DENTSU DESIRE DESIGNが考える、「欲望理論」からのマーケティング再構築No.19
2025年の欲望トレンド、「トレンドデトックス」。──日経トレンディ×電通の徹底分析!
2025/01/29
2024年の消費を欲望(Desire)視点からひもとき、2025年の欲望トレンドを見通す!
今回は普段の連載とは趣向を変え、日経トレンディ元編集長の佐藤央明氏をゲストに招いての新年特別座談会をお届けします。
2024年12月25日に、ウェビナー
「日経BP×dentsu desire design 欲望(Desire)視点で紐解く2024年消費分析・2025年欲望トレンド予測」
が開催されました。
しかし限られた時間のウェビナーでは語り切れないテーマも。そこで本座談会では、ウェビナーのいわば続編として、語りきれなかった3つの欲望トレンドをDDDの佐藤尚史氏がご紹介。佐藤央明氏とDDD千葉貴志氏からも鋭い意見が飛び出し、熱い議論が展開されました。
混迷の時代の日本人は何を求めているのか?企業やブランドは何を届けようとしているのか?前編となる今回は欲望トレンド「トレンドデトックス」を分析・予測します!
ネガな気分に立ち向かう!2025年を占う6つの「欲望トレンド」。
千葉:今回は新春座談会ということで、日経トレンディ元編集長の佐藤央明氏をゲストにお迎えし、先日のウェビナーでは話しきれなかった、3つの「欲望トレンド」を中心にお話できればと思います。今回はお2人とも佐藤さんなので、ここからは央明さん、尚史さんとお呼びさせてください。
佐藤(央)、佐藤(尚):よろしくお願いします!
佐藤(尚):本題の前に私から、ウェブ電通報読者に向けて「6つの欲望トレンド 2025」の概要をお話しします。これはDDDが独自に分析・提唱しているもので、以下の6つのトレンドが2025年の消費の特徴になると予測しています。
- 欲望トレンド01 ポジティブ・ブースト
- 欲望トレンド02 ジャーナリスティックエコノミー
- 欲望トレンド03 シン「竹」 from 松竹梅
- 欲望トレンド04 トレンドデトックス
- 欲望トレンド05 韓国というPOPフィルター
- 欲望トレンド06 ヤバめの代償求む
千葉:ちなみに6つの欲望トレンドですが、ウェビナーでも日経トレンディおよび央明さんからいろいろな示唆をいただきまして、DDD内でも新しい発見がありました。今日お見せする内容は、それらの要素を踏まえてアップデートさせていただいています。
佐藤(央):恐れ入ります。欲望トレンドは6つとも非常に芯を食っていて、心からすごいなと思いました。ウェビナーで尚史さんが紹介されていた01~03もですし、今回の04~06も2024年のヒット商品からちゃんと生活者インサイトが導かれていて、めちゃくちゃ腑(ふ)に落ちています。
佐藤(尚):ありがとうございます!今回ディスカッションするのは04、05、06の欲望トレンドですが、内容的に絡んでくる部分もあるので、01、02、03についても、簡単な概要をお話しておきますね。なお、ポジティブ・ブーストとシン「竹」については、後日Do! Solutionsで公開されるウェビナーのレポート記事をご参照ください。
ビジネス課題を解決する情報ポータル|Do! Solutions
欲望トレンド01 「ポジティブ・ブースト」
「ポジティブ・ブースト」は、物価高や経済停滞といったネガティブな情勢に影響される日常において、圧倒的に明るく・優しく・楽しいモノゴトや、それらを連想させるような自分にも世界にもポジティブなものを選びたいという消費者心理のことです。2025年のメイントレンドと考えており、電通として広報リリースも出しています。
また、「ポジティブ・ブースト」についてはさらに「“前向き”神のご利益」「優しさフィルターバブル」「“界隈”による心理的安全生活」「自己肯定オルタナティブ」と、細かくサブトレンドも予測しています。こちらも、Do! Solutionsのレポート記事でご紹介する予定です。
欲望トレンド02「ジャーナリスティックエコノミー」
「ジャーナリスティックエコノミー」は、「エシカル消費」の次に来る概念です。日常生活の中で、楽しんで社会問題と接続できるという、いわば説得型ではなく体験型のアプローチですね。生活者は社会問題に無関心なわけではなく、問題があるなら知りたいと思っていますし、世界を良い方向に変える手伝いをしたいと思っています。
そこで、ごく普通に暮らす中で、さまざまな消費を通じて社会問題を感じることができ、また消費によってその問題の解決に寄与できるようなアプローチを、マーケティングによって実現していく。そうしたケースが増えていくと考えています。
欲望トレンド03「シン『竹』from 松竹梅」
あらゆるサービスやプロダクトが、高価な「松」と安価な「梅」に2極化する状況に対し、苦戦を強いられていた「中価格帯」が、にわかに盛り上がっているというトレンドですね。このトレンドを一言でいうと、中価格帯のリフレーミング(捉え直し)です。
中価格帯である「竹」は、ステータスに縛られる「松」やコスパに縛られる「梅」と比べて、商品やサービスの自由度が高い。そこで、各カテゴリーに新しい個性や切り口を持ち込んで、いわば「シン竹」としてのポジションを形成しつつあります。
欲望トレンド「トレンドデトックス」。もうトレンドを追う時代じゃない!?
