カテゴリ
テーマ

2026年の欲望トレンド、「シングルタスクへの逆回転」。日経トレンディ×電通の徹底分析!

DDD#32_メインカット
左から電通 千葉貴志氏、日経BP 勝俣哲生氏、電通 佐藤尚史氏

 

2025年の消費を欲望(Desire)視点からひもとき、2026年の欲望トレンドを見通す!

前回に引き続き、日経トレンディの勝俣哲生氏をゲストに招いての新年特別座談会をお届けします。

DDD#31_図版01

 

後編となる今回は欲望トレンド「シングルタスクへの逆回転」を分析・予測します!

■関連記事:
日経トレンディとDENTSU DESIRE DESIGN (電通デザイアデザイン)が、欲望(Desire)視点で読み解く2025年のヒット商品・2026年のヒット予測は?- Do! Solutions -

欲望トレンド「シングルタスクへの逆回転」。集中するというぜいたくさ

 

佐藤:最後、6つ目の欲望トレンドは「シングルタスクへの逆回転」です。00年代、10年代、20年代と、プロダクトやサービスはどんどん進化してきました。多機能も当たり前です。その結果、人々は特にタイパを高めていく方向の進化を好んで取り入れて、効率的なライフスタイルを手に入れたわけです。

その結果今どうなっているかというと、多くの便利な機能はスマートフォン、あるいは大手プラットフォーマーに集約されていく。とりあえずGoogleにアクセスすれば何でもできるぞ、みたいなことですね。1つのデバイスやアカウントで、あらゆるマルチタスクをこなせるようになったというのが現状です。

一方で、どんどん機能が高度化してくるにつれて、同時並行作業はけっこう難しいぞということにもなってきました。それに、「AといえばB」みたいな的確な答えを返してくるデジタルデバイスに囲まれていると、今度は逆に人間性が恋しくなるといった、反動も生まれます。

あるいは1つのデバイスやアカウントに依存してしまうリスクもあります。ある日プラットフォーマー側の都合でそのデバイスやサービスが急に使えなくなったら、何もできなくなるみたいなこともあり得るわけですね。

さて、そんな時代に、映画監督のジェームズ・キャメロンが面白いことを言っています。いわく、映画館に行くという行為が、マルチタスクをしないための決断になっている。そうすることで、自分自身と芸術作品との間で全神経をスクリーンに集中させるという契約を結んでいるといった内容でした。これを聞いて、僕はすごい逆転の発想だなと思ったんですね。

たしかにわれわれが自宅にいて動画配信サービスで映画を見るときは、スマホを片手に見たり、誰かとしゃべりながら見たり、食事しながら見たりといったマルチタスキングを前提としちゃっています。僕も、メールが来たら一時停止して、メールに返信してからまた続きを見るみたいなことをやっています。

これに対して映画館って、「映画しか見られない」という制約のある場ということが、逆に価値になっているわけです。マルチタスクが遮断されて、作品に全集中できる。つまり、シングルタスクであることの価値に、支持が高まっているというトレンドです。

 

映画館は1つの代表例ですが、こういうふうに「機能」を絞ってシングルタスクにすることにより「集中できる環境」を用意して、そのパフォーマンスを高めたり、十全に味わうという動きが徐々に広がりつつあります。

前回触れた編み物ブームも、作業中は手も目もふさがって、完全にシングルタスクで集中するしかありません。映画館と同様、その集中する体験に価値があるわけです。あるいは「Jiffcy」というSNSも、リアルタイムでテキストによる会話を楽しめる、「それしかできない」ことが魅力になっているのかなと思います。

■「Jiffcy」について気になる方はこちらもご覧ください
SNSネイティブの若者が求める「つながり」とは?(電通報)

多機能より単機能が若年層には「進化」に見えている?

DDD#32_佐藤氏ソロカット
佐藤尚史氏(電通)

 

佐藤:そして物心ついた時からスマホがあり、「マルチタスク・ネイティブ」な若者の間でこうしたトレンドが起こっているんです。逆にいうと、われわれ世代には思いつかない発想かもしれません。どういうことかというと、あえて技術進化の「逆回転」をさせるパターンが多いんですね。デジタルだったものをアナログにするとか、マルチタスクだったものをシングルタスクにするとか。

例えばスマホを逆回転させてアナログに分解していけば、腕時計になったり、フィルムカメラになったり、レコードになったり、手帳になったり、そして映画館になったりします。その一つ一つって極めてシングルタスクです。

