loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

Spotifyが開く、音声広告のミライNo.3

広告効果の新指標「アテンション」が示す、Spotify広告の可能性

2025/08/21

広告を通して生活者と真のエンゲージメントを構築するのが難しい時代。業界では、新しい広告指標である「アテンション(広告に注意が向けられたか)」が注目されています。

本記事では、スポティファイジャパンと電通ジャパン・インターナショナルブランズ(※1)の共同調査レポート「音楽ストリーミング広告のブランドへの影響力」(2025年4月1日発表)をもとに、アテンションが示す、Spotify広告の可能性について、エビデンスを交えながら紹介します。

なぜ、アテンションが注目されているのか?

近年、コンテンツの視聴スタイルは大きく変化しています。スマホ上ではショート動画が絶え間なく流れ続け、簡単にスワイプして他の動画にスキップできてしまう。他にも、スマホでSNSを見つつ、テレビデバイスで動画を視聴することも一般的になりつつあります。デジタル環境は多様で、その中に広告を出稿するクライアントにとっては、広告によって生活者の興味関心を引き、真のエンゲージメントを築くのが難しくなっています。

広告の効果測定の代表的な指標にインプレッションがあります。これは長らく日本でも使われていますが、実際にユーザーが広告を見たかどうかは問わない指標でした。他の指標としてはビューアビリティがあり、こちらはインプレッションより一歩進んだ指標であるものの、ユーザーが実際に広告に注目したかまでは評価できません。そのため、広告主は前述した2つの広告指標に加えて、「アテンションベースの指標」を取り入れ始めています。

Spotify

アテンションは、世界中で実施された大規模なアイトラッキングや行動観察の研究結果をもとに開発されたアルゴリズムによって測定されます。「広告そのものへの集中度を捉えられる」ことが、前述した2つの指標との大きな違いで、広告がユーザーに実際に視認されていたか、どれくらいの時間注目されていたかを正確に評価できます。

「アテンションベースの指標」は、広告が「見られたか」ということに加えて、「本当に視聴者の心を捉えたか」を測るためのものです。「アテンションベースの指標」を広告効果測定に取り入れることで、マーケターはキャンペーンの成果を包括的かつ意味のある形で評価して、より効果的なメディア戦略を立案することができます。

アテンションの主要指標は、「Attention per mille(APM)」で、下記のように算出します。

Spotify

APMにより、1000インプレッションあたり、どれだけのアテンションが得られたかを評価できます。さらに、APMを広告メディアごとに計測すれば、各メディアの広告インプレッションの「質」を比較することもできます。

これまで多くの場合、すべてのインプレッションはどのメディアや広告でも同じ価値を持つという前提に基づいて、メディアプランニングが行われていました。 しかし、この前提では、テレビ、ソーシャルメディアのインフィード、プリロール広告など、メディアが変われば1つの広告にかかる費用と効果も大きく異なることは考慮されていませんでした。

海外のグループも含めたdentsuでは、2019年より米国・英国・豪州の拠点で有数の媒体社の協力を得て、調査レポート「Attention Economy」を発表しました。Attention Economy調査は、業界初のアテンションに特化したグローバル調査であり、その規模と範囲において世界最大級の取り組みです。

この調査では、アイトラッキングやAI技術を活用し、ユーザーの視線・視聴行動をもとに広告へのアテンションを可視化・数値化することで、「表示された広告」ではなく「実際に届けられた広告価値」を評価する新たな基準の確立を目指しています。

また、近年では日本国内でもSpotifyやLumen Research(以下、Lumen社)(※2)、Realeyes(※3)などのパートナー企業と協力し、APMを用いた調査を開始しており、高いアテンションを得た広告はブランド想起にも寄与することが明らかになっています(※4)。

下記のグラフは、アテンションエコノミー調査において、各広告素材のアテンション別のブランド想起率を示したものです。平均視聴時間が長くなるほど、ブランド想起率が高くなっているのが分かります。アテンションが高い(広告の平均視聴時間が長い)ほど、ブランド想起率(特定のカテゴリーの中で、消費者が最初に思い浮かべるブランド名や商品名の割合を表す指標)を高める効果が確認できます。一方でビューアビリティはブランド想起率の向上とそれほど相関が見られません。

Spotify
Each data point represents a test ad: sample size (20), excluding outliers and live streaming

電通ジャパン・インターナショナルブランズには、アテンション調査についての問い合わせが増えており、日本においても、広告効果指標にアテンションを導入するクライアントの事例も増えています。同社が担当するグローバルクライアントの中でも、2024年にはアテンションをメディアKPIの1つとして設定し、媒体を横断して計測・評価する取り組みがありました。また、アテンション効果の可視化だけでなく、アテンションパフォーマンスが高い媒体、プレースメントに対して配信を強化するなどの最適化も加速しています。

Spotify広告は、アテンション継続が強み

アテンションエコノミー調査では、Lumen社の最新のアイトラッキング技術を用いて、各プラットフォームのデジタルフォーマット広告のアテンションを調べました。Spotifyの動画広告も調査対象の1つです。

一方、音声広告はこの技術で計測することはできません。そこで、Lumen社と継続した研究を行っているdentsuは、同社との独占的なパートナーシップにより、音声広告のAPMを高い精度で推定できるアルゴリズムを活用しました。このアルゴリズムは、

・広告接触時間
・ブランド想起
・ブランド選択の向上
・強制的・自発的アテンション

といったAPMに影響するもろもろの要因について膨大なデータに基づいた分析から開発されました。

調査の結果、多くの調査対象の広告フォーマットで、広告が表示されてからのアテンションが2,3秒で半分程度に落ちるのに対し、Spotifyの広告はアテンションが最後まで継続する傾向にあることが分かりました。

