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障害当事者との共創は、企業の研究や価値創造をどう変えるのか

河合 慎一郎

河合 慎一郎

旭化成ホームズ株式会社

梅本 舞子

梅本 舞子

筑波技術大学

山田 健人

山田 健人

株式会社 電通

「当事者の視点をどのように事業に取り込み、事業成果につなげるのか?」

本連載では、インクルージョン(包摂)の悩みにヒントを示すべく、インクルーシブデザインの「実装」に取り組む専門家や現場の声を交えながら、実践的な視点でひもといていきます。

「インクルーシブデザイン」をテーマにした研究開発に取り組む、筑波技術大学と電通は、旭化成ホームズLONGLIFE総合研究所と共に、ワークショップを実施。聴覚障害のある学生を交えて、 “未来の暮らしの心地良いつながり方”を考えました。

 

本記事では、ワークショップに参加した、筑波技術大学准教授の梅本舞子氏、旭化成ホームズLONGLIFE総合研究所所長の河合慎一郎氏、電通の山田健人氏による鼎談をお届けします。当事者との共創は企業の何を変えるのか、異なる背景を持つ人たちが共に生きるこれからの暮らしに必要なものを探ります。

筑波技術大学
きこえない・きこえにくい人、みえない・みえにくい人のための国立大学。聴覚障害学生が学ぶ「産業技術学部」、視覚障害学生が学ぶ「保健科学部」に加え、2025年から、両障害学生が情報アクセシビリティに関する情報科学と障害社会学を学ぶ「共生社会創成学部」が新設された。

(左から)筑波技術大学 梅本舞子氏、旭化成ホームズLONGLIFE総合研究所 河合慎一郎氏、電通 山田健人氏

障害当事者とともに、未来の暮らしを考えるワークショップ

山田:初めに自己紹介を。私は、電通のサステナビリティコンサルティング室で、さまざまなサステナビリティ課題を起点に企業の事業成長を支援しています。

前回の記事では、「インクルージョンや当事者との共創」というテーマについて、筑波技術大学の副学長・谷貴幸さんと電通グループのメンバーで語り合いました。今回はそこから一歩踏み込んで、実際に企業と大学が一緒に取り組んでみて、どんな気づきがあったのかを掘り下げてみたいと思います。

河合:旭化成ホームズLONGLIFE総合研究所(以下、LL総研)で所長を務めています。もともとは設計士として、戸建て住宅や集合住宅を約400棟手がけてきました。設計というと“形をつくる仕事”と思われがちですが、私自身はむしろ、お客さまの声を聞き、暮らしを観察しながら、その変化を読み取る仕事だと捉えています。

LL総研では、そのように捉えてきた生活者の変化を起点に、研究として蓄積するだけでなく、住宅や暮らしの仕組みに実装していくことを大切にしています。今回のワークショップも、そうした取り組みの一環として、LONGLIFEの観点から企画・設計しました。

山田:LL総研が見ているのは住宅そのものというより、“人の暮らしが長い時間の中でどう続いていくか”という理解でいいでしょうか。

河合:そうですね。もちろん住宅はつくりますが、一番大事なのは「暮らしが長く続くこと」なんです。“LONGLIFE”というと、建物の寿命をイメージされることが多いですが、僕らが本当に考えているのは、「人の暮らしがどう続いていくか」。親子関係だったり、ペットとの暮らしだったり、地域との関係だったり。「いろいろな背景を持つ人たちがどう一緒に心地よく暮らしていけるのか」が、LL総研の研究テーマです。

山田:ありがとうございます。続いて梅本先生お願いします。

梅本:きこえない・きこえにくい学生が集まる筑波技術大学産業技術学部で、建築を教えています。学生の頃から始めた住宅の研究を継続していて、実際にお宅を訪問しながら、「暮らし」と「空間」の関係を見てきました。ただ最近は、住宅そのものよりも、その人の生活が成立している“コミュニティと住環境”に焦点を当てて研究をしています。大学では、手話言語を中心としたコミュニティの中で生活している感覚があります。

山田:先生ご自身が“マイノリティ側”になる瞬間もあるんですね。

梅本:そうですね。手話のみで会話が進んでいるとき、内容の理解が追いつかず、わかったふりをして済ませてしまう、少し取り残されてしまっていると感じる瞬間もあります。

山田:今回のワークショップは、筑波技術大学の学生4人、LL総研の研究員7人、電通の担当者3人、ゲスト講師が参加しました。当日は2つのチームに分かれて、異なる背景を持つ人同士が、どうすれば心地よくつながり暮らしていくことができるのか考えました。

