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世界の気持ちと日本らしさ ~ジャパンブランド調査2024~No.3

地方で光るジャパンブランドとは?訪日客を地方に呼び込むための3+1のコト

2024/09/30

第1回では、2024年の最新調査から「ジャパンブランド」の現在地について、第2回では「インバウンド」に焦点を当て、過去調査も含め、訪日人気の現在に至るまでの変遷を紹介しました。

第3回は「日本の地方」に視点を置き、人気が高まる「地方観光」の具体的な注目ポイントと訪日客のニーズを考察。「地方でこそ光るジャパンブランド」に迫っていきます。

<目次>
世界から「日本の地方」への注目が高まっている

訪日客の約68%はリピーター。誘客のチャンスは全国各地にあり!

「~ない」ことこそ魅力!?地方観光で期待される3つの「ない」価値

こちらはNG!地方観光の発信で払拭したい1つの「ない」障害

地方観光の発信で大事にしたい3+1のコト

世界から「日本の地方」への注目が高まっている

ジャパンブランド調査では日本の47都道府県に対する「認知」「訪問経験」「訪問意向」を継続的に聴取しています。2024年の結果を、5年前の2019年と比較すると、地方の知名度の高まりを確認できます。

都道府県名の認知は、北海道・東京都を除き、45の府県で2019年に比べスコアが上昇しています。特に認知が上がったのは、京都府(+7.6pt)、大阪府(7.3pt)、沖縄県(6.8pt)です。続いて、山口県(6.0pt)が第4位にランクインしました。今回の調査期間中に、山口県山口市がニューヨーク・タイムズ紙の「2024年に行くべき52カ所」に選出された影響も考えられます。

認知を高めた都道府県

さらに、ポテンシャル層(=日本に来たことがないが、今後日本を訪れたいと思っている層)に着目すると、各都道府県の認知は、15の府県で+5.0pt以上と大きく増加しています(図表2参照)。この要因の一つとして、各都道府県による海外への活発な情報発信が考えられます。近年アジアからの観光客を集める青森県では、中国のSNS微博(Weibo)アカウントのフォロワーが130万人を超えるなど、デジタルメディア上での発信の有効性が高まっています。

訪日ポテンシャル層から認知を高めた都道府県

訪日客の約68%はリピーター。誘客のチャンスは全国各地にあり!

「令和6年度版 観光白書」によれば、2023年の訪日客の約68%は「リピーター」(訪日回数が2回目以上)となり、特に香港・台湾は9割前後、韓国・タイ・シンガポールも7〜8割が「リピーター」となっています。同調査では、三大都市圏および地方部の訪問に注目したとき、「地方部のみ」を訪問した訪日客の約86%は「リピーター」でした。

ジャパンブランド調査では今後の「訪問意向」を聴取しているため、今後のチャンスも含め分析が可能です。訪日意向がありつつ訪日回数が0回のポテンシャル層、1回のビギナー層、2回以上のリピーター層それぞれの都道府県別の訪問意向を見ると、東京都、京都府、大阪府以外の道県へのスコアが高まっていました。さらにライトリピーター層(=訪問回数が2~3回目)でもリピーター層と同様の傾向が見られます。これは、2回目以降の訪日から、全国各地に誘客のチャンスがあることを示唆しています。

※リピーター層にはライトリピーター層が含まれます。
 
都道府県別の訪日意向

「~ない」ことこそ魅力!?地方観光で期待される3つの「ない」価値

なぜ、地方は訪日客からの注目を集めているのでしょうか。ジャパンブランド調査2024で新設した設問「地方観光に期待すること」の回答から、3つの特徴が見えてきました。

全体のTOP3には「四季を感じる自然景観を楽しむこと」「地産食材で調理される郷土料理を満喫すること」に加えて「のんびりした地方の風景を見ながら、心身ともにリラックスすること」がランクインしました。「四季」「食」「歴史」に加え、「のんびりと過ごすこと(リラックス)」にニーズがあることは、私たちとしても発見の一つでした。

