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若者から見える半歩先の未来No.3

アルバイトは「就活予備校化」する?

2023/10/12

次に来る”アルバイト"のかたちを探る

電通若者研究部(以下、電通ワカモン)は、Z世代の学生と「ツギクル」ワークショップを実施。「次に来る○○のかたち」というテーマで大学生のリポートをもとに仮説の構築をしています(「ツギクル」ワークショップの記事は、こちら)。

今回はテーマとして「次に来る“アルバイト”のかたち」を設定。コロナ禍を経た今、学生にとってアルバイトがどう変化していくのかを探ります。

共創プラットフォーム「βutterfly」
Z世代の学生と企業による新しい形の産学連携型プロジェクト。Z世代の、既成概念にとらわれない視点と、電通ワカモンのプランニングやナレッジを掛け合わせることで、新規サービス開発・プロダクト開発・組織開発・広告表現開発など、さまざまな領域でコラボレーションを展開しています。「βutterfly」では、毎月、現役の大学生と電通ワカモンのメンバーで、「ツギクル」ワークショップを実施。「次に来る“イベント”のかたち」「次に来る“健康”のかたち」など毎月テーマを設定し、大学生から提出していただいたリポートをもとにディスカッションしながら、テーマごとに未来仮説を構築しています。

約4割の学生が、アルバイトを掛け持ちしている

学生たちのアルバイト状況は、現在どうなっているのでしょうか?現状を把握するために、「サークルアップ(CircleApp)」という大学サークル専用のコミュニケーションアプリを使い、2023年9月にアンケートを実施したところ、以下の回答が得られました。

電通若者研究部
調査機関:電通ワカモン、調査対象:全国の大学生/大学院生200人、調査時期:2023年9月 ※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合があります。

直近1カ月で、9割以上の学生がアルバイトをしており、約4割の学生が2つ以上のアルバイトを掛け持ちしていることがわかりました。調査対象期間に夏休みを含んでいたこともあり、通常の時期と比較してアルバイトの掛け持ちが増えています。

メインのアルバイトは飲食関係が約半数を占め、塾講師/家庭教師といった教育関係が26%という結果でした。飲食関係の中では、チェーン展開のあるカフェやファストフード・レストランがアルバイト全体の約30%を占めています。

電通若者研究部


 

アルバイトは「就活予備校化」する?

電通ワカモンは学生たちと、「ツギクル」ワークショップを実施しました。学生たちは、「次に来る“アルバイト”のかたち」についてどのように考えたのかを見ていきましょう。

電通若者研究部
電通若者研究部

【ワークシートの概要】
コロナ禍により、人との交流が減った中で、同年代だけでなく、世代が異なる人たちと出会える価値が上昇している。今まで給与や時間の融通が重視されていたアルバイトが、「自分の身近な人以外と出会える場」として重要視されていくかもしれない。

電通若者研究部
ガクチカとは、就職活動のエントリーシートなどでよく聞かれる「学生時代に力を入れたこと」の略称。

電通若者研究部
【ワークシートの概要】
学生にとって多くの時間を費やすアルバイトを選ぶ際に、いかに効率よくお金を稼げるかが重要視されてきた。しかし、これからは、お金を稼ぐだけではなく自分の将来にとって役に立つ経験が得られることもアルバイトを選ぶ上で重要な視点になり、将来的には待遇以外に、仕事を通してどのような経験が得られるかも、求人情報に記載される日が来るかもしれない。

ツギクル「アルバイトのカタチ」のワークショップを通じて、未来仮説を考える上で大きく2つの傾向が見られました。

1つは、「世代を問わない人間関係を構築する場所」という、人を重視する意識が見られるようになってきていることです。今の学生は、コロナの影響で入学時から、サークル・留学・ボランティアなど課外活動が制限されることが多くありました。また、アルバイトも飲食店の時短営業や休業、解雇などもあったことで、働く場所でさえ制限をされ、世代やバックグラウンドが異なるコミュニティが減少傾向にあったといえます。

そのため、学校以外のコミュニティで友達や知人をつくって自身の世界を広げたり、世代が異なる人の話を聞いて自身の将来と向き合ったりすることが困難でした。そういった状況を踏まえ、コロナ禍前に戻りつつある今、アルバイトは、人との関係性構築の場所としての意味合いをこれまで以上に担うようになったと考えます。

もう1つは、「将来につながる経験を得たい場所」という意識がより高くなってきていることです。1つめの背景同様に課外活動が制限されたことで、学校以外で得られる経験が少なくなる傾向がありました。そのため、コロナ禍で学生生活を送った世代の就活では、「学生時代に力を入れたこと(通称 ガクチカ)」で話すエピソードが少なくなったことが話題になりました。

このような傾向から、今までよりアルバイトで培われる経験の価値が上がり、「より有意義な経験を積める場所」という点が重要視される兆しがあります。

サークルアップのアンケートで、アルバイトを選ぶ際に重要視するポイントを調査したところ、下記の結果となりました。

電通若者研究部

メインのアルバイトで重視するポイントでは「人間関係/雰囲気」が2番目になっていて、アルバイトでのコミュニティの重要性が高くなっていることがうかがえます。

電通若者研究部

掛け持ちしているアルバイトでは、「仕事の内容の面白さ/将来への活用」がメインのアルバイトより重視される一方で、「人間関係/雰囲気」を選択した人は少なくなっています。

自分が入りたいコミュニティをメインのアルバイトにしつつ、掛け持ちは、将来のために得たい経験ベースでアルバイト先を選定し並行して働いていく、といったような選び方も今後増えていくと考えられます。

「世代を問わない人間関係を構築する場所」「将来につながる経験を得たい場所」という2つの傾向を踏まえると、次に来る”アルバイト”のかたちは今までのような効率的にお金を稼げる場所ではなく、自分の将来を踏まえた人間関係/経験が得られるような場所、いわば「就活予備校化」をしていくのではないでしょうか。

アルバイトは、企業の採用チャンスも生み出す

ここからは、アルバイトが「就活予備校化」していくことで、どのようなビジネスチャンスが生まれてくるのかを考えてみます。

企業視点で考えると、チームワークを必要とする業種やそういった求人の見せ方をすると需要が高まる可能性があるかもしれません。また、学生が学んでいる分野を生かせたり、将来の仕事につながる業種の実務に近い経験ができるようなインターン型のアルバイトがより必要とされてくるかもしれません。

また、共同研究や大学発ベンチャーなど産学連携型でのアルバイトが新たな雇用モデルとして生まれる可能性もありそうです。企業にとっては大学の研究の事業化によってその分野に秀でた学生を積極的に採用することができたり、自分たちでは研究の手が回らない領域への進出や、学生ならではの視点による新規ビジネスの創出などを期待したりできるでしょう。

学生にとっては自分が学んでいる領域を、企業のプロジェクトとして実現する体験を得たり、企業と関わるプロジェクトとして進行することで、本来ゼミや研究室では出会えなかったコミュニティの創出ができる場所としても期待がもてると考えます。

一方で、コロナによる行動制限が緩和されて、今後は留学やボランティアなどができるようになることや、遊びを含めた「時間がある学生だからできること」への渇望が出てくることも予想されます。自分の有限な時間をどのように使うか、人間関係・経験・給与の優先順位がどのように動いていくか今後も注視したいと思います。

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