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AIは気遣い時代の「人間関係の仲介者」になる?

電通若者研究部「ワカモン」(以下、電通ワカモン)は、現役大学生と未来の兆し発見プログラム「ツギクル」を実施。「次に来る○○のかたち」というテーマで大学生のレポートをもとに仮説の構築をしています(未来の兆し発見プログラム「ツギクル」の記事はこちら)。

今回のテーマは、現役大学生が考える「次に来る“AIライフ”のかたち」です。さまざまな分野でAIが社会実装されていく中で、学生のAIとの向き合い方がどう変化していくのかを探ります。

電通若者研究部「ワカモン」
若者の意識・価値観・行動を継続的に研究し、 マーケティング、事業開発、組織・人財領域までをカバーする電通内の専門組織。若者を世代論としてだけではなく、「若者=新しい価値観で行動する人たち」と再定義し、その価値観を「未来の兆し」として読み解くことで、企業や社会の次の方向性を導くサポートをしています。

約4割の学生が「悩み相談や質問」に生成AIを活用

学生たちの生成AIの活用状況は、現在どうなっているのでしょうか?現状を把握するために、「サークルアップ(CircleApp)」という大学サークル専用のコミュニケーションアプリを使い、2026年3月に調査を実施したところ、以下の回答が得られました。

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調査機関:電通ワカモン、調査対象:全国の大学生/大学院生200人、調査時期:2026年3月


特徴的だったのは、42%が「悩み相談や質問」、5%が「暇つぶし・対話」と回答していることです。他のデジタルツールに見られない“話し相手”としての使われ方がその他の項目と近い割合で見られているのは、若者のコミュニケーションにおける価値観が要因になっているのかもしれません。

電通ワカモンの記事でも触れているように、SNSやLINEのような「感情が可視化・拡散・再解釈される場」が常に日常にある若者は、言葉やタイミング一つで相手を傷つけたり、自分の感情が汚染されたりしないように、「言葉選び」や「距離感の微調整」に日常的なエネルギーを費やしています。

前述した「サークルアップ(CircleApp)」の調査からも、コミュニケーション場面で言葉選びに気を遣う度合いは、中間値以上の回答が約7割を占め、日常のやり取りの中でちょっとした言い回しにも気配りする姿が浮かび上がりました。

いまの若者たちは、相手の背景や価値観を尊重しながら、“間違えない言葉”を選び取ることを、会話の当たり前の所作として身に付けていることがうかがえます。

電通ワカモン
調査機関:電通ワカモン、調査対象:全国の大学生/大学院生200人、調査時期:2026年3月 ※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合があります。


その一方で、若者の内面には「本音でつながれる人間関係」への強い渇望があることも前述した記事で分かってきたことです。

「深くつながりたいが、傷つきたくない」

このジレンマを抱える若者にとって、未来の「AIライフ」はどのような形になるでしょうか?

AIとの3つの関係性

学生が提出したレポートや調査を整理すると、AIとの関係性を一つに固定しているわけではなく、状況や目的に応じて複数の使い分けをしていることが分かりました。大きく分けると、次の3つに整理できます。

① 対話者:いつでもなんでも気軽に話せる相手
現在でも使われている形ではありますが、気兼ねなく感情や雑談を投げかけたり、愚痴の聞き役にしたりといった、心理的負荷の少ない友人に近い距離感でAIを扱うケースはレポートの中でも最も多く見られました。

気遣いが多い対人関係に比べて否定されにくく、自分のペースで話せるという点において若者の価値観にマッチする使い方といえるでしょう。

電通ワカモン


② 拡張装置:思考と行動を補助・加速する外部機能
調べものや要点整理、確認作業などAIを作業効率化や判断の補助として使うケースです。「サークルアップ(CircleApp)」の調査でも回答の上位となっており、すでに広く定着しているため、レポートでは多くは見られませんでしたが、今後も基盤的な使われ方をしていくと考えられます。

