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日本人の危機意識はどのくらい?カーボンニュートラル生活者調査No.1

企業の枠を超え、行動を変える。 “従業員起点”の脱炭素アクションとは?

2025/05/15

気候変動が深刻さを増す中、脱炭素社会の実現は企業にとって喫緊の経営課題であり、社会的責任としての取り組みがより強く求められています。しかし、企業努力だけでは限界があります。そこでカギを握るのが、生活者一人一人の意識と行動の変化、すなわち“行動変容”です。

電通では2024年、全国5万人を対象とした「カーボンニュートラルに関する生活者調査」を実施。脱炭素への関心の幅広さや、自分ごと化の難しさが浮き彫りになりました。

本連載では、環境省が推進する国民運動「デコ活」に参画し、行動変容を後押ししている企業・団体をゲストに迎えて議論を展開します。今回のゲストは、NTTコミュニケーションズの宮田吉朗氏と藤田航平氏。同社は従業員のアクションを起点に、企業や地域を巻き込んだ行動変容を実現する「ONE TEAM CHALLENGE」など、脱炭素の社会実装に向けた実践を重ねています。プロジェクトを通じてどのような変化が生まれているのか、電通の荒木丈志が伺いました。

NTTコミュニケーションズ
(右から)NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 ソリューションサービス部 デジタルイノベーション部門 藤田航平氏、宮田吉朗氏、電通 パブリックアカウントセンター 荒木丈志氏

従業員から始まる行動変容。脱炭素運動を、職場から社会へ広げるには

荒木:まずは、NTTコミュニケーションズさんで取り組まれている脱炭素プロジェクトや、「デコ活」連携の施策について教えてください。

宮田:当社では現在、環境経営支援(見える化など)、省エネ機器・設備の提供、カーボンクレジットの活用、さらにはリサイクル・廃棄物処理に至るまで、4つのカテゴリにまたがるGXソリューションを提供しています。

その一環として、環境省が推進する「デコ活」と連携した活動を展開しています。たとえば、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアの2社で主催している「ONE TEAM CHALLENGE」という取り組みでは、複数の企業が参加し、従業員の皆さんが企業の垣根を超えて一体となって環境行動に取り組む、従業員参加型のイベントを開催しています。

ONE TEAM CHALLENGE

荒木:まさに企業の中から“行動変容”を広げていく仕掛けですね。

宮田:そうですね。このプロジェクトは2023年度からスタートしており、2025年度も開催します。当社の「Green Program® for Employee」というアプリを活用して、従業員がどのような行動を取ったか、どのくらいのCO2削減につながったかを可視化できるようになっていて、参加者同士で進捗を共有しながら、ポジティブな空気感で取り組みを進められる点が大きな特徴です。

加えて、イベント終了後には企業の担当者が集まり、取り組みの成果を数値で振り返る機会を設けています。こうした場で他社とのディスカッションが生まれたり、各社の課題や工夫の共有が行われたりすることで、「もっとやりたい」という機運が生まれているのを感じます。複数の企業さまに参画をご検討いただいておりまして、絶賛募集中です。

荒木:“従業員から始める”というアプローチには、どんな意図があるのでしょうか?

宮田:生活者一人一人の行動を変えることは簡単ではありません。そこで私たちは、企業の従業員という集団に着目しました。日本の方々は社会規範に対して誠実で、会社が「やりましょう」と旗を振ると、真面目に取り組んでくださる方が多いと感じています。まずは職場で環境行動に取り組んでいただき、それが次第に家庭へと広がっていく。このように段階を踏んで行動変容が進んでいくことを目指しています。

荒木:なるほど、職場で手軽に始めてもらうことから環境意識が高まっていき、環境行動が自然に家庭や社会へと広がる構造をつくっているんですね。

宮田:はい、そうした従業員の変化が企業全体の取り組みに発展し、やがて社会全体へと波及していく。そのようなイメージを描いています。また、CO2削減量や行動の成果をデータで見える化できる点もポイントです。それを活用して、企業内での発信はもちろん、環境省の「デコ活」サイトなどを通じた社外への情報発信にもつなげていただいております。社会全体で行動変容のムーブメントを起こしていくためにも、こうした“目に見える成果”を共有することは非常に重要だと考えています。

宮田吉朗氏

行動の“見える化”が、次のアクションにつながる

荒木:取り組みを通じて、企業の従業員の皆さんにどのような変化があったのか、手応えを感じた点などがあれば教えてください。

宮田:2024年度は、参加企業の従業員による環境アクションが約3万回にのぼり、CO2削減量は14トンに達しました。数値としても確かな成果を出せたと思います。特に印象的だったのは、参加者の8割近くが「環境への知識や関心が高まった」「環境に優しい行動ができた」と回答していたこと。意識と行動の両面で明確な変化が見られました。

荒木:“意識”と“行動”のハードルを越えた実感があったわけですね。

宮田:はい。成果が見えづらいとされる環境行動において、効果をすぐに実感できる仕組みを設計できたことが一つのポイントだったと思います。「Green Program® for Employee」では、クイズ形式で環境知識を学びながら、自分に合ったエコアクションを選び、それによるCO2削減量を即時に可視化できます。