前述の「2024年に行くべき52カ所」に選出された山口市は、その選出理由として「山口市は西の都と呼ばれ、京都に比べ観光公害がかなり少ない」と指摘されています。オーバーツーリズムが問題視される今、「人が来ていないこと」「まだ多くの人に知られていないこと」は大きな魅力になり得るようです。

訪日客の地域別で見ると、地方に求める観光の微妙な違いも見えてきます。東アジアにおいては「ガストロノミー」が1位となっており、地域ならではの食体験への期待が読み取れます。「森林浴」が5位になっているのもリラックスすることへのニーズが感じられます。東南アジアにおいては「四季」への憧れは強く、熱帯地域の自国では見られない雪や桜、紅葉といった自然景観へのニーズはやはり高いです。

また「地産食材」への注目度も高く、日本だからこそ食べられる新鮮な海鮮類(カキ、カニ、ウニなど)や各地のブランドフルーツ(イチゴ、メロン、ブドウ、モモなど)が人気となる理由になっていることがうかがえます。欧米豪はアジアに比べ「歴史」がTOPになる点が特徴と言えます。

地方観光に期待すること

以上の地方観光への期待からは、大きく3つの地方の「~ない」魅力が見えてきます。

1つ目は「開発されすぎていない」という価値です。歴史ある遺跡や古くからの街並み、ローカル交通といったハード面に加え、生活様式に古くからのその土地らしさが残っていることこそ地方観光ならではの体験の源泉になります。

2つ目は「まだ知られていない」という価値です。訪日人気の中、肥えた目をした日本通は増加し、特にリピーターではその特徴は顕著です。加えて、人混みを避けたいニーズもあることから、多くの人に知られていないこと自体の価値が高まっていると言えます。未知なる地域への観光こそ、訪日客の心をつかむでしょう。

3つ目は「自国では手に入らない」という価値です。主に東南アジア地域の訪日客によく見られるように、四季や新鮮な食材へのニーズは、自国で体験できないからこその希少性がポイントです。訪日客の国ではなかなか得難い体験こそ、個性豊かな地方が提供できる価値と言えます。

この3つの「~ない」価値を意識していくと地域の中でピックアップすべき魅力が見えてくるのではないでしょうか。

こちらはNG!地方観光の発信で払拭したい1つの「ない」障害

一方で、2024年で新設した設問「地方観光における障害」からは、地方誘客におけるいくつかの課題が見えてきました。

最大の懸念となっていたのは「言語によるコミュニケーションの不安」です。訪日回数別で見ると、訪日経験がない層ほどその傾向が顕著になります。続けて、「都会以外の地方観光地を知らない」「地方観光地が持つアクティビティに関する情報源が足りない」「日本の交通ルールを理解していない」など、観光資源や二次交通に関しての情報不足は訪日回数を問わず懸念となっていることが分かります。

地方観光の障害要因

回答結果全体を見ていくと、地域観光の障害になっているのは、地域の魅力が「ない」ことや環境が整わず「できない」ということではなく、「分からない」ことが懸念されていることが見えてきました。ここから、訪日外国人を受け入れる環境の整備において、まず着手すべきは地域内の情報不足の解消だと言えそうです。

そのためには、きめ細かい情報提供ができているか訪日外国人視点でチェックしていくことが重要です。例えば、

  • 訪問するための交通手段や経路
  • 体験する上で必要な準備や日本語能力などのスキル
  • 体験にかかる所要時間や費用・労力などのコスト
  • 事前予約が必要か

といった情報があります。訪問前から現地に至るまでの情報を、訪日外国人にも「分かる」ように提供できているのかは、地域の魅力を知らせることと同様に大切な取り組みとなります。

