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これまで「情報メディア白書」は32年にわたって書籍として発行してきました。このたび、関係各社、各団体のご理解をいただき、広くメディア業界発展に寄与することを目的に電通のウェブサイト上で、新たに「情報メディア白書2026」として公開しました。

本連載では、電通メディアイノベーションラボが実施する調査研究などをもとに、「情報メディア白書2026」の特集レポートとして、メディア環境の変化や広告市場のトレンドを解説します。

第2回では、趣味や暮らしも含めて、「学び」を広くとらえ、生成AIをはじめとして多様化するツール、サービスを通じた「学び」の実態を把握するための自主調査(調査概要はこちら)の結果をご紹介。学習や知識獲得に対する意識、さまざまなツールやメディアの利用実態やその評価、そしてビジネスパーソンにアプローチする際のヒントなどを、電通メディアイノベーションラボの長谷川想が考察します。

昭和中期に示唆された“情報の爆発”は現実に

学びの周辺が大きく変化しています。かつての学習は、能動的な態度で書籍などに向き合い、文字をしっかり読み込むことで、体系的な知識を根付かせることが根底にあったと感じます。筆者の世代も幼少期からの教育はこうした前提に基づき、“ながら学習”のようなものには否定的な声も多く、今思えばやや精神論の要素も帯びた教育を受けてきた印象もあります。

精神科医の樺沢紫苑(かばさわしおん)氏が著した実用書「学びを結果に変えるアウトプット大全」(サンクチュアリ出版/2018年)や、「学び効率が最大化するインプット大全」(サンクチュアリ出版/2019年)では、学びの手段の選択肢が多様化する中で、脳科学に基づいた伝え方、書き方、勉強や情報収集法を紹介し、大いに話題になりました。学びの側面でも効率が求められていることが可視化されたかのようでもあります。

思想家、文明批評家の梅棹忠夫(うめさおただお/1920~2010年)氏は、1960年代、書物の氾濫(はんらん)が進みつつあった状況を踏まえ、後の「情報の爆発」を予見しました。増え続ける情報に対して、「検索、処理、生産、展開」が基礎的素養として必要であると「知的生産の技術」(岩波書店/1969年)の中で言及しています。書物からテレビ、インターネット、さらには生成AIへと情報環境が激変したこの世界を、梅棹氏はどのように評するでしょうか。

今日、動画共有サイトには多種多様で膨大な情報があふれています。メイクのハウツーや魚のさばき方などの調理方法をはじめ、生活の困りごとを解決してくれる動画も数多くあります。また2012年のロンドン五輪では、YouTubeを見て練習を積んだやり投げの選手ケショーン・ウォルコット(トリニダード・トバゴ)が金メダルを獲得し、世界を驚愕させました。

領域にもよりますが、この事例は体系的な理解をスキップして、ただ動きをまねてみることで、大いに「熟達」できる可能性を示唆しています。情報の信頼性に対する危惧も一部にはありますが、動画共有サイトの急速な浸透によっても、広い意味での「学び」の手法や概念も大きく変わりつつあると言えます。

OpenAI社が2022年11月に公開した生成AIであるChatGPTは、公開2カ月で世界のユーザー数が1億人に達するなど急速に拡大し、世界の知的作業のあり方を根本的に変えつつあります。さまざまな懸念も指摘されていますが、その便利さだけでなく、昨今ではユーザーへの寄り添いの面も評価され、機能や精度のさらなる高度化や実装される接点も拡大し、今後もさらに人々の生活に浸透していくことは間違いないでしょう。

令和のインプットへの意識や意欲

図表01は、令和の生活者の「学び」やインプットに関する意識(あてはまり度を4カテゴリーで質問)を質問した結果(一部抜粋)になります。すぐに答えを知りたい、時間やお金をかけたくない、「タイパ」重視のインプットをしたいなどの、効率的で即時的なインプットを多くの生活者が志向していることがわかります。

スマートフォンや動画共有サイトなどを通じて、いつでもどこでも簡単かつ速やかに答えやヒントにアプローチできる環境が、それらを加速させていると考えられます。これらは見方によっては「つまみ食い」的な情報収集であるとの指摘も一部にあり、体系的な知識獲得につながりづらいとの指摘もあります。一方で物事へのクリアな考えや専門性への志向、さらには学びを通じて自分らしさにつなげたいなどの意識項目も高く、しっかりと知識を身につけたいという志向も半数を超えていることがわかります。

