失敗したら終わり……。「揺れる自己肯定感」を必死に守る若者たち
2025/09/30
電通若者研究部(以下、電通ワカモン)は高校生、大学生、社会人1~3年目の若年層を中心に、2年ぶりとなる大規模調査を実施(調査概要はこちら)。その結果をもとに、若者の価値観をひもといた「若者まるわかりナレッジ2025」を作成しました。(お問い合わせはこちら)
調査から得られたファインディングスを紹介する本連載。今回のテーマは、若者の「自己肯定感」についてです。彼らは自己肯定感とどのように向き合っていて、それが周囲とのコミュニケーションにどう表れるのか。そして、大人や社会に何を求めているのか──。調査結果を読み解いていくと、若者の言動の裏にある心の内が見えてきました。
日々揺さぶられる自己肯定感
ここ数年、“ありのままの自分を肯定できる感覚”を指す「自己肯定感」という言葉を目にする機会が大きく増えました。「若者は自己肯定感が低い」と語られることも多いですが、電通ワカモンは、彼らを「自己肯定感が低い世代」ではなく、「自己肯定感を揺さぶられやすい世代」と捉えています。
「ひとりひとりの個性を尊重する」という教育を受けて育ってきた若者世代。多様性を認める点で大きな意義がありますが、一方で「個性は周囲に認められてこそ価値がある」という意識も生まれやすくなりました。その結果、自分の内側から湧き上がる自信よりも、外からの承認に依存しやすくなる。つまり、自己肯定感は確かに持っているものの、まだ確立しきれていないため、外部の刺激に過敏に反応してしまうのです。
さらに彼らは、幼いころからSNSが身近にあり、常に他人と自分を比較せざるを得ない環境で成長してきました。“いいね”の数で価値が可視化され、コメント欄には具体的な評価が並ぶ。磨かれたビジュアルや憧れのライフスタイルが次々と目に飛び込んできます。今回の調査でも、「SNSを見ていて自分に自信をなくすことが度々ある」と回答した若者は60%にのぼりました。無意識にスクロールするたびに、少しずつ自己肯定感が削られている様子が見えてきます。

一方で、失った自信を取り戻す機会も日常の中にありそうです。大学生に「自己肯定感が上がるのはどんなとき?」と尋ねたところ、「メイクがうまくいったとき」「テストの点が上がったとき」などの回答がある中で、多くの学生が口にしたのが「褒められたとき」という回答でした。

若者にとって、自己肯定感は「全くないもの」ではなくむしろ「強く求めているもの」。ただし、それを安定的に維持することが難しく、ある場面では自信に満ちていても、別の場面では急に不安に傾いてしまう。言い換えれば、若者にとっての自己肯定感は「固定的な自己評価」ではなく、「日々のコンディション」であるとも言えるのではないでしょうか。
精神的負荷を減らす「期待値コントロール」
自己肯定感が揺れやすい若者たちは、日々の生活の中で心のバランスを保つことに大きなエネルギーを使っており、その特徴は、彼らのコミュニケーションのあり方にも表れています。そのひとつが「期待値コントロール」です。あえて自分を低く見せたり、ハードルを下げてから行動したりする特徴もあります。これは単なる謙遜やユーモアではなく、「失敗しても大きく傷つかないための保険」として機能しています。
今回の調査で「自分自身をどんなキャラクターと認識しているか」を尋ねたところ、4人に1人が「自分は陰キャだ」と回答しました。失敗や間違いに対する忌避意識が強い彼らにとって、周囲からの期待は大きなプレッシャーになります。だからこそ、あらかじめ期待値を下げておくことで、失敗したときのダメージは小さく、うまくいけば「思ったよりできるじゃん」とプラスの評価を得やすくしているのです。