荒木:ただ知識を伝えるだけでなく、納得して行動する流れをつくっているのですね。

宮田:そのとおりです。なぜその行動が環境に資するのかを解説するアノテーション機能を設けることで、自身の行動への納得感を促す仕掛けになっています。また、個人のデータだけでなく部署ごとの参加状況なども分析可能です。たとえば「この部署は参加率が低い」と分かれば、声かけやキャンペーンの設計にも生かせます。

荒木:データドリブンな行動変容が実現できそうですね。

Green Program® for Employee

宮田:参加企業にアンケート調査を行ったところ、継続のモチベーションにつながった理由として最も多かったのが「自分の成長や貢献が数字で見えること」でした。次に多かったのは「取り組みやすいエコアクションが充実していること」です。何をもって成果とするかに悩む担当者の方々からは、「標準化されたデータで報告できるのがありがたい」との声もいただいています。

荒木:たとえば「マイボトル使用率が高い」「エレベーターより階段利用が多い」など、会社ごとの特徴が可視化されるとブランディングにもつながりそうですね。

宮田:その点も意識しています。実際、アプリには独自アクションの追加機能があり、企業の個性を反映した施策を盛り込むことができます。

荒木:職場の文化と掛け合わせた取り組みがあることで、行動変容のハードルもぐっと下がりそうですね。

エリアや地域で挑む脱炭素運動の共創モデル

荒木:職場起点の取り組みに加え、エリアや地域との連携にも注力されていると聞きました。具体的にはどのような活動ですか?

藤田:品川港南エリアでの「エコアクションキャンペーン」の事例を紹介します。これまでの取り組みは企業単位が中心でしたが、このプロジェクトは「品川シーズンテラス」というオフィスビルの入居企業とその周辺企業を中心としたエリア単位で実施しました。複数のテナント企業の従業員にご参加いただき、同じ場所で働く人たちが横断的につながることで、企業を超えたコミュニティ形成やエンゲージメント強化を目指しました。

荒木:“場所”を軸に行動変容を促進する発想、面白いですね。

藤田:通常のエコアクション登録に加えて、もともと品川で行われていた美化活動を「品川クリーン大作戦」とも連携し清掃活動を独自のアクションとして盛り込みました。

さらに、イベント前の前夜祭、太陽光発電設備の見学を含む中間報告会や振り返り会など、オフラインでの交流も実施しました。取り組みの成果としては、総アクション数約1万8000回、一人当たりの実施回数も従来のONE TEAM CHALLENGEと比べて34%増と、大きな成果が得られました。

この取り組みでは、個人には環境行動の“きっかけ”を、企業には取り組みやすい“挑戦の場”を、そして地域には“価値向上”をもたらす、“三方よし”のモデルをつくることを意識しています。

藤田航平氏

荒木:企業間の競争意識なども出てきたのでしょうか?

藤田:今回は控えめでしたが、今後はエリア対抗など、健全な競争要素を取り入れる構想もあります。すでにアプリ上では企業ごとのアクション数や削減量を閲覧できるようになっており、一人当たりのアクション数や削減量が優秀な企業には表彰も行いました。

荒木:自然とモチベーションが高まる仕組みを確立しているのですね。

宮田:もう一つ、自治体との取り組みも紹介させてください。2024年に埼玉県所沢市・飯能市・狭山市・日高市の4市と連携し、地域企業43社・従業員395名が参加する実証実験を実施しました。約5.9トンのCO2削減に加え、6割超の方が「環境意識が高まった」と回答するなど、こちらも一定の成果が得られたと感じています。

荒木:プロジェクトの背景にはどのような課題があったのでしょうか?

宮田:以前から自治体でエコ活動を推進している担当者の方々には「住民への直接的なアプローチには限界がある」という課題意識があり、官民連携の取り組みの重要性を認識されていました。そこで、「Green Program® for Employee」を行政区域内の民間事業者にご活用いただくことで、従業員を起点に家庭や地域に環境行動が波及し、加えて地域企業のGXを推進するモデルを構築しました。参加企業には地域の金融機関、製造業、小売業など多様な業種が含まれていますが、いずれも「従業員の環境意識を高めたい」というニーズが共通していました。

荒木:地銀のように地域のネットワークを持つ企業が参加することの意義は大きいですよね。そういった地域企業や支援機関などを巻き込んでいくことで、参加企業の輪をさらに広げていくことができそうです。また、活動を外に伝えるという意味では、地方紙や地域のテレビ・ラジオ局の力も重要だと思います。そうしたメディアと一緒に動いていければ、単なる実施にとどまらず、盛り上がりそのものを地域全体でつくっていけるような気がしています。

宮田:おっしゃる通りで、実際に狭山市で行った成果報告会では、地元のメディアの方々にもご参加いただいて、多くの関心を集めることができました。新聞にも取り上げていただいて、やはり発信力という点において、地域メディアの存在は大きいと感じました。今回は成果報告の発信でしたが、取り組みの初期段階からメディアと連携して情報を届けていくことで、参加企業や地域住民の関心を引き出しやすくなると思います。今後は、そうした流れも積極的に組み込んでいきたいですね。