また、多くの選択肢や情報洪水の中で、インプットやスキルアップへの焦燥感や、「知識メタボ」を感じている生活者も存在し、今日のメディア環境の中で「学び」に関する気持ちの上での負の側面も一部存在していると言えるでしょう。
 

図表02は、前述の質問(合計14項目、4カテゴリー、N=2000)の回答結果に関して、クラスタ分析を行ったまとめです。これをもとに性年代別のクラスタ分布状況を示したものが図表03(左)です。男女ともに20代の「実用的・アクティブ層」が3割を超え最大の比率となり、若年層ほど能動的なインプット意欲が高いことが示されています。一方で、年齢が上がるにつれて「実用的・アクティブ層」は減少します。特に男性は40代以降、女性は30代以降において、自身にとって着実な情報収集を好む「堅実・マイペース学習層」が4割前後に増加します。さらに中高年齢層、特に女性50〜60代では「受動的・ライト層」が4割近くに達しています。

今回の調査では、紙の書籍、動画(無料/有料)、生成AI(無料/有料)などの合計14のツール、サービス、メディア(以降「ツール」と表記)を例示して、広い意味での「学び」(学びや自己研鑽(けんさん)、習いごと、生活上のノウハウなどの取得など)の目的での利用有無(会社から提供されているものを除く)を質問しています。「学び」の目的でいずれかのツールを利用している「学び」の実施率は、全体で52.8%となりました。

性年代別の実施率を図表03(右)に示していますが、特に20代は男性が61.1%と最も高い数値を示すなど、キャリア形成初期にあたり、自己投資への高い意欲が行動を促していることがわかります。一方女性は30代(42.2%)および50代(39.2%)で落ち込みが見られ、男性と比較してライフステージによる影響が大きいと想定されます。実態として育児や介護といったライフステージ上の変化が、女性にとっての「学び」の障壁となっている可能性を示唆していると言えます。

60代では男女ともに実施率が再び上昇に転じ、定年退職などに伴う可処分時間の増加によってリカレント教育(社会人が必要に応じて学び直すこと)や趣味的「学び」へ回帰していくと想像されます。男女とも世代を通じて「学びのW型カーブ」とも呼べる状況ですが、「学び」をめぐる状況は、育ってきた情報環境に加え、ライフステージの変化とそれに伴う可処分時間に影響されているとも考えられます。

なお図表での表記はしておりませんが、ツール別で見た際の上位1~5位は以下となっています。

1位 動画(無料)(34.2%)
2位 紙の書籍(18.9%)
3位 ニュース配信アプリ(14.9%)
4位 生成AI(無料)(13.3%)
5位 新聞(電子含む)(11.7%)

ほぼ全世代で似た傾向となっていますが、生成AI(無料)については世代によって差異があり、男女とも20代(男性:25.9%、女性:22.4%)では2位となるなど高いスコアとなりました。

「学び」の中身と利用のリアル

では「学び」の中身や内容はいったいどういったものでしょうか。その中身を示したものが図表04です。広く設定した「学び」の中身について、最も多くなった内容は「趣味・暮らしのうるおい」(66.1%)となりました。

仕事やキャリア、学校での勉強、教養などいわゆる従来の「学び」の項目も多数出現している一方、家事、育児・介護などの生活密着の項目や、健康や投資情報なども一定数出現しており、より広くQOLを向上させようとする様子が背景にうかがえます。

玉石混交ではありますが情報が爆発的に増える中で、自分の状況や嗜好(しこう)に応じた情報をいつでも入手できる環境が整いつつあります。そうした中で、前述したとおり、自身のキャリアや、生活の質を向上させるためのさまざまな「学び」を、おのおののライフステージに応じて行っていると言えるでしょう。


昨今では「学び」のためのツールが数多くありますが、利用者は何を評価してそれらのツールを利用しているのでしょうか。各ツールの利用者に対して、それぞれに「利用にあたっての重視ポイント」を質問しました。その結果についてコレスポンデンス分析を行ったものが図表05です。