筑波技術大学HPのワークショップ紹介ページはこちら

なぜ、住宅メーカーの研究所と筑波技術大学が共創するのか

山田:ここからは、実際にご一緒してみて見えてきたことを伺いたいと思います。河合さんご自身、今回の取り組みの意味をどのように捉えておられましたか。

河合: 私たちが考えているLONGLIFEは、単に建物を長持ちさせることではなく、「人の暮らしが長い時間の中でどう続いていくか」という考え方です。長い人生の中では、年齢や家族構成、身体的な状態や環境も変化していきます。そう考えると、「自分とは違う誰かの話」ではなく、誰にとっても関係のあるテーマになります。

今回の取り組みでは、そうした“変化する感覚”や“多様な暮らし方”が、実際の生活や空間にどう影響するのかという問いを立て、その検証の場としてワークショップを設計しました。その意味でも、日常的に当事者の視点と向き合っている筑波技術大学のみなさんとご一緒できたことは、大きな意味があったと感じています。

山田:梅本先生は大学の立場からこのワークショップをどう見ていらっしゃいましたか。特に、学生のみなさんにとってどんな意味を持つ場になると思われていましたか?

梅本:一番大きかったのは、学生たちに“自分たちの感覚が社会で価値になる”という実感を持ってほしかったことですね。学生たちは、自分の困りごとはすごく分かっているんです。でも、その感覚が「他の人の役にも立つかもしれない」とまでは、まだなかなか思えていない。ですから、LL総研さんと一緒にワークショップをすることで、学生自身も、自分の感覚の意味に気づけるのではないかと思ったんです。

山田:大学の中では当たり前だった感覚が、外の文脈と接続されることで初めて価値として言語化される。そこが、今回の共創の大きいポイントですね。

梅本:そうなんです。実際に企業として長く研究されている方たちから、「それは価値になるよ」と言ってもらえる経験は、学生にとってすごく大きい。ですから、自分の中でまだ言葉になっていない感覚を、社会に向けて発信できるようになる。そういう機会になればいいなと思っていました。

山田:実際、学生のみなさんの感覚が企業にとって価値になると感じる場面はありましたか。

梅本:たくさんあります。例えば、よくある聴覚障害者向けの配慮として、「筆談できます」「コミュニケーションボードあります」と公共施設や店舗の受付に書いてあったりしますよね。一見、ユニバーサルデザインっぽく見えるのですが、学生からすると、「なんで“あります”なの?」と。“あります” ということは、「出してください」とお願いしないといけない。そこに心理的ハードルがある、なぜオプションにするのか?と言うんです。

山田:確かに。“配慮しているつもり”でも、実は前提がズレている。

梅本:そうなんです。私自身もそれを聞いてハッとしました。結局、自分の生活経験の中だけで物事を見てしまっている。そういうバイアスは本当にたくさんあります。

私も、学生からいまだに指摘を受け、反省することが多いです。これまでも企業とワークショップを何回かやってきましたが、手話通訳も文字通訳にも入ってもらい、「これでちゃんと伝わっているだろう」と思って進める。でも終わった後に、「すごく取り残されている感じがしました」と言われる。

河合:それは、進行が早すぎるとか?

梅本:早すぎるのもあるのですが、手話や文字で“情報として見える”ことと、本当に“共感し合える”こととは全然違いますよね。今議論している相手と共感し合うって、お互いに意見を交わしながら声色や表情も読んで、その上で納得している。しかし、手話通訳や文字通訳に視線をくぎ付けにしないといけない状態では、それができない。もっと間合いをとって、やり取りを丁寧にしてほしかった、と言われることもあります。

山田:配慮の方向性自体は間違ってないつもりでも、細かい部分がズレるだけで、全然違う体験になってしまう。

河合:ちょっと脱線しますが、今回の学生さんたち、本当に優秀でしたよね。ワークショップが終わる頃には、うちの研究員と学生さんが、とても親しくなっていましたね。

梅本:絆が深まっていましたよね。

山田:最初は遠かった距離感が、ワークショップを通じてどこかで一気に近づいた。「あれ、何が起きたんだろう?」って、すごく興味深かったです。

河合:深掘りできますよね。あそこを分析したら、「初対面の人と仲良くなる方法」みたいな、誰でも使える知見になりそうな気がします。

「障害者と何かを作る」という前提が変わる

河合:今回のワークショップには、建築や空間づくりを超えた学びがたくさんあったと思います。

山田:このようなワークショップを行うと、企業の人たちは、「正しい接し方をしなきゃ」とか、「失礼があってはいけない」と思いすぎることも多いですよね。でも、多少摩擦があっても、一緒に体験を作っていくことの方が大事だと思いますが、いかがですか?

