カテゴリ
テーマ

「好き」を力に、異色コラボを設計する。スト6×ドリエル「SLEEP FIGHTER」

松本 脩平

松本 脩平

株式会社 カプコン

高津戸 祐貴

高津戸 祐貴

株式会社 電通

「好きを力に仕事をする」をテーマに、社員の個人的な関心や情熱を起点に活動する、電通の社内プロジェクトや人を紹介する本連載。

今回は、ゲームソフトメーカー・カプコンの「ストリートファイター6」と、エスエス製薬の睡眠改善薬「ドリエル」の異色コラボとして話題を呼んだeスポーツ大会「睡眠計量e-SPORTS CUP<SLEEP FIGHTER>Supported byドリエル」をピックアップ。仕掛け人であるカプコンのプロデューサー・松本脩平氏と電通の高津戸祐貴氏に、「好き」を力に仕事をすることの可能性を伺いました。

「睡眠計量e-SPORTS CUP<SLEEP FIGHTER>Supported byドリエル」
2024年8月に第一回が開催されたeスポーツ大会。人気ゲーム配信者がチームに分かれて「ストリートファイター6」で対戦。出場者に「睡眠計量」を義務づけ、基準に満たない場合は減点のペナルティを科すルールを導入。第一回大会は、総配信視聴数は479万回(※)、SNSでの発話数は約5945万インプレッション。第二回大会は、709万回(※)、約8981万インプレッション、UGC動画投稿数は50本以上、570万回以上再生を記録し大きな話題となった。

※関連事前配信、本番配信の合算数値


 


高津戸氏が、ストリートファイターを「好き」になった理由

──今回は、高津戸さんの「好き」がどのようにエスエス製薬の仕事につながっていったのか、そして松本さんが、ご自身の「好き」をどう仕事に生かしているのかを伺います。まずは普段のお仕事の内容を教えていただけますか。

松本:カプコンで「ストリートファイター」シリーズや、対戦格闘タイトルのプロデューサーをしています。2012年に中途入社をし、当初は開発人事部門で、制度や人事施策を開発部門に展開する役割でした。2016年に異動して「ストリートファイター」のアシスタントプロデューサーを務めるようになり、2017年頃から本格的にメインで担当しています。直近では「ストリートファイター6」(以下、スト6)のプロデューサーを担当しています。

──ゲームのプロデューサーとは、どのようなお仕事ですか。

松本:会社やタイトルによって異なるかもしれませんが、僕は「誰に、どんな体験を届けるのか」を定め、ディレクターと一緒に企画の骨子を作ります。その上で予算を確保し、マーケティングやプロモーションの土台を設計し、社内外のチームに方針を共有して進めていきます。実際の制作はディレクターと開発チームが担いますので、私はそれ以外の全体設計と推進にまつわる“なんでも屋”のような役割です。

高津戸:松本さんはもともと、商社に勤めていたんですよね?

松本:はい。前職は商社の営業で、ボルトやナットといった締結部品を扱っていました。お客さまのニーズ・課題に応じていろんなメーカーの商品を提案する仕事だったのですが、メーカーの担当者と同行営業をした時に、その方の自社製品に対する「熱量」の高さを目の当たりにして。やはり自分ごとにしないと、さらなる熱量が入らないと感じ、メーカーに行きたいと思うようになりました。カプコンは転職活動で出合ったメーカーのうちの一つです。

 

高津戸:私は電通でメディアマーケティングやメディアプランニングを主とした統合マーケティングプランニングを担当しています。マスからデジタルまでのリーチや態度変容のデータをもとに、統計的アプローチで最適な予算配分を設計し、クライアントの事業PDCAが回るようKPI設計・管理を行うのが主務です。

今回のエスエス製薬ドリエルの案件では、これまで携わってきたインフルエンサー施策の知見を生かして企画を担当しました。結果的に、「スト6」を活用したイベントフォーマットを立ち上げ、自分の「好き」=ゲームを仕事につなげることができました。

──そもそも、高津戸さんのゲームとの出合いは?

高津戸:2〜3歳からです。家族でスーパーファミコンの「ドンキーコング2」を遊んでいるときに、幼いながらも「やらせて」と言って難所をクリアしていたらしくて(笑)。それ以来、据え置き型はほぼすべて買ってもらって、兄や友人と対戦するのが日課でした。

──ストリートファイターシリーズも、ずっとプレーを?

