(左から)radiko池田卓生社長、太田光さん、電通 長谷川想氏 「2025年 日本の広告費」特別対談。今年は、ラジオにスポットを当てます。さまざまなメディアやコンテンツがあふれる中で、ラジオはどのように活路を見いだしていくのか?
今回ゲストにお迎えしたのは、radiko社長の池田卓生氏、radiko15周年PR大使を務める爆笑問題の太田光氏です。電通メディアイノベーションラボの長谷川想氏が話を聞きました。
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radikoやPodcastで、ラジオ番組の「届き方」が変わった太田光さん 長谷川:2025年日本の総広告費は、4年連続過去最高を更新して8兆円超えとなり、中でもインターネット広告費は、初めて全体の5割を超えました。一方、ラジオやテレビメディアはほぼ横ばいですが、マスコミ四媒体の広告費は減少となりました。この状況について、太田さんはどのような感想をお持ちですか?
太田:テレビに関わっているので寂しい部分もありますが、時代の流れですよね。制作費が削られる中で面白い番組を作ろうとしても、なかなか作れないこともある。いわゆるオールドメディアが“オワコン”と言われているのは悔しいし、盛り返してほしい気持ちはあります。 一方でradiko(デジタルメディアのため、日本の広告費の分類ではインターネット広告費に含まれる)などが注目されてきているのはうれしいという、複雑な気持ちです。
長谷川:radikoやPodcastなどを含むラジオデジタル広告費は、2021年には14億円だったのが、2025年には38億円と、右肩上がりで伸びている状況ですが、この点について池田さんはいかがお考えですか?
池田:伸びていると言っても、規模はまだ小さいですね。広告費を見ると、紙の雑誌(1135億円)と地上波ラジオ(1153億円)では、今回、ラジオが雑誌を超えました。しかし、雑誌デジタルの広告費は615億円で、ラジオデジタルよりも大きく先行している。ラジオも雑誌のように、よりデジタルにシフトしていく必要があると感じます。
長谷川:2010年にサービスを開始したradikoは、2025年に15周年を迎えました。radikoの近年の変遷について簡単に振り返っていただけますか。
池田:2014年にエリアフリーが、2016年にタイムフリーが始まり、昨年はApple CarPlayやAndroid Autoに対応して、車のダッシュボード上でradikoの操作ができるようになりました。radikoの誕生によって、エリアフリー、タイムフリーでラジオの聴き方の選択肢が増えたことは、大きな意味があったと思います。
太田:特に刺激的だったのはエリアフリーですね。僕は東京で過ごした学生時代に、関西で放送されていた「ヤンタン」(MBSヤングタウン)を聴きたかったんだけど、電波が入らないんですよ。トランジスタラジオを窓際に持っていって、たまに電波が入ると、(笑福亭)鶴瓶師匠や谷村新司さんの声が聴こえるという状況でしたから。 エリアフリーによって地方局の番組をクリアな音で聴けるというのは、その頃の夢がかなったような気持ちで、片っ端からいろいろ聴きました。とてもうれしく、いい時代になったと思いました。
長谷川:私は逆に当時関西在住で、(ビート)たけしさんの番組を聴きたくて、苦労していました。太田さんはradiko 15周年PR大使を務めていますが、引き受けたときの思いは?
radiko15周年特設サイト https://15th.radiko.jp/
太田:池田さんは、かつてTBSラジオ番組「JUNK」のプロデューサーなどを務めていて、一緒に仕事をしていた仲なので、依頼されたときはうれしかったですね。「radiko15周年記念ポッドキャスト 太田光と15人のしゃべり手」 という、僕が15人の人気パーソナリティとラジオを語り尽くす特別対談シリーズをやってますけど、この仕事も楽しい。普段あまり話さないナイナイ(ナインティナイン)の岡村(隆史さん)とあんなにサシでじっくり話すのは初めてだったし。
池田:PR大使は、「ラジオを幅広く聴いて、radikoを使い倒していただいている太田さんしかいない」と思ったんですよ。
長谷川:この15年でradikoのユーザーが増えたと思いますが、ラジオはどう変わってきましたか?
