「好きを力に仕事をする」をテーマに、社員の個人的な関心や情熱を起点に活動する、電通第2マーケティング局(以降、2MK局)のプロジェクト「BUKATSU」。最終回は、「女子オタクインサイト部」を紹介します。
近年、マーケティング領域で注目を集める「推し活」。その熱量の高い消費行動やコミュニティ形成は、多くの企業が注目しています。しかし、「推し活」のインサイトは非常に繊細で、表層的な理解だけではファンの心をつかむことはできません。
自身の「推し活」から得たリアルなインサイトを武器に、マーケティング課題の解決に取り組む「女子オタクインサイト部」。K-POPや日本のアイドル、2.5次元舞台など、多様なジャンルを愛する3人のメンバーは、自身の経験をどのように仕事へと昇華させているのでしょうか。部員の間宮萌由氏、近藤樺音氏、土生田夕香氏に話を聞きました。
![]()
![]()
好きを仕事に。若手女子3人が立ち上げた「女子オタクインサイト部」
──まず、皆さんの普段の業務と、自己紹介をお願いします。
間宮:普段はストラテジックプランナーとして、クライアントのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略を考えています。CMだけでなく、商品開発やブランディングといった領域まで踏み込んでサポートしています。
近藤:私はメディアプランニングを中心に担当しています。クライアントの予算に合わせて、テレビやデジタルなど最適な媒体と予算配分を提案するのが主な業務です。他に、テレビ番組の改編期にスポンサーに合った番組を選定したり、視聴率データを活用して番組の分析を行ったりもしています。
土生田:私はさまざまな業種の調査設計や、その調査結果をもとにした戦略プランニングを担当しています。また、クライアントの海外進出など、新たな事業をサポートすることもあります。
──普段はそれぞれ異なる業務をされている皆さんが、「女子オタクインサイト部」を立ち上げた経緯を教えてください。
間宮:もともと2MK局内には、局員の好きなことを仕事につなげようと立ち上げた「BUKATSU」というプロジェクトがあり、「女子オタクインサイト部」は、2024年に発足しました。
近年、「推し活」がブームとなっていますが、2MK局の若手女子の中にも、日々推し活を楽しんでいるメンバーが何人かいました。彼女たちと話す中で、一口に「推し活」と言ってもさまざまなグラデーションがあり、特に熱心な女性には特有のインサイトや行動があるよねという話になりました。それを仕事に生かせないか、と考えたのが立ち上げの経緯です。現在は、私たち3人で活動しています。
日々の推し活からインサイトを考えて分析して、それを日頃の業務にどうやって生かしていこうかな、クライアントのお手伝いをどういうふうにしていこうかな、といったところを考えながら携わっている形になります。
──「女子オタク」という言葉をあえて使っているのが印象的です。
間宮:はい。電通として推し活を分析する機会は多いと思いますが、私たちはよりターゲットを絞っています。SNS上で、推し活をする女性が自分たちのことを総称して「女オタク」と呼ぶことがよくあります。この「女オタク」の皆さんの中には、推し活の情報を収集したり、同じ趣味の人たちと交流する専用のSNSアカウントを作ったりするなど、時間・お金・手間の面でかなり高い熱量とリソースをもって推し活を楽しんでいる人たちがいて、よりコアな推し活層といえます。そうした人たちにフォーカスして、私たちだからこそできることをやっていきたいという思いで立ち上げました。その点に新規性があると思っています。
間宮萌由氏
K-POP、女性アイドル、2.5次元。三者三様の「推し活」
──では、皆さんがそれぞれ何のオタクなのか、具体的な「推し活」の内容とあわせて教えてください。
近藤:私は男性のK-POPアイドルが好きです。SEVENTEEN、TREASURE、RIIZEなど、幅広く応援しています。ハマったきっかけは、TikTokで映像が流れてきて「こんなにかっこいい人がいるんだ」と衝撃を受けたことと、親戚のお姉ちゃんの影響です。
私の推し活は主に3つです。1つ目は、日本でのコンサートツアーに参加すること。2つ目は、「聖地巡礼」。推しが公演で訪れた場所、例えば特定の油そば屋さんや神社などに行って、同じ場所で写真を撮ったりします。3つ目は、推しがアンバサダーになっている商品を買うこと。高価すぎるものは難しいですが、コスメやアパレルなど、基本的に購入するようにしています。
土生田:私は日本と韓国の女性アイドルのオタクです。韓国のアイドルはKARAの時代からずっと好きで、昔のアイドルから今のアイドルまで幅広くチェックしています。他に、ももいろクローバーZなどが所属するスターダストプロモーションや、ハロー!プロジェクト(ハロプロ)のアイドルをはじめ、幅広く推しています。
日本のアイドルの場合は、コンサートだけでなく、握手会、サイン会、チェキ会といった、アイドルと直接会えるイベントにたくさん参加しています。ちょっとちっちゃい箱(会場)のイベントに行くのを多めにして楽しんでいます。グッズを集めて、自宅に飾るのも推し活の一環です。
──同じ「アイドル」の推し活でも、ファン層によって現場の雰囲気も違いますか?
