あのドラマの「視聴ジャーニー」を探る!~フジテレビドラマ「波うららかに、めおと日和」~

白岩 佳子
株式会社ビデオリサーチ
「テレビコンテンツ ソーシャルバリュー プロジェクト」は、電通とビデオリサーチが、テレビコンテンツの楽しみ方を分析することによって、今の生活者のニーズや価値観の変化をとらえようとする取り組みです。本稿では「波うららかに、めおと日和」を対象に、SNS投稿の分析ツール「Buzzビューーン!(※)」データや番組調査データを分析。話数とともに投稿が増加し、おかわり視聴をしている様子や、原作や主題歌への関心の広がりなどの確認ができました。SNSを中心に話題となった本ドラマは、具体的に誰に、どのように観られていたのかを解説していきます。
※ Buzzビューーン!
X(旧Twitter)でのBuzz【バズ】をもとに、テレビ番組をはじめとするコンテンツの価値を視聴“質”の観点から示せるサービス。https://www.videor.co.jp/service/media-data/buzzvieewn.html
※この記事はVR Digest+のコンテンツを、一部編集のうえ、転載しています。
「波うららかに、めおと日和」とは
フジテレビ木曜劇場で2025年4月期に放送されたドラマ。昭和11年を舞台に、縁談で結ばれた恋愛経験のない男女が、ぎこちない新婚生活を通して少しずつ心を通わせていく姿を描いています。戦前という時代背景の中で、日常の小さな出来事やささやかな思いやりを丁寧に積み重ねながら、「結婚から始まる恋」の尊さを描いた恋愛ドラマです。
回を増すごとにSNS投稿が増える異質なドラマ
まず、第1話以降のX投稿数の推移を確認します。ドラマのポスト数推移は、第1話は多く、その後少なくなり、最終話でまた多くなるというのが一般的な動きです。しかし、このドラマの場合、第2話から第1話を上回り、第4話と第6話で大きく増加、最終話である第10話では第1話の3.5倍と右肩上がりに推移しました。
このように右肩上がりにポスト数が増加するドラマは、内容が評価されて話題になったということが過去データからも確認されています。まさにこのドラマは実際に視聴した人が内容を評価し、より大きい発話につながっていきました。
累計ユニークユーザー数(ポスト投稿者のユニーク人数)の推移を見ても、話数が進むにつれて新規ユニークユーザー数が増え、右肩上がりに推移しています。より多くの人が、このドラマについて発話したいという気持ちになり、Xへの投稿をしたことが確認されました。
次に、どのような内容について発話していたのでしょうか?
BE:FIRST(主題歌「夢中」を歌唱)、なつ美と瀧昌(主人公とその夫)が各回の投稿内容に含まれる割合を算出しました。BE:FIRST「夢中」は第1話の後に配信ということもあり、第1話でBE:FIRST関連の投稿が12%ありましたが、話数が進むにつれて割合が少なくなっていきました。一方、なつ美や瀧昌の割合は増えていることから、ドラマの内容そのものへの言及が増加したことが確認されました。具体的な投稿内容でも、BE:FIRST目当てで視聴したけれど、ドラマの内容に引き込まれたという声がありました。
最後に、投稿者構成を見ると、話数が進むにつれて女性10代や20代といった若年女性の割合も増加しました。
このドラマはピュアな二人の結婚生活から始まる恋愛模様を楽しむ内容であったため、なつ美と瀧昌のやり取りや心情に感情移入がなされ、ポスト数自体も、投稿者の若年女性割合も増えたと思われます。
また、このドラマは漫画を原作にしており、ドラマを見て原作も読んでみたという声や、漫画を大人買いしたという声もあり、強く引き込まれている投稿が多数確認されました。
「感情移入」「おかわり視聴」……分析で見えてきた視聴ジャーニー
次に、Buzzビューーン!データを使って「波うららかに、めおと日和」視聴ジャーニー行動を整理します。
生活者とメディアに関する知見を研究発信するビデオリサーチのシンクタンク「ひと研究所」では、テレビ番組などの映像コンテンツの「視聴前」「視聴中」「視聴後」で起きる行動やリアクションである<視聴ジャーニー>が、コンテンツの“視聴体験満足度”を高めるという視点で、生活者研究を進めています(図1)。今回は、最新の調査データおよびBuzzビューーン!データ分析の結果から、人気ドラマの<視聴ジャーニー>や、視聴者の楽しみ方を浮き彫りにしていきます。
※視聴ジャーニーについての研究記事はこちら
https://www.videor.co.jp/digestplus/tag-kw-viewing-journey/
Buzzビューーン!データ分析により、最終回の前後(6/24~6/27)のポスト内容から視聴ジャーニー行動を抽出したところ、おかわり視聴で楽しむ姿が目立ちました。
●Buzzビューーン!データによる<視聴ジャーニー>
6/24……Xで6/26の放送後にFODで特別編があるとの発表でFOD加入します宣言
6/25……明日が最終回でロスになっている
6/26……朝からロスの声
リアタイに向けて待機
ドラマ終わりに感謝や感想を述べ、続編期待の声あり
さっそくFODでの特別編視聴やTVerでのおかわり視聴
6/27……最終回のおかわり視聴やFODの視聴
