DENTSU DESIRE DESIGNが考える、「欲望理論」からのマーケティング再構築No.17
あの ヒットコンテンツは、どんな欲望を持つ人に支持されているのか!?
~『11の欲望』を基点に、話題のヒットコンテンツ48作品との関係性をひもといてみた
2024/12/16
「DENTSU DESIRE DESIGN(電通デザイアデザイン:以下DDD)」は、企業から見えにくくなってきた現代の消費者像を、今一度「欲望(Desire)」を起点とした消費意識からひもとこうとするプロジェクトです。
今回は、DDDの分科会チーム「FUKAYOMI」(以降フカヨミ)の活動に関連する記事です。
フカヨミチームでは、多くの人を魅了したヒット作品のストーリーを読み解くことで、顧客の潜在的な欲求や意識をあぶりだし、ヒットコンテンツが人々の価値観に与えた影響を分析して、半歩先の未来の欲望を予測することを目的として活動しています。
今回は、DDDが定期的に実施している「心が動く消費調査」(2024年5月実施。詳細はこちら)の中で、ヒットコンテンツに関する定量的な検証・考察を行いました。近年のヒット作は、いったいどんな欲望を持つ人々に深く刺さったのでしょうか?結果の一部を、フカヨミチームの岩下絵美がお伝えします。
<目次>
▼近年の印象的なコンテンツは、“リアルタイムで視聴できない層”も巻き込みながら、幅広い世代の支持を集める
▼ジャンルで分かれる印象度。
映画は男性層、アニメは男性+若年女性層、ドラマは女性中高年層、配信ドラマ系は若年~ミドル層から支持!
▼11の欲望を起点にして、48のコンテンツとの関係性を分析
あのヒットコンテンツと親和性が高いのは、どんな欲望?
▼11の欲望と48のコンテンツの関係を欲望ベースの2軸で分析
「社会貢献&保守」「愛情」欲望を持つ人が選ぶ作品に共通するものは?
▼コンテンツは、消費者の欲望や心理を読み解くカギ
近年の印象的なコンテンツは、“リアルタイムで視聴できない層”も巻き込みながら、幅広い世代の支持を集める
調査では、10~70代の全対象者に対して、映画、アニメ、ドラマなど48のヒットコンテンツのリストを提示し、「最近1年間で、強く印象に残った(夢中になった)コンテンツ(映画、ドラマ、アニメ、マンガ等)はありますか。」という設問(MA)に回答してもらいました。
提示した48のコンテンツは、24年5月調査時点までの過去1~2年の間に全国的にヒットした作品としてフカヨミチームが選んだものです。興行成績、視聴率やバズ率などの定量データをベースに、人々の価値観への影響力が強いと考えられる作品を選定。48のコンテンツの内訳は14作品が【映画】、18作品が【アニメなど】、16作品が【ドラマなど】です。
今回は調査対象者が10~70代と幅広かったため、全体としては、どの年代層もリーチしやすいドラマや、アニメが上位を占める結果となりました。
ジャンル別で見ると、【映画】では、アニメーション映画「すずめの戸締り」、「ゴジラ−1.0」、「トップガン・マーヴェリック」が上位に。「すずめの戸締り」は、災害からの回復といった多くの方の関心を集めるテーマが幅広い層に響き、「ゴジラ−1.0」や「トップガン・マーヴェリック」は、最新の映像技術を駆使した迫力のシーンで新しい魅力を伝え、昔のファン層に加えて新たな世代の観客も取り込みました。
【アニメなど】では、コロナ禍での大ヒット以降も人々の印象に深く残っている「鬼滅の刃」、超能力少女アーニャが人気の「SPY×FAMILY」、劇場版シリーズも継続的に公開されている「名探偵コナン」など、子供や若者だけでなく大人にも人気のアニメが上位になっています。
【ドラマなど】では、壮大なスケールの冒険ドラマ「VIVANT」、タイムスリップコメディ「不適切にもほどがある!」、謎解きドラマ「ミステリという勿れ」など、民放発の連続ドラマが上位となりました。
上位のドラマやアニメは、放送直後に有料配信されているものも多く、これまでリアルタイムで視聴できなかった層も巻き込みながら、SNS等の口コミでも広がるなど、視聴スタイルの変化によって作品の支持層を拡大したことが推測されます。
ジャンルで分かれる印象度。
映画は男性層、アニメは男性+若年女性層、ドラマは女性中高年層、配信ドラマ系は若年~ミドル層から支持!