土生田:全然違いますね。例えば、=LOVEは女性ファンも多いです。ハロプロはファンの方の年齢層が少し高めで、アイドルの成長を「保護者目線」で見守っている方が多い印象です。私は背が低めで、フェスなどで見えづらそうにしていると、「前に行きなよ!」と場所を譲ってくださることもあります。
間宮:私は2人とは少し毛色が違います。アイドルと銘打ってはいない、ちゃんみなやHANAといった女性アーティストが好きで、ファンクラブに入ってライブやファンイベントに行っています。
もう一つの軸が、漫画とアニメです。特定の作品というよりは、はやっているものを読んで、作品の考察を発信したりしています。2、3年前からは2.5次元舞台にもハマっています。最初は脚本家や演出家目当てで見に行くのですが、結局、俳優の“推し”ができて、その人の別の舞台にも通うようになりました。同じ舞台でも日替わりのアドリブがあったりするので、気に入った公演には10回近く通うこともあります。
他にも、トレーディングカードをデコレーションしたり、アクリルスタンドをおしゃれなカフェに持って行って友達と写真を撮ったり。私はXで同じ趣味の人と交流して、実際に会う(エンカする)ことにも抵抗がないタイプです。今では、「推し活」のコミュニティができていて、推し活でなくても遊ぶくらい仲の良い友人もできました。
──皆さんが推し活をするモチベーションの源泉は何でしょうか?
土生田:私が好きな女性アイドルは、一般的に活動期間が短いことが多いです。その短い期間に、歌やダンス、ビジュアルを磨き続ける姿は、まるで一つの濃い青春を見せてもらっているような感覚です。その熱さに惹かれて応援していますし、常に向上し続けようとする姿や可愛らしさに憧れを抱いています。
近藤:私はシンプルに「癒やし」です。疲れた時に、かっこいい推しの映像を見ることで心が豊かになり、「明日から頑張ろう」「もっと可愛くなろう」というモチベーションになります。
間宮:私の場合は、少し違った文脈があります。私が応援しているアーティストの中には、「欠けている部分があってもいい」というコンセプトを掲げている人もいます。そういう人たちが頑張っている姿を見ることで、「自分もこのままでいいんだ」と認められたような気持ちになり、救われる部分があります。
ここが面白い点だと思うのですが、近藤さんのように「憧れと理想」がモチベーションになる推し活もあれば、私のように「親近感や自己救済」がモチベーションになる推し活もある。モチベーションの源泉は真逆なのに、アウトプットが「推し活」という同じ形になっている。こうした多様なインサイトを丁寧にくみ取ってプランニングしていくことが、今後ますます重要になると思います。
──女性オタクならではの特徴を感じることはありますか?