また、ひと研究所では、2024年4月からクールごとに、その期間に放送されたテレビ番組を対象に視聴ジャーニーに関する調査を実施(2025年1-3月を除く)。クールごとに特定の10番組を選定し、日常的な、個別番組における視聴ジャーニーの知見を蓄積しています。
今回の調査結果から、「波うららかに、めおと日和」のスコアが「ドラマ平均」のスコアよりも高い項目を確認し、このドラマの視聴者に特徴的な行動を抽出しました。
●クール調査「2025年4‐6月調査」によるひと研究所 視聴ジャーニー
視聴前:音楽コンテンツ、録画予約・TVer登録
→主題歌に対するファンがいて楽しみにしている様子
視聴中:SNSフォロー、音楽コンテンツ、書籍コンテンツ、リアクション(笑う・泣く)
→感情移入による強い感情反応、SNSや主題歌・原作コミックスも楽しむ様子
視聴後:音楽コンテンツ、書籍コンテンツ、知人に推奨、2回以上視聴
→おかわり視聴で繰り返し楽しむ様子、口コミでの拡散、主題歌・原作コミック購入など商流の拡がりも
ドラマの楽しみ方に関する自由回答では、原作コミック読者は「原作の世界観を壊さず、ドラマの良さもあり、世界に浸りやすかった」とドラマのつくりを評価していました。一方、原作コミックを知らなかった人も「ドラマ視聴をきっかけに原作コミックを購入して、毎回放送内容のところまで読み、最終回のあと全部読んだ」など、ドラマと原作コミックを合わせて楽しんでいる様子があり、原作とドラマの好循環が見て取れました。
主題歌や原作コミックがきっかけでこのドラマを視聴した人も、日々の出来事における感情の動きやお互いを思いやる気持ちをドラマで丁寧に描いていたからこそ、ドラマの登場人物にも感情移入し、この作品の世界観をより深く感じることができたため、主題歌や原作コミックにより愛着を持つことができたのではないでしょうか。感情移入に関しては、「お互いに理解し合い、時には笑いを織り交ぜながら過ごしている様を見て、心が躍った。一度テレビを見た後に、もう一度TVerで見たくなり、見返した。」という自由回答もありました。
この作品における感情移入の特徴的な表現として「キュン」がありますが、「キュン」とはまさにこの自由回答で書かれている心が躍る様子など、視聴者の心がときめく瞬間を表現していると思われます。視聴者は、この心のときめきを何度も体感したいと思ったり、この気持ちを他者にも伝えたい・共有したいと思ったりしたため、おかわり視聴や口コミでの拡散を行ったと推察されます。TVerなどおかわり視聴・見逃し視聴を可能にする場があったことや、切り抜き・予告・撮影の裏側などSNSでの公式投稿を数多く提供したため、このような視聴者のドラマに対する気持ちの高まりに対応でき、同時に新規視聴者の獲得にも成功できたと言えるのではないでしょうか。
テレビコンテンツによる視聴者の価値観への影響
これまで述べたように、Buzzビューーン!データと調査データ両方において、視聴者が登場人物のやり取りや心情に感情移入していた様子が見受けられました。中には昭和初期の結婚から始まる恋愛模様を描いたドラマの内容に、自分自身の結婚観と重ね合わせている人もいました。
例えばBuzzビューーン!のデータでは、「自分の周りでは悲惨な結婚生活しか聞かないけれど、本来の結婚生活はこうあるべきと思った」「やっぱり夫婦は支え合うものだと思った」「もしも結婚できたら、同じような新婚生活を送りたい」「結婚願望はなかったけれど、結婚が良いものに思えた・結婚したくなった」など、ドラマの中の二人を理想のカップルととらえている投稿も確認されました。
では、令和の若年女性は時代背景も価値観も全く異なる戦前を舞台とした恋愛ドラマに、なぜここまで感情を高鳴らせ、自分自身の結婚観を重ね合わせたのでしょうか。後編では、ヒット作品を読み解き、消費者の価値観変化や未来の欲望を予測するDENTSU DESIRE DESIGN FUKAYOMIチームによるこの作品に関する読み解きを見てみましょう。
【調査データ概要】
ひと研究所 視聴ジャーニー クール調査「2024年4~6月」「2024年7~9月」「2024年10月~12月」「2025年4~6月」
調査方法:インターネット調査
調査対象:日本全国の15~69歳(中学生は除く) かつ 各調査対象期間に放送されたテレビ番組(特定10番組)について、いずれか視聴経験がある。
調査内容:テレビ番組(特定10番組)のうち、視聴経験のある番組について、番組評価や視聴ジャーニーの実態を質問
サンプル数:「2024年4~6月」2907名、「2024年7~9月」2762名、「2024年10月~12月」2896名、「2025年4~6月」2228名
※同一の回答者による複数番組への回答はそれぞれを1名とした延べ回答者数
調査期間:「2024年4~6月」2024年8月2日(金)~3日(土)、「2024年7~9月」2024年10月25日(金)、「2024年10月~12月」2025年1月14日(火)、「2025年4~6月」2025年7月4日(金)~6日(日)
著者

白岩 佳子
株式会社ビデオリサーチ
データデザインユニット テレビデータグループ
テレビ番組を中心に、X(旧Twitter)投稿や視聴データを掛け合わせた分析を担当。スポーツ、バラエティ、ドラマまで多様なジャンルを分析している。過去にはアドホックの定量・定性調査に従事し、テレビ番組だけでなく、キャンペーン評価や広告評価など幅広い領域を担当。