梅本:摩擦は必要だと思っています。“障害”と聞くと、「これを言ったら傷つけるかな」「これは触れちゃいけない話かな」とか、いろいろ考えてしまいますよね。私自身も学生とぶつかることはありますし、時には涙するやりとりもあります。でも、そういう摩擦を経ないと、信頼関係は構築できないと思っています。そして、信頼関係がないと、本当のニーズは出てこない。ですから、共創は、時にはぶつかったり、けんかをしたりしながら、一緒に関係を作っていくことなんじゃないかと思います。

山田:今回のワークショップでは、最初は“違い”に目が向いていたものが、一緒に過ごす中で“何が共通しているのか”を見る方向に少しずつ変わっていった感覚がありました。その過程で、企業や社会の側が当たり前だと思っていた前提も、かなり揺さぶられる場になっていた気がするんですが、梅本先生はいかがですか。

梅本:最初は、やっぱり“違い”に目が行くんですよ。コミュニケーション手段も違うし、見えている世界もどうやら違う。でも、一緒に過ごしているうちに、「自分と共通している感覚」が互いに多くあることにも気づいてくる。それが、企業の方たちとも一緒にできるようになると、“障害者と何かを作る”という前提自体が変わっていく気がしています。

山田:今回のワークショップも、まさにそこを目指していましたよね。単に「聞こえない人の困りごと」を知るだけじゃなくて、その背景にあるストーリーや感覚を見る。そうすると、「聴覚障害者のためのデザイン」という話ではなくて、異なる背景を持つ人たち同士がどうやって心地よくつながれるか、というもっと普遍的なテーマになっていく。

河合:今回のワークショップには、建築や空間づくりにとどまらない学びがありました。特に重要だと感じているのは、これを単なる気づきの場で終わらせるのではなく、今後の研究や事業に展開していくための“原型”として捉えている点です。

どのようにすれば、このような気づきを再現性のある形にできるのか。どのようにすれば、他のテーマやプロジェクトにも応用できるのか。そうした視点で今回の取り組みも設計していました。また、これはCSRとして「いいことをしている」で終わる話ではなく、従来のセグメントでは見えてこなかった価値や、新しい顧客価値の発見につながる可能性があると考えています。

異なる感覚が、これからの暮らしの本質を照らす

山田:今回のような共創って、やってみると手応えはある一方で、企業の中で「いい活動ですね」で終わらせずに、研究や事業のテーマに接続していく難しさもありますよね。河合さんは、そのあたりをどう感じていらっしゃいますか。

河合:重要なのは、ここで生まれた知見を一過性のものにせず、循環させていくことだと思っています。つまり、研究で得られた気づきを住宅やサービスとして実装し、そこで得られた生活の変化や新たな課題を再び研究に戻していく。このような循環の仕組みをどう作るかが重要です。

LL総研としては、こうした「研究→実装→生活→再び研究」という流れを意識しながら、この取り組みを継続的に発展させていきたいと考えています。

山田: 単なる“いい取り組みですね”で終わらせずに、研究や事業のテーマとしてきちんと位置づけていくことが大事ですよね。

河合:そうです。“もうける”と言うと、嫌な響きに聞こえることもありますが、それは「誰かの役に立って感謝された対価」です。ですから、「誰かにありがとうって言ってもらえる価値」を、どう作っていくかという話ではないでしょうか。

山田:まさに、本連載の第一回でお話ししていた“経済の文脈に乗せる”ということですよね。当事者の方たちが、ちゃんと経済活動の中に入っていける状態を作る。今回のような活動が今後続いていったときに、暮らしや住まい、あるいはビジネスの中で、このテーマがもっと広がっていく可能性は感じられていますか?

