ジャパンブランドウイークリーチャート

(10月2日更新)
訪日体験と聖地巡礼
訪日観光において、イギリス訪日意向者(以下、イギリスなど、国名のみとします)は特に世界遺産への関心が高く、自然景勝地、日本庭園、神社仏閣巡り、史跡や歴史的建造物の見学、伝統文化体験など、自然・伝統・歴史・文化に根ざした分野でアメリカを上回ります。日本の価値を多面的に、かつ深く味わおうとする志向が強いことがうかがえます。一方で、アメリカはナイトライフへの関心が高く、都市的な娯楽や現代的な体験に引かれる傾向が見られます。ここから2つの視点でさらに掘り下げます。
深掘りポイント①聖地巡礼
アメリカで圧倒的な人気を誇るのは富士山で、訪日観光の象徴的存在として不動の地位を持ちます。これに対してイギリスでは伏見稲荷大社が富士山に並ぶ人気を集めており、伊勢神宮、熊野古道、鎌倉といった宗教性・精神性の高い目的地でもアメリカを上回ります。歴史や伝統文化との親和性が高いことが確認できます。一方、アメリカは原宿など都市カルチャーに強い関心を示すほか、屋久島や五箇山・白川郷、四国八十八カ所巡礼など一部の自然・伝統景観にも比較的高い興味を持ちます。
地方送客の戦略を検討する際には、言語や文化が近い国同士であっても選好に明確な差がある点を把握することが重要です。
深掘りポイント②熊野古道
全体平均ではおよそ3割が熊野古道を体験したいと回答しており、一定の需要が存在します。宗教的視点で見ると、イスラム教発祥の地であるサウジアラビアでは5割を超えており、キリスト教文化圏ではフィリピンやスペインで特に高い傾向が見られます。スペインに関しては他の欧米諸国(米国、豪州、英国、イタリア)よりも高く、世界遺産であり、キリスト教3大巡礼地の1つでもあるサンティアゴ・デ・コンポステラ巡礼路との文化的共鳴が影響している可能性があります。
熊野古道は宗教の枠を超えた「世界的巡礼路」としてのポテンシャルを有しており、①巡礼(信仰の道を歩む)という普遍的な精神性の喚起、②自然と精神性の結合(深い森や山々に囲まれた環境の中で、歩行と祈りが一体化する場)、③好奇心の実践(異なる文化の歴史的実践とともに人類共通の精神的営みを体感する)という3つの共通点が見いだせます。実務への示唆としては、文化性や精神性の強い観光資源を有する地域への送客・分散を進める上で、グローバルなリベラルアーツ的視点を土台としつつ、特定の宗教や文化背景にとらわれないパターン認識を取り入れることが、新たな需要創出につながると考えます。
(9月24日更新)
リユースバリュー
サーキュラーエコノミー(循環型経済)の観点から、中古品の再利用は重要な要素の一つです。本調査では、日本の中古品に対する関心が全体として非常に高く、国・地域を問わず注目されていることが分かりました。
特に、日本製品の「使用状態の良さ」や「高い耐久性」は生活者に強く評価されており、こうした特徴が日本独自の信頼性や価値観に裏打ちされた商品競争力につながっています。このような評価は、循環型産業の創出拡大や、模倣困難な差別化戦略の基盤ともなり得ます。
製品イメージ
日本製品は機能面を中心に高く評価されており、特に「高性能」「ハイテク」「上質」「丁寧な作り」「実用的」といった軸においては、ライバルとされるドイツ製品を上回る評価が確認されます。
一方、グローバル展開への意識が強い韓国製品については、「おしゃれ」「かっこいい」「美しい」「シンプル」といったデザイン面の評価が際立っており、機能よりも意匠性の側面で支持を得ていることがうかがえます。
人間の寿命が延びる一方で、企業が勝ち続け、いわゆる勝ち組でいられる期間はかつてよりも短くなっています。しかし、自由競争が求められる限り、勝ち残るための努力を怠ることはできません。製品イメージは製品やブランディングを構成する一要素にすぎませんが、こうした「点」を地道に相対化していくことでこそ、未来につながる手がかりに気づくことができます。
彼を知り己を知れば百戦あやうからず。古代ギリシャのソクラテスやプラトンとほぼ同時代に生きた孫武の名言を改めて想起すると、はるか昔の兵法がいまだに現代の競争戦略に転用できることは、実に興味深いといえます。
(9月17日更新)
情報獲得手段
各国共通の特徴として、Google検索とYouTubeが主要な情報源となっており、新聞(紙)利用は全体的に低水準です。YouTubeは6カ国中4カ国でテレビを上回り、特に韓国やタイ、ベトナムでは顕著です。
生成AI(ChatGPT)は、ベトナムで高い利用が見られる一方、多くの国ではまだ3割前後と限定的です。また、テレビと新聞は衰退傾向とされがちですが、スペインや英国ではテレビの存在感が依然大きく、スペインとベトナムでは新聞(ウェブ)も一定の利用を維持しています。