電通ワカモン


レポートの中では、前述のような業務効率化ツールとしてではなく「自分が恥をかかないようにまずAIに聞く」「自分と向き合うためにAIをチューニングする」といったように、自己成長や自己理解ツールとしての発展的な使い方も見られました。

③ 仲介者:人と人の“あいだ”に入るアドバイザー
レポートの中で、特徴的だったのが、AIを人間関係の仲介者として使うケースが現れ始めていた点です。

電通ワカモン


この事例は、AIが第三者の視点で
・双方の主張を整理する
・公平な解決策を提示する
といった、人間関係の調整を担う場面が見られました。

これは、AIが単なる相談相手や業務効率化ツールではなく、コミュニケーションの摩擦を減らすための仲介役として位置づけられている点で、他の関係性とは性質が異なっていました。

なぜこの使い方が新しく見えるのでしょうか?そもそも第三者的に振る舞うAIという役割自体は、多くのSF作品でAIの基本的な立ち位置として描かれてきました。人間社会を外側から俯瞰(ふかん)し、中立的に判断するAI像は、いくつか思い当たる作品がある方も少なくないでしょう。

一方で、現在の使われ方や学生のレポートを見ていくと、こうした第三者的な使い方が最初から求められていたわけではありません。まずは身近な相談相手として、あるいは作業を助ける道具として定着し、必要性が生じたときに自然に第三者性が立ち上がるという特徴が見られます。

つまり、SF作品では「“最初に”第三者として描かれる役割」が、現実では「生活の中で“あとから”浮かび上がる役割」として表れている、この逆転に今回の新しさ、面白さがあると考えています。

「深くつながりたいが、傷つきたくない」このジレンマを抱える若者にとって、AIが間に入ることは、人間同士の摩擦や衝突を和らげる選択肢の一つとして受け入れられやすいのかもしれません。

つまり、若者にとってのAIは、気遣い不要で自分の意見を言える相談相手であると同時に、人同士の関わりによって生じる摩擦を、第三者の視点から調整するアドバイザー的存在としての役割も担っていくと考えられます。

AIの第三者性を企業基盤へ

こうした第三者的な使い方は、今後、個人間にとどまるものではなくなってくると考えます。組織運営や顧客対応など摩擦が生まれやすい場面において、AIが中立的な整理を担うことで、合意形成の質を高める可能性があります。

AIの役割を限定せず、コミュニケーションの“あいだ”を整える役割として位置づけることで、事業判断や顧客接点の在り方そのものが変わっていくかもしれません。

学生共創ネットワーク「βutterfly」
若者と企業による新しい形の産学連携型プロジェクト。若者の既成概念にとらわれない視点と、電通ワカモンのプランニングやナレッジを掛け合わせることで、新規サービス開発・プロダクト開発・組織開発・広告表現開発など、さまざまな領域でコラボレーションを展開しています。「βutterfly」では、現役の大学生と電通ワカモンのメンバーで、「未来の兆し発見プログラム『ツギクル』」を実施。「次に来る“健康”のかたち」「次に来る“家族”のかたち」など毎月テーマを設定し、大学生から提出してもらったレポートをもとにディスカッションしながら、テーマごとに未来仮説を構築しています。

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著者

山口 志歩

山口 志歩

株式会社 電通

第8マーケティング局 

マーケティングコンサルタント

入社後は電通デジタルに出向し、飲料・食品メーカーのデジタルメディアプランニングに従事。その後、BtoB企業や人材企業の事業課題に対し、マーケティング/コミュニケーションのプロジェクト推進を担当。現在は、BtoB企業の課題発見からブランド戦略の設計・推進までを一貫して支援するマーケティング業務を担う。また、電通若者研究部「ワカモン」では、若者インサイトの研究および学生との共創プロジェクトを推進。若年層との継続的な関係構築を強みとし、企業と若者の接続価値の創出に取り組んでいる。

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