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公開日: 2025/07/03

企業の本質的な価値向上を支援。人的資本開示診断ツール「羅人盤」とは(後編)

企業の持続的な成長と企業価値の向上を目指す上で、人的資本経営の重要性がますます注目されています。そのため、企業の人事部門には、人口減少に伴う採用難、コロナ禍を経た働き方の変化、従業員のエンゲージメント向上など、さまざまなリスクや課題への対応が求められています。

こうした現状を踏まえ、株式会社電通総研が開発したのが人的資本開示診断ツール「羅人盤(らじんばん)」です。同社が培ってきた人的資本経営のコンサルティングサービスや人事領域のソリューション提供、ブランディング支援などの知見を基にしたツールで、人的資本経営の現状を可視化し、潜在リスクを浮き彫りにすることで次なる一手を導き出すことができます。電通総研の中山幸雄氏、東駿伍氏へのインタビュー後編では、「羅人盤」が効果を発揮した事例、今後のサービス拡張について語ります。

情報開示義務のない中小企業の人財アセスメントにも効果を発揮

Q.「羅人盤」の提供先として、どのような企業が考えられますか?

東:「羅人盤」は企業の大小を問わず、人的資本経営状況を可視化できるツールです。そのため、人的資本経営にお悩みや関心をお持ちなら、どのような企業でもお役に立てると思います。上場企業やグローバル展開を行う企業は、既に情報開示に取り組んでいるため、情報開示が義務化されていない非上場企業、中小企業の皆さまにこそご検討いただきたいサービスです。

中山:「羅人盤」の大きな役割は、可視化です。まず人的資本経営の現状を網羅的に可視化し、課題を深掘りできるのが特徴です。

例えば、製造業では近年、ものづくりにとどまらず、製品とサービスを統合し、新たな付加価値を提供するサービス化の動きが加速しています。しかし、ものづくりとサービスでは求められる人財のスキルが異なります。それらを可視化することでギャップを把握し、スキルマップの作成やタレントマネジメントの支援につなげることも可能です。

株式会社電通総研 中山 幸雄氏

Q.これまで、どのような企業に「羅人盤」を提供しましたか?提供先企業での成果について教えてください。

東:電通総研の特例子会社、株式会社電通総研ブライトの事例をご紹介します。同社では、これまで人的資本経営を行っていなかったため、情報の利活用や内部での取り組みに課題が生じていました。一方、特例子会社という特性もあり、障害者雇用をはじめ、ダイバーシティには積極的に取り組んでいました。

同社の社長は強い思いを抱き、コーヒー焙煎業務、社内カフェ業務など、障害のある方が生き生きと働ける場を作っています。共に仕事をする仲間として障害者を雇用し、社長も一緒に働くプレイヤーとして各種事業に臨んでいました。ですが、トップが替わった時にどのように事業が持続・発展するのか、不安を抱いていたようです。

こうした状況の中、「羅人盤」の分析により同社の強みと弱みが可視化されました。ダイバーシティ以外の項目には課題がありましたが、課題を認識した上で、われわれもリスクマネジメントの観点から示唆を出し、人的資本経営の改善を支援しました。また、社長の思いをヒアリングしたことで同社の強みも把握できました。トップだけでなく、人事担当者などの思いを聞き、人的資本に特化したヒューマンキャピタルレポートの文脈を作る上でも、国内電通グループ(dentsu Japan)の強みを発揮できると思いました。

多様なリスクに対応するアセスメントツールに

Q.「羅人盤」の今後の展開についてお聞かせください。どのようなサービス拡張を予定していますか?

東:「羅人盤」は人的資本開示診断ツールとしてスタートしましたが、人財に限らず、企業におけるさまざまなリスクを可視化するERM(全社的リスクマネジメント)ツールとして大きな可能性を秘めています。

内外環境の変化が激しい昨今、企業は多様なリスクに対応しなければなりません。「羅人盤」はアセスメントをする基準を変えることで、情報セキュリティー、ガバナンス、リスクマネジメントなどの分野についても可視化することができます。例えば情報セキュリティーなら国際標準規格ISO/IEC 27001などのガイドラインに沿って現状を分析し、リスクや課題の可視化、その後の支援までワンストップで提供することが可能です。企業のニーズに寄り添い、さまざまな領域を「羅人盤」で分析し、各社が目指す目的地へと導く羅針盤になれたらと思います。

株式会社電通総研 東 駿伍氏

中山:実際、「羅人盤」のローンチ後、さまざまな企業からご相談を受けています。その1つが、情報セキュリティーに関するアセスメントです。他にも「中小企業に向けて人的資本経営診断サービスを展開したい。中小企業に特化した基盤をつくれないか」というお声もいただいています。まずはファーストステップとして「羅人盤」をリリースしましたが、次のステップではクライアント企業さまのニーズに適応しながらアセスメントする領域を広げ、ソリューションとの連携を深めていけたらと思います。

Q.最後に、人的資本経営にお悩みを抱える企業の皆さまに対し、アドバイスやメッセージをお願いします。

東:人的資本経営にお悩みがあるようでしたら、まずは「羅人盤」にトライしていただきたいです。社会が目まぐるしく変化する中、行うべきは自社の現状を可視化し、経営環境を把握することです。そこから、どのような方向に変化していくのか、かじ取りをしていただけたらと思います。その第一歩として、ぜひ「羅人盤」をご活用ください。

中山:多くの企業で人的資本経営を推進していますが、どの企業も同列に並んでは意味がありません。自社の独自性をどのようにシナリオ化するかが、重要なポイントです。企業のトップであれば、自社のリスクについて感覚的に分かっている方が多いはずです。言語化できていないリスクを「羅人盤」で可視化していただき、次にどのようにしてシナリオを描いていくかがカギになります。投資家目線で、いかに“未来”を魅せるシナリオを作っていくか。このプロセスではプロの手が必要となるため、電通グループが伴走し、そのお手伝いをできたらと思います。

 


 

人的資本経営の重要性を理解しつつも、自社の現状を客観視するのは難しく、次なる一手に悩む企業は少なくありません。「羅人盤」はこうした悩みに応えるだけでなく、情報セキュリティーやガバナンスなど幅広いアセスメントツールへと発展する可能性を秘めています。自社の立ち位置を客観視するためのツールとして、さまざまな企業のよりどころになりそうです。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

中山 幸雄

中山 幸雄

株式会社電通総研

SIerでデータベース設計やシステム設計に携わった後、コンサルタントとして業務改革やシステムのコンサルティングを経験。外資系認証機関で統合審査やISO30414関連ビジネスの開発に従事。開示実務に詳しく、人的資本開示を中心にブランディング要素を付加した取り組みや、サイバーセキュリティー開示等に取り組んでいる。また、経済安全保障研究セクターを兼務し、経済安全保障、積極的サイバー防御に関する取り組みを始めている。

東 駿伍

東 駿伍

株式会社電通総研

金融機関にてAML/CFT・コンプライアンス関連業務に従事。その後、IT企業にて企業グループ全体のリスク管理の企画・運営に携わる。現職ではERM(Enterprise Risk Management)の視点を取り込み、企業のリスクについて、組織全体の視点から統合的・包括的・戦略的に把握・評価・最適化し、価値を最大化できるようにガバナンスや人的資本開示等の支援を行っている。

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