河合:この領域は、まだ誰も体系化できていない部分が多く、だからこそ大きな可能性があります。一方で、単独の企業だけで実現できるものでもありません。

今回の取り組みは、インクルーシブデザインを概念で終わらせず、LONGLIFEという文脈の中で“暮らしの中に実装していくための実験”でもありました。こうした取り組みをさらに発展させていくためにも、大学や企業など、さまざまな立場の方々と連携しながら、共創の輪を広げていきたいと考えています。

山田:特に御社は、“LONGLIFE”という考え方をもともと大事にされているからこそ、こうしたテーマも“いい活動”として切り離すのではなく、暮らしや事業の文脈の中で考えやすいですよね。

河合:そこはやはり大きいと思っています。

梅本:私も「どうやってこのテーマを経済活動の中に入れていくか」だと思っています。つまり、“聴覚障害者や視覚障害者だけの問題”として閉じないようにしなければなりません。

その意味で、今回ワークショップに参加したある学生の考えはすごく象徴的でした。一般的には、「ろう者は視覚で情報を取るから、見通しのいい空間を好む」とよく言われます。でも彼は、「それはちょっと違う」と言っていて。“見通しがいい”ということは、自分も見られており、また、手話で話している内容も読まれている状態でもある。「見える」と「見られる」のバランスをもっと探りたいと。

しかも彼は、それは聴覚障害者だけの感覚ではないはずで、聞こえる人の中にも、「周囲から見られすぎると疲れる」といった感覚を持っている人はいるのではないかと考えました。そこで最近たどり着いたのが“環境感受性”という概念です。これはポジティブ/ネガティブな環境に対する処理や知覚の個人差と定義されています。例えば、同じ環境下でも、周囲の動きが視界に入りすぎたり、周囲の音がうるさすぎると感じて集中できない、というのは個人差がありますよね。

聴覚・視覚障害者は、聴覚や視覚以外の感覚がかなり鋭いと感じます。普段接している聴覚障害の学生は、相手の視線や影や光という視覚情報、それから匂いや振動に敏感です。そういう感覚は聴覚・視覚障害者特有のものでなく、一定数いるのでないか。ちなみに、社会を見渡すと環境感受性のポイントが高くなる人が3割くらいはいるそうです。

山田:それって、聴覚障害のある人だけに特有の感覚として捉えるのではなく、もっと広く、人が環境からどう影響を受けるかという話にもつながってきますよね。

梅本:そうです。LONGLIFEを考えるときに、一番鋭い感受性を持っている人の感覚が生かされることがあるんじゃないかと思っていて。今、その学生はオフィスを対象に研究を進めています。

山田:今のお話を伺っていると、学生のさんに“聴覚障害のある人”として参加してもらう、という捉え方だけでは足りないんだなと改めて感じます。今回私たちが大切にしていたのは、普段は見落とされがちな感覚や工夫をすでに持っている人たちとして関わってもらうことでした。今の先生のお話は、そのことをすごくよく表しているように思います。

梅本:はい。彼らは、私が経験したことのない生活体験を持っているし、私とは違う感覚を持っている。だから、同じものを見ても解釈が全然違う。それが、企業にとっても次のイノベーション、まだ見えていない価値の発見につながる可能性があると思います。

山田:河合さん、今の梅本先生のお話は、ろう者の感覚を手がかりにしながら、実はもっと広く人の感覚や暮らしの条件を捉え直していく話なんだなと思いました。こうした視点は、LL総研の研究にも生かせる示唆になりそうでしょうか。

河合:“環境感受性”の話も、本当にその通りだなと思います。感覚って、時間軸で変わるんですよね。例えば、小さい頃は、狭い場所に隠れるのが好きだったりするじゃないですか。でも年齢を重ねると、逆に見通しがいい空間の方が安心したり、死角が少ない方が安全だと感じたりする。ですから、感覚の変化を見ていくこと自体に意味があると思います。

今回、筑波技術大学のみなさんとご一緒してあらためて感じたのは、「まだ社会の中で十分に言語化されていない感覚を捉える力」の高さです。その感覚を抽出する力と、それを関係性や時間軸の中で整理し、価値として社会に伝えていく“編集力”の両方がそろうことで、初めて新しい価値として広がっていくのだと思います。

LL総研としても、これまで蓄積してきた暮らしの長期的なデータや知見を生かしながら、その編集の役割を担っていくことが重要だと感じています。

山田:まさにそこに、私たちが関わる意味もあると思っています。学生のみなさんが見つけた感覚や工夫を、そのまま個別の話で終わらせずに、企業や社会に伝わる論点として整理していくことが大事なんだと思います。

共創は、最後の確認ではなく、最初の問いを一緒に立てるところから始まる

山田:当事者との共創を考えるときに、どの段階から関わってもらうのがいいのかは、多くの企業が迷うところだと思います。実際、最後に意見をもらうだけで終わるケースも少なくないですよね。でも今回の取り組みは、かなり最初の段階から一緒に考えながら進めていました。

