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若者から見える半歩先の未来No.4

SNSネイティブの若者が求める「つながり」とは?

2025/05/30

電通若者研究部(以下、電通ワカモン)は、Z世代の学生と「ツギクル」ワークショップを実施。「次に来る○○のかたち」というテーマで大学生のリポートをもとに仮説の構築をしています(「ツギクル」ワークショップの記事は、こちら)。

今回はいつもの連載記事とは形を変え、対談形式でお届けします。ゲストは、若者に人気のテキスト通話アプリ「Jiffcy」を開発した西村成城氏。電通ワカモンの結城拓也氏が、次に来る「若者のコミュニケーションのかたち」について伺いました。

お二人の話から、「身近な人との深いつながり」と、デジタル上で「相手が目の前にいる感じ」を、若者はコミュニケーションで求めていることが見えてきました。

電通若者研究部


 

つながりの「量」ではなく「質」を求める若者たち

電通若者研究部
出典:電通若者研究部オリジナル調査(2024年12月実施/全国の高校生~社会人20年目までの未婚男女2000人を対象に行ったウェブ調査)

結城:電通ワカモンで実施した最新の自主調査では、「友達とのつながり」に関する設問も聴取しました。その結果、「なんでも言い合える友達がほしい」「仲の良い友達とはずっとつながっている感がほしい」という回答が、社会人より高校生の方がかなり高いスコアになりました。若者ほど「つながりの質」を求めている傾向が明らかになっています。SNSのフォロー・フォロワー数の見える化によってつながりが定量的に測られてしまうことが当たり前の昨今において、身近な人とつながっている実感や、どれだけ深くつながれるかに価値を見いだしているのでは、と。西村さんは、今の若者のコミュニケーションをどのように捉えていらっしゃいますか?

西村:つながりの量が増えることに価値を見いだす人もいるとは思いますが、つながりの質の向上を求めている若者が多いというのは、私自身も感じていることです。そうしたときに、誰かとつながるツールは世にあふれているけれど、特定の相手とのつながりを深められるツールが足りていない現状があると感じています。

結城:たしかに。例えば、Instagramでは、特定のフォロワーだけに投稿を限定公開できる「親しい友達」機能があります。この機能は、安心して素の自分を投稿できる場を提供することが目的だったと思います。ところが、使っていくうちにユーザーは「親しい友達」が増えていき、もはや親しくない人にも公開するようになっていたりする。

このような状況を見て、電通ワカモンは、「若者は親しい人とだけ安心してつながれる別のアプリを探すという連鎖に陥っているのではないか」と考えました。親しい人とのつながりを深めるツールを探し求める中で、若者たちがたどり着いた一つの答えがJiffcyなのかなと思っています。改めてJiffcyの概要について教えていただけますか。

西村:Jiffcyは一言でいうと「声を出さずに通話できるアプリ」で、私たちは「テキスト通話アプリ」と呼んでいます。

Jiffcyには大きく二つの機能があります。一つは、電話を掛けるように相手を呼び出し、声ではなく、テキストで会話をする機能。もう一つは、送信ボタンはなく、トーク画面で打っている文字が1文字ずつリアルタイムに表示される機能です。

入力した文字が1文字ずつ表示されて、知らない人とトークできる類似アプリはありますが、電話を掛けるように呼び出す形をとっているのは、今のところJiffcyだけだと思います。

Jiffcy

結城:ユーザーは、主にどういった人たちですか?

西村:メインユーザーは中高生や大学生で、その多くは、親友同士や家族、パートナーとのコミュニケーション手段として利用いただいています。友達同士だと、クラスLINEなどもあったりすると思うのですが、Jiffcyはその中でも特に仲の良い3~4人で利用されています。

利用シーンとしては、電車内や夜間など、声を出しにくい状況下で電話の代わりにリアルタイムでチャットをするイメージです。わざわざ相手を呼び出し、リアルタイムでコミュニケーションするので、親しくないと間がもたずに気まずくなることがあります。ですから、とても近しい関係性のある人同士が利用しています。

結城:LINEやInstagramのアカウントを教え合うことは、誰かと知り合ったタイミングで関係性構築の第一歩として起こり得ることかと思います。それに対してJiffcyは、いつでも電話し合える仲だとお互いに思っていることが前提のうえで利用されているということですよね。

