世界の気持ちと日本らしさ ~ジャパンブランド調査2024~No.4
AWAセッション「世界から見た日本ブランド、可能性への通知簿」
2024/11/19
ジャパンブランドは、すでに世界中に広がっています。その中でも、日本食は“興味深い異文化”としてではなく、“慣れ親しんだ味であるWASHOKU”として世界中で愛されるようになりました。今回は、9月に行われた「Advertising Week Asia 2024」のセッションの中から、第1部ではジャパンブランド調査の結果の要約を、第2部では海外で愛される「日本食」とその将来についての考察を紹介。著名なPRディレクターである本田哲也氏と電通ジャパンブランド調査チームの小松瞳、解明明の鼎談の一部をお伝えします。
<目次>
▼日本は観光目的で再訪したい国No.1
▼日本へ再訪したくなる理由とは?
▼日本でやりたいことは?
▼地方訪問の障壁になっているもの
▼人気の日本食は地域によって違いがある
▼中国で人気の日本食は「寿司」
▼タイとシンガポールの日本食事情
日本は観光目的で再訪したい国No.1
小松:今回は電通が行った「ジャパンブランド調査2024」の結果をご紹介しながら、それにまつわるエピソードをお話ししたいと思っています。まずは自己紹介です。
本田:普段はPRの仕事をしていますが、今日はPRの話ではなく、私自身が実は昨年からシンガポールに移住し、2拠点で生活しているため、海外から見た日本という視点でお話しできればと思っています。
小松:電通でストラテジックプランナーをしています。最初は情報システム会社でリサーチャーを務めており、電通に入社してから日用消費財企業のコミュニケーション戦略を担当しています。外資系エージェンシーや電通デジタル出向後、2019年からタイに赴任して4年間駐在していました。今年の1月に帰国し、現在は日本の電通本社で働いています。
解:ストラテジックプランナーとして、電通で仕事をしています。20歳まで中国で育ち、大学時代を日本で過ごしました。電通入社後、日本国内および中華圏のクライアントを中心にブランディング・マーケティングの仕事をしてきました。電通ジャパンブランド調査チームの一員として最新の調査結果をご紹介しつつ、特に中華圏周りのインバウンドのトレンドをお話しできればと思います。
小松:タイとシンガポールと中国にそれぞれ住んでいた経験がある3人で、第1部は調査の結果について、トップラインだけお話しし、第2部はそこにわれわれの経験も踏まえて、肌感のある調査結果になるように、お話ししたいと思っています。
電通の行っているジャパンブランド調査ですが、今年は15カ国・地域で行いました。
結果を簡単にまとめると、観光目的で一度訪れた方が再訪したい国・地域として、今回の対象市場15カ国・地域の中で日本がナンバーワンになりました。それを5つの視点でまとめています。
1つ目の視点は、【期待】です。日本は再訪意向1位で34.6%でした。2位のシンガポール、3位のアメリカと20ポイントほどの差があり、日本が大きくリードしていることが分かります。
回答者を地域(リージョン)別に見ていくと、日本が1位になったのは東アジアと東南アジア。北米と欧州の1位はそれぞれイギリスとスペインでしたが、日本は欧州では10位、北米では2位で再訪意向が高い国であるということは間違いありません。
日本へ再訪したくなる理由とは?
小松:再訪意向のある方に何を期待して日本に来るのかを聞くと、1位は「食」。2位の「独自の文化」も、非常に近いスコアで並んでいます。それから「他国にない自然景観」と続きます。「現代と伝統の共存」「他国にない清潔感」も上がっていて、日本に対しては食事や文化における独自性を体験しに来ているというのがご理解いただけると思います。
では【契機】として、訪日するきっかけになったものは何か。一般的にメディアなどで言われている通り、円安の影響は見てとれます。けれども、それ以上に「前回も日本を訪れてまた行きたいと思った」という点が強く出ています。良い経験をしたのでまた来たいという方が、地域別に見ても、どこも高くなっています。それから「日本の製品が気に入った」とか、「日本料理を自分の国で食べて行きたくなった」というきっかけも数値が高くなっています。
日本でやりたいことは?
