左から電通 緒方晋士氏、アイフル 岡田駿平氏ノンバンク業界の中でいち早くDXを推進し、大きな事業成長をしているアイフル。
「お客様の生活の選択肢を増やす」「社会から負の感情をなくす」といった理念を掲げる同社は、常に生活者の「資金需要」に適切に応えるための取り組みを進化させています。
2023年から電通グループとともに行っているマーケティング施策「Aiful Growth Marketing」では、大規模IDを活用して顧客を動的に捉える仕組みを構築しました。
アイフルが抱えていた課題に、Aiful Growth Marketingがどのように寄与したのか?アイフルのグループマーケティング部・岡田駿平氏と、電通の第6マーケティング局・緒方晋士氏に語っていただきました。
※本記事は、Marketing For Growth 実践セミナー2025で行われたセッションの内容を再構成したものです。
店舗からスマホ完結型にデジタルシフト。成約数は2.9倍に成長!
──「Aiful Growth Marketing」の取り組みにおける、お二人の役割を教えてください。
岡田:私は、電通さんとの窓口です。「Aiful Growth Marketing」は、デジタルマーケティングに関する難しい話も多く扱うプロジェクトだったので、社内の全員がすぐに理解できるわけではありませんでした。そういった意味で、私は社内への伝達役でもありましたし、社内の要望を電通さんに伝える翻訳者でもありました。
緒方:私は、プロジェクト全体の統括やマネジメントを担当しました。現在もプロジェクトの推進役として、週に一度アイフルさんに駐在しており、プロジェクトの中でもデータ領域の推進を担当しています。電通の分析とプランニングをもとに、実際の運用に落とし込んでいくのは、国内電通グループのセプテーニが担っています。
──アイフルのDX推進の方向性について教えてください。
岡田:アイフルは、個人向けのカードローンを主力とした金融サービスを提供しています。近年は「スマホひとつで完結する」顧客体験を追求し、デジタルシフトを進めているところです。
例えば、オンライン本人確認やカードレス契約(※)で手続きを簡略化、公式アプリでは生体認証や「スマホATM」機能を導入することで、どこでも簡単にサービスを受けられます。また、約580の無人店舗を、2027年にはゼロにしようと動いています。
特に、無人店舗メインからスマホ完結型へのシフトは大きな方針転換で、金融業界では先駆的な取り組みでした。このデジタルシフトを実現するため、IT人材の積極的採用、SES事業のM&Aと事業拡大、システム内製化を進めています。
※申込~契約、利用まですべてスマホアプリで完結。物理的なカード発行は不要。
緒方:アイフルさんに駐在している中で、IT企業への変革のスピード感を感じます。IT人材確保のため、海外の大学とも提携していて、海外のエンジニアも多い印象です。
岡田:まだ改革の途中ですが、徹底的なデジタルシフトによって、新規成約数は10年間で約2.9倍に伸長しました。

──大きな事業成長を遂げているアイフルですが、これまでどんな課題を抱えていたのでしょうか?
岡田:主に二つの課題がありました。
一つは「新規アプローチの効率化」。カードローン事業全体の課題でもありますが、アフィリエイトからの成約割合が高いんです。しかしアフィリエイトは単価が高いため、CPA(顧客獲得単価)を下げていくためには、新たなアプローチ手法の開拓が必要でした。
そしてもう一つの課題は「質の高い顧客へのアプローチ」。アイフルでは競合他社と比べて、新規申込件数の増加に伴って成約率が減少していました。申込件数を伸ばしながらも一定の成約率を保つ、つまり質の高い顧客へいかにアプローチするかが課題でした。
緒方:これらの課題を解決するためのプロジェクトが、2023年から開始した「Aiful Growth Marketing」です。アイフルさんと電通、セプテーニの3社による共創でした。
顧客一人一人に適切なタイミングでアプローチする方法とは?