われわれは1台でマルチタスクができるスマホに慣れてしまっているので、シングルタスクしかできないカメラやレコードは不便なものと思ってしまうのですが、その一つ一つが、「それしかできない」ということで逆に温かいし、「あえてそれを使っているよ」という主張もある。それがオシャレだという感覚になっていくわけです。

特に物心ついた時にはスマホと大手プラットフォーマーのアカウントに集約されて育っているデジタルネイティブ世代は、むしろデジタルの機能がシングルタスクに分解されていくことが「新鮮」であり、「進化」に見えるんだと思います。われわれ世代とは逆なんですね。

例としてコンデジ(コンパクトデジカメ)を見てみると、スマホの普及により近年どんどん市場が縮小しているものの、2025年だけちょっと売り上げが上がったんです。なぜかというと、シングルタスクが魅力的であることに加え、トレンド01「セルフカルチャー消費」で触れたように、「カメラを首にかけている私」という自分らしさを手に入れられる側面もあります。有線イヤホンにしてもそうですが、「ここにこだわっている自分」を主張することに、ファッション性を見いだしているわけです。

 

シングルタスクを意識した新商品の例としては、大ヒットとなった洗面ボウルクリーナーがあります。考えてみるとこれはお風呂など水回り全般で使用できますが、あえて洗面台に特化した名前を付け、洗面台に置けるようなデザイン、ふたを開けてすぐに汚れを落とせるUX/ UIに注力したことが売れた要因だと思います。あとは多機能から省機能になることで、価格を安く抑えた洗濯機やテレビ受像機も非常に面白いアプローチだと思っています。

まとめると、1つのことにしか没入できない場とか体験が価値を持ち始めたのならば、今後のマーケティングでは「何を削るか」「何をできなくするか」ということも重要になってくるかもしれません。今の商品開発は「うちにはこんな機能もあんな機能もある」と、いろんな機能を統合していく方向だと思うんですが、何らかのシングルタスクにアテンションを全集中させていくというのも1つ鍵になってくると考えています。

商品やサービスを「区切る」「分ける」と、全集中の価値が生まれる

DDD#32_勝俣氏ソロカット
勝俣哲生氏(日経BP)

 

勝俣:面白いですね。特に、機能を制限することで価値が生まれるというお話は興味深いです。いろんなものが「なんでもあります」「なんでもできます」と汎用的になっている中で、1つ特徴を抜き出して訴求することは、やっぱり必要かもしれないですね。

日経トレンディの2026年ヒット予測で、「冷食・アイス食べ放題の日」というものを取り上げました。日本アクセスさんの取り組みで、スーパーマーケットの冷食・アイスコーナーを「食べ放題エリア」として区切ってイベントを行うんです。はっきりと「ここは食べ放題エリアです」と区切ってしまうことで、新しい価値が生まれていると思います。

それから集中の話はとても重要だと思いました。これはウェビナーでお話ししたんですが、韓国と欧米で今Text Hipというトレンドがあります。これが何かというと、あえて紙の本を集中して読むことがクールなんだという世界観ですね。これは結局脱スマホとか、デジタルから解放される時間が、すごく貴重な場になっているということなんです。そういう文脈でも、佐藤さんのお話はとても共感できました。

 

佐藤:やはり、マルチタスクができてしまうことで「集中する」機会が失われているからこそ、「集中」という行為そのものの価値が高まっているのではないでしょうか。

勝俣:まさにそうだと思うんですよね。私も生活している上で、自分がすごくマルチタスクだなと感じるんです。スマホでいろんなアプリを見たりして、少なくとも「集中」はできていないですよね。

佐藤:00年代に「マルチタスク」とか「分散」ということが尊ばれたと思うんですが、今は「集中することの方が面白いんじゃない?」という逆転が起こっている気はします。

勝俣:普通に現代の暮らしをしていると、環境として集中できないですからね。シングルタスクな空間やシーンを作ってあげるというのが、今後の商品やサービスのアピールポイントになりそうです。

佐藤:それって何ができるプロダクトなの?と聞かれたときに、「洗面台を洗えるスティックです」というのはもう明快じゃないですか。これを欲張って「水あか汚れに使えます」というと、それは正しいんだろうけど、訴求力は弱いですよね。これを「洗面台を洗うんです」と言い切ってしまうと、すごく分かりやすくなってきます。

千葉:僕が佐藤さんのお話で面白かったのが、「今の若者はマルチタスク・ネイティブだ」という言葉です。われわれ世代はマルチタスクを「便利だな」「効率が良いな」と思っているんですが、若い層は生まれたときからそれが当たり前なので、便利とも効率が良いとも思ってないわけですよね。こういう世代的な差はやっぱり大きいんでしょうか?