小松:3つ目の切り口の【関心】について。「日本に来たときにお金を払ってでも体験したいものは何ですか?」という質問への回答がこちらです。全体値でみると、「庶民的な和食レストラン」「農泊体験」などが上位で、「新幹線」に乗ってみたいとか、「高級な和食レストラン」などもあり、庶民的なところも高級なところも両方入っています。あとは「伝統工芸品の購入」も入っています。
より詳しく見ると、例えば「庶民的な和食レストラン」とは別に「居酒屋」が選ばれていたり、「新幹線」とは別に「タクシー」も選ばれているなど、飲食店や乗り物もいくつかのレイヤーで求められていることが分かります。
国・地域に分けると、実はそのランキングがかなり違っており、やはり国による差というのが出ることが分かりました。全体スコアでは読み解けない、国・地域ごとの特徴が見られます。
地方訪問の障壁になっているもの
小松:4つ目は、【地方】です。都道府県別の認知度を経年で見ていくと、1位から5位までは、実はその中で順位は変わりますが、挙げられる都道府県は常に同じです。同じ都道府県がランキング変動しながら定着しています。6位から10位に関しても大きく変わっておらず、地方となるとまだそんなに選択肢が広がっていないことが読み取れます。
地方観光の障害を分析したところ、分かりやすく結論を言うと、「知らない」こと。そもそもどういう観光地があるか知らないという方もいますし、その地方でどういうアクティビティができるのか情報がない、行き方や交通網が分からないという方がいらっしゃいます。
しかし、項目別にみて最も高いのは「言語によるコミュニケーションの不安がある」です。言語面での心配が地域観光の障害のひとつになっているといえるでしょう。
人気の日本食は地域によって違いがある
小松:最後は【和食】です。日本食の喫食頻度では、地域別に差がありました。東アジアと東南アジアでは外食・中食が多くて、内食がそれらに比べると多くありません。欧米豪に関しては、その2つの地域よりは全体的に低く、かつ外食・中食・内食もそんなに差がないという結果でした。
※喫食シチュエーションの定義について
・中食(調理済み食品の購入や、弁当・惣菜等のテイクアウト、デリバリー等、家庭外で調理された食品を家庭や職場に持ち帰って食べる)
・内食(家で調理して食べる)
訪日経験者に帰国した後に自分の国で食べてみたい日本食を聞くと、ラーメンが圧倒的1位でした。地域別に見ると、スコアを引っ張っているのは東南アジアで、次いで東アジア。一方、中東は低めです。これも全体のスコアというよりは、地域別にどこの人が何を食べたいかを見るのが重要だと思います。
こちらの表で地域別に上位ランキングをみると、並びが違うのが一目で分かります。
中国で人気の日本食は「寿司」
小松:さて、これからはお二人のご意見も聞きたいと思っています。5つの視点【期待】【契機】【関心】【地方】【和食】について先ほどと逆の順で最初に【和食】からお話しします。
ラーメンがすごく強いという結果でしたが、私がタイにいた経験上でもラーメンはやはりすごく人気で、“タイにおける日本式ラーメン文化”が発展している感じがあります。中国ではどうですか?
