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「好き」を力に~「BUKATSU」始めます!No.4

「好き」を力にすると、どんなことができる?~カレー研究家・一条もんこ先生と、スパイス部の挑戦

2025/09/25

「好きを力に仕事をする」をテーマに、社員の個人的な関心や情熱を起点に活動する、電通第2マーケティング局(以降、第2MK局)のプロジェクト「BUKATSU」。今回は、カレーやスパイス料理に興味を持つメンバーが集まった「スパイス部」の部長・沼田実伽子氏に話を聞きます。

いまでは社内外を巻き込む活動へと広がりを見せているスパイス部。同部と一緒にお仕事をされている縁深い存在が、カレー研究家の一条もんこ氏です。沼田氏と一条氏の対談を通して、「好き」を突き詰めることが、どのように仕事や人生を動かしていくのかを深掘りします。

一条もんこ



 

カレーとスパイスに魅せられて

──まずは、一条先生のお仕事を教えてください。

一条:私は「カレー研究家」と「スパイス料理研究家」、2つの肩書きで活動しています。月40回ほど料理教室を開いていて、これまでに累計1000人を超える生徒さんが学ばれました。他に、レトルトカレーや飲食店の商品開発をしたり、食品メーカーの公式レシピを考案したり、地域の町おこしやイベントにも携わっています。横須賀や出身地・新潟のカレー大使も務め、とにかくカレー漬けの日々です(笑)。

──スパイス料理研究家になった経緯は?

一条:私は田舎育ちで、ほぼ自給自足のような環境だったこともあり、小さいころから料理をするのが好きでした。中でもカレーは、同じレシピでも作る人によって味がまったく違う。その奥深さに魅了され、学生のころには「カレーを仕事にしたい」と思うようになりました。

独立するまで、フレンチやイタリアン、インドカレー店、大手カレーチェーンなどなどいろいろな飲食店で修業をして、10年以上経験を積みました。その中で「人に教えるのが好き」という自分の特性にも気づき、料理教室の先生という道に強く引かれていきました。

特に憧れていたのが、フレンチとイタリアンを中心に、さまざまなジャンルの料理を教えている、料理研究家の川上文代先生です。「料理を教える立場なら、あらゆるジャンルの料理を知っていなければならない」という、学びに対する貪欲な姿勢を持ち、「決めたことは絶対にやる」という信念や自分を信じる強い気持ちのある先生で、私が思い描く理想の姿を体現されていました。実際に先生のもとで調理アシスタントとして多くのことを学ばせてもらい、大変貴重な経験になっています。そして、2020年、ようやく自分のスタジオ「Spice Life」を構えて、スパイス専門の料理教室を本格的にスタートさせました。

沼田:一条先生の料理教室は本当に大人気で、現在、約300人の生徒さんがアクティブに学ばれているんですよね。もう年末の予約まで埋まってしまうほどです。

一条:教室は少人数制で、生徒さんとの距離がとても近いんです。ただ料理を学ぶだけではなく、スパイス料理を食べながらコミュニケーションを楽しむ場にもなっています。下積み時代からずっと思い描いていた仕事なので、水を得た魚のようにアウトプットできるこの環境が、本当に楽しくて。これまでたくさんインプットを重ねてきたので、今は教えることが何よりの喜びです。

一条もんこ

──沼田さんの普段のお仕事とスパイスとの出合いについて教えてください。

沼田:私はマーケティング・コンサルタントとして、メディア領域を中心に、大手通信キャリアやグローバル企業などのキャンペーンの立案や、実施後の効果検証などをするのが主な業務です。

私には10歳年上の姉がいるのですが、姉のパートナーは、私が小学生のころから面倒を見てくれてお兄ちゃんのような存在でした。彼が私をスパイスの世界に誘ってくれたのです。彼はエスニック料理好きで、インド料理店やタイ料理店によく連れて行ってくれました。家では食べたことのない刺激的なスパイス料理にたくさん出合い、どんどんスパイスの魅力にハマっていきました。

──飲食店や食品メーカーなど、スパイス関係の仕事に就こうと思わなかったのですか?