国ごとに異なる情報接触の構造や、デジタルが優位に立つ市場、なお影響力を持つ伝統メディア、さらには生成AIの急速かつ不可逆的な浸透によって、情報獲得の環境はますます複雑さを増しています。経営者、マーケター、生活者という立場を問わず、「デジタルシフト」や「マスメディア離れ」といった単純な二元論で語るのは、現実を正しく捉え損ねる危うさを伴うことに十分注意する必要があるでしょう。
(9月10日更新)
環境概念に見る関心の格差
再生可能エネルギーは多くの国・地域でカーボンニュートラルより高い認知・関心を集めている点が確認できる。特に東南アジア諸国では両指標が高水準で、エネルギー需要の増大や電力供給不安を背景に、太陽光発電などの導入が生活者にとって具体的に想起しやすいことが要因と考えられる。
一方、欧米先進国では両者の水準が相対的に低く、抽象度の高いカーボンニュートラルという概念の浸透不足や、エネルギー価格上昇や産業競争力への懸念による「エコ疲れ/脱炭素疲れ/サステナ疲れ」が影響している可能性がある。また、カーボンニュートラルは国家・企業の政策目標としての性格が強く、生活者の直接体験と結び付きにくいのに対し、再生可能エネルギーは「設備が見える」「電気代に直結する」など具体的な便益が想起されやすい点も、認知・関心の差を生む要因と推察される。
概念の具体性、経済合理性、産業構造、発展段階、さらに訳語の揺れなど複合的要因が今回の差異を生んだと考えられる。環境先進国であっても、先進的な環境概念が生活者レベルで必ずしも浸透し、実行されているわけではなく、その乖離(かいり)が国・地域ごとの特徴として浮かび上がる。
予防医療とメンタルヘルス
多くの国・地域で「メンタルヘルスのサポート」への関心が「予防医療・病気予防」への関心を上回る傾向が見られ、特にフィリピンやインド、欧米諸国では顕著である。精神的健康が社会課題として広く認識されつつあることを示唆する。一方、韓国、イタリア、フランスでは予防医療が優勢で、身体的健康管理を重視する文化や医療制度の影響が考えられる。
ベトナムやマレーシアでは両者が高水準かつ拮抗し、心身両面の健康意識が並立している点が特徴的である。また、東アジアでは水準自体は突出していないものの、両方への関心が一定程度確認できる。フランスのようにメンタルヘルスが低水準にとどまる国もあり、社会的議論の成熟度やオープンさが浸透度に影響している可能性がある。
(2025年9月3日更新)
日本らしさ
海外から見た「日本らしさ」を理解することは、需要創出において不可欠です。「日本らしさ」という印象は食事や訪問時期、訪問地域、海外輸出など、さまざまな日本関連の消費シーンに影響を及ぼします。外国人が日本らしいと感じる象徴の上位は「寿司」「桜」「富士山」でした。
しかし、国・地域別に見ていくと、文化的受容の実態は大きく異なります。リピート率上位3市場(韓国、台湾、香港)のうち、韓国は他市場とは明らかに異なる傾向を示しました。東南アジアではタイが日本のイメージが比較的定着していると考えられます。英語圏に目を向けると、アメリカは最大の送客元である一方、日本らしさの具体的要素への理解は相対的に低いという傾向が見受けられました。欧州では、ドイツとフランスという隣国同士が対照的な結果を示しています。
本研究シリーズでは、日本人自身が考える「日本らしさ」についても国内調査を行いましたが、その結果は海外の認識とは大きく異なりました。本項目に限らず、国内が訴求したい日本らしさと、海外で実際に受容されている日本らしさは必ずしも一致していません。その差異を理解し、相互の接点を戦略的に設計していくことが必須です。
(2025年8月27日更新)
インバウンド基礎力
訪日旅行者における都道府県単位の認知度や訪問経験、今後の訪問意向を総合的に見ると、「東京都」が他を圧倒して高く、次いで北海道、大阪府、京都府といった広く知られた観光地が続いています。特筆すべきは、過去10年にわたってこの上位層に大きな変動が見られない点であり、都道府県レベルでのブランド力が、ある程度固定化されている現状が示唆されます。
都市単位で見ると、札幌市、大阪市、京都市の3都市が突出した認知度を有しており、他の政令指定都市や中核市とは一線を画しています。その他の都市でも一定の認知はあるものの、訪問経験においては上位とは明確な差があり、同一グループにおいては大差が見られません。単なる認知だけでは訪問には直結しない一方で、そもそも認知されていなければ訪問の選択肢にすら入らないという、認知と行動の間にあるジレンマが浮き彫りになっています。
都道府県と主要都市という二つの軸から明らかになったのは、インバウンド基礎力においてマタイ効果※が強く作用し、「強さゆえの集中」という構造的課題を生んでいる点です。地方部の認知度や訪問経験の格差にとどまらず、訪問時期の偏在、日本らしさに対する理解の偏り、商業施設の認知や訪問意向における地域間格差など、複数の側面において課題が表出しています。これらはオーバーツーリズムの多面性と、その対応の難易度の高さを示しています。