解:注目しているのは「刺身と回転寿司」です。というのも、今回の調査対象者全体のランキングにおいてラーメンは1位の26.1%ですが、中国だけにフォーカスした場合、1位は「ラーメン」(18%)ではなく、「刺身」(20.1%)なのでした。性別×世代で見ると、20代若者の「刺身と回転寿司」の喫食意向が高く、どちらもラーメン超えです。特に20代女性の「回転寿司」喫食意向、20代男性の「刺身」の喫食意向はどちらもラーメンより約8%高く、20代男性についても普通に考えたらラーメンが人気だろうと思いましたが、意外と中国では刺身や回転寿司なのです。寿司の人気ぶりが伺えますので、中国の寿司について少し話を広げたいと思います。
先日、北京に出張した際、現地で話題になっていたのが、「スシロー」が北京で1号店を出したことです。ニュースで盛況ぶりを見て、中国で「寿司」がここまで人気であることが伝わってきました。2021年に中国大陸に初めて出店したスシローは、南部の広東省から展開を始めて、その後内陸部の成都市や武漢市へ。今回は北上する形で首都・北京市にも1号店を出しました。
寿司が中国で人気になった経緯がとても興味深いので紹介します。中国では、もともと生ものを食べる文化がありませんでした。当初、寿司が浸透し始めた場所は、日本人の駐在員が通っていた高級日本料亭でした。そのころ、寿司のお店はかなり両極化していた印象です。超高級・超新鮮な寿司が提供されるお店がある一方、一応寿司っぽいけど、正直あまりおいしくない(笑)、安い寿司店も存在していました。
その後、時代の流れで中産階級が豊かになり、消費力も食に対する意識も高まってきました。その背景には、2014~15年ごろの日本旅行で和食のおいしさに目覚めたことや、「深夜食堂」など、和食をテーマにしたジャパンコンテンツの人気が影響したと思います。JETRO(日本貿易振興機構)や農林水産省の調査によると、13年に中国全土に約1.5万店あった和食レストランが10年間で5倍以上に増え、23年時点では約7.9万店にも上りました。中国における和食ブームは目に見えて著しいものです。その和食ブームに乗っかって、いわゆる日本の板前寿司が中国の沿岸部の都市ではやるようになりました。2~3万円という、手が届くような値段で、板前寿司が食べられるようになってきました。
そしてコロナ禍で日本旅行に行けなくなった2020年頃から、回転寿司ブランドが次々と中国で出店ペースを加速させています。「はま寿司」は2014年に上海で一号店を出していましたが、20年末の12店舗から60店舗に拡大しています。その背景には、「寿司のスマート化」が挙げられます。つまり、商材の調達、品質管理、サービス提供など、品質を担保しながら手頃な寿司を提供するビジネスモデルが成立するようになってきました。
本田:面白いですね。中国のこのスライドも寿司なんですね。
解:はい、これは四川省や重慶市のローカル寿司です。ネタにたっぷり唐辛子が乗っていたり、ハチノス寿司や豚の脳みそ寿司、うなぎ丼にはキムチが乗っているなど現地の創作がふんだんにされています。寿司は、上海や広州など東南沿岸部の大都市に多い印象ですが、一方で、内陸部の中心として例えば成都市や武漢市などに浸透しています。ただ地域的な特殊性から、お店によってかなりローカライズされているのが特徴的です。
本田:日本で食べられているものとはかなり違いますね。
小松:シンガポールだとどうですか?
本田:そうですね。やはりシンガポールはアジア、欧米、インドなど、あらゆる国の料理が集まっていてとてもレベルが高いです。その中でもやっぱり日本食は人気ですね。「スシロー」はシンガポールにも結構出店していて、もう予約しないと入れないです。
小松:タイも同じですね。
解:和食は今や、世界中で「おいしくてヘルシー、見た目もきれいで安心できる」というブランドイメージを構築できています。中国では、こういった日本の飲食品のイメージを参考にしながら、商品開発からパッケージデザイン、流通チャネルからコミュニケーションまで徹底したマーケティング戦略を構築し成功を収めたローカルブランドがありました。成功例はいくつかありますが、一番典型的なのは某飲料ブランドです。
本当に面白い成功事例ですが、商品開発の背景から紹介すると時間が足りなくなるため、簡単にいうと、ブランディングレイヤーでもマーケティングレイヤーでも、日本飲料を連想させる「健康、おしゃれ、おいしい、若々しい」イメージを醸成しました。
マーコム(マーケティングコミュニケーション)領域では、若者をターゲットにした徹底したコミュニケーション戦略を取っていました。トップファネルでは、ソーシャルメディアを最大限に活用して、若者向け認知拡大とブランドイメージ醸成の施策を行いました。同時に、流通チャネルも、既存の大手メーカーが強みを握っていたスーパーマーケットを避け、コンビニとECにフォーカスして資本投下しました。このように、SNSをフル活用したブランドイメージ醸成+コンビニとECなどターゲットである若者がよく使う流通チャネルと組む「垂直型」マーケティングで一気に成功を収めて、一時当カテゴリーで成長スターとして大きな注目を浴びました。
タイとシンガポールの日本食事情
小松:少しタイの話もしたいと思います。タイの日本食レストランの中でも、焼肉店がすごく増えている印象があります。タイ東北の農村部では、牛肉を生で食べることもあるのですが、その地域を除くとタイの人はそんなに牛肉を食べていませんでした。タイ人の知り合いに聞くと、日本に来ておいしい牛肉を知り、タイに帰る。で、そのおいしい肉の味を知ってしまった人が増えたことで、タイ国内でも焼肉店が増えたという背景があるそうです。
本田:そういう焼肉店は資本的にはタイの方がやっているんですか?日本資本なのでしょうか?