アイフル 岡田駿平氏──「Aiful Growth Marketing」の概要を教えてください。
岡田:顧客をID単位で追跡し、広告接触から行動変化までのインサイトを一貫して可視化するプロジェクトです。最終的には、マーケティングを事業成長に結びつける狙いがあります。
従来のマーケティングはマスメディア中心で、リーチと認知MAXを重要視していました。一方IDベースマーケティングでは、大規模IDにひもづいた実行動ログを活用します。そして顧客一人一人に対して、適切なタイミングや方法でアプローチするのです。
緒方:IDベースマーケティングに転換するために、アイフル×プラットフォーマー×電通の3社の保有データを活用しました。
アイフルのファーストパーティデータである成約データや優良顧客データ、電通独自のテレビ視聴ログや大規模調査データ、そしてプラットフォーマーの持つ広告視聴ログや検索、興味関心データです。
これらのデータを統合することで、マーケティング施策の各アクションの効果検証を行い、「事業成長につながる顧客特性」の解明を実現しました。もちろん個人を特定しない形で、匿名化・統計化された環境で分析を行っています。
──本プロジェクトは、具体的に二つの課題をどう解決するのでしょうか。
緒方:まず一つ目の課題、「新規アプローチの効率化」について。私たちが注目したのは、成約に至る流れの中にある、「資金需要発生の予兆」でした。
例えば「引っ越しを考えている」「推しのライブに行きたい」など、「今すぐお金が必要」になる直前に、予兆は発生します。そういった予兆は、関連する検索行動やサイト閲覧行動に表れます。予兆行動をとったクラスターを見逃さずに捉えることで、資金需要発生の直前に先んじてアプローチができます。

岡田:いち早く顧客と接点を持つことができると、競争の激しいアフィリエイトサイトでの比較検討前に想起してもらえるようになります。いざ資金需要が発生したときに、アイフルサイトへの直接の来訪が期待できるのです。
──予兆はどのようにして捉えるのでしょうか。
緒方:まず、「カードローンニーズが顕在化し、比較検討段階にあるユーザー」を対象に、行動の分析を行いました。例えば、アイフルのサイト来訪やサービス申し込みをしたユーザーや、または“カードローン”などのキーワードで検索しているユーザーが当てはまります。そんなニーズの顕在化が確認されたユーザーの行動を、直近30日間分さかのぼって分析し、どんな「予兆」があったかを探りました。
分析の結果見えてきた予兆行動をクラスタリングしたところ、35種類の資金需要発生前クラスターに分類できました。例えば、先ほどの例のような「引っ越し関連」や「推し活関連」「教育関連」などです。
このクラスターごとにターゲットを設定し、属性と行動特性を可視化しました。その上で、特定のキーワードを検索したユーザーに対し、YouTubeとYahoo!で広告を配信することで、比較検討前にアプローチできます。
岡田:そして本年度からはクラスターをさらに絞り、成約への期待値が高い8つの「重要クラスター」を抽出しました。重要クラスターに関しては、クリエイティブ素材も最適化を始めています。
緒方:アイフルさんといえば、「そこに愛はあるんか?」でおなじみの、大地真央さん演じる女将(おかみ)ですよね。CMの制作には、電通も2019年から携わっていて、CM好感度でも常に上位に位置する人気ぶりです。もちろん、女将シリーズも進化を続けていきますが、今回の取り組みでは、8つの重要クラスターに対しては専用のクリエイティブを用意することにしたんです。
岡田:そうですね。これまでのようにすべての広告の素材を女将シリーズで作るのではなく、各クラスターのニーズに即したクリエイティブを準備することが、成約数の伸長につながることを期待しています。
──新しいクリエイティブは、どのように行っているのでしょうか。
緒方:多様なニーズへのクリエイティブは、GeminiのAIを活用し、制作フローの超高速化を進めています。取り組みの特徴としては、Deep Researchを用いて、重要クラスターの細かい条件や、アイフルさんの企業情報などをGeminiにインプットしたことです。顧客に合わせてパーソナライズされたメッセージ開発にあたって、制作時間やコストの圧縮にAIは不可欠です。
例えば、重要クラスターの一つに「アイドル推し活」があります。そのクラスターに対して、カードローン利用のインサイトを持つターゲット像と、多様なインサイトを議論し、アイフルが提供できる価値を整理します。その後、ターゲット像に刺さるメッセージを作成。セプテーニのクリエイティブ担当とともに、Geminiを使いながら字コンテに落とし込み、アニメーションを作成しました。