※マタイ効果=累積的優位性。優れた人物や組織への好意的な評価が、さらなる成功につながりやすくなる現象。
Z世代視点のジャパンブランド
Z世代にとってのジャパンブランドは何を意味するのか。本チャートは、その問いに応えるために、実在する企業・商品ブランドを対象とし、認知・好感・使用経験という三つの評価軸を統合し、各ブランドのポジショニングを可視化したものです。
まず、ジャパンブランドとしてインパクトが最も高いと考えられるのは、総合電機、ゲーム玩具、アパレル業界を代表する3社です。これらは好感度と使用経験において他を大きく引き離し、圧倒的な存在感を示しています。一方で、認知度に関しては多くのブランドが拮抗(きっこう)しており、一定の認知を獲得しながらも、好感や使用経験といったエンゲージメントの深化には至っていないブランドが多数確認されました。
Z世代においては単なる認知の獲得だけでは不十分であり、認知から使用経験へとつなげるエンゲージメントの深化こそが、今後のジャパンブランドを左右する鍵になると言えます。
(2025年8月20日更新)
日本食材のイメージ
海外生活者が日本食材に抱くイメージは、「おいしい」「新鮮」「高品質」といった要素が強く、総じて非常にポジティブです。これは食材そのものの品質に加え、「日本で生産された」という産地としての付加価値も評価されていると考えられます。一方、国・地域による認識の差も大きく、輸出先ごとに精緻なマーケティング戦略が求められます。
他国食材との差別化要素として、「うま味」はしばしば重視されます。1908年、昆布だしからその主成分であるグルタミン酸が発見され、これがうま味の正体とされました。その後、「UMAMI」という日本語が英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語などでも一般名詞化し、世界に広まりました。
しかし、うま味は甘味・酸味・塩味・苦味のように、万人に直感的に理解される味覚とは限りません。ジャパンブランド調査では、香港ではうま味の理解度が突出して高い一方、韓国や英語圏では必ずしも浸透していないことが明らかになりました。これは、「和食=うま味」という国内の常識が、海外では必ずしもそのまま通用しないことを示しています。
ソフトパワーの比較
生活者視点で一国の魅力度を、「居住意向」「就労意向」「留学意向」「旅行意向」「ビジネスパートナーとしての協業意向」の5軸で評価すると、地域ごとの差異は少なくありません。比較対象国と比べ、日本が優位に立てるかという問いに対しては、感覚と実際のデータがしばしば異なる結果を示しています。
来訪者数が最も多い東アジアからの評価では、全体的にシンガポールが優勢です。特に就労意向においては、シンガポールが日本を大きく上回りました。背景には、給与水準や購買力の高さ、低い所得税率、高付加価値産業の集積、言語や多文化の受容度、そしてキャリア形成の可能性など、経済・社会制度・生活環境が複合的に影響していると考えられます。
(2025年8月13日更新)
再び訪れたいという満足度指標
この10年間で、インバウンド(訪日観光)は市場規模・来訪者数ともに急拡大しました。来訪者の約7割は近隣地域からとなっており、リピート率の高い国・地域やアジアパシフィックエリアを中心に、再訪日観光の意向も高水準を維持しています。
なお、本チャートで紹介している再訪意向は、海外旅行経験者を対象とした訪問経験のある旅行先(国・地域)への再訪意向を複数選択・水平比較したものであり、訪日経験者に限定した日本への再訪意向ではありません。

地方観光への期待
オーバーツーリズムの軽減と地方創生の実現を同時に満たす対策として、地方送客が代表的な手法として注目されています。難易度の高い地方分散を実現するためには、それぞれの地域にあった戦略と戦術の構築が求められており、特に地方観光における観光資源の再発見・再編集が重要と考えられます。そのためには、海外の消費者が求める可能性のある観光資源について、定期的かつ切口別の把握が必要です。
具体的には、属性軸において、リピーターとのエンゲージメントづくり、対日関心度・理解度の高い人の誘致戦略が不可欠です。また、体験軸においては、季節性を生かした自然景観、心身ともにリラックスできる環境、観光資源としてのローカル電車・バス、各地域の名湯、歴史を感じさせる街並み、地元でしか味わえない郷土料理、ガストロノミー体験などが挙げられます。これらの要素から読み取れるのは、物質的な豪華さよりも、その土地ならではの景観的・文化的な豊かさを五感を通じて提供できるかが重要であるという示唆です。