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世界の気持ちと日本らしさ ~ジャパンブランド調査2024~No.5

旅マエ・旅ナカ・旅アトの境は曖昧に!?
より“フラッと(フラット)”化する訪日旅行のリアル

2024/12/20

24年度のジャパンブランド調査では、日本は世界中で「最も再訪したい国」に選ばれました。

再訪意向

特に、東アジア・ASEAN各国・地域からの訪問者は、既に訪日観光が「リピート」のステージに入っています。

訪日観光の頻度
※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合があります。

これに伴い、これまで「定番」といわれていたような日本観光のスタイルや、事前の情報収集などの在り方も変化しつつあることがうかがえます。

今回は、パンデミックの前後で、訪日旅行客のカスタマージャーニーやマインドにどのような変化があったのかを深掘りします。

東アジア各国・地域の訪日経験者を

  • 訪日旅行経験が1~3回のビギナー(以下、記事内では「ビギナー」と略)
  • 訪日旅行経験が4回以上のベテラン(以下、記事内では「ベテラン」と略)

に分け、フォーカスグループインタビュー(以下、FGI)を開催しました。これまでの訪日インバウンドマーケティングの常識が覆るような非常に面白い結果が出ましたのでぜひ最後までご覧ください。

【調査概要】
・対象エリア:4カ国・地域(中国本土・香港・台湾・韓国)
・対象者条件:20~49歳の男女
・サンプル数:国・地域別 各6人、合計24人
  ※6人内訳 訪日経験1~3回のビギナー:3人 訪日経験4回以上のベテラン3人
・調査手法:オンラインでのフォーカスグループインタビュー(FGI)
・調査期間:2024年10月16日~10月24日
 
【電通 グローバルビジネスセンター エリア別担当者】
韓国:李 剛
香港:山内 康弘
台湾:杉山 拓哉
中国本土:増田 博
 
中国本土エリアへのFGIの様子
中国本土エリアへのFGIの様子

本座談会ではさまざまな意見が飛び交いましたが、国・地域別、訪問頻度によって回答がかなり異なることが分かりました。それらを前提として、特徴的だったファインディングスを中心に、紹介します。

<目次>
「旅マエ」ではもう決めない!?その意外な答えとは?

アプリを駆使して旅ナカでも臨機応変に予定を変更

情報収集はインフルエンサー頼みではなく、「場所+目的」でSNSで検索

「買い物リスト」はもはや死語?

お土産は「お守り」が人気。お菓子は空港の免税店でまとめて購入

「推し活」は国境を超える~訪日目的2024年Ver.~

座談会を終えた各メンバーの所感

まとめ

「旅マエ」ではもう決めない!?その意外な答えとは?

訪日インバウンドマーケティングの今までの考え方の基本は、「訪日の1~2カ月くらい前に旅行プランを組み、訪日前に買い物リストを作成し、訪日したらある程度はあらかじめ決めたスケジュールに沿って行動をする」というものでした。ところが、今回の調査では、ビギナー、ベテラン、さらには国と地域も関係なく、そのほとんどの対象者が「ホテルと航空券は1カ月以上前に決めるが、食事や買い物の場所、購入する物は日本に来てから決める」という回答でした。

さらには行き先を決めるタイミングも旅行の同行者によって異なり、家族や友人と一緒に行く場合はお互いのスケジュールを調整する必要があるため2~3カ月前、一人旅であれば自由にスケジュールを調整できるので1~2週間前に決める、という意見が多数でした。特にベテランになると一人でフラッと来ることも増えるため、直前にパッと決めてパッと訪日する、という機会が増えるようです。

アプリを駆使して旅ナカでも臨機応変に予定を変更

「日本に来てから決める」という旅行スタイルへと変化した要因には、アプリを駆使した情報収集がありそうです。

今回の調査で、「訪日中に使用したアプリは?」という質問に対して、どの国・地域でも共通していたアプリは「Google マップでした。移動手段の検索はもちろん、近隣の観光スポットの情報、飲食店の口コミ評価など、多様な使い方をされていました。

さらに、台湾・香港・韓国のベテランは「食べログ」もよく使っていました。食べログは日本語版と英語版しかありませんが、彼らは日本語版を使っているようで、「漢字ならなんとなく分かる」「言葉が分からない場合は翻訳アプリか、在日の日本語が分かる友人に聞く」という回答でした。

ベテランの中には、より深い情報を得たいがために「日本の情報は、SNSで日本人が見ているアカウントしか見ない」というつわものもいました。以上の結果を踏まえると、特に飲食店はGoogle マップのビジネスプロフィールの管理強化や食べログなどの情報を整えておくことが、訪日旅行客を集客する上でも効果的だと考えられます。