荒木丈志

“誰かの行動”から変化は始まる。情報の届け方がカギ

荒木:ここで、われわれが実施している生活者調査を紹介したいと思います。

「カーボンニュートラルに関する生活者調査」は2021年から継続的に実施しております。その中では、さまざまな脱炭素アクションについての行動実態や今後の意向などを聞いていますが、特に印象的だったのが、職場の仲間が行動変容のきっかけになっている点です。

たとえば、クールビズや分別といった比較的身近な行動については、「上司からの情報発信を参考にした」という回答が多く見られましたし、「周囲の人がやっているのを見て始めた」という声も一定数ありました。

カーボンニュートラルに関する生活者調査

宮田:まさに、職場というコミュニティの中で、行動のきっかけが生まれているんですね。

荒木:そうなんです。私たちが注目しているのは、気候変動に対する感じ方や関心の持ち方が、人によって驚くほど違うという点です。2023年の気温上昇が1.5℃に達したというニュースを受けたときの生活者の反応も、フリーコメントを見ると本当に千差万別でした。

だからこそ、日々の暮らしや職場、地域といった具体的な場所での個人の小さな取り組みの積み重ねが大事だと感じています。

宮田:その通りだと思います。社内の環境行動や製品選択についてアンケートを取ってみると、「積極的に参加はしていないけれど活動の報告は気になる」「気づいた時に環境に配慮した製品を購入している」など、まだまだ多くの方が受け身の姿勢ではあるのですが、見方を変えれば「情報さえ届けば行動できる」と捉えることもできます。

荒木:確かに、“あの人が取り組んでいる”というのを知っただけで、自分もやってみようかなと思えることってありますよね。

宮田:そういう意味では、情報発信の工夫が重要になってくるんだと思います。企業側は発信しているつもりでも、従業員にはなかなか見てもらえていないことも多い。どうすれば効果的な発信ができるのか、その設計やサポートにも力を入れていきたいですね。

一人の行動が未来を変える。小さなアクションを大きなムーブメントにするために

荒木:日本全体での行動変容の促進にあたって、今感じている課題やハードルについても伺えればと思います。

藤田:個人的な実感としてもあるのですが、日本の生活者の中には「脱炭素は企業がやること」という意識がまだ根強くあるように思います。「自分一人が何かしたところで、変わらないんじゃないか」という気持ちが、どこかにあるんですよね。企業が取り組めば一度に大きなCO2削減が実現する。その事実と、自分の小さなアクションとの差が大きすぎて、やる意味があるのかと感じてしまう方も多いのではないでしょうか。

宮田:継続性の難しさも大きな課題です。アプリやキャンペーンで一時的な関心を集めることはできても、それが日常の習慣として根付いていくかというと、なかなか難しいと感じています。

荒木:社会課題としての脱炭素を、個人が「これは自分のことだ」と思えるような仕掛けをつくることが大切になりそうですね。最後に、今後の展望について考えをお聞かせください。

宮田:2025年6〜7月に「ONE TEAM CHALLENGE 2025夏」を開催します。今回は環境省デコ活の「デコ活データベース」を活用することで標準化されたアクションとCO2排出削減効果を実装し、より精度の高い取り組みとして実施する予定です。

また、自治体との連携やエリア単位での展開も引き続き拡大していくとともに、企業ごとのニーズに合わせて、独自のアクションを盛り込むような個別展開にも柔軟に対応していくつもりです。

私たちが力を入れているもう一つの柱が「カーボンクレジット」です。特に農業と森林分野のクレジットに注力しており、水田の中干し期間を延ばすことでメタン排出を抑制する取り組みや、森林のCO₂吸収量を活用した活動などを通じて、一次産業の活性化と環境貢献の両立を目指しています。

こうした社会課題の解決と、持続可能なビジネスの両立を、今後も推進していきたいと考えています。

荒木:ありがとうございます。せっかくの機会なので、脱炭素運動に対するお二人の想いや使命感も教えていただけますか?

藤田:私は個人の行動が少しずつ積み重なっていくことにすごく意味があると思っています。たとえばクールビズも、最初から社会に受け入れられていたわけではなく、少しずつ着用する人が増えていった結果、今では当たり前のように浸透していますよね。そんなふうに、社会に受け入れられる環境行動を増やしていくことに、少しでも貢献していきたいです。

宮田:私はIT領域の仕事に長く関わっていますが、実はIT業界は非常に多くのCO2を排出している業界の一つなんです。だからこそ、環境課題に向き合うことは、私たちにとっても切実なテーマです。ITの力を使って、社会課題と企業課題の両方を解決する。そんな未来を現実にしていくことが、私にとって大きなモチベーションになっています。

荒木:もはや、CO2と無関係な企業など存在しない。だからこそ、あらゆる企業が、そして働く一人一人が意識を高く持つことが重要だと、今日のお話を通じて改めて感じました。本日はありがとうございました。

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