土生田:オーディション番組などを見ていると、女性ファンは「自分がこの子たちを大きくしてあげたい」という「育成本能」がすごく強いと感じます。
近藤:投票も必死になりますね。誰をデビューさせるか戦略的に考えて投票したり。
間宮:公式が発注したらいくらかかるんだろう、というようなクオリティの応援動画を、愛の力だけで無償で制作している女性オタクもたくさんいます。そうした育成したいという気持ちに応えることも、ファンを巻き込む上では重要な視点だと思います。
近藤樺音氏
「分かってる」が鍵。ファンを熱狂させたプロモーション事例
──皆さんの熱量が伝わってきます。そうした「推し活」の経験を、どのように仕事に生かしているのでしょうか。具体的な事例を教えてください。
近藤:私はK-POPアイドルを起用した、ある商品プロモーション施策に携わりました。もともと局内で「K-POPアイドルが好きです」と公言していたところ、先輩から声をかけてもらい、施策に参加する機会をいただきました。
具体的には、Xでのローンチ投稿の内容を考えたり、Instagramの投稿タイミングを設計したりしました。ファンが最も盛り上がるタイミングを狙うことが重要だったので、例えばアイドルの誕生日の数字にちなんだ時間に投稿することを提案しました。
──それはファンならではの視点ですね。
近藤:はい。他にも、ファンにしか分からない文脈を盛り込むことを意識しました。K-POPアイドルには「ケミ」(ケミストリーの略。メンバー同士の相性の良さや、そこから生まれる化学反応を指す言葉)という概念があり、特定のペアにファンがついています。プロモーションでは、2人ならではのポーズを写真に取り入れてもらえたらファンは喜ぶだろうな、と考えたり。また、別の施策では、普段あまり見せない笑顔のカットを入れてほしい、とクリエイターの方にお願いしました。
──インサイトを分析する際は、ご自身の経験だけでなく、調査なども行っているのですか?
間宮:はい。最初の気づきは私たち個人のn=1の体験から生まれることが多いですが、クライアントに提案する際には、簡易的な定量調査などを行い、必ずデータで裏付けを取るようにしています。主観的な仮説を客観的なデータで検証するプロセスを大切にしています。
──施策の反響はいかがでしたか。
近藤:Xのトレンドに入るなど、大きな反響がありました。特にこだわった投稿時間については、最初は気づく人がいるか不安だったのですが、投稿を重ねるうちに「今日も待ってました!」「粋な投稿ありがとうございます」といったコメントが寄せられるようになり、とてもうれしかったです。別のプロモーションでは、商品が品薄になる店舗も出たと聞いています。アイドルご本人の力はもちろん大きいですが、私たちのこだわりがファンの熱量を高める一助になれたのかなと感じています。
間宮:私の場合は、クライアントのお悩みを聞く中で、「これは推し活のインサイトが使えるかもしれない」と提案することが多いです。特に若い世代に商品やサービスを知ってもらいたい、興味を持ってもらいたいといった案件の時に、推し活をする女子オタクインサイトを捉えた提案をして、実際施策につながることがありました。
例えば、ホーユーの案件では、Z世代にセルフカラーという行為自体に興味を持ってもらうことが課題でした。Z世代は美容院でカラーをすることが多く、そもそも、「セルフカラーなんて知らない」という人も多くなっているようで、セルフカラーという行動自体をもっと若い世代に知って興味を持ってもらいたいということでした。
そこで電通チームとしては、若者の日常のサイクルに自然に入り込むアプローチ戦略を提案し、その中の一つとして「推し活」接点での施策も行いました。具体的には、TikTokで人気のシンガーソングライター・AKASAKIさんとコラボし、「初めてセルフカラーをした時の体験談」をSNSで募集。そのエピソードを元にAKASAKIさんが新曲を制作するというキャンペーンを展開しました。
──ファンを巻き込む面白い企画ですね。
間宮:この施策の裏側には、「自分の投稿を推しに読まれたい」「自分の存在が推しに影響を与えていると実感したい」というファンのインサイトがありました。また、AKASAKIさんのような新進気鋭のクリエイターには、「自分が応援して育てたい」という親心のような気持ちを抱く、少し上の年代のファンもいます。そうしたインサイトも捉えた施策です。
キャンペーン期間中は、AKASAKIさんにインスタライブをしてもらい、集まったエピソードを読んだり、制作途中の楽曲を披露してもらったりして、ファンがリアルタイムで参加できる感覚を醸成しました。最終的に完成した楽曲「Kiss Kiss Kiss」はMV付きで公開されています。
──この施策の成果はいかがでしたか。
間宮:今回は商品の売り上げというより、セルフカラーの認知度や自分ごと化のスコアを指標として見ていたのですが、施策全体としてターゲット年代の「自分向きである」とするスコアを向上させることができました。
土生田夕香氏
「ただのファンでいたい」気持ちと、プランナーとしての視点
──好きなことを仕事にする上で、楽しかったこと、逆に難しかったことは何ですか?