高津戸:と思われがちですが、実は格闘ゲームはやっていなくて、「スト6」が初めてでした。好きな配信者が参加する大会をたまたま見たときに、画面越しでも伝わる熱量に感動して、「やってみたい」と思ったのがきっかけでした。

──「スト6」のどこに魅力を感じたのでしょう。

高津戸:正直、昔から格闘ゲームにはハードルの高さを感じていました。複雑なコマンド入力、専用コントローラー、独特のゲーセン文化など……。でも、「スト6」は違いました。最初にハマったのが、大会の「ドラマ性」。私がよく見ていた配信者の方が、普段は強いのに先述した大会では本気で緊張していました。練習に練習を重ねてきた参加者たちのストーリーと、本番で勝敗が決まるというドラマ性に、見ているだけで胸が熱くなりました。

そして、ゲーム自体の「入り口の広さ」も魅力です。「スト6」から必殺技を簡単に出せる「モダン操作」を導入したことで、参入のハードルがぐっと下がりました。それでいて、やり込むほど上達する奥深さもあります。私もいいコントローラーを買って、仕事後に練習して、その努力が報われることが楽しくて。友人に「30歳で青春できている」と話したくらい、まさに部活みたいに熱中しています。


──松本さんも、昔からゲームが好きだったのですか。

松本:ゲームがうまいタイプではなかったので、実はプレーするのはそこまで好きではありませんでした。ただ、世代的に「ストII」ブームの真っただ中。駄菓子屋やデパートのゲームコーナーで遊ぶような、カジュアルな接点は常にありました。どちらかというと、ハマったきっかけは「キャラクター」なんです。リュウ、ケン、ガイルといった個性的なキャラクターの設定や物語が好きで、ゲームを通じて世界観を知っていくのが楽しかった。そういうのもあり、ストリートファイターシリーズはずっとプレーしてきました。



「スト6×ドリエル」の異色コラボ。自然に「好き」が広がる設計が成功のカギ!

──「睡眠計量e-SPORTS CUP<SLEEP FIGHTER>Supported byドリエル」の企画がどのように生まれたのかを教えてください。

高津戸:私自身、ずっとインフルエンサー施策に関わってきたのですが、「#PR」を付けた一方向の広告的アプローチに課題を感じていました。そんなときに、好きな配信者の生配信で、案件ではなく自発的にスキンケアや睡眠の話をしている場面に出合って。視聴者のコメント欄に共感が生まれているのを見て、「自然に熱量高く語りたくなるような場をつくりたい」と考えました。

配信者はゲームとの親和性が高く、私自身もゲームのことを知っているので、「配信者×ゲーム」の組み合わせで企画の軸を立て、いくつかの提案を用意しました。社内でこの可能性を信じて背中を押してくれた先輩方の支援もあり、ドリエルさまへの提案の機会をいただけたんです。結果として高く評価していただき、2024年、2025年と2年連続での開催につながりました。

──エスエス製薬から「配信者×ゲーム」という切り口の依頼があったわけではないのですね。

高津戸:はい。エスエス製薬の睡眠改善薬「ドリエル」では、「挑戦しよう、まず寝よう」のコピーのもと、積極的に良質な睡眠を取ることで、日々の生活や人生が豊かになることを応援する「能動睡眠プロジェクト」を立ち上げています。そのキャンペーンの一環で、インフルエンサー施策を検討する中の一案として提案しました。

企画を考える際、「睡眠×パフォーマンス」をどう翻訳するかを考え、スポーツやビジネス、美容のような王道の文脈ではなく、あえて寝ない人たちを主語にすることにしたんです。ゲーマーは本当に寝ないですから(笑)。寝た方がいいことは分かっていても、寝ないことで得られる楽しさや、目の前の楽しい時間や練習したいという気持ちを優先してしまって、睡眠をおろそかにしがちなんです。だからこそ、そこに「睡眠」というテーマを持ち込んだときの納得感が大きいと思いました。

エスエス製薬が開発した、世界初の寝不足体感コントローラー「NEBUCON(ネブコン)」。寝不足時のパフォーマンス低下をゲームコントローラーの操作で実感できる。


──企画が通ってから、カプコンとはどのように連携していったのでしょうか。

高津戸:IPホルダーのカプコンさんに許諾と監修を依頼することになるのですが、企画自体が業界的にも異色で「色物では?」という声もあったので、正直ビクビクしながら提案しました。ところが、「ストリートファイター」チームからはとても前向きな反応をいただけて、好きなものを対象にした企画が“本家”の皆さんにも面白いと言ってもらえたことが、大きな追い風になりました。

松本:第一印象は「めっちゃオモロい!」。そして、面白いだけでなく、ドリエルという製品や睡眠というテーマ、そしてストリートファイターの大会という各要素のつながりや設計が絶妙で、非常によく作り込まれていると感じました。企業が関わるイベントは世の中に多いですが、いい意味で「普通じゃない良さ」がありました。

──企業×eスポーツの企画は珍しいのでしょうか。

高津戸:協賛やスポンサードは多い一方、ブランドの世界観を大会フォーマットそのものに埋め込む例は少ないと感じていました。だからこそ「事前に睡眠時間や睡眠スコアを測定した上で当日に挑む」というドリエルの世界観を踏まえたルール設計にしました。

