“Sporting Marketing” ~リテール&コマースは、“ワクワクする方のマーケティング”へ(後編)
前編では米国を代表するスポーツ・リテーラーとして、オフライン起点の「ディックス(Dick’s)」、オンライン起点の「ファナティクス(Fanatics)」の2社について、ビジネスモデルとリテールメディア戦略を比較してきました。本稿では、ディックスをさらに掘り下げ、NRF 2026会期中の他キーノートやセッションにも幅広く触れながら、ポストコロナ&with AI時代のリテールパラダイムシフトと、そこから次の四半世紀における展望と、日本のリテールマーケティングにおける新たな視点・視座を導出してみたいと思います。
リテールメディアに関する最新の世界潮流
近年のNRFでは、会期に先立つday0にリテールメディアに特化したクローズド・セッションが行われています。今年は2026年1月に新設された電通のリテールマーケティング局から、プロジェクトメンバーが出席しました。他にも流通小売業やメーカー、EC プレーヤー、放送局、コンサルティングファーム、SIerからリテールテックのスタートアップ……など、バラエティに富んだ企業が参加しており、その中で日本人参加者が多かったことも特筆され、当該領域への関心の高さがうかがえました。
主に議論されていたのは、8割を占めると指摘のあったアマゾンによるオンライン・リテールメディア市場の米国における寡占状態。そしてそこに対するカウンターパワーとしての、オフライン(≒インストア)・リテールメディアの秘めるポテンシャルでした。これは店舗への往来に制約のないポストコロナ時代だからこそ、さらにはこれまで実施が難しかった実店舗(Physical Store)でのテクノロジー・デジタルを活用したマーケティング活動が、with AI 時代では従来より容易になるからこそ、と言えるかもしれません。
これらの状況を踏まえて、米国登壇者からは、“眠れる巨人”というキーワードとともに、ビジネス上の実活用はこれからと言及がなされていたのとは対照的に、欧州・そして日本の参加者たちからは、自国の方がこの領域は進んでいる・もう少し突っ込んだ議論が欲しかったという感想が散見されたことが印象的でした。
ただ、いずれの立場においても、「今後はインストアのリテールメディアを、先行するオンラインのリテールメディアにミックスし統合的に考えていかねば、クライアントビジネスとしてのマネタイズはおぼつかない。計測方法や共通統一指標の確立はこれからである」という点については、その場に居た全員のコンセンサスがあったことは間違いありません。
その上で、私自身、業務として当該領域に取り組む中で、多種多様な業態、取り扱う商材の幅広さ、欧米と比較し狭小な店舗内における情報密度の高さ、といったAPAC のリテール環境の社会・文化的な特殊性が、そこにおけるリテールメディア戦略の複雑さを象徴している状態を、“Physical(Store) is difficult”と称してチームメンバーと議論することも多くあります。こと日本市場におけるリテールメディアビジネスの「確立」と「拡大」のためには、上記に加えてさらに3つの「視点」を押さえる必要があると個人的には考えています。
これまでのマーケティングは、水平分業とそれをつなげる直線型のビジネスモデルが一般的でしたが、講演資料や展示内容を見ても、昨今はそのような展示が少なくなったと感じるのは筆者だけでしょうか?顧客との関係性において、「バリュー・チェーンではなく、バリュー・サークルへ」となっており、その最も分かりやすい事例が前編でご紹介した2社であることは言うまでもありません。
リーセンシー理論・スリーヒットセオリー・リーチマックス……従来型の広告モデルやメディアプランニングは、時間軸で常に「マエ(前)」を狙ってきました。一見禅問答のように聞こえるかもしれませんが、これもまた前編で述べた、顧客体験の永続性を前提とすると、「アトがマエ(Post Purchase)、マエがアト(Pre Purchase)」になるということが肝心です。
そして最後に最も強調したい部分でもあるのですが、日本よりも床面積の大きい店舗、情報露出を抑制した店内、日本よりも少ない人数で応対する店員、EC化率の高さ……。こういったリテール・コマース環境の上に成立する諸外国のリテールメディア(RM)は、「RMNs (リテールメディアネットワークス)」である、という点。オンライン・オフラインをまたぐことはもちろん、複数流通横断であったり、結果、大手のメーカークライアントがPOCではなく実ビジネスで使えるサービスメニューとなっている……これらも前述した通りです。