※寄与率:第1次(横軸):34.2%、第2次(縦軸):24.1%、累積寄与率:58.3%


横軸が、「信頼性⇔速報性」、縦軸が「楽しさ⇔実用性」と読み取ることができます。特に紙の書籍は、信頼性と実用性が高く評価されており、体系的かつ深い理解を得るためのツールとして根強い支持を得ています。対照的に、左上の領域にある動画(無料)や語学などの学習アプリ(無料)は、楽しさと即時性が評価されており、たとえばスキマ時間で気軽に使用するなど、利用にあたっての間口が広いことも特徴です。

「学び」のためツールは多岐にわたります。内容だけでなく、利用できるシーン、楽しさ、効果の実感など、「学び」にあたってのさまざまな評価軸があり、利用者は自身の特性や目的に応じて使い分けています。なお動画、生成AI、語学などの学習アプリは、無料と有料の双方を別に質問していますが、いずれも無料版に対して有料版のポジションが信頼性と実用の座標にシフトしており、信頼性と実用性のために課金していると考えられます。

驚くべき動画共有サービスの浸透状況

動画(無料)は、「学び」のためのツールとして最も利用されていると前述しましたが、中でも動画共有サービスは、膨大かつさまざまなコンテンツが存在することもあり、広く活用されています。

図表06は、「YouTube、TikTok、Instagramのリール動画などの動画共有サービスの利用によってできること、できたこと」に関する回答結果です。本稿では抜粋して、男女20代と60代の結果を示しています。

20代の「学び」の主目的は、自己投資や自己表現と言えるでしょうか。男性は、「筋トレ・エクササイズ(24.1%)」が1位で、次いで「投資・マネー術(15.4%)」が2位となり、肉体づくりや資産形成といった、将来も含めた自己投資への関心が高いことがわかります。一方女性は、「メイク・ヘアアレンジ(40.4%)」と「スキンケア(36.5%)」が1位と2位で、「ダイエット(20.5%)」も3位となり、美容上の実用的なニーズが高いことが読み取れます。

60代の主目的は、生活課題の解決と趣味と言えるでしょう。男性の1位は「家電・PCなどの操作やトラブル対応など(28.6%)」となり、男性20代と大きく傾向が異なっています。「自動車・バイクなどのメンテナンス」が60代では上位になっていますが、20代では上位に入っていないことも興味深い状況です。一方女性では「料理レシピ・調理器具の操作(41.6%)」が1位となるなど、全般的に日常の生活をより良く、便利にするための情報源として活用され、また「家庭菜園」や「ヨガ」など、健康や趣味を充実させる内容も上位となっています。

動画共有サービスは、単なる娯楽ではなく、「学び」や「生活の知恵」を得る実用的なツールとしても機能していることがわかります。20代は自身のアップデート、60代は生活の質の維持と利便性向上を主目的とするなど、膨大なコンテンツの中から個々人のライフステージや趣味嗜好に応じたものを選んで、日常生活に浸透している様子がうかがえます。全世代を見渡すと、雑誌の趣向ジャンルを想起させるものとなりました。

ビジネスパーソンにリーチするためには

ここまで、広い意味での「学び」の浸透の実態をお伝えしてきましたが、一方で仕事に関わる日々の情報収集ツールはどういったものでしょうか。

有職者の「仕事」の情報収集を目的とした各ツール利用率を図表07で示しています。世代別ではすべてテレビ番組が1位となりました。図表には表記していませんが、最も高いのが男性60代(62.7%)で、最も低いのが男性20代(21.0%)となっています。仕事という観点からは、その信頼性を評価しつつ、世の中のことを知ることができます。視聴者にとっては日々の習慣の中に組み込まれたテレビ番組が、情報収集ツールとして広く評価されていることがわかります。また30代以上では、ニュース配信アプリがテレビ番組に次ぐ状況で、中高年層にも広く浸透していることがわかります。一方20~30代の若年層は、著名人のXやYouTubeが高くなりました。

図表の最下段に平均回答個数を記載しています。若年層になるほど、中高年層と比較して回答個数が少なくなっています。若年層は、自分の趣向に合った有識者やユーチューバーなども含めて、比較的少ない情報源から情報収集していると言えます。一方で中高年層はマスメディアも含めてさまざまな情報源からの情報収集を行っているようです。これらは、育ってきた情報環境に大きく影響を受けていると考えられ、今後世代が持ち上がっていくことで、現在の若年層に見られる傾向が広まっていくと推察できます。