佐藤:めちゃくちゃ大きいと思いますよ。ここ最近は、あまり世代で区切ることって良しとされませんでしたけど、「スマホネイティブ」「AIネイティブ」というのはスタートラインが違いすぎるので、持っている感覚が全然変わってきますよね。

最初からスマホにすべての機能が集約されて、映画もドラマも電車の中でスマホを見ていれば完結するような世代の人からしたら、映画館は異質な体験です。最初は耐えられないかもしれないですけど、そこでハッと気づくわけですね。この巨大な画面に向き合っている時間に(笑)。

また映画「国宝」の話になりますが、あれは一人の人間の人生、生き方を描いていて、観客も「自分の人生はどうだろう?」と考えさせられる映画だと思うんです。そういうインタラクションも含めて、「こういう大スクリーンに集中する時間っていいじゃない」という新鮮な気づきを得ていくという。

AIは人間の欲望とどう関わってくるのか?

DDD#32_千葉氏ソロカット
千葉貴志氏(電通)

 

千葉:スマホのようなデバイスの変化を体験してきた世代と、最初から完成されたものを手にしている世代では、物事の捉え方が根本的に違いますよね。世代論的なところでは、勝俣さんはどのようにお考えですか?

勝俣:スマホも大きいですが、AIによってまた世代の差が大きくなると思います。ただ、AIは今日のお話とは逆に、分散していたものが集約される方向に行く気もしています。AIによってすべてが集約されると、逆に自然とシングルタスクな人たちが増えてくる可能性もあります。

千葉:例えば苦手なことはAIに任せて、本当にしたいことに集中できるようになる、みたいなイメージでしょうか。

勝俣:はい。相談相手も1人というか、特定のAIだけになるというところまで行くかもしれないですね。

佐藤:「思考と体」というものがあったときに、「思考」に属することはAIが大部分を引き取っていくような世界はすぐ来そうです。ただ、どうしても「身体性はそこにはない」という問題が残ります。そうなるとアナログな、体として何を味わうのかに人間は時間やお金を使うようになっていくんでしょうかね。

千葉:お二人のお話を伺いながらふと考えたんです。僕ら世代には「時間をかけたからこそ生まれる自信」みたいなものがあるじゃないですか。でもそういうことはAIでショートカットできてしまうとなると、どこでその自信を得られるのかなと。

勝俣:実際、明らかに生成AIで作ったパワポを見せてくる人も増えましたからね。「どこで努力をするか」を自分で決められるという意味では、生成AIの活用もいいんですけどね。

千葉:なるほど、生成AIの活用について、「努力の場所を自分で決める」という視点はありませんでした。

佐藤:千葉さんの疑問はごもっともで、AIばかり使っていると、人間の基礎的能力がどんどん損なわれていく危惧はありますよね。ただ、どこまでいってもAIではたどり着けない、感情とか人間関係みたいな部分は残ります。

マーケティングにしても、「誰かがこういう思いで作った」みたいな感情的要素があるわけですよね。そういうインタラクションの中でマーケティングが行われていく可能性はもう十分にあるなと。

千葉:作り手の思いやフィロソフィーが見えることが、今後はより重要になっていくのかもしれませんね。さて、AIの話が続きますが、ウェビナーでの2026年トレンド予測でもAIは大きなトピックでした。改めて、AIとマーケティングという観点で展望を伺えますか?

勝俣:やはり「AIにできないこと」にしっかり向き合っていく人たちが、長期的には強くなっていくと思います。日経トレンディでは2026年にはショッピングAIが普及すると予測しましたが、たとえAIがどれだけ浸透しようとも、「AIエージェントに好かれる商品を作ろう」ではなく、AIの向こう側にいる生活者をしっかり見て、生活者が何を考えているのか、その人たちにどう届けるのかを考えること。本質はそこだと思うので。そういうチャレンジをしている企業やサービスを応援したいです。

佐藤:先ほどAIについて、「努力をする場所を選べる」というお話がありました。同じようなことがショッピングAIについても言えると思います。どういうことかというと、自分があまりこだわりのないもの、例えば僕の場合はちょっとした日用品は、AIに最適なものをピックアップしてもらえばいいんですが、そこで得られた可処分時間で僕は何をするのかをちゃんと考えないといけないなと。

千葉:AIに任せたいことと、自分が集中して取り組みたいことを明確にするわけですね。AI以外ではどんな展望がありますか?