Spotify
※調査は、各プラットフォームの広告フォーマットごとに比較。上記グラフはそのうちのいくつかを抜粋。
※アルファベットは「インストリーム広告」など、複数のプラットフォームで同じ広告フォーマットがある場合の識別のため、グラフごとにランダムに付与。グラフごとに付与しているため、記事内のグラフにある調査対象フォーマットは同一のものとは限らない。
※同一ブランドのクリエイティブを複数フォーマットで仕様するなど、クリエイティブ素材による影響は極力抑えるよう設計。

同じデータをAPMの指標で確認すると、Spotifyの動画広告は、調査対象の「インストリーム広告A」のフォーマットに比べて約3倍、「SNS広告B」のフォーマットに比べて約5倍のアテンションを獲得。音声広告でも高い効果となりました。

Spotify

他にも、同じSpotifyの動画広告と音声広告は、長い尺の素材でもアテンションが持続していたため、APMも秒数が長くなるほど高くなっていました。この結果からSpotifyは、広告配信が可能な最大30秒の素材でも効果的であると言えそうです。

Spotify

なぜSpotify広告のアテンションは動画・音声とも高いのか?

Spotifyの動画広告と音声広告においてアテンションが高い主な理由はいくつか考えられます。1つ目は、アプリ全体のUXがスムーズで心地よく、ユーザーを引き込む設計になっていること。2つ目は、広告に対する受容度が高い点。Spotify上のコンテンツが非常に魅力的であるため、ユーザーは「少しの時間を広告に当てても、その後に聴きたい音楽やコンテンツを楽しめるならそれでいい」と考えるのではないかと推察します。

そして3つ目は、スキップするための機会コストが高い点が挙げられます。Spotifyの音声広告は、楽曲と楽曲の間に配信されます。楽曲の再生を遮って広告が流れることはありません。動画広告も、基本的には音声広告と同じで、楽曲と楽曲の間に、かつユーザーが画面を操作するなど、画面を見ていると判断できるタイミングにのみ流れます。

いずれの広告もスキップできない仕様となっているため、ユーザーは自然と広告を視聴・聴取する流れになります。そのため、ユーザーはコンテンツの一部として広告を受け入れる傾向があり、ブランドメッセージが届きやすい環境が形成されています。
 
このように楽曲を楽しむユーザーの体験を重視した設計のため、スポティファイジャパンの別の調査では、日本の85%のユーザーがSpotify広告は「押しつけがましくない」と回答しています。

またSpotifyのグローバル調査でも、Spotifyのコンテンツへのエンゲージメントがほぼそのまま広告のエンゲージメントに移行しているというデータもあります。

Spotifyのブランドセーフな広告配信環境は、配信面を気にしている多くのブランドから評価されています。例えば、音声広告素材を持っていない広告主が、動画広告のみでもSpotifyに継続的に出稿されるケースもあるほどです。

こうしたSpotifyの広告特性から、Spotifyユーザーは、動画広告と音声広告いずれに対してもアテンションを持続しやすい傾向があるのだと考えられます。

実際にSpotifyの音声広告によるブランドリフトサーベイ(BLS)を収集して解析したメタ分析結果によると、フリークエンシー(1人のユーザーが広告に接触する回数)を6、7回、もしくは8回以上重ねても、ブランド認知効果や、興味・関心、購入・利用意向を高める効果が確認できています。これも高いアテンションが持続している中で、ユーザーが「押しつけがましくない」と感じているためだと考えられます。

Spotify

他にも、KDDIの広告キャンペーンでは、Spotifyの音声広告を実施した直後と2週間後で、ブランド認知の残存効果を、他のメディアの動画広告と比較しました。すると、キャンペーン直後を100%とした場合、Spotify音声広告は、動画広告と比べ1.6倍ブランド認知が持続しました。

Spotify

ブランドやキャンペーンを、効率よく効果的、かつブランドセーフな環境でユーザーに認知してもらい、忘れられにくい形で認知を持続させることは、多くのマーケターにとって重要な課題です。Spotifyの動画広告と音声広告は、この課題に対する有効なソリューションになるでしょう。

ユーザーをとりまくデジタルメディアの環境がより複雑になる中で、Spotify広告は動画・音声の両方でアテンションの観点から強いインパクトを残せる可能性があります。電通グループとスポティファイジャパンでは、今後もSpotify広告の効果について研究を続けていきます。

※1 電通ジャパン・インターナショナルブランズ:オンライン・オフラインの統合メディアプランニングおよびコンサルティングを行っている企業。

※2 Lumen Research :Lumen Researchは視線計測に基づく大規模な生体データセットを使用して、人間のアテンションに関する理解を深め、アブランドがアテンションを行動に変える支援を提供する、世界でも有数のアテンション・テクノロジー企業。オンラインおよびオフラインメディア全体における消費者の広告視聴行動を理解すべく、クリエイティブなアテンション調査のため特許取得視線計測技術を初めて開発し、ブランドがあらゆる種類のメディアでアテンションに基づく広告を計画、購入、測定、最適化できるよう注力し進化を続けている。

※3 Realeyes:Realeyesは人間のアテンションや感情反応を測定・予測するコンピュータビジョンAIにおいて世界をリードする企業。90を超える市場で200超の顧客から信頼を得たRealeyesのPreViewソリューションは、認知から販売に至るまでの成果がつながるよう幅広く検証され、人間と合成測定を組み合わせ、あらゆる広告の効果を高める。Mars、Meta、Googleおよびdentsuをはじめとした数々の企業と提携している。

※4 詳細は、電通ジャパン・インターナショナルブランズが2024年10月に発表したレポート「広告効果における新指標:アテンションエコノミー」をご覧ください。


Twitter