次に、各コンテンツにおける、属性別の特徴を見てみたいと思います。図表②を見ると、ジャンル別に特徴的な傾向が見られます。
【映画】は、男性層が女性層を上回る傾向が見られました。同時に、今回選定したヒット作品がやや男性層での興味が高い作品であった結果とも考えられます。
【アニメなど】では、ヒット作品となると漫画や映画化など展開するメディアの範囲が広いためか、男性10~50代、女性10~30代と世代的にも“全方位的”に関心を持たれていることがわかります。この結果からも、これまでは若者や、一部の熱狂的なファンだけのものと思われていたアニメというジャンルが、今では男女問わず広く一般的に愛されている作品が多いという実態がうかがえます。
【ドラマ】は、女性40~60代での数値の高さが目立ちます。NHK系ドラマが多く含まれていたからか、リアルタイムで定期的に視聴できる層が多いとも捉えられます。また有料配信でしか見られない作品は2作品のみですが、他のドラマとは傾向が違い、男性10~30代、女性20~40代など、若年~ミドル層で高いのが特徴的です。
11の欲望を起点にして、48のコンテンツとの関係性を分析
あのヒットコンテンツと親和性が高いのは、どんな欲望?
エンタメをはじめとしたコンテンツは、通常、このようなデモグラフィック特性などを参考に企業の広告活動などに利用されることが多いと思いますが、フカヨミでは、これを「Desire(欲望)」の視点から活用する可能性について検証を試みました。
図表③は、「DDD」が開発した「11の欲望」と48のコンテンツとの関係性をコレスポンデンス分析(※1)した結果です。この分析によって、「どの欲望を強く持つ人が、どのような作品に興味を持ったのか」という傾向や、作品同士の距離感がわかります。
※1=コレスポンデンス分析:カテゴリーデータの関係を視覚化する解析手法。カテゴリーデータ間の「距離」を測定し、その「関係性」を視覚化してデータのパターンや構造を視覚的に理解することができる。
【11の欲望とは】
DDDが、2021年から実施している「心が動く消費調査」の最新結果をもとに、人間の消費行動に強く影響を及ぼすドライバーとなる感情を分析し、現代の新たな欲望として11種類に分け定義したもの。
※2=デンドログラム:階層的クラスタリングの結果を樹状図で視覚化する手法。データ間の「距離」と「関係性」を示し、クラスタの構造を理解するのに役立ちます。
11の欲望と48のコンテンツの関係を欲望ベースの2軸で分析
「社会貢献&保守」「愛情」欲望を持つ人が選ぶ作品に共通するものは?
本分析では、縦軸を「社会や他者との関係性重視⇔個人の趣味性重視」、横軸を「共感・調和志向⇔自己表現・冒険志向」というキーワードで4象限に分けました。
まず横軸を見てみましょう。左側の象限は、「愛し、愛されたい」「悪目立ちしたくない、はみ出したくない」「心身健康で、平穏に過ごしたい」など、共感や調和、内面的な心の充足やフラットな気持ちを求める傾向の欲望が配置されています。
一方、右側は、「学んだり、想像したり、挑戦したい」「好きなモノを集めたい」など、自己表現や冒険心を追求するといった、より外面的な刺激を求める傾向の欲望が見られます。
縦軸ではどうでしょう。上の象限は、「人から認められたい、優れていると思われたい」「誰かの役に立ちたい、世の中の大切なものを守りたい」など、社会や他者との関係性に関わる欲望が配置されています。
一方で下の象限では、「遊びたい、好きにお金を使いたい」「自由でいたい」等、個人の趣味性や楽しさを重視する傾向の欲望が多く見られます。
フカヨミチームでは、異なるジャンルやストーリーのコンテンツの背景にも、共通する欲望が隠れていると考えます。ここでは、第2象限に着目して、その作品と、近しい欲望の関係性を読み解いてみたいと思います。
左上の第2象限には、主に地上波のテレビドラマが多く配置されています。それらのテレビドラマの中に、一部アニメや映画など異なるジャンルの作品が含まれています。例えば、長年多くの人に愛されているアニメ「ドラえもん」や「名探偵コナン」と、民放の人気連続ドラマ「silent」や「TOKYO MER~走る緊急救命室~」が同じグループとしてくくられています。