地方観光の発信で大事にしたい3+1のコト

今回は、「日本の地方観光」に着目し「地方でこそ光るジャパンブランド」は何か、調査結果をもとに考察してきました。

リピーターによる訪日が3分の2以上を占める昨今、ある程度日本に対して肥えた目をした訪日客が次に目指す目的地として、独自の歴史や文化、生活習慣が残り、都会に比べ「開発されすぎていない(Untouched)」地方の観光地が選ばれるチャンスがあります。さらに、近年の訪日観光のオーバーツーリズムや日本食の人気なども相まって、多くの訪日客に「まだ知られていない(Unknown)」知る人ぞ知るスポットであること、「自国では手に入らない(Unobtainable)」体験ができることの価値も高まっています。この3つの「ない」価値こそ、地方で光るジャパンブランドの特徴であると考えています。

一方、地方観光においては、都市圏に比べて交通や環境の「不便さ」はなかなか拭えない懸念点でもあります。しかし、訪日外国人が障害に感じるのはそのような不便さ以上に「分からない(Unclear)」ことであることが見えてきました。訪日前のウェブ情報から、地域内の交通の要所、宿泊施設、観光スポットなどの現場において、適切な情報を整備し、自動翻訳などのテクノロジーも活用していくことで「分からない」状態をいち早く払拭することが求められます。

地方観光の効果的な発信で留意した3+1のコト

注目を高めている地方観光がさらに活性化していくことは、地方創生の突破口であるとともに、政府が目標に掲げる訪日外国人6000万人の達成に向け、必要不可欠なピースでもあります。しかし、地方観光の現場においては「地域の魅力なんて分からない」「人手・担い手不足でやるべき情報発信ができていない」「発信する上でのノウハウがない」などの課題を感じていると推察します。そのような中で、今回の3+1のポイントが、伝えるべき魅力や取り組むべき発信の優先順位付けおよび取捨選択をする上で、何かのヒントになれば幸いです。

今後、地方に関する訪日外国人の眼差しを国籍別・エリア別でも分析していくなどして、日本各地の観光地がより豊かになるよう、ジャパンブランド調査プロジェクトチームで取り組んでいきたいと思います。


※1:本記事における対象国・地域の名称表記は日本国内の読者を想定対象とし、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものになります。
 
※2:本調査における構成比は小数点以下第2位(一部整数表示の場合は小数点以下第1位)を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。


【本件に関するお問い合わせ先】
電通ジャパンブランド調査プロジェクトチーム
japanbrand@dentsu.co.jp

【電通ジャパンブランド調査とは】
2011年、東日本大震災で日本の農水産物や訪日旅行に風評被害が発生した際に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されたかを把握するために始まった電通の独自調査。2022年に調査設計とアウトプットを大きくリニューアルし、全社横断プロジェクト活動へと進化。
訪日観光や食分野、日本産品、コンテンツ、価値観などジャパンブランド全般に関する海外生活者の意識と実態を定期的に把握。変わりゆく生活者の気持ちとジャパンブランドの課題を可視化し、複雑化が進む企業活動に寄与するとともに、日本社会における異文化理解の促進にも貢献する。

【電通ジャパンブランド調査2024概要】
・対象エリア:15カ国・地域(アメリカ・オーストラリア・イギリス・ドイツ・フランス・インド・アラブ首長国連邦・インドネシア・シンガポール・タイ・ベトナム・中国本土・香港・台湾・韓国)
・対象者条件:20~59歳の男女(中間所得層以上)
・サンプル数:7460(内訳:アメリカ960、インド900、中国本土800、その他の国・地域 各400)
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2024年1月19日~3月26日
・調査機関:株式会社ビデオリサーチ

※3:中国本土の対象エリアは上海・北京、インドの対象エリアはデリー・ムンバイ・ベンガルールに限定。
 
※4:中間所得者層の定義:OECD統計などによる各国平均所得額、および社会階層区分(SEC)をもとに各国ごとに条件を設定。
 
※5:各国・地域とも性年代別に均等割付で標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施。
 
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