西村:そうですね。今世の中を見ると、かつての「世界のことはわからないから身内の絆を大切にしよう」という時代から、SNSなどを通じて世界中のことを知ることができるようになったからこそ、改めて「身近な人たちとのつながりを大事にしよう」というところに皆が回帰していると思うんです。

結城:なるほど。常にSNSに接続していることが当たり前な中で、不特定多数とのつながりは時に遮断し、うまく距離を取りたい。ただ、そのぶん、身近な人との関係性をもっと豊かにして安心したい。その一つの解が、Jiffcyなのだと感じました。

西村:今さら広い世界とのつながりを遮断することはできないと考えると、今後、より身内の絆を大事にしようという動きは強まっていくのではないでしょうか。テクノロジーの力で、物理的に離れていても、体験としては対面と同じような環境を作り出す。それにより、気遣いや遠慮のいらないコミュニケーションができる場所を用意することが、今私たちがやるべきことだと思っています。

西村成城


 

オンラインと対面で、コミュニケーションの仕方が変わる若者たち

結城:西村さんは、Jiffcyの開発当時から、現代の若者のコミュニケーションの在り方や課題感を意識されていたのでしょうか?

西村:実はJiffcyはマーケット調査などを経て開発したのではなく、自分がほしいもの起点で開発がスタートしました。なので正直、開発のタイミングで、ターゲットを若者に絞っていたわけではありません。

開発のきっかけを少しお話しすると、大学時代に起業し、卒業後もそのまま自分の会社を続けることにしたものの、3年間ほどサービス開発がうまくいかず、精神的に弱っていた時期がありました。さらにコロナ禍になり、仲の良い友人とも気軽に会えない環境になってしまって。当時一人暮らしをしていたのですが、落ち込んでいて、誰かに話を聞いてほしいけれど、急に電話をしたら迷惑かな……とか、いろいろ考えてしまい、電話をかけるのは精神的ハードルが高いと感じたんですね。

でも、テキストでコミュニケーションをしようとしても、返事が返ってくるのが6時間後とかで。「今、話せる?」と送った6時間後に「どうしたの?」という返事が来ても、「いや、ごめん、何でもない」となってしまって。そのときに、対面と同じように話せるけれど、精神的ハードルが低くて、相手に負担をかけないコミュニケーション手段はないだろうかと思ったことが、Jiffcyのアイデアにつながりました。

結城:コロナ禍のコミュニケーションでご自身が悩んだ経験が、着想のきっかけになったんですね。

西村:そうですね。Jiffcyのプロトタイプは、アプリを立ち上げたら友達全員に通知が飛んで、応答してくれる人がいたらその場でトークが開始できるというものでした。

ただそうすると、トークが全然成り立たなくて。そもそも通知に気付かなかったり、気気付いたとしても出てもらえない。その問題を解決するために試行錯誤する中で、電話で呼び出してテキストでのトークを開始する機能を実装したところ、ユーザーヒアリングで「声を出さずに電話をしているみたい」という声があり、Jiffcyのコンセプトが固まりました。

今思うと、最近の若い方たちは、空気を読む力に長(た)けていますよね。SNSを筆頭に、全方位に配慮したコミュニケーションが求められる中で、より相手に負担をかけない選択肢を求めていたのではないでしょうか。後付けですが、相手の状況に配慮しながらコミュニケーションが取れる点も、Jiffcyが若者から選ばれている理由の一つなのだと思っています。

結城:たしかに、特に学生時代にコロナ禍を経験した若者たちは、オンラインコミュニケーションで気を遣い合うことが当たり前で、得意でもありますよね。それゆえ、人の心に自分から踏み込むことができないし、する必要もないと思っている。相手と絶妙な距離感を保つことも、若者世代の特徴なのかなと感じています。

西村:おっしゃる通りで。学生と接していると、オンライン上のコミュニケーションでは予防線を張っているなと感じます。

たとえばLINE上で、今、皆が行っているコミュニケーションって、文章を作って送信する中で、いかに誤解を与えないようにするかというものなんですよね。文章の内容を試行錯誤したり、返信するタイミングによって、がっつき度合いを調整したり。SNSの投稿でも、親しい人だけに見せたいけれど、今まで見せていた人を突然省くと気まずくなるかな、といった読み合いがあったりすると思います。

