loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

データから読み解く訪日中国人旅行者のリアル2025No.4

訪日中国人旅行者を中国最大のライフスタイルSNSのデータからひもとく

2025/09/11

訪日中国人旅行者のリアル④

日本政府観光局(JNTO)のデータによれば、2025年6月の訪日観光客は約338万人 。特に夏休みシーズンは例年海外からの旅行客が最も多い時期であり、皆さんの生活圏の中でもその姿を目にする機会が多かったのではないだろうか。また今年は大阪・関西万博の開催により、さらにその数は増えることが見込まれている。中でも4分の1近くを占める中国からの観光客は規模だけでなく、消費力などから常にインバウンド・マーケティングの有力なターゲットとなってきた。

しかし新型コロナウイルス大流行による断絶を経て中国の状況も変わり、電通GBC(グローバル・ビジネス・センター)の調査からは「旅マエ・旅ナカ・旅アトの境の曖昧化」など、旅行マインドの変化・深化が浮き彫りになった。それによって行き先、アクティビティ、求めるものなども大きく「多様化・複雑化・臨機応変化」しているのが現状だ。

同調査から浮かび上がった変化の一つが、日本では今まであまり目にすることのなかったアプリ「rednote(中国名:小紅書)」の存在感だ。訪日中国人旅行者に対して行ったヒアリングでも口々に「旅マエ・旅ナカ・旅アト」すべてで「rednoteを活用している」と話してくれた。そこで今回、電通とrednoteの運営会社は、双方が持つ知見とデータを持ち寄り、組み合わせることで、訪日中国人旅行者にアプローチするための手掛かりを探った。

■rednoteとは?
rednoteはMAU(月間アクティブユーザ)3億以上、中国最大のライフスタイルアプリ。特徴はInstagramやPinterestに近い写真・動画を中心にテキストを添えるUI形式と、TikTokのように超強力なアルゴリズムに基づくレコメンデーション。海外旅行だけでなく、ファッション、話題のスポット、グルメなど、トレンドに敏感な中国の特に若者によってなくてはならない存在になっている。
 
rednoteとは?

 

ビッグデータから見えてきた訪日客のリアル

今回入手したのは2024年に日本を訪れたことがあるユーザの検索、閲覧行動のビッグデータ。ヒアリングなどと違い、ビッグデータは「実際の行動」の蓄積であり、言葉にならないような細かい行動やホンネまでも明らかになる。

まずrednoteユーザ全体と、その中の日本旅行者の違いを見てみよう。デモグラフィックで見ると、rednoteは女性の比率が高いプラットフォームだ。その中でも日本旅行者セグメントでは女性比率がさらに高めになっている(中国からの日本入国者全体の比率は男性44.6%、女性55.4%(※1)であることからしても、女性比率が際立って高い)。若者が多いrednoteの中でも、日本旅行者は年齢が若く、20代が過半数である。そして北京・上海といった1級都市(※2)、それに続く成都(四川省)、杭州(浙江省)、武漢(湖北省)といった新1級都市の比率が高い傾向にあることがわかる。

※1 出典:出入国管理統計統計表 2023年年報(法務省)、在留資格:短期滞在(15日以内+90日以内)、国籍・地域:中国
 
※2 中国の都市区分:
中国では、都市を人口や経済レベルなどさまざまな観点から1級(北京・上海など)・新1級(青島・成都など)〜5級までの6つに分けられている。習慣的なものであり法律などで定められた正式な行政区分ではないが、一般的には中国の大手経済誌「第一財経」とその傘下のシンクタンクが発表する「都市魅力ランキング」が基準とされ、毎年少しずつ顔ぶれが変わる。
参考サイト;中国広播電視台「第一财经发布《2025新一线城市魅力排行榜》 ,刷新过往重新发现」
https://www.smg.cn/review/202505/0166469.html

 

rednoteユーザのデモグラフィック特性

検索ワードから見る「旅マエ・旅ナカ・旅アト」のココロの変化

では、彼ら・彼女らは日本で実際に何をしているのか? 多様化・複雑化とは、具体的に何を指すのか? まず最近起こっている全体的な変化を探るために、直近3年間の春節期間における検索キーワードTop10の推移を「旅マエ・旅ナカ・旅アト」ごとに見てみよう。

検索キーワードTop10の推移 旅マエ・旅ナカ・旅アト
旅行の準備を始める「旅マエ」期間では、中国からの日本入国に必須のビザの手続きがトップに来るのは変わらない傾向だ。加えて「日本旅行」「大阪」「京都」といった地名、あるいはそこに「攻略(日本語由来の単語で、旅行に関する中国語では『ヒント・Tips』『指南・ガイド』といった意味)」を加えた、大まかな情報探索が行われていることがわかる。中国からの旅行者にはリピーターも多く、「もはや東京・大阪・京都だけではない」と言われながらも、全体から見ればこれらの定番スポットの人気はいまだ圧倒的だ。

日本到着後の「旅ナカ」には、グルメや買い物に関するキーワードが一気に増える。とはいえ「日本旅行攻略」といったビッグワードが上位に残り続けていることからも、いまだ行動計画が完全に固まっていない人が多いこともうかがえる。また25年については、春節期間中の2月2日に非常に知名度が高い台湾出身の女優、徐熙媛が日本を旅行中にインフルエンザにかかり、不幸にして亡くなってしまった。この影響でrednoteでも「日本ではインフルエンザが大流行しているのでは」といううわさが流れ、関連のキーワードが上位を占めることとなった。