私は、日本固有の「視点」をきちんと踏まえた上で、マスコミ4媒体、さらにはデジタル広告に続く“第6のメディア”として、このRMNsをPOCや単なるブームではなく、社会実装にこだわって立ち上げていきたいと考えています。日本の幅広いリテーラー業態や、個店あたりの商品SKUの多さ、それに加えて店員の高い接客レベル。これら全ての総体が日本の流通小売業におけるCX 、いえ、世界に誇るおもてなしであると私は考えるのです。“Phisycal is difficult”、だからこそ日本におけるRMNsが確立されれば、必ずやそのビジネスモデルはAPACをはじめとした海外市場でも十分に通用するものになる、そう信じています。
さて、リテールメディア、いや、 RMNsに関する話が少し長くなりました。ちょうど2020~2025年のこれまでに定点・時系列観測してきたものは過去の記事でまとめていますので、そちらをご参照いただきながら、以降はその他のNRF 2026で目立ったトピックスを、過去の記事よりお伝えしている4つの「視座」からご紹介させてください。
4つの「視座」からみるNRF 2026のトピックス
①アジェンダ:The Next Now
2026年は、リテール・コマース領域におけるパラダイムシフトを、 Agentic AI の社会実装という形でビジネス/カスタマーの両サイドから目の当たりにしている(Not new, but now)。AI領域への投資を惜しまず、難局でこそ人々に確かな安心/価値を提供すべく、Humancentric CXの創造に取り組むべきである。
➁トランスフォーメーション:Physical AI & Robotics AI
CESからの流れをそのままNRFへ引き継ぎ、 Agentic AI ⇒ Phygical AI へのテクノロジー・シフトが加速するかと思いきや、Expo会場の展示はVerizonブースでヒューマノイドロボットがある程度。当該領域ではまだまだPeople BusinessとしてEX(従業員体験)向上のために取り組むべき領域が多々ある様子が浮き彫りに。
➂キーワード:Agentic Commerce(グーグルから発表された、3つの構成要素)
1.「Search」から「Do」へ:ユーザーの代わりに「タスク(買い物)を完遂する」主体へと進化。
2.「UCP」(Universal Commerce Protocol):小売の枠を超え、決済や在庫確認を代行するオープンAPI。
3.「Native Checkout」:Geminiで商品サーチ→参画企業の製品をサイト遷移なしで購入。
④ストラクチャー:アマゾン⇒グーグルへの重心シフト
ポストコロナのリテール・コマース環境を牽引してきた、アマゾン(+ホールフーズ)とウォルマートの対比は、with AI(特にAgentic AI)が急速に進展したことで、前者がグーグルに取って代わるとともに、新たな2社間での融和ムードが醸成された。しかしそれにより一層、ストア・ブランド・ピープルの3つの価値は相対的に高まることになる。
特にこの④のインパクトが非常に大きく、各方面で記事などに取り上げられています。数年前から記事で使っている下記の模式図では、右下:アマゾン(+ホールフーズ)から左側:グーグルに替わるという構造整理になるのではないでしょうか?
とはいえ、リテール・コマース環境におけるプレーヤーやその構造・関係性に変化があったとしても、1ID時代の顧客に向き合う構成要素には何ら変わりはありませんし、 AIによってそれらの価値が相対的に向上することも言うまでもありません。① Store ➁ Brand ➂ Peopleに沿った形で、今回の3日間のキーノートを振り返ると、以下のようなハイライトとなります。
①Store ②Brand ③Peopleでみる、キーノートハイライト
AIでできること・やれる領域はどんどん増えています。逆に、どんなAIであってもできないこととは何なのでしょうか?
それは、AIで代替が利かない、「リアル(とき)」「フィジカル(みせ)」「ミューチュアル(ひと)」の3つを必須の要素として、ビジネスサイド(従業員や店員)とカスタマーサイド(一見(いちげん)さんも常連顧客も)が、直接の関係性をLTVとして築いていく、あらゆる“リテール業態”それ自体です。そしてここには、CVS、GMS 、Dgs、百貨店……だけでなく、レストラン、カフェ・バー、ホテルもエアラインもテーマパークさえも含まれる、と筆者は考えるのです。日本におけるリテール=流通小売業という翻訳・概念からの脱却を“Retail Landscape 2026”とするならば、これまでビジネス・バスワードのように取り扱われてきたリテールメディアも、新たなランドスケープにアラインしてRMNsへとアップデートされるべきです。
コロナ禍という偶然から、絶対的にその価値が高まった、オンラインメディア。コロナ明けという必然から、相対的にその価値が高まった、オフラインメディア。そしてその先に控えているのは、Agentic AI ~フィジカルAIによって両者が融合され、より高次元に進化したRMNs(≠リテールメディア)である。このような定義付けをもって、本年最初のNRF 2026の報告を終えたいと思います。
次回はNRFAPAC2026の模様をお届けします。お楽しみに!