近藤:楽しかったのは、自分がオタクとして普段から感じていることや、緻密に考察しているようなことを施策に盛り込めて、それが世の中から良い反響として返ってきたことです。「粋な投稿ありがとう」という感謝の言葉を目にできたのは、本当にうれしかったですね。また、若手ながらも自分の意見に裁量を持たせてもらい、クライアントの前で直接提案できたことも大きなやりがいでした。
難しかったのは、オタクの目は厳しいので、炎上しないように細心の注意を払わなければいけない点です。また、ファン目線では「絶対に盛り上がるのに!」と思うアイデアでも、タレントの所属事務所の意向で実現できないこともあります。そのバランスを取るのが難しかったですね。
間宮:私は、自分自身がオタクでありながら、常に一歩引いてオタクの人たちを俯瞰(ふかん)して観察しているようなところがあるので、その視点をクライアントの課題解決に生かせるのが楽しいです。オタク特有の複雑な感情を、プランナーとして“翻訳”し、クライアントとオタクの架け橋になれることにやりがいを感じます。
ただ、本音を言うと「本当に好きなコンテンツには、ただのファンとして関わりたい」という気持ちも少しあります。でも、もはや職業病で、推し活をしていても「このマーケティング面白いな」「このターゲットを狙ってこのコラボを始めたんだな」と考えてしまうので、これからは積極的に自分の好きなコンテンツにも関わっていきたいと思っています。
企業は「仲間」になれるか。オタクの心を動かすコミュニケーションとは
──推しが企業とコラボした商品やサービスに対して、オタクはどのような気持ちで購入しているのでしょうか。
土生田:私にとっては、グループの成長や知名度が上がったことを実感する機会になっています。誰もが知っているような商品とタイアップすると、今まで推しに興味がなかった人から「君の推し、CM出てるね」と声をかけてもらえて、「ああ、有名になったんだな」とうれしくなります。それが自分のアイデンティティの発露、つまり、自分がこの人の「オタク」であるということを周りにアピールできるきっかけにもなり、個性をアピールできている感覚を得られることにもつながりますね。
近藤:私も推しの成長を感じるという点には共感します。それに加えて、私の推しは男性なので、「推しと同じものを持つことでペアルック感を楽しみたい」という気持ちがあることに最近気づきました。憧れの女性アイドルのようになりたい、というのとは少し違い、同じものを持つことで、彼氏ではないけれど、それに近い感覚を味わいたいというマインドがあるのかもしれません。
間宮:私たち3人で議論した際にも、大きく2つの文脈があるという話になりました。一つは、今2人が話してくれたような「応援」や「布教」の文脈です。自主的にパトロンの役割を果たしたり、自分が広報塔になったりすること自体に満足感を得る。もう一つは、より潜在的なインサイトとして、「自分のアイデンティティの再確認」があるのではないかと考えています。商品を購入し、所有し、SNSで発信する一連のプロセスを通じて、「この人を推している私」という自己表現をしている側面もあると思います。
──そうしたインサイトを踏まえ、企業が推し活女子の心を動かすためには、どのようなポイントが重要になると思いますか?
土生田:ただタレントを起用してプレゼントキャンペーンをするだけでは、一時的な盛り上がりで終わってしまいます。重要なのは、企業側から「推しへの愛情」が感じられるかどうかです。推しの歴史や文脈を深く理解した上で企画が作られていると、「この企業は、ただ人気があるから起用したんじゃなくて、私たちと同じように愛を持ってくれているんだ」と感じます。そうなると、ファンは企業を「一緒に応援する仲間」とみなし、感謝の気持ちから長期的な購買行動につながるのだと思います。
近藤:そうですね。私たちの仕事は、商品とタレントの間に「文脈」を作り上げること。そのタレントのバックグラウンドやファンの間で語られているストーリーを徹底的にリサーチし、ファンが「分かってる」と感じるポイントを見つけ出す。その文脈を作り上げられるかどうかが、施策の成否を分けると思います。
間宮:自分たちにとって大切な存在である推しを、企業がリスペクトし、ちゃんと調べてくれている。そう感じさせることで、オタクは企業に対して仲間意識を抱きます。いかに「分かってる」と思わせるポイントを突けるか。それは広告をデザインするプランナーの役目であり、いち女子オタクとしてもプランナーとしても活動している私たちがお手伝いできる部分だと考えています。