そして、そのグループは、「誰かの役に立ちたい、世の中の大切なものを守りたい」という欲望を持った人との親和性が高いことがうかがえます。世代を超えたファンを持つ国民的アニメと、大人向けの民放のドラマという、異なるベクトルを持ったコンテンツに、社会貢献的な意味を持つ同じ欲望がひもづいているというのは興味深い発見です。
また、第2象限の他のグループには、「どうする家康」(大河ドラマ)の他に、「ラストマン」(民放ドラマ)、「鬼滅の刃」(漫画アニメなど)や「不適切にもほどがある!」(民放ドラマ)、「パラサイト」(海外映画)が、同じグループとしてくくられています。そして、その背景には「愛し、愛されたい」欲望が共通して存在しています。
歴史上の人物を描いた「どうする家康」と、全盲の捜査官が主役のドラマ「ラストマン」、人と鬼との激しい戦いを描いた「鬼滅の刃」、令和と昭和の価値観のギャップを描いた「不適切にもほどがある!」、資本主義社会の格差と分断を描いた「パラサイト」。これらは一見、「愛し、愛されたい」という欲望とはかけ離れた作品にも思えます。では、そこに共通しているのは一体何なのでしょうか?
これらの背景には、いずれも社会的な課題が関係していることが想像されます。コロナ禍を経て、現代の進化し続けるデジタル社会の中、希薄化し、変化した「人や社会との関わり」。一人ひとりが社会から疎外感を感じたり、孤独になっている中で、作品のストーリーや物語の登場人物に共感し、自分を重ね合わせる人もいたことでしょう。
家康の孤独や悩み、わけあって鬼と化してしまった人間、ハンディのある人が活躍する社会、世代間で異なる価値観を互いに認め合いながらつながる人間関係…これらのものがコロナ禍を経て社会との接点が薄れていた中、社会や人から愛し愛されたいと思っている人々の欲望の琴線に触れたとも捉えられます。このような社会課題テーマの背景には、「人や社会に対する愛情」という欲望が隠れている、ということなのかもしれません。
これらの2つの事例から見てもわかるように、ドラマ・アニメ・映画といった、ターゲットもストーリーも全く違う異なるジャンルの作品が、1つの同じ欲望を持った人に支持されているという発見は、人々の潜在的な欲望を探る上で重要なヒントとなりそうです。
コンテンツは、消費者の欲望や心理を読み解くカギ
このように、コンテンツと親和性の高い欲望がなにか?が解明できれば、ターゲット属性だけではない、より深い道筋でコミュニケーションのプランニングをすることも可能となってくることでしょう。
昨今のデータマーケティングの進化により、ターゲットの行動履歴や視聴履歴のデータは得やすくなっています。一方で、その背景にどういった人々の心理や背景が隠れているか、ということを理解することは、先が見えにくく、人々の価値観が多様化する中で、非常に難しくなっています。
商品やサービスのコミュニケーションをする時に、消費者のインサイト発見に悩んでいる。アニメや漫画のキャラクターを活用する時に、瞬間風速的な販促活動に終わってしまっている。こんな経験はないでしょうか?
コンテンツを活用することで、そのストーリーが人々の心理や価値観に与える影響をひもとくことができれば、より消費者の価値観に響き、そのニーズやウォンツにマッチした商品価値を提供したり、ブランドの価値を向上させるような親和性が高いコンテンツを精度高く選ぶことができるでしょう。消費者をより深く理解するためのひとつのヒントとして、ぜひ、コンテンツを有効活用してみることをおすすめします。
当プロジェクト「FUKAYOMI」では、上記の調査レポート(詳細分析篇)の他、一つ一つのヒットコンテンツのストーリーを読み解き、人々の価値観変化や未来の欲望を考察したレポートを定期的に発行しています。興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
【お問い合わせ先】
DENTSU DESIRE DESIGN(電通デザイアデザイン)
E-Mail:ddd-project@dentsu.co.jp 担当:岩下