松本:「スト6」のマーケティングにおいても、「#PRで一度だけ配信して終わり」にはしたくない、というマインドが根底にありました。配信者が素で遊び続けたくなるような状態を作るのが理想。その点で高津戸さんの設計や思想が一致していると思いました。

高津戸:大会という目標を置くことで、参加者がそこに向けて練習するだけでなく、能動的に良質な睡眠にも取り組む。プロモーションの一環ではありますが、参加者たちの「頑張り」の動機づけになる構造にしました。

──当日の現地観戦やオンライン配信、アーカイブも含めて、多くの方が視聴されたと思います。エスエス製薬からはどんな反応がありましたか。

高津戸:特に驚かれていたのが、コミュニティの温かさです。格闘ゲーム界隈は新規の方もスポンサーも迎え入れるので、「ドリエルありがとう」といったコメントが自然に流れてくる。そこに感銘を受けている様子でした。会場の熱量やポジティブな雰囲気、反響の大きさにも驚かれていました。

そして、ドリエルというブランドや「能動睡眠プロジェクト」に自然と意識が向くような工夫もした結果、追っていた指標(言及・態度変容)でも成果を確認できました。

松本:自然な導線設計がうまいと思いました。会場にはベッドを設置し、控え選手はそこで待機したり、プレーヤーがパジャマを着ていたり。睡眠というテーマが無理なく画面に入ってくる。ルール設計も秀逸で、大会の一週間前から参加者は睡眠時間や睡眠スコアを計測し、良質な睡眠がとれているほど有利になる。当日までの各参加者の配信を通じて、ファンたちは「ちゃんと寝なくて大丈夫?」と心配したり、もしくは、「ちゃんと寝ながら練習して頑張っている」と応援したりできるので、試合前から楽しいんです。

高津戸:大会そのものだけでなく、本番までのドラマを作りたかったんです。配信者は練習と睡眠に向き合う姿を配信し、ファンはそこに共感しながら見守る。そのプロセスを通じて、大会当日に向けて配信者とファンが一緒に走っているような感覚を得られます。

松本:チーム練習もあるので、部活のような連帯感が生まれます。その過程で視聴者は今まで知らなかった参加者の人柄を知り、推しが増える。本番をより楽しめる状態が、事前にできあがるのが良いところですね。

高津戸:結果として、ドリエルも「スト6」も、さらには配信者への関心も広がっていく。自然にいろんな「好き」が広がる設計にできたと感じています。



「好き」だけで終わらせない。企画側に必要なマインドとは?

──そこまでファン心理を捉えて作り込んだ設計や、プロジェクト推進力の源泉には、高津戸さんの“スト6愛”が大きくあるのでしょうか。

高津戸:もちろん、原動力にはなっています。ただ、忘れてはいけない視点もあると思っています。好きなものを誰かに勧めたくなる気持ちは確かに背中を押しますが、一方で企画する側のマインドを持つことが欠かせません。

大学時代、親友に「テーマパークが好きだからって、その運営会社に入社できるとは限らない。そのままファンでいてくれる方が会社にとってはありがたい場合もある」と言われたことがずっと頭の片隅に残っていて。だからこそ、自分の「好き」をただ詰め込むだけの企画は作らないように気をつけています。どうすれば他者が好きになるかを丁寧に設計する。かつて自分も、その仕掛けによって好きになった側ですから、好きに至る導線をきちんと考えることを大切にしました。

「好き」は物事を前に進めるエンジンになりますが、エゴを詰め込むことは違う。ビジネスとして、そして好きになってもらうための仕掛けとしての線引きを意識してきました。

松本:めちゃくちゃ大事なポイントですね。僕も、相手の感情や行動がどう動くかを考え抜かない限り、ものは広がらないと常々思っています。高津戸さんのプランは、その視点が最初から入っていた。だからこそ面白さに「深み」があると感じたんです。根っこは同じで、好きだからこそ「自分はなぜ好きになったのか」「相手はどう感じるのか」までセットで考える。それができるから、この企画をきちんと提案できたのだと思います。

高津戸:好きだからこそ、好きになるきっかけを大切に作れたと考えると、好きなものに関われて本当に良かったと感じています。


──以前、この連載に登場していただいた方に取材したときも、「好きは仕事ではなく、趣味として取っておきたい」という声もありました。

高津戸:私自身は、「好きそのものを仕事にする」のか、「好きを使って仕事にする」のかを分けて考えています。電通の業務においては後者、好きなものをレバレッジにしてクライアントの課題を解く関わり方ができます。今回それをやってみて、むしろもっと好きになれた実感があります。「スト6」とドリエルをより多くの人に好きになってもらえる設計を施して、実際に広がっていくのを目の当たりにできた。関わったメンバーの輪も自然に広がって、「面白いからやりたい」と言ってくれる関係者や協力者が増えていく。そんな幸福の連鎖がありました。

