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2026年の欲望トレンド、「努力のトークン化」。 日経トレンディ×電通の徹底分析!

左から電通 千葉貴志氏、日経BP 勝俣哲生氏、電通 佐藤尚史氏

 

2025年の消費を欲望(Desire)視点からひもとき、2026年の欲望トレンドを見通す!

電通デザイアデザイン(DDD)は消費と欲望の関係から、さまざまなソリューション開発や情報発信を行う組織です。昨年に引き続き、今回は日経トレンディ発行人の勝俣哲生氏をゲストに招いての新年特別座談会をお届けします。(昨年記事はこちら:前編後編

2025年12月5日に、ウェビナー
日経BP×dentsu desire design 欲望(Desire)視点で紐解く2025年消費分析・2026年欲望トレンド予測
が開催されました。

 

本座談会では、ウェビナーで語りきれなかった2つの欲望トレンドをDDDの佐藤尚史氏がご紹介。DDD千葉貴志氏も交えて議論は白熱し、話はマーケティングにとどまらず人間とAIの関係性にまで及びました。

前編となる今回は欲望トレンド「努力のトークン化」を分析・予測します!

世はまさに大個性時代。2026年を占う6つの「欲望トレンド」

DDD#31_千葉氏ソロカット
電通 千葉貴志氏

 

千葉:今年も新春座談会ということで、日経トレンディ発行人の勝俣哲生氏を交え、先日のウェビナーでは話しきれなかった、2つの「欲望トレンド」を中心にお話しできればと思います。

勝俣:ウェビナーではどうもありがとうございました!本日もよろしくお願いいたします。

佐藤:お願いいたします!まず電通報読者に向けて、「6つの欲望トレンド 2026」の概要をおさらいします。これはDDDが独自に分析・提唱しているもので、以下の6つのトレンドが2026年の消費の特徴になると予測しています。

  • 01 セルフカルチャー消費
  • 02 インナーナラティブ
  • 03 五感シグナル消費
  • 04 スワイプ消費
  • 05 努力のトークン化
  • 06 シングルタスクへの逆回転

佐藤:今回議論するのは05、06の欲望トレンドです。01~04については、Do! Solutionsで公開されるウェビナーのレポート記事をご参照ください。ここでは駆け足で簡単に説明します。

■Do! Solutionsのレポート記事はこちら:
日経トレンディとDENTSU DESIRE DESIGN (電通デザイアデザイン)が、欲望(Desire)視点で読み解く2025年のヒット商品・2026年のヒット予測は?- Do! Solutions -

欲望トレンド01「セルフカルチャー消費」
世はまさに大個性時代。多様な価値観の尊重は、法律や社会制度にまで浸透しつつあり、誰もが「自分らしく」生きられる一方で、その分だけ「自分らしさ」の価値が無限に上昇しています。それ故、生活者は自分の「らしさ」を肯定・付与・表現してくれる商品やサービスを求めるように。

今や誰もがさまざまな世界観・価値観の中から、自分が“好き”な部分を取り入れ、自分らしさを「編集」しています。自分らしさ編集の素材になるのは「自分の“好き”」と「他者の“好き”」。以下のサブトレンドは、左に行くほど「自分の“好き”」寄り、右に行くほど「他者の“好き”」寄りとなっています。
【サブトレンド】A.「かつての“好きの再発見」 B.「“好き”でブランディング」 C.「“好き”選びの箱庭」 D.「“好き”の分解」 E.「誰かの“好き”の移植」

 

欲望トレンド02「インナーナラティブ」
カンヌライオンズでも語られた「WeからMeへ」というトレンド。2025年のヒットコンテンツは、映画「国宝」を筆頭に、主人公個人の生き方に焦点を当てたものが多く見られました。観客自身が「自分はどう生きるのか?」という内省的な問いに向き合いたくなる物語が支持されています。このヒット群と捉え方をインナーナラティブと名付けました。

 

欲望トレンド03「五感シグナル消費」
昨今、人が受け取る情報量はますます爆増し、莫大(ばくだい)な情報に思考はオーバーヒート。結果、SNSには短文、画像、ショート動画があふれ返り、書籍の要約や長尺動画の切り抜きなど、ファスト教養コンテンツが隆盛を極めています。このファスト感覚は実世界の購買にも影響し始めており、ネーミングやパッケージが感覚器に直接アテンションし、思考する前に欲望を発揮させるようなファストな仕掛けが見られました。