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仕事上の情報収集にあたって、重視しているポイント(複数回答)を示したものが図表08です。評価項目としては、信頼性(47.9%)、検索性(44.5%)、コンパクトさ(32.0%)が上位にランクインしました。世代別をみると、60代は情報の「質」と「効率」への強いこだわりが確認できます。マスメディアの参照率が高いなど情報の信頼性を重視することは理解できると同時に、 多くの情報源を参照していることもあり、検索の利便性や情報のコンパクトさも重視していると推測できます。

一方20~30代では、動画、グラフ、図表を重視するなど、中高年層と比べて、テキストを読み込むというより、視覚的に直感的に情報を理解したいという意向が確認できます。また30代では、会話のきっかけを仕入れるのに活用しているほか、ながら利用・すきま時間利用の項目が高くなっています。ライフステージの変化によって、新しいコミュニティでのコミュニケーションの必要性や、可処分時間の減少が影響しているとも考えられます。

メディアは伴走型へ。「学び」の拡張、デジタル教育をめぐる議論

これまで述べてきたとおり、令和の「学び」は、従来の学習や知識の蓄積だけではないと言えるのではないでしょうか。メディアは生活者自身のアップデートのための情報収集ツールだけでなく、その役割を拡張させ、暮らしを便利にし、生活の質を上げるためのツールにもなっています。

情報爆発の時代においては、「学び」とは自分の生活を編集する、質を高めることにほかなりません。動画共有サイトは娯楽を超えて生活インフラに、生成AIは検索を超えて思考補助装置になるなど、メディアやサービスに求められるものは、生活者に寄り添う心地よい伴走機能とでも言えましょうか。仕事、投資、推しなどの情報もシームレスに届き、疑問があれば生成AIですぐに検索できるスマートフォンを思い浮かべれば納得感も増すでしょう。

受験勉強や資格のための勉強など、ある意味ゴールが明確なものであれば、自分に合った学習法を見つけることは、今日有用なものであると考えられます。一方、従来型の体系的な理解のための、時として苦難を伴った知的な営みの重要性を否定するものではありません。教育大国フィンランドの学力が低下している原因について、政府はデジタル教材の急速な普及の推進にあるとして対策に乗り出していると言います。複雑化する社会情勢の中で、答えのない問いに向き合っていくには、正しい情報に基づく体系的な視座を持つことの重要性は明らかです。また特に無料サービスにおいては、目の前に表示される膨大な情報が、どのような背景でもたらされているか、その信頼性はどのように担保されているかについての考察も重要であることは自明でしょう。

冒頭に紹介した梅棹氏は、「知的生産の技術」の中で、読むことと食べることを対比して、当時あふれつつあった多くの書籍を念頭に、質の高いバランスの取れた読書の重要性を指摘しました。生活全般に広く影響を及ぼしつつあるさまざまな「学び」のための情報について、食生活におけるバランスの重要性や、成長段階や体質に合ったものを摂取すべきであるとの考え方には大いに学ぶところがあるのではないでしょうか。

私たちは、あふれる情報をただ享受するのではなく、主体的に選び取るその積み重ねこそが、これからの時代を生き抜くための真の「学び」となり、豊かな人生を形作っていくとも言えるでしょう。

【調査概要】
電通メディアイノベーションラボ「令和の学びに関する調査」
・全国インターネット調査
・対象:20~69歳(有効サンプル数:2000)
・実査時期:2025年10月

【参考文献】
YouTubeで学んでオリンピックチャンピオンに輝いたウォルコット

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著者

長谷川 想

長谷川 想

株式会社 電通

電通メディアイノベーションラボ

メディアイノベーション研究部長

国内通信キャリアにて、情報メディアサービスの開発・運用などに従事後、株式会社電通に入社。主にメディアプランニング、デジタルマーケティングを担当したのち現職。 情報行動、メディアビジネス、広告媒体開発、ローカルメディアなどに関心がある。 学際情報学修士。日本マーケティング協会マーケティング・マイスター

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