小松:基本的にタイ資本の店が多いと思います。日本人に向けた店もありますが、タイ人が好んで通っているのはタイ資本が多い。よく研究していてすごいなと思います。
そしてタイのラーメンはどうかというと私は金沢市の出身でして石川県の人にとって「8番らーめん」はソウルフードで、子どものときから食べています。タイの実業家の方が石川県に来てこのラーメンを食べて、「うちの国でもやりたい」と、タイで展開したのが1992年でした。
本田:タイにものすごい数の店舗があるんだ!
小松:そうなんですよ。日本よりも多いんです。なので私、タイに行ったときにうれしかったのはタイ人とソウルフードが一緒っていうことでした。ラーメンは、中央の写真のように、日本人が高級なラーメン店を作っていますが、タイ人の予約でいっぱいです。右側の写真はタイ人がオーナーのお店です。きちんと研究して作られていて、日本人が食べても本当においしいと感じるレベル。とても進化しています。シンガポールはどうでしょうか?
本田:私自身、シンガポールに行ってここまでかと驚いたのですが、シンガポールと日本ブランドの関係を語るときに「ドン・キホーテ」は欠かせません。日本人がドンキに持っているパーセプションと全く違って、生鮮食品でスーパーなんですよね。「DON DON DONKI」というブランドで、16店舗展開しています。
どこのショッピングモールに行ってもユニクロと同じくドンキはあるんですよ。日本人として誇らしい部分もありますけど、日本とは全く違った形で展開していて。まさかね、夕飯の材料を買うのにドンキに行くとは思ってなかったです。ここまで身近なところに日本との接点が設けられると、現地の方も日本に興味も湧きますし、「ドンキで買ったものを、日本に行って食べてみよう」ということもあるかもしれないです。こういうきっかけもあるのではと思います。
アジア在住経験のあるメンバーによるAWAセッション紹介はここまでですが、最後に同じく電通ジャパンブランド調査チームメンバーである都築龍之介が在住経験のあるアメリカでの日本食事情もご紹介します。
私が学生時代を過ごしたアメリカの西海岸でも、日本食はとても人気があり、時代のニーズに合わせた独自の食文化を形成してきました。
私が初めて渡米した2001年の段階では、日本食はバリエーションが限られており、今では大人気のラーメンも、そのほとんどは現地の日本人とその近隣が行きつけとする、小規模なお店でした。
やがてネットを媒介としたソフトパワーによる日本文化への関心度の高まりが影響し、日系ブランドがショッピングセンターを中心に次々と上陸しました。料理の価格は日本の3~4倍するものの、長蛇の列を目にすることも珍しくありません。
その後、コロナ明けの健康的な食生活への意識変容は食品の「鮮度」を重要視することにつながり、それが日本食と健康との結び付きをより強くさせたと感じています。
とりわけ生食のSushiやSashimiは手軽に入手可能なこともあり、より広い層に受け入れられつつあります。かつてはマイナーな「エスニック料理」の1つだった日本食も、今ではヘルシーな料理の代表例として根強い人気を誇っています。
※1:本記事における対象国・地域の名称表記は日本国内の読者を想定対象とし、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものになります。
※2:本調査における構成比は小数点以下第2位(一部整数表示の場合は小数点以下第1位)を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
※3:本調査で使用した地図(世界地図および日本地図)は分析内容やページのレイアウトに合わせて一部修正・加工・トリミングを行っており、必ずしも国境線および国土範囲を正確に反映したものとは限りません。
※4:図表作成時、紙幅またはレイアウトの都合上、国・地域名はISO 3166-1 alpha-3を使用しています。
【本件に関するお問い合わせ先】
電通ジャパンブランド調査プロジェクトチーム
japanbrand@dentsu.co.jp