 

欲望トレンド04「スワイプ消費」
ECの品ぞろえ、ショート動画、サブスクのコンテンツ、アプリ、レストラン……どのカテゴリーも選択肢が無限。比較選択するのは心理的にも時間的にも重すぎるので、「秒で直感的にNOをつけていく」ほうが楽。無限スクロールやアルゴリズムがその消去法を支えます。最適解を探すというより、大量候補の中から「ほどほどの正解」を探すという選定消費の仕方は、マッチングアプリで恋人候補を選ぶ行為のようです。これをスワイプ消費と名付けました。

欲望トレンド「努力のトークン化」。プロセスエコノミーの進化形とは?

 

佐藤:欲望トレンド5つ目は「努力のトークン化」です。いきなりですが、生成AIの何がすごいかというと、過程はブラックボックスで成果物が一気に作り上げられるところです。例えばモネの「睡蓮」の絵は素晴らしいですが、AIも外形的にはモネの「睡蓮」の絵を作れてしまいます。知識がある人にとってみれば、それらは全然価値が違いますが、知識がなければどちらも同等なものに見えてしまう。そんな恐ろしい時代がやってきました。

こういう時代になると、成果物、つまりアウトプット全体の価値というものが、できあがったものだけで見た場合には低減してきてしまいます。このアウトプットに至るまで、どれだけ深く重いプロセスがあったのかという情報を同時に付与しないと、価値が担保されない時代になりつつあるんです。そんな時代に、「人間的な努力や負荷があればあるほど、アウトプットの価値も向上しますよ」という考え方が、努力のトークン化です。

これは近年のトレンドだった「プロセスエコノミー」の進化形とも言えます。プロセスエコノミーとは、あえて「過程」を見せることにより、過程そのものがコンテンツになるという考え方で、代表例としてはNiziUを生んだNizi Projectが挙げられます。

そして努力のトークン化においては、「その過程においてどれだけの努力や負荷があったのか」が、アウトプットの価値に変換されるところまで来たなと。努力のトークン化の代表例としては、timelesz projectです。両者の違いがどこにあるのかというと、ゼロから作っていったNizi Projectに対して、すでに売れているtimeleszというグループのリビルディングのプロセスを、かなりのリスクを負って生々しく見せたわけです。その上でtimeleszの価値を高めることに成功したんですね。

プロセス自体をコンテンツ化したプロセスエコノミーと、プロセスにおける努力や負荷を見せることで最終的な商品の価値を高める努力のトークン化、これらは似ているようで全く違うと思っています。

過程の努力や負荷を伝えることでアウトプットの価値が増していく

DDD#31_佐藤氏ソロカット
電通 佐藤尚史氏

 

佐藤:努力のトークン化には2つの方向性があります。1つは、自分の努力をいわばトークン化して、アウトプットと一緒に見せていきたいという願望。「このアウトプットはAIでいきなりできあがったものじゃないんだよ」ということですね。

 

日経トレンディのヒット商品ベスト30に入っていたコクヨの「大人のやる気ペン」は、まさに自分自身の努力の量を可視化し、共有するというコンセプトの商品でした。2025年は編み物ブームもありましたが、編み物はできたものをアウトプットするだけでも努力が感じられます。

また美容整形は、昔は完成形だけを見せて「かわいい/格好いい」でよかったのですが、最近では「努力」と呼ぶんですね。「こういうふうに美容整形を工夫してかわいく/格好よくなったのである」という過程をちゃんと発信しながらアウトプットを見せることで、アウトプットの価値をより高めていくんです。あるいは、タイパが叫ばれる中で、あえて長蛇の列に並ぶといった行為も同様で、「並ぶ」という努力や負荷によって、手に入れるものの価値が増してくるという逆転の話でもあります。

そしてもう1つが、他者の努力のトークン化です。代表例は邦画実写作品の歴代興行収入1位を記録した「国宝」という映画です。単純に映画自体が面白い、優れているというだけではなく、主演の2人が1年半本当に歌舞伎の修業を積んで、最終的には1つの演目を一から十まで演じられるまでに技術を高めていったという、その努力が映画に内包されている。この情報を知っているので、われわれはますます「これはすごい映画だ」と感じるわけです。