「大阪グルメ」や「SUSURU TV.」
「大阪グルメ」や「SUSURU TV.」など日本人向けにグルメ情報を発信しているアカウントなどを積極的にフォロー

飲食店以外でも、例えば「近くで花火大会をやっていたので、予定を変更した」「ホテルの近所でお祭りをやっていたので、元の予定をキャンセルした」などの声もビギナー、ベテラン、関係なく多く聞かれ、行動が非常にフレキシブルになっています。

何かをきっかけに、訪日中でも行動変容が起こる可能性は高いと言えますし、その催しが宿泊しているホテルの近くであれば、なおさらその傾向が強いようです。ホテルに掲出されていたお祭りのポスターを見て興味を持ったという人もいました。訪日中のアプローチはホテルも重要なコンタクトポイントになりそうです。

なお、中国人が共通して挙げたアプリは「小紅書(RED」でした。小紅書には在日中国人の投稿も多く、日本に関する情報が豊富にあるためと考えられます。

情報収集はインフルエンサー頼みではなく、「場所+目的」でSNSで検索

「どのメディアを見て情報収集をしているか」という質問に対して、訪日前、訪日中と共通して、台湾・香港・韓国は「Instagram」が圧倒的に多く、中国本土は「小紅書」でした。さらにその情報収集の特徴として、特定のインフルエンサーのアカウントを参考にするのではなく、「場所+目的」で検索をするというのが共通の回答でした。

この結果を聞くと「インフルエンサー・マーケティングって有効ではないのか!?」とも考えてしまいがちですが、そうではありません。検索で上位表示されるのはInstagramも小紅書もアルゴリズム上評価が高い投稿です。単純に「フォロワーが多いからこのインフルエンサーを起用しよう」という発想ではなく、プラットフォーム側のアルゴリズムに合わせて投稿内容をこまめに調整してきた対応力の高いインフルエンサーを活用することを考えるべきかもしれません。

韓国エリアへのFGIの様子
韓国エリアへのFGIの様子

「買い物リスト」はもはや死語?

本調査からは、旅先の日本でも手軽に情報収集ができるようになったことが、買い物行動にも影響を与えていることが見えてきました。ひと昔前は、訪日客は旅行前に「買い物リスト」を作成して来ており、インバウンド消費で選ばれるためには買い物リストに載ることが必要だというのが定説でした。

そもそも買い物リストの存在が注目されるようになった背景をおさらいしておきましょう。2010年に中国人に対する査証(ビザ)発給要件を緩和してからしばらくは、中国本土からの訪日客は団体旅行者が多く、決められた場所で限られた時間の中で買い物をする必要がありました。なおかつ日本に関する情報を取得する手段が当時はまだ乏しかったため、事前に買う場所と買う物を調べておき、効率良く買い物をする必要がありました。

現在では、中国本土を含めて各国の訪日客は、SNSを開けば簡単に日本の情報を取得できるようになっているため、「買い物リスト」の必要性は薄れていっています。今回の調査結果を見ても、「買い物リスト」はもはや「死語」になっていると言っても過言ではないでしょう。

台湾エリアへのFGIの様子
台湾エリアへのFGIの様子

お土産は「お守り」が人気。お菓子は空港の免税店でまとめて購入

「友人・家族・自分へのお土産に何を買いましたか?」という質問には、全ての国・地域で「お守り」との回答がでました。「日本独特の文化だから」「その場でしか買えない」「恋愛成就・健康祈願など、渡す人へ気持ちを伝えやすい」などが理由のようです。

さらに近年では写真映えするお守りを販売している神社も増えており、「このお守りを買いたいからこの神社に行く」と、神社やお寺を目的地にする訪日客も増えているようです。御朱印集めをしているという回答も多く見受けられました。

また旅行の最後、出発前に空港の免税店でお菓子を買う、といった回答も多く聞かれました。極力荷物が重くならないように、帰国直前に買う、という心理から来ていると思われます。その際、あらかじめ決めていたものを買うのではなく、売場で一番目についたものを買う、という回答が圧倒的に多く聞かれました。お土産需要を取り込みたい小売業は、売場でのPOP設置や推奨販売も売り上げを増やすには非常に有効な手段と言えるでしょう。

京都を訪れた際に購入したお守り
京都を訪れた際に購入したお守り

「推し活」は国境を超える~訪日目的2024年Ver.~ 

「旅先に日本を選んだ理由は?」という質問に対して、「食べ物がおいしいから」「近いから」「安全だから」という回答は、以前と同様に多い傾向にありますが、2024年ならではの回答として「円安だから」「推しのコンサートがあるから」という回答が、各国・地域に1人はいました。