例えば、新しいことに挑戦するとき「できなかったら笑ってね」と前置きしたり、仕事で「あまり参考にならないかもしれないですが……」と言い添えたりする場面。これらは自分の力量を伝える以上に、「失敗しても責めないでほしい」というメッセージを含んでいると電通ワカモンは考えます。裏を返せば、彼らは他者からの評価によって大きく自己肯定感を揺さぶられることを恐れているとも言えるでしょう。
こうした姿勢は、日常の小さな場面でも見られます。最近、「風呂キャン(風呂キャンセル界隈)」という言葉がSNSを中心に広がり共感を集めました。疲れや面倒を理由に入浴をせずに寝る行為について、「風呂キャンしちゃった」とネガティブを先に提示する。そうすることで「だらしない」と責められる前に自分を守ることができます。これもまた、自己肯定感を防御するための“期待値コントロール”の一例です。
彼らはこうした行動や言動によって精神的負荷を減らし、自己肯定感を守りながら人間関係を築いているのです。
挑戦したくても、「残りライフ1」しかない若者
これまで見てきたように、若者は他者からの評価によるダメージを最小化し、精神的な負荷を減らしながらなんとか自己肯定感を守ろうとしています。「若者は挑戦に消極的だ」と語られることも少なくありませんが、その背景には、自己肯定感を失うことへの強い恐れがあります。
今回の調査でも、約70%の若者が「失敗した際に自分の責任にされることを恐れて、挑戦を避けることがある」と回答しました。

この慎重さの背景には、大きく2つの要因があると考えられます。ひとつは、雇用や保障の安定が揺らぎ、自分のことは自分で守らなければならない社会環境です。調査結果からも、情報が豊富な社会での選択ミスは、リサーチ不足による自己責任だと感じる意識が強く、挑戦への心理的ハードルが高くなっていることがわかります。

もうひとつは、SNSや動画、リアリティショーなどを通して、他人の失敗を日常的に目にしていることです。恋愛や結婚に関してもその傾向は顕著で、結婚に対して81%の若者が高いハードルを感じており、結婚よりも、何度でもやり直せる恋愛を“始める”ことにすら、79%もの若者が相当な覚悟が必要だと答えています。

このように、若者はただ挑戦を恐れているのではなく、「一度でも失敗したら取り返しがつかない」という心理状態、いわば「残りライフ1」の状態でいるのではないでしょうか。こうした崖っぷちの状態では、自己肯定感を守るための行動が優先されます。挑戦よりも、まずは「失敗を避けること」が最優先となり、日常の小さな選択でも慎重さが際立ちます。若者にとって挑戦は単なる意欲の問題ではなく、心理的リスク管理の問題でもあるのです。
自信をくれるのは「助けてもらえる安心感」
「一度でも失敗したら終わり」という強い意識を抱え、自己肯定感も揺さぶられやすい若者たちに、周囲の大人や社会はどう向き合えばよいのでしょうか。
電通ワカモンの調査では、7割近くの学生が、バイト先の先輩や社員に対して「失敗したら失望される/切り捨てられるのではないかと感じる」と回答しています。ここで注目したいのは、若者が単に怒られたくないというよりも、「自分が期待を裏切ることで自己肯定感が揺らぐこと」を強く恐れている点です。ここまで見てきたように、失望されることは、評価だけでなく、自分の存在価値へのダメージとして受け止められてしまうのです。

こうした若者に必要なのは、安心感の提供であることが今回の調査で明らかになりました。「職場の上司や先輩に求めること」として上位に挙がってきたのは、「後輩を守ってくれる」「自分の話をちゃんと聞いてくれる」「どこが悪かったかちゃんと指導してくれる」など──仕事における優秀さよりも、日常的に支えてくれる存在こそが若者から必要とされていることがわかります。

一例を挙げると、某オーディション番組では、プロデューサーの若者への向き合い方に多くの賞賛が寄せられました。参加者のこれまでの経験を肯定した上で“今”に向き合う姿勢や、脱落者に対してもその場で切り捨てることなく、その人の未来につながるように手を差し伸べるなど、「自己肯定感」と「安心感」の両方を守る言動・行動が若者にも支持されています。また、企業の広告においても、がんばれと真正面から応援するのではなく、これまでの努力を賞賛する形で応援するメッセージに共感が集まっています。
このように、今だけでなく過去にも目を向けてあげることが「自分をちゃんと見てくれている感覚」につながります。こうした向き合い方をしていくことで、「自分はひとりじゃない」「何かあったときは守ってくれそう」という安心感を抱いてくれるようになるのではないでしょうか。
若者たちは、防御モードで日々自己肯定感を必死に守りながら生きています。しかし、安心感を与える周囲の存在によって、その緊張を緩め、挑戦の余地を作ることができます。承認や褒め言葉を与えるだけではなく、失敗しても受け止めてもらえると感じる環境を整えることが、彼らの成長を支える鍵となるでしょう。