沼田:当時は「好きなこと」と「仕事にすること」は別だと思っていましたし、スパイス以外にもいろんな分野に興味があったので、幅広く知見を広げていきたいと考えていました。だからこそ、今の仕事を選んだのだと思います。

──現在は、BUKATSUのスパイス部の部長を務めていますが、スパイス部を立ち上げた経緯を教えてください。

沼田:私は電通の第2MK局に所属していて、当局には局員が自己紹介や趣味・特技などを書く「プロフィールシート」があります。その中の「好きな食べ物」の欄に、「カレー」と書く人がすごく多くて。それを見た先輩が「みんなでカレーランチに行こうよ」と声をかけてくれたんです。

いざ集まって話してみたら、みなさんカレー愛がすごくて、話がとても盛り上がりました。しかも、みなさんカレーだけでなくスパイス全般が好きなことが分かったんです。これだけスパイスに熱量を持った人がたくさんいるなら、一緒に活動すれば、スパイスの新たな楽しみ方を見つけたり、スパイスの魅力を多くの人に伝えたりできるかもしれない。そう考えて、2024年にスパイス部を立ち上げました。現在は十数人のメンバーで活動しています。

沼田実伽子


 

ファンから“共創する仲間”へ。「好き」を軸に信頼関係を築く

──スパイス部を立ち上げた後、一条先生とはどのように出会ったのですか?

沼田:実は、一条先生との出会いはスパイス部よりもずっと前なんです。2020年に先生がカレーの料理教室を始めるという投稿をSNSで拝見して。すごく行きたかったんですが、すでに募集が締め切りになっていました。でも諦めきれずにダイレクトメッセージを送ってみると、運良くキャンセルが出たタイミングでご連絡をいただいて。それが最初のご縁でした。

──そのときは、お仕事ではなくプライベートでの参加だったんですね。

沼田:そうです。まだスパイス部もないですし、一人のファンとしてレッスンを受けに行きました。

一条:(沼田)実伽子ちゃんが来てくれたのは、たしか料理教室を始めて2カ月後くらいのタイミングだったと思います。最初に立ち上げたとき、ありがたいことに数百人単位で応募が来て、すぐに募集を締め切ったんです。それでもわざわざ連絡をくれたことがすごくうれしかったんですよ。空きが出たら絶対に来てほしいと思っていたのを覚えています。

──現在は一緒にお仕事をされているんですよね。どういう流れでお仕事につながっていったのでしょうか?

沼田:頻繁にレッスンに通うようになり、あるときから先生のイベントのお手伝いもするようになりました。徐々に関係性が深まっていく中で、2024年に私がスパイス部を立ち上げる話をした時に、「何か力になれることがあれば手伝うよ」と言っていただいたんです。

一条:私は基本的に全部一人でやるタイプで、イベントも仕込みから当日の運営まで自分で完結させることが普通でした。でも実伽子ちゃんは空気感が合うというか、自然と頼れる存在だったんですよね。初めてお手伝いしてもらったのが、吉祥寺のカレーフェスティバル。そのときにアシスタントをお願いしてみたら、想像以上にがんばってくれて。

一条もんこ
一条氏が出店した、吉祥寺のカレーフェスティバルでの一コマ。

──頼ってみて、手応えを感じました?

一条:めちゃくちゃ感じました。むしろ、自分が変わるきっかけにもなったんです。今までは人にお願いするのが苦手だったんですけど、やってみたらこんなに楽しいんだって思えた。かつて私が川上文代先生のアシスタントとして学んでいたころの、あの“キラキラした自分”を、今の彼女に重ねているところもあるかもしれません。娘のような、妹のような、そんな存在です。

──沼田さんは、お手伝いを電通社員としてではなくプライベートでやっていたんですよね?

沼田:そうです。私も一条先生をお姉さんのように思っているので、「お姉ちゃんが困っているなら助けたい」という気持ちと、カレー業界を一緒に盛り上げたいという思いでお手伝いしていました。引き続きレッスンに通いながら、カレーのイベントをお手伝いするという日々が何年か続いて。そんな中でスパイス部が創設されました。

スパイス部の立ち上げ時に社内でオンラインイベントをやることになり、そこで初めて先生にご協力いただいたのです。オフィスと料理教室をオンラインでつなげて、バターチキンカレーとチーズナンの作り方を教えていただく社内向け料理教室を実施しました。

スパイスで社会課題解決!?広がるスパイス部の活動

──現在、スパイス部は先生とどういった取り組みを進めているのでしょうか?