岡田:AIを活用した制作をしてみて、想定できなかったインサイトを出してもらえたり、助けられたりすることが多かったです。また、PDCAサイクルをスピーディに回せることも魅力に感じました。「アイドル推し活」クラスターへの広告はアニメーションで制作しましたが、今後の分析によって実写への転換なども考えつつ、最も適切な形を見極めていきたいです。
質の高い顧客にアプローチするために、正確に「測る」
電通 緒方晋士氏
──では、二つ目の課題「質の高い顧客へのアプローチ」に対する施策を教えてください。
緒方:アイフルさんの保有するファーストパーティデータと、Google・Yahoo!のデータクリーンルームを連携させました。本施策の広告接触者について、成約までひもづいた検証をして、顧客の質を正確に把握するためです。
また、施策経由別に「成約フラグ」というものもつけました。どのユーザーが直接検索や自然流入で成約に至ったかを見分けるために、自社データにラベルをつけ、アフィリエイトからのコンバージョンを除外した分析を可能にしています。
これらの取り組みにより、「優良顧客になったユーザー」の行動を、安全かつ詳細に分析できるようになりました。この分析結果から、「優良顧客化を期待できるユーザー」へのIDベースでのアプローチが可能になったのです。
岡田:このとき、個人情報保護の観点から、自社でGoogle・Yahoo!のデータクリーンルームに顧客データを安全にアップロードし、連携できる仕組みを整えました。プライバシーポリシーの確認など、部署をまたいだ作業もあって時間がかかりましたが、個人情報を保護しつつマーケティングの精度を高めるためには必須だと感じていたので、粘り強く取り組みました。1年かけてようやく実現した仕組みですね。
能動的なサイト来訪数は2倍に。認知施策が事業成長につながっている

──「Aiful Growth Marketing」の現在までの結果を教えてください。
緒方:まず一つ目の課題である新規アプローチ効率について。「アイフル」と指名検索して能動的にサイト来訪してくれた数が、昨年に比べて2倍に増加しています。また、ファーストパーティデータのひもづけによって成約コストを精緻に把握できるようになり、安価で効率的にアプローチできていることが見えてきました。指名検索やオーガニック流入の数字を見ても、成約コストは低下傾向にあります。
さらに、二つ目の課題である顧客の質も高まってきています。成約顧客の内、優良顧客含有率は5割以上になりました。通常が3割ほどであることを考えると、非常に良い結果です。
岡田:アフィリエイト中心の集客構成から、優良顧客含有率が高い新しいアプローチ手法を確立できました。アイフルにとって大きな前進でありつつ、まだまだ成長の可能性を持っているプロジェクトだと思っています。
今後は、施策効果の可視化にとどまらず、「どの資金需要発生クラスターがどの広告を見て、最終的にどんな顧客になったか」まで解明することで、成約の質が良くなっていくことが期待できます。
──ここまでプロジェクトを共創してきた感想と、今後の共創の展望を聞かせてください。
緒方:岡田さんが在籍しているグループマーケティング部のプロモーション課は、認知施策が専門の部署です。当然ですが、これまでアイフルさんは、成約の獲得件数を第一に動いて、余った予算で認知拡大施策をするという構造でした。つまり、もしも仮に成約獲得件数が減少して、ビジネスが不調になったときは、認知施策から予算を削られるわけです。
しかし、認知施策は中長期で必ずメリットがあります。認知や興味関心段階へのアプローチも、成約につながる、ひいては事業成長につながることを可視化する。今回のプロジェクトには、そういうミッションもありました。
岡田:プロジェクトを通して、デジタルの技術的な話からマーケティング自体の考え方など、難しい話が多かったです。しかし、議論中に話を理解できていない人がいた瞬間には、その空気を感じ取った緒方さんがすかさずフォローしてくれましたね。また、当社は部署異動が多いので、新しく入ったメンバーに改めて知識をインプットする機会が度々必要でした。その際の先生役も緒方さんが担ってくれました。その時点までのプロジェクトの経過などは、初期段階から携わってくれている緒方さんだからこそ説明できることです。
さらに、ビジネス構造そのものについても精通しており、事業主よりも事業のことを分かっているのでは、と感じることもありました(笑)。今後は、ビジネス改善提案の議論を、さらに忌憚(きたん)なくできるといいと考えています。メンバーの入れ替わりが多いと、社員同士で事業について深く話せる機会が少ないですからね。
緒方:プロモーション課にとどまらず、お互いに事業として良い影響を与え合えるといいですね。