佐藤:マーケティングが「情報」から「感情」になっていくのは間違いないと思っています。生活者から見ると、プロダクトの差異ってもはやよく分からない。そんな世界では感情が購買の決め手になります。そうなると、エモーショナルな場所で、エモーションに乗っかって、生活者の感情との接点を作る行動が、マーケティングコミュニケーションでは生まれやすくなるのではないでしょうか。

例えば2025年のヒットというと、「鬼滅の刃」や「チェンソーマン」などのコンテンツが思い浮かびますよね。コンテンツには、エモーションがある。そのコンテンツのエモーションに何をどうひもづけると、どういうマーケティングが生まれるのかが鍵になってくるのかなと。

今年の大きなイベントにWBCがありますが、これは日本人にとってはエモーションの塊のような大会なので、きっとそこでは特別なコンテンツが流れると思います。アメフトのスーパーボウルがそうですよね、毎年その年を代表するような広告やタイアップ企画があります。

千葉:エモーションで商品を選ぶ時代には、高いものを買うときに家族を説得するのが難しくなりそうだと思いました(笑)。今までは「スペックがこんなに良いんだよ」と言っていたのが、感情はそもそも共有できていないと説得できませんからね。

佐藤:今後のマーケティングでは感情の可視化が重視されるかもしれません。購買ジャーニーも、「どう感情に作用するか」というものに置き換わっていくと思っていて。例えば牛乳を親が買うとき、「カルシウムで骨を強くするために買う」という機能的な話だったのが、「この牛乳を買うと子どもは喜ぶ、それを見るとあなたもうれしい」みたいな感情面がより組み込まれていくんじゃないでしょうか。

勝俣:そういう意味では企業側もやり切れていない部分が残っていると思います。

ロングセラーでも、「この商品、誰がどんな理由で買ってるの?」みたいなインサイトが見えなくなっていることがある。大人のおつまみとして売っていた雪印「さけるチーズ」を、子どもの健康的おやつとして捉え直し、「ボンバーさけチー」を生み出したように、お客さんの気持ちをもう一度見つめ直すのは、ロングセラーであるほど有効だと思います。

佐藤:「誰の何を感情面で満足させているのか?」という切り口で見つめ直してみれば、その商品のコンセプトだったり、派生商品の作り方も見えてきそうですね。どうもありがとうございました!

勝俣:ありがとうございました。日経トレンディでも今後、よりプロシューマ―向けの情報発信を強化して、この秋には日経トレンディ電子版を立ち上げる予定ですので、ご期待ください!

■2025年ベストヒット商品と、2026年ベストヒット予測が知りたい方はこちら
日経トレンディ 2025年12月号

■DDDが消費者の「未来の欲望」を予測し取りまとめた書籍はこちら
「未来の消費者は何を欲望するのか」(日経BP)

この記事は参考になりましたか?

この記事を共有

著者

勝俣 哲生

勝俣 哲生

株式会社 日経BP

月刊誌「日経トレンディ」記者として、食品・飲料、日用品、小売り業界などを担当。年末の恒例企画「ヒット予測」特集を10年にわたり手がける。2016年に日経トレンディ副編集長、18年から日経クロストレンド副編集長。23年4月に日経クロストレンド編集長。MaaSやフードテック、メタバース、小売りテックなど、新領域の取材、書籍編集を多く担当。25年4月からトレンドメディアユニット長。

佐藤 尚史

佐藤 尚史

株式会社電通

第2マーケティング局

プランニングディレクター

古今東西の人文知を武器に、ビジネスグロースのためのコンサルから企画開発、マーケティング戦略からワークショップまで「社会をよくすることの全て」をドメインとする「The Director」として活動。たまにシナリオライター。

千葉 貴志

千葉 貴志

株式会社 電通

第4マーケティング局

プロデューサー

営業、デジタル、テレビなどの部署を経験した後、電通総研に出向し、社会調査全般を担当して情報空間の健全性を研究。2022年より電通に帰任し、クライアントの未来の企業価値を創発する未来事業創研/消費者研究プロジェクトDENTSU DESIRE DESIGNに所属。未来と欲望を基点に、新規事業から日用品まで業界業種を問わずさまざまなビジネス開発を手がける。慶應義塾大学X Dignityセンター共同研究員。

あわせて読みたい