特に韓国系のアイドルは、台湾や香港でコンサートをする機会が限られているため、日本で開催するタイミングに合わせて訪日するそうです。もちろん、日本のアイドルやアーティストのコンサートも同様です。中には「グッズを全て購入する」という熱烈なファンの方もいました。こういったアイドルやアーティストのコンサートが開催される日程を事前に押さえておくことは、訪日旅行客向けマーケティングでは重要かもしれません。「推し活」は国境を簡単に超えますね。

座談会を終えた各メンバーの所感

座談会

山内(担当:香港)
今回お話をお聞きして「旅行はより地続きになってきている」と思いました。訪日旅行経験者から「日本に来てからスマホで調べて行動する」というお話を何度もお聞きし、思っていた以上にフレキシブルな行動をされていることに驚きました。

企業やブランドのメッセージを伝えるという観点で考えると、旅ナカでもチャンスが多くありそうですが、やはり旅ナカでは時間も限られており、大まかな予定や潜在的なお目当ては旅行前にできているので、トータルのコミュニケーション設計が求められると考えられます。

もう一つ印象的だったのは、今回お話を聞いた中でも数名が訪日の目的として「好きなアーティストのコンサート」を挙げていたことです。コンテンツのパワーを活用することも大きなチャンスになりそうだと改めて思います。

李(担当:韓国)
今回4カ国・地域を比較した結果、韓国からの訪日客対策にはNAVER関連サイトの活用が重要であることが再確認されました。特に「Flying Japan」というオンラインコミュニティ頻繁に利用されているようです。また、終電の早さや飲食店の営業終了時間の早さに言及する参加者が多かったのも印象的でした。韓国は夜間の飲食文化が盛んであり、「日本でももっと夜遅くまで楽しみたい」という気持ちが強いのかもしれません。

また、訪日体験を次のステージに進めるには、「セレンディピティのデザイン」が鍵になると感じました。少し矛盾する言葉の組み合わせですが、年々増加している訪日リピーターにとっては、予定外の新鮮な体験こそが旅の醍醐味です。こうした瞬間を適切に捉えた上で、いわゆる「プロダクトアウト」的ではないエクスペリエンス設計に反映することが求められていると感じました。

杉山(担当:台湾)
かなり興味深い話が多かったです。訪日頻度の高いある方が、Amazonで商品を買ってコンビニで受け取ると話していて、そこまで旅慣れている人もいるのかと驚きました。また、訪日ビギナーでも以前に比べて日本のアプリに精通しているとも感じました。もはや国内旅行の延長線上に日本旅行を考えている気がします。その分、ありきたりな情報より、もっと深いもの、例えば行列を避ける「攻略情報」などはコンテンツとして刺さる気がしました。

加えて、お土産に家電のような大型商品ではなく、地域特有かつ持ち運びが便利なものが人気だと知ったことも収穫でした。旅ナカで情報を彼らに伝える手段がまだまだ足りてないとも感じました。ホテルやコンビニなどコンタクトポイントについては開拓の余地がありそうです。余談ですが、日本の広告を記憶している人は少なかったですが、仁和寺の車内広告の写真を見せてくれた方がおり、ノンバーバル表現の重要性を再認識しました。

増田(担当:中国本土)
買い物に関しては「高価格帯のものは前もって攻略を立てるが、それ以外はお土産も含めその場で見て決める」「店員とPOPでオススメされたものに引かれてしまう」という声がありました。食事に関しては「行列ができているラーメン屋さんがあると並んでみたくなる」という方も。

買い物、食事と一見場面は異なりますが、双方とも衝動的な選択はしているものの、その場で口コミをスマホ検索しており、「口コミを見て選択するのではなく、自身の衝動的選択が正しいかを口コミで確認する」というような、以前とは異なる行動を旅ナカで行っている点が印象深かったです。

また、中国本土からの訪日客は中国内アプリを旅先でも使用するだけでなく、Google マップや食べログなどのアプリをダウンロードして使用するフレキシブルさがあることも大きな発見でした。このような旅行者の行動とインサイトも常に移り変わりゆくものだと認識した上で、体験者のクチコミ蓄積を含めた旅マエ~旅アトのトータルコミュニケーション設計が大切だと感じました。

まとめ

今回の調査により、「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」という考え方はもう時代遅れで、自国と日本を「一つのマーケット」として捉え、マーケティング戦略を練っていく必要があるということが分かりました。さらにテクノロジーの進化で今後はよりシームレスになり、言葉の壁もどんどんなくなり、日本人が日本人向けに発信しているコンテンツが、今まで以上に外国人にも見られるようになる未来がやってくるのかもしれません。

訪日インバウンドマーケティングも日々進化していくことを痛感する結果でしたので、今後も定期的にブラッシュアップしていきたいと思います。


グローバル・ビジネス・センターでは訪日インバウンドを対象とした簡易定性調査を安価で実施することが可能です。形式(グループ、個人、座談会)のカスタマイズが可能ですので、お気軽にご相談ください。

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