「旅アト」については、「旅マエ」「旅アト」で登場したようなキーワードが多くみられる。これは閲覧というよりは、自らの体験をノートとして投稿する際、他の投稿を参考にすることが多いことに由来する。写真や文章、用いるハッシュタグなど、閲覧数が多い投稿を参考にして自分の体験をできるだけ多くの人に見てもらえる形にするのは万国共通の特徴と言えるだろう。この中にはもちろん、すでに次の日本旅行についての情報収集をしている人も含まれる。

旅マエ・旅ナカ・旅アトごとのキーワードと投稿例
「旅マエ・ナカ・アト」ごとのキーワードと投稿例

では実際に日本に来ている人たちはどういう特徴をもち、何を求めているのか? その行動や目的地などごとにさらに分析すると、4つのペルソナが浮かび上がった。それが「美食探求者」「爆買い継承者」「二次元聖地巡礼者」「秘景旅行者」だ。また、女性利用者が多いとはいえ、月間アクティブユーザが3億を超えるrednoteにおいて、全体の4分の1程度は男性であるため、 男性の特徴をあぶりだすために、独立したセグメントとして切り出して分析している。

若手グルメ中国人殺到中、「食い倒れの街」面目躍如の大阪、冬の定番北海道急上昇

 

美食探求者 ランキング

ここではそのうち特徴が比較的明確な「美食探求者」を紹介しよう。東京・京都・大阪は本州のゴールデンルートといわれ、元々訪日観光客がもっとも人気の都市だ。なかでも検索数上位を大阪関連の地名が占めており、中国人の若者からの注目が集まっていることがわかる。「心斎橋」のほか「日本橋」「長堀橋」「大国町」「りんくうタウン」など非常に具体的な地名と共に検索されている。その一方、「お好み焼き」や「たこ焼き」といった、一般的に大阪名物といわれて日本人が思いつく料理の名前は出現しない。たこ焼きは中国でも比較的よく目にする料理で「日本のもの」というイメージはあるが、訪日中国人旅行者の中で大阪という地名と日本人ほどには結びついていないことが考えられる。

美食探求者 検索ワード上昇率上位
 
また調査時期が冬であったことも影響してか、急上昇ワードには北海道関連が多く見られた。一般的に観光名所として思い浮かぶ時計台ではなく、日本風情がある「北海道神宮」が美食のキーワードとしても現れているのが興味深い。また、TOP10には小樽が北海道の地名としては唯一ランクイン。札幌や富良野といった大定番の目的地からの行先の広がりが感じられる結果となった。

美食探求者たちが参考にしているのは、フォロワー1000万前後の全領域における影響力を持つ大物KOL(インフルエンサー)のほか、フォロワー数千人ではあるが、TGI(※) の高いKOC(Key Opinion Consumer)も多くランクインしている。しっかりとした訴求テーマが決まっている場合は、むしろこうした、フォロワー数は多くないが特定のテーマに関しては影響力を持つKOCとのコラボレーションでの情報発信は、効果・効率の両面で十分に検討に値するだろう。

※TGI: Target Group Indexの略。あるセグメントの母集団からの乖離程度を表し、100を標準として、数字が大きいほど母集団の特徴と異なる(=個性を持つ)ことになる。例えば母集団の10%がりんご好き、某セグメントの20%がりんご好きだった場合、TGIは200となる。

 

KOL-TGI
 
他のカテゴリにおいても、例えばアニメ・マンガ好きの「二次元聖地巡礼者」であれば好きな作品の舞台となった街の名前や、買い物好きの「爆買い継承者」の間で共有される免税手続きのTipsなど、同じプラットフォームの中でもまったく異なるキーワードで検索が行われ、異なるKOLの発信が影響力を持つ。漠然と「訪日観光客」とひとくくりにするのではなく、日本国内向けの一般的なマーケティング活動同様、入手可能なデータに基づき事前に「誰が潜在顧客なのか」を見定めたうえで戦略を定めないと、期待したような効果を得ることは難しいだろう。


電通が提供する中国インバウンド向け統合ソリューション

 

訪日中国人に対する包括的なソリューション

電通は、訪日客の「旅マエ・旅ナカ・旅アト」向けマーケティングを一気通貫で解決するソリューションを提供している。今回取り上げたrednoteに加えて、最大手旅行OTA(オンライン旅行代理店)であるCtripや、電通中国がもつ12億IDのデバイス情報にもとづいたオーディエンスプラットフォーム”Mercury”によるターゲット属性や行動に応じた効果的、効率的でピンポイントな広告投下など、さまざまなツールやプラットフォームとの提携によって、訪日消費取り込みの最大化を狙うクライアントをサポートする。

参考:ウェブ電通報 | 「データから読み解く訪日中国人旅行者のリアル2025」


また、今回そのソリューションに加わったrednoteは、単純な広告出稿だけではなく、有力KOLへの投稿作成依頼や、特有のリスクを避けながらブランドの魅力を最大限引き出す公式アカウント運用、そしてサイト内Eコマース(現在は中国国内向けが中心)など、サービス傘下の多岐にわたる機能を組み合わせることで、その費用対効果を最大化することができる。電通もまた、プラットフォームのデータと電通の知見をかけあわせ、これら多彩なパレットから最適な組み合わせを導出し、提供していきたい。

 

あわせて読みたい
まだ間に合う!中国インバウンド&越境EC入門

 

X