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コロナ禍を経て、VRやメタバースの活用が身近になった一方、その多くは「映像を観る体験」にとどまっています。リアル空間での体験価値が再評価される中、近年注目を集めているのが、現実空間と仮想空間が重なった空間を自由に歩き、その体験を誰かと共有する「フリーロームXR」です。
IPホルダーにとってはIPの新たな出口戦略として、また企業や施設にとっては使用されていない遊休スペースの収益化策として活用できる「フリーロームXR」の可能性について、ABAL代表取締役の尾小山良哉氏と、電通の伊藤弘和氏、片桐耕平氏に聞きました。
フリーロームXRが今すごい!
──はじめに皆さんの自己紹介をお願いします。
尾小山:映像・CMディレクターとしてキャリアをスタートし、CGを中心とした映像制作を手掛けてきました。2016年に空間拡張を実現した次世代エンタメプラットフォーム 「Scape®」を提供する株式会社ABALを設立し、2025年には電通と戦略的提携を結びました。
伊藤:電通のメディア・コンテンツ・トランスフォーメーション局(MCx局)でメディアやエンタメ企業に伴走し、次世代を担う事業基盤の開発に取り組んでいます。「コンテンツとテクノロジーの融合」をテーマに、新しい生活者接点やエンタメ体験を設計し、単なる消費に終わらない、IPビジネスの新たな価値と拡張を目指しています。
片桐:伊藤さんと同じくMCx局にて、ABALさんとの事業開発・推進を担当しています。IPやリアル空間を活用した新しい体験価値の創出に取り組んでいます。
──まず、フリーロームXRとは何なのでしょうか。メタバースとの違いについて教えてください。
尾小山:フリーロームはフリーローミングの略で、自由移動ができるという意味です。ゴーグルをつけて、現実空間とVR空間が重なった空間を、自由に自分の足で歩き回り、その体験を誰かと共有できるのが最大の特徴です。複数人で同じ空間に入り、同じものを見て、同時に反応する。そうした「そこに一緒にいる」感覚や「身体性」が、メタバースとの大きな違いです。
フリーロームXRの体験を提供していて一番感動したシーンがあります。恐竜をテーマにしたコンテンツで、親子が手をつないで入り、子どもが怖がって親にしがみついたんです。それが価値なんです。お父さんと手がつなげる、一緒に体験する。だから、友達や家族と一緒にやろう、という気持ちになるのだと思います。
ABALの尾小山氏――一緒に体験できると感じられることに、こだわった設計がされているんですね。
尾小山:はい。例えば、専用の機器は耳元から音が出るように設計されていますが、体験中も会話ができるよう、耳をふさがないようにして共有体験が生まれやすくなるように工夫しています。ゴーグルをかける前、体験中、そして帰った後まで、体験がシームレスにつながっている感覚になれるよう意識しているので、アバターを介した体験とは全く性質が異なりますね。
フリーロームXRを体験する来場者。専用の機器は耳をふさがないので自然な会話ができる。
事前撮影した写真をはめ込むことで互いの顔が見えるため、リアルと同じように会話ができる。――フリーロームXRはどのように広まってきたのでしょうか。
尾小山:10年ほど前にアメリカでVR世界に入るというプロモーション映像が世界を駆け巡りました。日本では僕らが先行して挑戦していましたが、当時のVRは大きなノートPCをリュックに背負って歩き回るといった仕様で、運用コストや技術面の課題も多かったです。試す企業は多くあっても事業化が至難でしたが、試行錯誤を経て、現実的になってきました。
片桐:コロナ禍でデジタル空間でのコミュニケーションが成立したことでVRが以前より身近なものとして受け入れられるようになりました。その間、ゴーグルなどの技術の進歩も相まって、いま日本で現実的に展開できる段階にきています。
電通の片桐氏狭い空間をIPやコンテンツが収益化
――電通として、フリーロームXRに注力している理由について教えてください。
伊藤:電通では、メディア企業とのメタバース事業に注力し、バーチャル音楽ライブをはじめ、多くのイベントを手掛けていました。ただ、VR空間が身近になったのも、限界を感じたのもコロナ禍でした。人をイチから集めてコンテンツを置く従来のメタバース×コミュニティビジネスの難しさを感じていました。
フリーロームXRを活用し、さまざまな企業が持つIPやコンテンツをよりリッチなものにし、「観る」だけではなく「入る」体験へ広げたいという思いがあります。漫画からアニメへ、そしてフリーロームXR体験へというシームレスな拡張、それはドラマやバラエティや歴史もの、さらにはスポーツの熱狂から、恐竜・宇宙にいたるまで、エンタメからエデュテインメントまであらゆるIPに可能性があり、次世代のメディア事業の柱になると考えています。