でも対面で会うと、遠慮なく楽しそうにしゃべっているし、ふざけ合ったりしていますよね。私としては、「物理的な距離によってコミュニケーションが変わるのは変ではないか?」と思っていて。物理的な距離というたった一つの変数の存在によって、仲の良い度合いが変わったり、相手に誤解を与えるかもしれないと遠慮して遠回りなコミュニケーションをしてしまう状況をなくしたいんです。

結城:物理的な距離と、それによって生まれる心の距離を埋められるツールを今の若い世代は求めているということですよね。

結城拓也


 

オンラインでの濃いコミュニケーションに必要なのは「相手がそこにいる感」

結城:少し話は変わりますが、デジタルネイティブ世代である今の若者たちは、SNSのリスクなども無意識に身に付いていると考えています。実際にワカモンの調査データでも、「一度投稿したものをネット上から抹消することは難しいと思う」というスコアがとても高くなっていました。

電通若者研究部

結城:常に炎上やデジタルタトゥーのリスクを想定しながらコミュニケーションを取る若年世代の特徴は、サービス開発における一つのポイントにもなり得るのではないかと考えています。

西村:私もそう考えていて。オープン型のSNSは若者のリスク回避意識が真っ先に適用され、全体のユーザー数は長期的には減っていくのではないでしょうか。

一方で、写真共有アプリのBeRealなどのように、クローズドなことが保証された場所であれば、無加工や場所が特定できるような写真も投稿していますよね。つまり、クローズドな場所になればなるほどリスクの意識は薄れていって、テキスト・画像関係なく、素の自分を見せ合うような濃いコミュニケーションをするようになると思うんです。

ですから、セキュリティ上の安全性の確保は大前提として、いかにクローズドな場所だという立て付けを示せるかが、今後重要になってくると思っていますし、私たちが進みたい方向でもあります。

結城:なるほど。最新の調査データでも、「本音を言い合える相手がほしい」というスコアが高い一方で、「本音を人に話すことはリスクである」というスコアも高く、「友人と本音で付き合いたいが、リスクを考えると本音で話せない」という若者ならではの葛藤が浮かび上がってきました。

電通若者研究部

結城:濃いコミュニケーションができる、本音で言い合える場所って、若者が希求しているものである一方、実現できるツールが足りていないという側面もあるように思います。その点、Jiffcyでは今後どのように応えていくのか、展望をお伺いしたいです。

西村:私たちとしては、若者世代はオンラインでも「本物のコミュニケーション」を求めていると思っているんですね。じゃあ本物のコミュニケーションが何なのかというと、「いかに相手がそこにいる感を生み出せるか」だと私は考えています。

Jiffcyのコアな価値もそこにあると思っています。入力した文字が1文字ずつ表示される機能がまさにそうで。電話で呼び出して、同じトークルームにいても、文章を送信する形式だったら、「本当にいるのかな?」と不安になってしまうと思うんですよね。

結城:私も実際にJiffcyを利用してみたのですが、テキスト通話をしている間は、確実に相手がJiffcy上にいることが保証されている。確実にその人とつながっているという安心感がとても心地良いと感じました。

西村:街を歩いていて、知らない人と突然話し始めるようなコミュニケーションって、あまり一般的ではないですよね。どちらかというと求められているのは、知り合いとすれ違ったときに10分ぐらい話してしまう現象の実現かなと思っています。

結城:いわゆる学校で会って、「よっ!」ぐらいの感じですよね。廊下ですれ違って、「今から教室移動だわ~」というところから生まれるコミュニケーションって、対面でしかあり得ないもので。でも毎日の「よっ!」が、実は自分にとって大事なものだったりして。

会話はなくても、何回か顔を合わせるうちに何となく心の距離が少しずつ近づいていって、何かのタイミングで話したりする。そんな距離の詰め方をデジタル上で実現できると魅力的ですね。本日はありがとうございました。

電通若者研究部

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