 

timelesz projectもそうですが、努力を発信することでアウトプットの価値を高めるのは、昨今のエンターテインメントの世界では定石になりつつある手法です。もう1つ例を挙げると、小学館の「ウラ漫」は、シンプルに作家の力だけで漫画ができあがってくるというより、作家と並走しながら産みの苦しみを味わう編集者の裏側を見せることによって、チームプレイとしてのアウトプットの価値を高めています。

今後のマーケティングでは、アウトプットだけを見せるというより、その過程の非効率性や人としての雑味のようなものを、あえて商品や広告に織り込んだり、個人の努力を可視化できるようなサービスに可能性があるんじゃないかと思います。努力の証が「鑑定書」となるような、いわばトークンみたいなものですね。

AIへの反動か?「本物」を求めるニーズが高まっている

DDD#31_勝俣さんソロカット
日経BP 勝俣哲生氏

 

千葉:努力のトークン化については、受け手側だけでなく発信側も価値を感じている気がします。ただニーズがあるから公開するというより、やっぱり自分たちが努力して、負荷を乗り越えてきたところも「見てほしい」し、受け手側もそれを魅力に感じてくれているという双方向ですよね。勝俣さんはどう思われましたか?

勝俣:すごく共感できるお話です。過程の努力だったり、佐藤さんのおっしゃった「人の雑味」みたいなものが受け入れられるのも、いきなり完成されたアウトプットが出てくるだけのAIへの反動みたいなところがあると感じています。

アウトプットに当たり何かしらハードルがあって、必ずしも自分たちの思い通りにいかない状況、それこそが人間の面白さなんだという部分をくすぐってあげるような商品やサービスが必要なんじゃないかと思っていたんですが、今のお話と重なる部分があると感じました。

もう1つのキーワードとして、「本物」がしっかり評価される時代なんじゃないかと思っています。映画「国宝」もそうです。もちろん、背景に努力が詰まった商品・サービス自体はこれまでもたくさんあったと思いますが、ある意味アウトプットという「表面」で消費されていました。

だけど情報がこれだけ潤沢になってきたことで、受け手側が深読みできるようになってきた。それまで表面だけでアウトプットを消費していたような人たちも、考察や深読みを楽しむようになったことで、もともと存在していた「本物のコンテンツ作りをしている人たち」が存在に気づいてもらえる要素がすごく増えた。そこが面白いところなのかなと思って聴いていました。

佐藤:おっしゃる通りです。「本物」というキーワードをいただきましたが、「嘘をつけないコンテンツ」の価値がますます高まっていくと思います。それこそスポーツのライブ中継がそうですね。オリンピックにせよWBCにせよ、ライブはまったく嘘をつけないし、日頃の努力の成果であり、本物のプロたちが生身で作り上げるものです。人間の生身の限界に挑戦しているということそのものが、コンテンツになっている。

勝俣:2024年に日経トレンディの「細かすぎる!東京駅最新案内」という企画がすごくウケたのですが、編集部員がひたすら東京駅に行きまくって、完全解剖みたいなことを一冊丸ごとやったんですね。この手法ってトレンディ編集部にずっといた私からすると、まったく珍しくはないんです。でも、ずっと真面目に取り組んできたことが、今の時代になってすごく評価されるようになってきた。「トレンディやっぱりすごいじゃん」「リリースを集めたような雑誌ではないね」みたいな声を聞くことも増えました。

そういう真面目な……といったら語弊があるかもしれませんが、制作者として当たり前のことをサボらずにやっている人たちに、光がもう一回当たる時代になっているなら、すごく良いことですよね。

「国宝」ヒットに見る、作品やプロダクトの価値の源泉

DDD#31集合カット

 

佐藤:作り手の真面目な努力がある種の価値になって、伝わるということですね。そういう意味では受け手側のリテラシーが高まっているというか、簡単に生成したようなコンテンツとの違いに、受け手が敏感になっている可能性はあるのかもしれません。

勝俣さんのお話を伺って思ったのですが、「国宝」の李相日監督が、歌舞伎を題材にした原作を映画化したというのも、ある種時代に対するアンチテーゼを感じます。というのも、下手なお芝居では成立しない題材が、選ばれているということですね。CGで安易に誤魔化せない、アナログでしか撮れない映画をつくったと。