太田:radikoの前に、まずPodcastがありましたよね。僕がパーソナリティを務める「JUNK」は、2006年にPodcast配信を始めたんですが、その前はラジオなんて誰も聴いてないんじゃないかという時代があったんですよ。
長谷川:そもそもラジオ端末を持っている人が減り始めていたり。
太田:そうそう。で、Podcastを始めてみたら、あれは世界中で聴けるじゃないですか。それで番組に海外在住の方からのメールがよく来るようになったんですよ。それがうれしくてね。僕もPodcastを聴くようになって、Podcastの英会話番組「バイリンガルニュース」のMichael and Mamiにゲストに来てもらったりして。 その後今度はradikoになってね、エリアフリーになって。そんな感じでラジオ番組というものの、出口がいろいろと広がってきた。音声メディアとしての広がりが出てきて、僕らのやってることは変わらないんだけど、世の中への番組の届き方が違うっていうことは実感しています。 当時は、ラジオ・テレビ界隈(かいわい)は、SNSやYouTubeといった新しいメディアに戦々恐々としていたけど、共存できることを知ったのは、テレビよりもラジオが先だった気がします。
長谷川:太田さんのラジオを拝聴していると、冒頭の挨拶からもうすれすれのネタを狙ってきたりとか、俳優さんに対して思わぬいじりをするみたいなことが、私はとても好きなんですが(笑)。太田さんご自身の番組に対するスタンスは変化していますか?
太田:やってることは昔とほとんど変わらないと思いますね。うちの番組の自慢は、リスナーが送ってくれるネタのレベルが高いことですね。何百人、何千人の放送作家がスタッフとしているような感じです。
池田:「火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ」は、年末に「メールNO.1グランプリ」という、リスナーがネタ投稿で競う企画がありますが、ものすごい量のメールが来るんです。それを全部放送作家がチェックして、最後、太田さんが確認するのですが、そのクオリティの高さは昔も今も変わらないですね。
長谷川:音声メディアはリスナーとの心理的な距離が近いと言われたり、ハガキを通じたやり取りによる双方向メディアの先駆けだったという話もありますが、池田さんは、音声メディアとしての変遷についてどう感じていますか?
池田:変遷ということでいうと、ラジオはハガキからメールになって、パーソナリティの皆さん、メールの読み方が、最初本当に下手だったんですよ。メールアドレスのアットマーク、スラッシュ、ハイフンを言うときに詰まったり。 その後、SNSも出てきて、最初はSNSの利用に反対する人も業界にはいました。最近は皆さんXのコメントを読み上げていますけど、そういった世の中の流れに全部対応してきているのがラジオだと思います。 それで、radikoのタイムフリーなんて、しゃべり手からすると、やっぱり抵抗があるというか、「その発言は残してくれるなよ」ということだって絶対あるじゃないですか。
太田:切り取ってネットニュースに上げられて炎上するとかね。そういうのはしょっちゅうあるんだけど、それを避けては通れない時代ですからね。
池田:そういうことも含めて、新しいことを取り入れてきているのがラジオだと思っていて。もちろん、メールやSNSに対応するためにスタッフの作業もすごく増えました。でも、対応力や機動力のある頼もしいメディアだと思っていますね。
長谷川:まさに、対応力と機動力はラジオの大きな魅力だと思います。そしてラジオの魅力として、人の「声」の力みたいなものもありますよね。
太田:僕は子どもの頃から落語を聴いていたのですが、昔の名人の落語は音声しか残っていなかったりする。落語って映像で見るよりも、耳で聴く方が、落語家の息遣いを感じたりして、内容が頭に入ってくるんですよ。情景が浮かぶような楽しさは、映像より音声メディアの方がある気がするね。情報量が少ない分、逆にこっちで想像力膨らませるっていう。
長谷川:なるほど、音声だけだからこその伝わり方がありますね。そんなラジオも含めて、メディアがどんどん多様化して、玉石混交の膨大なコンテンツがあり、「みんなが共通して楽しんでいるもの」が減ってきている状況です。太田さんご自身も表現者、発信者として、この状況を楽しんでいるのか、多少の息苦しさみたいなのを感じていらっしゃるのか、正直なところいかがですか?
太田:僕らは(活動を)始めたときから楽しさと息苦しさは常に同居しています。テレビのコンプライアンスが厳しくなったとよく言われますが、爆笑問題なんて昔から結構言っちゃいけないようなネタもやっていました。「お前らそれテレビじゃできないよ」って言われて少し修正したりとか。それはもう受け入れてきています。だから、「最近はコンプライアンスが厳しい」という話はよく出るんだけど、僕らからすると元々そうだよというのが実感ですね。
長谷川:そのあたりは、池田さんはどうお感じですか?