沼田:まだ種まき段階のプロジェクトが多いのですが、その中でも一番大きいのが「日本シーフードカレー協会」の立ち上げ準備です。

──日本シーフードカレー協会……ですか?

沼田:はい。ホフディランの小宮山雄飛さんという、カレー好きで有名なアーティストの方がいらっしゃって、その方から「カレーで食の社会課題を解決できるんじゃないか」というお話をいただいたのがきっかけです。というのも、ここ20年ほどで日本の魚介類の消費量が激減し、その影響で漁獲しても消費されずに廃棄されてしまう魚が増えているんです。これはフードロスの観点からも大きな課題だと感じています。

そこで、みんなが大好きなカレーと魚介を組み合わせて「シーフードカレー」という形で再注目してもらうことで、魚の消費促進にもつなげられるんじゃないかと。情報発信やイベントなどを通じて、そうした流れをつくろうとしています。

一条:もともと小宮山さんとは、カレー業界で長くご一緒してきた仲です。その彼と会話する中で、シーフードカレーってなかなか主役になれない存在だけど、実はとても可能性がある。その価値をもっと広めたいという話になり、私たちカレー業界の人間だけで伝えるのではなく、ちゃんと形にして協会として発信しようと考えました。そして、「この動きを広げていけるのは実伽子ちゃんしかいない」と思い、彼女に事務局長をお願いしました。

──具体的にはどんな活動を?

一条:たとえば、先日は巨大なサザエを丸ごと使ったシーフードカレーを作って、YouTubeで配信しました。

画像をクリックすると動画がご覧いただけます

一条もんこ
一条:エンタメ要素も強いのですが、「こういう食材もカレーになるんだよ」という可能性を感じてもらえるきっかけになると思って。今後は自治体やご当地食材とコラボして、新しいシーフードカレーの形を提案していけたらと考えています。

──スパイス部として、企業との仕事は他にもありますか?

沼田:進行中の案件はありますが、まだ世に出ていないものが多いです。たとえば、食品メーカーから「近年では、レトルトカレー市場がルゥ市場を抜いたという背景もあり、若年層を中心に自宅でカレーを作る人が減少しているという課題にどう向き合えばいいか」といったご相談をいただくことがあります。そういった課題に対して、「どんな価値観や表現が今の若者に響くのか?」という視点で提案をしています。

それ以外にも、社内のほかのチームや営業担当から「スパイス部の知見を借りたい」と相談されることもあります。そうした横の連携も活用しながら、スパイス部の活動の幅を徐々に広げています。

沼田実伽子


 

好きだから、「疲れた」じゃなくて「やりきった」に変わる

──今回のテーマでもある「好きを力に仕事をする」という考え方について、どのように感じていますか?

沼田:私はもともと、仕事を通して新しい世界を知ることにやりがいを感じていたんです。電通では幅広いジャンルの案件に関わる機会が多くて、それまではまったく接点がなかった分野を知ることができる面白さがあります。

その一方で、自分が好きな「スパイス」というテーマに向き合うようになってから、いままでとは異なるエネルギーの使い方をしていることに気がつきました。無理難題にもチャレンジできるし、好きなことを仕事にすることって、こんなにも原動力になるんだなと実感しています。

それから、私にとっては当たり前だった知識が、他の人にとっては新鮮に感じることもあるのだと知りました。たとえばカルダモンというスパイスの話をしたときに、「どうやって使うの?」「どんな効能があるの?」といろいろ質問されて、私が持っている知識って、人の役に立つものなんだなって。そうやって自分の「好き」が価値になるというのも、大きな気づきでした。

BUKATSU
上から時計回りに、カレーリーフ、シナモン、メース、チリペッパー、クローブ、カルダモン。中央はスターアニス。

──スパイス部の他のメンバーの取り組みを見ていて、好きを力に仕事をすることの魅力をあらためて感じることはありますか?