勝俣:日経エンタテインメント!で、ヒットメーカー・オブ・ザ・イヤーの大賞として「国宝」を選出し、李監督に出ていただいたんです。そこで「ヒット作に必要なものは?」と質問したところ、「 “全てをそろえようとすること”を諦めないことじゃないですか」というコメントをいただいたんですね。これはものづくりの本質だなと。そして商品開発においても同じだと思うんです。

皆ある意味小賢しくなっていて、「データ上、ここにこういう消費者がいるから」みたいな発想でものづくりをしてしまっていたところがあるんじゃないでしょうか。もちろん、市場調査も必要ですが、それは最低限踏まえた上で、「作りたいものを妥協せずにつくるんだ」というクリエイティビティなり、技術者のこだわりなりを思い切り発揮する機会が、増えている気がします。

佐藤:「AIやデータに基づき、ターゲットのニーズに合わせたものを提供しよう」というマーケットインの発想だけでは、凡庸なものになりがちということは言えるかと思います。そこに人間のクリエイティビティという揺るぎない属人性を組み合わせることが必要なのかなと。その人の持っている、「ここまで完璧なものを作り上げたいんだ」という気持ちが、世の中へのある種の提案となり、「これは本物だ」と受け入れられるといったプロセスが大事で、いわばプロダクトアウトというか、「ヒューマンアウト」ですよね。

勝俣:そう思います。属人的な商品開発ということでは、昨今、また「n=1」というキーワードが再注目されていますよね。先日理研ビタミンのマーケターとお話をしたところ、同社では2年くらい前に、「インドカレー屋さんの謎ドレッシング」という商品を出して、めちゃくちゃ売れたそうです。それも「インドカレー屋さんのサラダのドレッシングが絶対うまいんだ」と信じ切っている社員の方がいて、その人の主張がものすごく強くて、作ってみたらめちゃくちゃ売れたというんですね(笑)。

やっぱり一人、もしくはその周りにいる数人の「大好き」みたいなことが、プロダクトになって、ちゃんと気づいてもらえ、共感してくれる人たちが増えていく、そういうプロセスが近年は出てきていると思います。

千葉:その作り手側の情熱が伝わるということですよね。AIやテクノロジーの進化で誰でも7~8割のものを作れるようになってしまった時代にこそ、それを10割作り切っている人へのリスペクトが、分かりやすく見えてきたのかもしれません。

佐藤:今の謎ドレッシングの話がとても興味深くて、スタートアップ界隈でもそういう言説があったのを思い出しました。結局、3人ぐらいの熱狂者たちが密室にこもって、半年ぐらい誰の意見も聞かず、「われわれはこれを世の中に提示したいのである」という極めて特異なものを作り上げていくプロセスが、やっぱり絶対必要なんだと。そういう、世の中に提案性の強いものをそれぞれの人の思いで作っていくことが重要で、その努力や情熱すらもマーケティングに活用していく世界が、これからあるのかなと思います。

 

後編に続く

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著者

勝俣 哲生

勝俣 哲生

株式会社 日経BP

月刊誌「日経トレンディ」記者として、食品・飲料、日用品、小売り業界などを担当。年末の恒例企画「ヒット予測」特集を10年にわたり手がける。2016年に日経トレンディ副編集長、18年から日経クロストレンド副編集長。23年4月に日経クロストレンド編集長。MaaSやフードテック、メタバース、小売りテックなど、新領域の取材、書籍編集を多く担当。25年4月からトレンドメディアユニット長。

佐藤 尚史

佐藤 尚史

株式会社電通

第2マーケティング局

プランニングディレクター

古今東西の人文知を武器に、ビジネスグロースのためのコンサルから企画開発、マーケティング戦略からワークショップまで「社会をよくすることの全て」をドメインとする「The Director」として活動。たまにシナリオライター。

千葉 貴志

千葉 貴志

株式会社 電通

第4マーケティング局

プロデューサー

営業、デジタル、テレビなどの部署を経験した後、電通総研に出向し、社会調査全般を担当して情報空間の健全性を研究。2022年より電通に帰任し、クライアントの未来の企業価値を創発する未来事業創研/消費者研究プロジェクトDENTSU DESIRE DESIGNに所属。未来と欲望を基点に、新規事業から日用品まで業界業種を問わずさまざまなビジネス開発を手がける。慶應義塾大学X Dignityセンター共同研究員。

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