池田:いろいろありましたよ(笑)。僕から見ると太田さんはそれも含めて楽しんでる感じがします。テレビの番組で“燃え上がった”ものをラジオで“鎮火する”みたいな流れができているとかね。
長谷川:ラジオのリスナーは、「あのときの発言」の真意が聞けるというのが楽しいかもしれませんね。
音声で想像を膨らませる「ラジオの体験」をradikoで広げていきたいradiko池田卓生社長 長谷川:太田さんは、テレビやラジオ、雑誌の連載、本の執筆、YouTubeと多彩に活動されていますが、それぞれのメディアの違いについてどのように感じていますか?
太田:例えば本は全部自分で書くし、漫才は作家と田中(裕二さん)とたたき台を作って、実際にやりながら作ります。ラジオはフリートークの部分は僕が1人で何を話すかを考えてたり、テレビは共同作業でいろんな人が関わって作っていく。それぞれやり方は違いますね。
長谷川:池田さんはいかがでしょう。
池田:ラジオとPodcastの違いについて話してもいいでしょうか。この前、太田さんもよく知っているラッパーのTaiTanさんのPodcast番組に呼んでもらったんです。Podcast番組を数多くプロデュースしてきたTaiTanさんと、Podcastとラジオのしゃべりは違うのではないかという話になったんです。TaiTanさんが言うには、「ラジオはそれほど面白くなくていい」と。つまり「ラジオは面白くない部分も寛容されているんじゃないか?」と。長年、ラジオ番組の面白さを追求してきた私としては、「いやいやラジオは面白くないとダメでしょ」と(笑)。 でも、TaiTanさんの言うことも理解できて、彼が言うには、アテンションを取るためにどのコンテンツも面白さのインフレが起こっていて、逆に力が抜けているものの価値が上がっていると。それを担えるのがラジオだと。
太田:Podcastは内容をしっかり聴こうと思ってる人が集まるけど、ラジオは農作業やお店をしながら一日中流しているという話もよく聞きます。そこで凝った面白い演出を特にする必要もないという意味合いもあるのかもしれませんね。
池田:ワイド番組だったり、深夜番組だったり、番組のタイプによるかもしれませんね。今はラジオ番組をやることがすごい喜びだと思う人と、Podcastがいいんだという人と二分してきていると感じます。ラジオやテレビのようなメディアが自分の中で重要じゃないという人が出てきていることについて、太田さんはどう思いますか?
太田:何を摂取して育ってきたかによって違うんでしょうね。それはもしかしたらテレビも同じで、僕らにはテレビが娯楽の王様だったけど、ただ“ながら見”されたり、音がないと寂しいからつけているようなメディアになりつつあるのかもしれない。でも、「この時間はこの番組を見よう」という流れにもう一回戻したい気持ちもあります。
長谷川:みんなで同じ番組を見て盛り上がる共有体験も含めてですよね。いろいろなコンテンツが氾濫している中で、ラジオやradikoの役割はどうあるべきでしょうか?
池田:音声で想像を膨らませるラジオの体験を、radikoでもっと広げていきたいですね。さまざまなコンテンツがあふれる中で、ラジオの良さに気づいてもらうためのツールにradikoはなり得ると思います。例えば面白かった番組の事後PRをしっかりやって、radikoのタイムフリーで聴いてもらう状況も作れるでしょうし。競合メディアは多いですが、非常に面白い環境だと思います。
ラジオはパーソナリティとリスナーのエンゲージメントが深い!電通 長谷川想氏 長谷川:今は不寛容の時代であるとか、特に日本の若者は不安が多いのではないかという話がよくされます。太田さんは、世の中の気分をどう捉えていますか?
太田:でも、それこそ芥川龍之介の時代から、「ぼんやりした不安」みたいな言葉があったり、不安はいつの時代も言われていた気がします。若者は、どの時代でも常に不安ですよ。僕たちの時代は、(ビート)たけしさんや中島みゆきさんのラジオに救われていました。今だって多分、伊集院(光さん)に救われている人はいっぱいいるでしょうし。 いろいろ失敗をしても笑い話にできるということをラジオで知って、救われる若い人はたくさんいると思うので、不安を抱えた若い人たちが聴いてくれるのはうれしいですね。
長谷川:広告の話に戻るのですが、池田さんは今の時代の広告主について、どのように捉えていますか?