沼田:スパイス部にはインドに駐在していたメンバーもいれば、スパイスの効能をダイエットに取り入れている人もいます。みんなアプローチが違っていてすごく面白いですし、年齢や性別も多様で、新入社員から部長まで役職も関係なくいろんな意見が飛び交う。それぞれの得意な分野や視点があるので、「若年層のカレー離れ」をテーマにブレストしたときも、いろんな角度からアイデアが出て、すごく刺激的でした。

しかも、普段の会議だと売上目標やKPIなどの数値を念頭に議論しますが、スパイス部の打ち合わせでは「いかに楽しくこの会議を終えるか」をゴールにしています。だからこそ、より自由に、フラットに話ができる。「スパイスをどうやったら好きになってもらえるか?」ということを、純粋に考えられる場になっています。

──先生は、好きを力に仕事をすることの意義をどう考えていますか?

一条:私は昔から“カレーで生きていく”と決めていました。でも最初は、めちゃくちゃ反対されましたよ。「カレー専門の料理研究家で生活できるわけない」と、誰にも賛同してもらえませんでした。でも、前例がないなら自分で作ればいいと思って、とにかく修業を重ねて、どんな料理の質問にも答えられるようにいろんなジャンルを学んで、下積みを重ねました。好きなことを仕事にするために腹をくくって、覚悟を持って進んできた感じです。

ありがたいことに、4年くらいほとんど休まず働いていたこともありますが、それがつらいと思ったことは一度もありません。仕込みも洗い物も、全部楽しい。「今日は仕事だから嫌だな」っていう感覚が一切ないんです。これはすべて好きからはじまったからこそできたことだと思います。

沼田:分かります。普通だったら「疲れたな」って思うようなことでも、「がんばったな」に変わるんですよね。

一条:そう。身体的には疲れても、精神的には全然疲れない。むしろ、やりきったっていう爽快感がある。好きっていうのはパワーなんです。やらされていることじゃなくて、自分の意志でやっていることだから、全部がプラスに働く。好きというか、もはや愛ですよね(笑)。

一条もんこ


 

スパイス料理をもっと身近な存在に。そしてスパイスで世界を幸せに♡

──スパイス部としての活動を続けていく中で、社内外からの反応はいかがですか?
 
沼田:最近は「スパイス部、楽しそうだね!」って声をよくかけてもらいます。BUKATUの中でも活動頻度が高く、部員数も一番多いので、注目される機会が増えてきたのかなと感じています。だからこそ、今後はもっと社内外に輪を広げて、「好きを力に仕事をする」を象徴するような存在になれたらうれしいです。

──先生が今後チャレンジしたいことを教えてください。

一条:今は“自分の城”(常設の料理教室)を持てたことで、大きな目標の一つは達成した気持ちもあるのですが……。最近、家電量販店とコラボしてレトルトカレーを販売したら、想像以上に反響がありました。カレーって、実は異業種とのコラボレーションにすごく可能性があります。

たとえば、音楽イベントとのコラボや、ライブグッズとしてのカレーの監修、プロレスラーのカレーを開発したこともあります。私は裏方として監修するのが得意なので、名前が出なくても“おいしいカレーを仕込む影武者”のように、世の中のカレーを全部おいしくしていきたいなと思っています(笑)。

沼田:私が楽しみにしているのは、今後スパイス料理がもっと当たり前の存在になっていくことです。最近だと、ビリヤニがコンビニで売られるようになっていたり、専門レシピ本が続々と出ていたりして、「え、こんなに身近になってきたんだ!」って驚く瞬間があります。先日、あるイベントをお手伝いさせていただいたのですが、某有名店のビリヤニが何と5時間待ちになっていて、徐々にメジャー料理になりつつあるのだと実感しました。

一条:実は10年くらい前、私もビリヤニ専門店で働いていたことがあったんですけど、そのころはまったく浸透していなくて、残念ながらお店も1年半で閉店してしまって。でもいまではコンビニに並ぶようになって、やっと時代が追いついてきたなという感覚があります。

コロナ禍でおうち時間が増えたこともあって、一時期スパイスへの関心がグッと高まりましたよね。今は、料理以外に時間を使う人が増えたことから、スパイス市場はやや停滞していますが、コロナ禍を経てスパイスに対する苦手意識は着実に減り、日常的な存在になっています。だから、ビリヤニブームのように、スパイス料理が市民権を得ていく事例は今後も増えていくと思います。

沼田:楽しみですね。スパイス部としてもその変化の兆しを捉え、一条先生のお力も借りながら、スパイスの魅力をもっと社会に広めていきたいです。

一条もんこ

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