佐藤(尚):それではいよいよ、残り3つの欲望トレンドについて解説します。まずは「トレンドデトックス」です。日経トレンディという名前の雑誌を発行されている央明さんの前で言うのは悩ましいのですが、正直、トレンドを追う時代って終わったんじゃないか?と思っています。これは半分冗談で半分本気なんですが、電通デザイアデザインというチーム的にも、絶望感に一瞬さいなまれるトレンドです(笑)。
すでにプロダクトやサービスの差別化は限界を迎え、もはや微差を競い合うようになっています。また、いろんなブームが生まれたと思ったらすぐに消える、そのサイクルがソーシャル時代には年々加速していて、ソーシャルメディアに触れているとどんどん新しい情報にさらされます。それを全部追って、最新の自分であり続けるなんて、体力も財力も思考も完全にオーバーフローしてしまいますよね。それに、誰かがブームを仕掛けていることも、生活者には見透かされつつあります。
この状況に対して、さらに「レトロフラット」というトレンドも合流してきました。これは2022年の欲望トレンドとして挙げたものですが、過去のヒット商品が、現在の新しいヒット商品と同レイヤーで比較される現象のことです。Spotifyで最新アーティストの曲を聴いたら80年代のシティポップがレコメンド表示されたりする時代には、生活者は古いものも新しいものもフラットに受容するようになります。そうなると、新しいか古いかよりも、自分に合うか合わないかの方が重要になり、人々は必ずしも「最新の流行」に価値を置かなくなってきました。
例えばY2Kは、2000年代の主に女性のファッショントレンドを現代解釈したものですが、もはや完全に1ジャンルとして定着しました。今流行していなくても、例えば好きになった昔のアーティストがその服装をしていたといった「文脈」があれば、やすやすと選択肢に入ってくるんです。
まとめると、ブームとしては終わったプロダクトであっても、自分が良いと思ったものは良いんだという価値観、いわば「自分中心主義の定番探し」が始まっているということです。
事例についてはリストでお見せします。「わたしの定番」というのは、個々人が良いと思ったものが、結果として「わたしたちの定番」と呼べるぐらいに支持を得ているケースです。代表例としてはデジカメですね。もはやスマホのカメラの高性能化は、ユーザーが求めるレベルを超えています。そんな時代に、わざわざ加工しなくてもレトロなテイストの写真を撮れる昔のデジカメが、逆に価値を持ってきたわけです。
2025年は「新定番」のチャンスイヤーに
佐藤(尚):ここからは、央明さんがウェビナーで紹介していた2024年ヒット商品の特徴を踏まえて追加した、「トレンドデトックス」と関連するヒット商品の補足リストです。
まず補足1の「定番への圧力」ですが、新しい商品やコンテンツが「既存の定番ブランドに寄せていく」というトレンドです。ウェビナーでは央明さんが、2024年のヒット商品の特徴の一つとして「推し活&レトロ」を挙げていましたが、「ゴジラ」のように昭和世代も令和世代も楽しめるようなレジェンド的コンテンツの流行を見ていても、定番というものの価値がどんどん上がっているのかなと思います。
そして「トレンドデトックス」の補足2となるリストが、「新定番のチャンス」です。ウェビナーで央明さんがヒット商品の特徴として挙げられていた「本気の定番ブランド」をヒントにピックアップしましたが、この新定番というキーワードは、2025年にかなり重要かもしれません。
注目したいのはキリンビールの「晴れ風」です。晴れ風は、「一番搾り」とか「スーパードライ」とか「黒ラベル」といった、それまでビールのど真ん中と思われていた製品とはちょっと違って、青いパッケージだったり、晴れ風というネーミングだったり、既成概念にとらわれない製品でした。しかしそれを新しい定番として自信を持って売り出し、市場にも新定番として受け入れられています。従来、食品や飲料などのカテゴリーは、1000の新商品があったらそのうち3つだけが定番として定着するという意味で「センミツ」と呼ばれてきました。でも、今はメーカーが「これが私たちの考える正解です」というものを自信を持って打ち出せば、ちゃんと新定番を創造し得るチャンスだと思っています。