池田:ラジオという点でいうと、広告主のさまざまな期待に応えられる環境は整いつつあるので、そのことを知っていただく努力は必要だと感じています。これまでのラジオはリーチメディアだったことに加えて、radikoはターゲットメディアでもあります。radikoは位置情報も取得できるので、例えば山手線で通勤してる人たちだけに広告配信することもできる。そういう新しい技術や環境によって生まれている広告価値があります。 加えて、元からのラジオの特性として、パーソナリティとリスナーのエンゲージメントが深い。そのため、パーソナリティが商品を紹介して売れる環境も継続してあります。パーソナリティとリスナーのエンゲージメントが深いことの証明として、ラジオ番組でイベントをやると、たくさんのリスナーが集まります。ローカル局の方々と話しても、「有料でイベントをやっても、すごくたくさん来てくれた」という声を聞くので、パーソナリティが地元の人へメッセージをちゃんと伝えているからこそだなと感じます。そういう従来のラジオの価値みたいなところは、今もしっかりとあるんだなと。
長谷川:近年でも、東京ドームや武道館での大規模なラジオイベントが話題になりましたよね。
池田:これはPodcastの話なんですけど、ジェーン・スーさんの番組で、リスナーさんが自分の会社を説得して、予算を取って番組のスポンサーになってもらったなんていう流れも起こっています。また、イベント会場では、スポンサーの名前が紹介されると拍手が起こることもありました。やはり広告主から見ても、音声メディアはリスナーとの距離が近い点は魅力ではないかと思います。
長谷川:イベントがスポンサーのおかげでできていることを参加者が共有している。いい番組のあり方ですよね。
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太田:スポンサーについて言うと、民放テレビも、すごいお金をかけて、一流の技術を持つ人たちが集まって作った贅沢なコンテンツを毎日無料で見られるのは、スポンサーがついてるからであって、こんな幸せな状況はないと思っています。 テレビは今オールドメディアと言われるけど、個人でやっているYouTubeにはできないような、いわゆる全国のネット局の中継をつないで、何かが起きたらすぐ生放送ができるのはテレビならではです。 今テレビに出稿しても効果がないと広告主に思われないようにするべきだし、スポンサーがついて無料で見られるテレビの良さは残すべきだと僕は思っています。今Netflixは確かに制作費もあるし、すごいものを作っていると思うけど、もうちょっとテレビも再評価してほしい気持ちはありますね。
ラジオが最先端の災害情報を持っているという認識を生活者に持ち続けてもらえるように長谷川:昨年3月、ラジオは放送開始100年をむかえました。今後、ラジオやradikoがどんな価値が届けられるか、教えてください。
池田:今日お話ししてきたこと以外で一つ挙げられるのは、災害対応です。ラジオが最先端の災害情報を持っているという認識が生活者にあって、地震があるとその地域のラジオ局の数字(聴取者数)がぐっと上がります。東日本大震災のときには、爆笑問題はじめ、いろいろなパーソナリティがスタジオからメッセージを送ったのですが、「声」の力というものが本当に伝わったと感じました。そういったラジオの価値は、radikoもなくしてはいけないと考えています。
太田:例えば豪雨災害や地震が起きたとき、(その地域の)ローカル局の番組を聴いていると、「いつものパーソナリティ」が自分の声で情報を伝えるんですよ。リスナーはいつも番組を聴いているから、その人の性格も知っていて、みんなを落ち着かせようとしてふざけたことを言っても、いつもと調子が違って声が震えていることまで分かる。(エリアフリーによって)遠くに居ても心の寄せ方っていうのは今までとは違ってきてますよね。 スタッフの名前や常連リスナーのペンネームも知っているから、「みんな大丈夫かな」と思う。なんというか別の場所で起きていることではなく、リスナーみんなが自分ごととして捉える。そういった価値があるからこそ、ローカル局が今苦しいって話を聞くと、本当に支えてほしいと心から思います。
インタビューを終えて(長谷川) 最前線でメディア環境の変化に対応してきた池田さんと、変わってほしくない価値を届けてきた太田さんの、良いことも良くないことも長きにわたり一緒に乗り越えてきた関係性が伝わってくるインタビューとなりました。ラジオやradikoは、テレビほど多くの人に楽しまれているものではないけれど、熱のあるコミュニティがあり、新しく来た人を拒むことなく迎え入れる、そんな存在であり続けてほしいと強く感じました。