──ゲーム業界でも「ゲームが好きだから働きたい」という若手は多いと思います。

松本:携わり方によって、「好き」の磨き方は違うと思います。プログラマー、デザイナー、サウンドのような専門職は、まずは一点突破でとがることが重要です。ただ、そこに周辺領域のアンテナを少しでも立てると、発想の幅が一気に広がると思います。プロデューサー志向なら、なおさら好奇心の射程を広く持つことが大事です。例えば、自分が好きじゃないものでも「なぜはやっているのか」「自分はなぜ好きになれないのか」を言語化してみる。他者の気持ちに近づく訓練を重ねると、いろんなタイプの人へ届くアプローチが見えてきます。

加えて僕の場合は、前職の営業経験が役立ちました。開発チームが作った面白いゲームを、どうすれば多くの人に遊んでもらえるかを考え抜く。プロデュースやブランディング、マーケティング、プロモーション側の職能には、そうした視点が不可欠だと感じています。

高津戸:「好き」は核であって良いと思うのですが、それを突き詰めるのか、その周辺を見渡して橋渡しするのか。仕事にする際は、その二つのスタイルを自覚して選ぶことが大切だと思います。



裾野は広く、奥行きは深く。一人一人の「好き」を肯定する

──「好きを力に変える」には、突き詰める視点と、周辺を見渡す視点。両方あると良いのでしょうか。

松本:そう思います。そのプロセスを通じて、より「好き」になれると思いますね。先ほど申し上げたように、僕自身はもともとゲーム全般が大好きというタイプではありませんでした。理由はシンプルで、難しいから。「ストリートファイター」シリーズもプレータイム自体はけっこう長いと思うのですが、うまく操作できなくて、悔しくて頭打ちしてしまう。そんな自分がいました。

でも、そこから俯瞰(ふかん)してみると、きっと同じように感じる人は必ずいるはず。そう考えてディレクターと話し合い、「スト6」ではモダン操作を導入しました。これは決して初心者向けの簡易モードではなく、裾野は広く、奥行きは深くすることを心がけています。結果として、プレーを続けてくれる人が増えた。ブランドが長く愛されるための「好き」の受け皿を広く作れたと思っています。

高津戸:今の話を聞いて思ったのが、「好き」=うまい、ではないということ。私も決して上手なプレーヤーではないですが、ゲームは大好きです。「ストリートファイター」シリーズも企画を立ち上げた時点ではプレーしていませんでしたが、それでも大会を見ることが好きで、確かな感動があって、そこから仕事につながった。

松本:めちゃくちゃ分かります。好きのかたちは一つじゃないんですよね。「ストリートファイター」シリーズで言えば、「プレーするのが好き」「世界観やキャラクターが好き」「試合を見るのが好き」「イラストを描くのが好き」「コスプレするのが好き」etc.といった人たちがいます。どの「好き」が多い/少ないではなく、どれも等しく本当に大切な方々です。だからこそゲームデザインもブランドとしての情報発信も、それぞれの「好き」を肯定することを意識しています。

 

高津戸:まさに、私の場合は「試合を見るのが好き」から入りました。そこからプレーの楽しさにも広がった。大切なのは、「自分は何のどこが好きなのか」を見つけることだと思います。カメラが好き=上手な写真を撮れる、料理が好き=一流の腕前、ではない。対象のどの要素に引かれているのかを起点にすれば、好きの範囲は自然に広がるはずです。

松本:ゲームメーカーとしては、もちろんゲームを遊んでくれたらうれしいです。ですので、入り口はできる限り広くしたいんです。それぞれの「好き」が肯定されるから、コミュニティが育つ。結果として、ブランドも長く愛されていく。そのように考えています。

この記事は参考になりましたか?

この記事を共有

著者

松本 脩平

松本 脩平

株式会社 カプコン

「ストリートファイター6」プロデューサー。2012年にカプコン中途入社。元々はボルト/ナットなど締結部品の商社営業マン。現在、「ストリートファイター6」、およびカプコンの格闘タイトルのプロデューサーを担当。メディアにも積極的に出演し、タイトルを盛り上げている。HipHop音楽と辛い物が好み。

高津戸 祐貴

高津戸 祐貴

株式会社 電通

コネクションプランニング部 統合マーケティングプランナー。メディアプランニングを中心とした、マスメディアからデジタルマーケティングまで、幅広い領域のなかで、戦略立案から個別施策の企画、PDCAフレーム構築やデータ分析のディレクションなどを実行する統合マーケティングプランナー。電通デジタルの出向経験もあり、ブランディングもダイレクトもプランニング可能。PR AWARDやAD FESTなどの広告賞を受賞。

あわせて読みたい