こうした動きを「トレンドデトックス」の文脈で紹介したのは、流行に追い回されるのではなく、生活者は自分に合った「ど真ん中の定番」を求めているのではないかという仮説からです。改めて、定番という概念について、央明さんはどう考えておられますか?
佐藤(央):今から4年前の2021年、ヒット商品の上位に入ったのが「キリン一番搾り 糖質ゼロ」と「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」でした。これらはどちらも定番の既存ブランドを使った、いわばエクステンション(拡張)です。でも、これらは本当は完全に新ブランドで出しても良かったかもしれない商品。既存ブランドに寄せたのはある意味「守り」の姿勢です。
それに対して、去年の「晴れ風」と「未来のレモンサワー」は既存ブランドに頼らずに“新定番”を狙ったわけです。これらを見て感じたのは、「ちゃんと力を入れて、価値のある商品を出せば、それが既存ブランドのエクステンションではなくても、小売もエンドユーザーも、ちゃんとロングセラーとして受け入れてくれる」ということ。そういう土壌が、本当はもうできている時代なんじゃないかということです。
佐藤(尚):たしかにその2商品は象徴的です。どちらも、メーカーがとにかくそのカテゴリーにおいて考え抜いた末の、自分たちが考える「正解」を出したんだという意気込みを感じますね。自分たちが出せる技術と心意気の粋を集めた「ど真ん中」を打ち出し、そういうものがちゃんと定番化していく流れができつつあるのは私も感じます。央明さんのお考えは、「これから新定番として打ち出す商品は、必ずしも既存ブランドに寄せなくてもいいのではないか」ということですね。
佐藤(央):そうです。そういうメーカーの本気は、消費者もくみ取りますよね。
佐藤(尚):くみ取りますね。次々と出てくる最新の流行を追うことに疲れた生活者は、自分がずっと使っていけるような、決定的な商品を待ち望んでいる感覚もあると思うんです。そこにメーカーが、「これが自分たちのど真ん中、このカテゴリーにおける“正解”だ」と、王道感のある新定番を打ち出してきている構図でしょうか。
佐藤(央):そう思います。ちなみに「新定番」と「トレンド」って、かつてはほとんど同義でしたが、今はちょっと違ってきました。昔は1社が新しい発想のヒット作を出して、それに他社が追随していくようなものをトレンドと呼んでいましたよね。だけど最近は、例えばアサヒビールが「生ジョッキ缶」という新しいヒット商品を生み出したことに対して、他社が追随しようとしていません。他社のヒットに追随するのではなく、「それとは別の、自分たちの定番を打ち出して勝負しよう」という姿勢になっているんですね。
佐藤(尚):たしかに、「競合他社の動向を見ていた時代」というのが、もはや希薄になってきていて、どのメーカーもちゃんとエンドユーザーを見ている印象があります。ビールに限らず、企業が自分たちのコアにある価値をプロダクトで表現して、それを定番化させることが、近年は続いていると思います。生ジョッキ缶なら、「こうやって上がパカッと開く、これこそが今一番おいしくお酒を飲む形なんだ」という思想をコアにして、新しい商品ラインアップをつくっていますよね。
千葉:今、お2人のお話を聞いてちょっと思ったのが、最近はメーカーにとっても生活者にとっても、「定番」という概念が、1プロダクトに閉じていない気がしますね。定番の中でも1種類じゃなくて、選べる定番というか、つまり定番の中に選択肢があるんです。
佐藤(央):そうですね、今千葉さんのおっしゃったことは、企業側も明確な意図を持ってやっていると思います。生活者の気分やシチュエーションに応じて、定番の中のいくつかの選択肢から選んでもらうということを、意図的に設計しているんじゃないかな。例えばアサヒビールであれば、「スーパードライ」に加えて、「マルエフ」も定番化させていますよね。
佐藤(尚):なるほど。そういう意味では、定番というのが1プロダクトに与えられる称号ではなく、「概念化」してきているということは言えると思います。つまり、一つのビッグアイデアのもとで、「選べる定番」である個々のプロダクトが出てくる。そういう、生活者が主体となって定番を選べる時代が、トレンドデトックスの実態なのかもしれません。
マーケティングを突き詰めていくとトレンドデトックスが起こる?