また、メディア業界にとっても重要な取り組みになっています。リアル空間だからこそ生み出せる熱量をもとに、目の前の人がどう楽しんでもらえるかを第一に考えて設計しています。それは、メディア業界の次の価値創出につながると思います。
電通の伊藤氏
――フリーロームXR に活用されているABAL提供の「Scape®」はどんなサービスですか。
尾小山:ABALでは、500平方メートルのリアル空間にいても、20倍の1万平方メートルの仮想空間にいるような体験ができるなど、空間拡張技術の特許を18件保有しています。来場者がリアル空間では実際に移動していなくても、バーチャル空間では広大な空間を移動しているように感じられる体験を提供できます。
また、来場者同士が同じリアル空間にいながら、バーチャル空間上では異なる場所にいる場合には、アバター表現を変化させることで、リアル空間での来場者同士の衝突を防ぐこともできます。
これらの特許技術を活用したのがプラットフォーム「Scape®」です。バーチャル空間で撮影した写真をスマートフォンに保存し、SNSでシェアできる機能によって体験や感動の共有ができ、100人の同時体験が可能です。会議室やスタジオのような限られたスペースでも、没入感のあるエンターテインメント空間を構築できます。
ABALが特許を保有する空間拡張技術のイメージ
――フリーロームXRならではの空間設計のこだわりはありますか。
尾小山:フリーロームXRでは、狭い空間を収益を生むスペースとして活用するために、同じ場所を何回も活用する前提で空間設計しています。体験者同士がぶつからないような設計などがABALの技術の強みです。リアルだったら違う体験をしてもらうのに異なる場所を活用する、となりますが、フリーロームXRの場合は、同じ場所を異なる場所のように違和感なく成立させるための空間設計や、回転率を意識しています。
そして、体験の一番の価値は、コミュニケーションの活性化だと思っています。ですから、体験後に、一緒に参加した人とそのコンテンツについてどれだけ会話が生まれるか、会話につながる仕掛けをたくさん入れ込むことにこだわっています。
人気コンテンツをフリーロームXR化し、「次世代型テーマパーク」へ
――2026年4月~6月にフジテレビ本社で開催した火星旅行VRイベント「THE SUNSET OF MARS(ザ・サンセットオブマーズ)」の反響はいかがですか。
尾小山:休日は1日600人ほどが体験し、大盛況でした。VR空間内で自撮り写真が撮れる点や、火星についてインタラクティブな学びがある点などが評価されています。先行して制作した、富士急ハイランドのお化け屋敷「戦慄迷宮」を原案としたホラーアトラクションをVRで楽しめる「戦慄迷宮:迷」は、1.5か月で2.2万人が来場しました。フジテレビの人気番組「逃走中」の世界をVR空間で体験できる「逃走中リミナルワールド VR空間で逃げきれ」は、9月までお台場のダイバーシティ東京で実施します。
片桐:火星旅行については、火星研究を専門にしている東京科学大学の先生に体験していただき、「火星世界をリアルに感じることができた」「石一つ見ても、質感や色合いにまでこだわっていて感激した」と高く評価していただきました。専門家にも細部のリアリティを評価してもらえたことは、この体験の完成度を示す大きな手応えになっています。
火星旅行VRイベント「THE SUNSET OF MARS(ザ・サンセットオブマーズ)」の一部
――今後の展望について教えてください。
尾小山:フリーロームXRには、行けない場所や過去・未来など、実際に体験できない場所を体験できるようなIPが向いています。フリーロームXRとジャパン IPは相性が非常に良いので、今後はフリーロームXRでアニメの世界に入る、という体験の提供に挑戦していきたいです。IPの獲得を進めつつ、身体性を伴った体験を提供する日本のきめ細かなクリエイティブを生かした、「ジャパンIP」を中心とした「次世代型テーマパーク」を世界展開していく夢もあります。
片桐:日本の体験設計の安全性やきめ細やかさは、海外からも評価されていて、日本のIPを活用したフリーロームXRの海外からの引き合いも多くあります。そういう意味でも、大きな可能性を感じています。
伊藤:IPホルダーにとっては生活者に新しい体験を提供できるIPの新たな活用方法の一つがフリーロームXRです。収益向上も期待できますし、空いたスペースがある企業側も、一度フリーロームXRを設置すれば、コンテンツデータの入れ替えだけでその場所にさまざまな IPを呼び込み、多様な層の生活者との接点ができます。IPとリアル空間が融合していく、新しいプラットフォームビジネスにしていきたいです。あらゆるIPがフリーロームXR体験になる時代は、そう遠くないはずです。
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