を変えてきた。

    以上3つの、現代社会特有の要因を頭の片隅に置きながら、先ほどの「自由&安楽」グループの価値観を評価分析するとこうなった。

    DDD連載#5_図版06

    新たにあぶりだされた、現代の「11の欲望」とは

    以上のような評価分析に基づいて、自由&安楽グループの「新しい欲望」のネーミングが考案された。

    【無理のない自由への欲望】
    自由のために闘争する気はなく、あくまでも気ままな自由を。
    高望みしないことで得られる自由には、キープ感がある。

    戦って勝ち取るのではなく、気楽に手に入る範囲での自由の方が、維持するコストもかからず、失った場合の喪失感も少ない。これは、ある意味、コロナ禍における自制の正当化であり、経済的余裕がないことを悲観しないための処世術でもある。

    また、他者と競争しないという選択は、どこかの誰かの盛りに盛ったすてきな生活が可視化され、「リア充」であふれかえるネット情報の遮断にもなっている。もちろん、ほかにも今という時代の自由の求め方はいろいろあるだろうが、今回の調査であぶり出されたのは、現代的な「自由への距離感」のような欲望と言えるだろう。

    このような評価分析を何度も繰り返して、DDDは今回、11の「新しい欲望」を見つけ出した。その一覧をご紹介する。

    DDD連載#05_図版07

    いかがだろうか、皆さんの中にも、このうちのいくつかの欲望があったりしないだろうか?

    今回の分析作業を通じて感じたのは、あぶり出された「新しい欲望」のなるほど感もさることながら、まさにこの評価分析をする過程での議論こそが、一番面白いところなのではないかということだ。

    そこで、急遽、会議にグラフィックレコーディングを導入して議論の様子を抽出、可視化してみた。読み物としては“行間”(議論の過程)がかなり簡略化されているが、それでも、欲望のネーミングや説明と照らし合わせてどんな議論が行われたのかを推理していただくと、ちょっとした謎解きのような面白さを味わっていただけるだろう。

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    DDD連載#5_図版12

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    グラフィックレコード作成:本園大介 

    さて、次回からは、これらの「新しい欲望」の使い方に移ることになる。当然、一人の人間の中に欲望は複数ある。今回の11の欲望を複数持つ人もきっとたくさんいるだろう。生活者の中にそういったペルソナを見つけることができたら、彼らに最適な「新しいサービスや商品」の開発につながるはずだ。

    欲望を考察する旅は、折り返したばかり。まだまだ続いていく。

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