佐藤(央):以前にキリンとアサヒのマーケターさんと鼎談したとき、2社とも同じことをおっしゃっていたのが印象的でした。一言で言うと、「顧客目線」を愚直にやりました、というお話なんです。
どういうことかというと、P&Gの有名な「Consumer is Boss」という考え方が、日本の企業にどんどん埋め込まれていったという話だと思うんですね。昔のビール会社だと、営業の人とマーケの人では、「顧客」という言葉が違う相手を指していました。営業にとってのお客さんとは小売・流通のことであり、マーケにとってのお客さんは消費者、つまりエンドユーザーでした。それを、部署を問わず完全に「エンドユーザー目線」で統一したわけです。
そうして企業がエンドユーザーだけを見るようになった結果、良い意味で同業他社を気にしなくなり、独自性の高い「新定番」が生まれるようになったということではないでしょうか。「晴れ風」のような、「もしかしたら、生ビールですらなくてもいいんじゃないか」という思い切った発想のプロダクトは、競合ではなくエンドユーザーを見る姿勢から生まれたんだと思います。
千葉:エンドユーザーの目線に立ったマーケティングというものが、本当の意味で日本企業に根付いてきたというのは、一つ重要なご指摘です。ウェビナーの際、央明さんが、生ジョッキ缶はアサヒの開発部門では「こんなに泡があふれちゃうのはダメだ」と言われていたのが、マーケターに「エンドユーザーは受け入れてくれるはずだ」と言われて製品化に至ったというお話をされていましたね。これは印象的でした。
佐藤(央):はい、マーケとR&Dの融合ですね。同じアサヒビールの「未来のレモンサワー」も同様で、レモンの大きさがばらつくことについて、R&Dではネガティブに捉えていたそうなんです。だけどマーケはばらつきを“個性”と見なし、「それがいいんだ」と顧客目線での発想を導入した結果、新たな定番として定着したというお話でした。
佐藤(尚):特にビールのようにマーケティングの力で売ることが主流であるプロダクトやサービスに関しては、もう横をいちいち見ても仕方がないという考え方に変わってきたんでしょうね。もっというと、エンドユーザーのインサイトはベースとして見据えつつ、そこに自分たちが独自に提供できる価値はなんなのか?という結びつきをすごく考えていると思います。
佐藤(央):この一連の変化は、マーケティングというものが、日本企業に根付いてきた結果、生活者のブランドとの関わり方も変わってきたという話かもしれません。昔の日本の企業って、なんとなく販促とか広告のことをマーケティングと呼んでいた時代が長かったと思うんです。でもマーケティングって、別に一発屋的に流行をつくるためのものではなくて、本当に顧客にとって価値のあるものをロングセラーにしていくものですよね。
つまり、企業がマーケティングを突き詰めていくと、新定番が生まれて、「トレンドデトックス」が起こるのかなと、尚史さんのお話を聞いていて思いました。ここでいうトレンドというのは、一過性の流行のことですが。
千葉:興味深いお話です。次回は、残る2つの欲望トレンド、「韓国というPOPフィルター」「ヤバめの代償求む」について伺います!