梅本:最初から関わると、そもそもの“問いの立て方”が変わります。例えば以前、「馬と人が共に過ごせる居場所を作る」というプロジェクトがあったんです。最初は、「住宅よりも少し広めの空間であれば、大きくて力の強い馬の隣で、人も過ごせるかな」程度にしか考えていませんでした。

でも、そのプロジェクトに最初から学生たちが入り、一緒に馬とのコミュニケーションを学びながら空間を提案してもらったら、全く異なるアイデアが出てきました。学生たちが提案したのは、「近づける空間」ではなく、「距離を取れる空間」だったんです。

それは、ある程度距離がないと相手の手話や表情が見えない手話コミュニケーションにも通じるところがあります。しかも、きこえない・きこえにくい人たちは、手話をしながら、「まわりに誰がいるか」とか、「危険が迫ってないか」とか、周囲の状況を常に視覚で確認しています。ですから、馬とコミュニケーション取りやすい空間を考えたときに、そもそもの問いの立て方が、「そばにいるためには」ではなく、「距離を取って互いをよく見えるようにするには」に変わってきたのはすごく大きくて。そこからは、馬と人の「間合い」を丁寧に設計するという方針に変わりました。

山田:当事者の方に途中からでも入ってもらうと、アウトプットが全然違うものになりますよね。一方で、全部のプロセスをずっと一緒に伴走するかというと、それも違う気がしていて。大事なのはどのタイミングで、どんな形で関わってもらうと一番意味があるのか、その関わり方を設計することなのかなと思います。

河合:僕は、結局“共創型コミュニティ”だと思っています。よく、「LONGLIFEを実現するために、いろんなパートナーと手を取り合いましょう」みたいな話があります。もちろんそれも大事なのですが、今は企業が単独で価値を出す時代ではなくなりつつある。ですから、多様な人たちと一緒に価値を作りながら、サービスやプロダクトを世の中に出していく。

あと、私たちが掲げている2030年ビジョンでも、真ん中にあるのは“LONGLIFE”ですが、それを環境や顧客や従業員が囲んでいて、それらをつないでいるキーワードが“With”、「ともに」なんです。高齢化でも、環境問題でも、サステナビリティでも、どんな社会課題も一人では解決できません。だから結果的に、「一緒にやる」がすごく大事になる。

梅本:“参加してもらう”ではないんですよね。どちらかが“参加させてもらう側”になると、もう共創ではなくなってしまいます。

山田:“参加”と“共創”の違いって、まさにそこですよね。プロセスの中で、関わり方の濃淡は出てくると思います。その中でも“With”の感覚を持ち続けられるかが大事ですね。

河合:学生さんは、実はそういう感覚に優れているのではないでしょうか。今の若い人たちは、もともと「みんなで作る」「一緒に考える」みたいな価値観の中で育ってきているじゃないですか。

梅本:ただ、本学の学生に関して言うと、“聞こえる人と一緒に取り組む”ことには、ハードルを感じる学生もまだまだ多いです。二項対立にはしたくないのですけど、「聞こえる人たちがマジョリティの世界」で体験した困難や不安があるためです。だからこそ、大学にいる間に、企業の人たちと“対等な立場で一緒に取り組む経験”を持ち、その取り組み方においても、互いが心地よいつながりの作り方を探ることは、とても価値があります。

小さくても実践を重ねることが、次の共創につながる

山田:こうした共創の価値って、社内の空気が変わることだけではなくて、企業が当たり前だと思っていた前提を見直し、それを研究や事業づくりにもつなげていけるところにあると思うんです。

河合:こういう活動は、「具体的にどんな価値が生まれるの?」というのが、まだ見えづらい。やっぱり前例が少ないから。でも逆に実例が見えてくると、一気に「うちもやりたい」となると思います。ですから、そこをどう作っていくかが一番苦労するところですね。

山田:単に“意見をもらう”じゃなくて、そもそもの前提を見直して改善につなげられるかどうかですよね。

河合:そうなんです。完全に花が開くところまで行かなくても、ちょっと芽が出るくらいまで持っていければ、分かってくれる人は多いと思います。

山田:企業って、日々研究や事業に向き合う中で、自分たちの前提を無意識に固定化しやすいと思うんです。だからこそ、違う背景を持つ人たちと一緒に考えることで、「本当にこの前提でいいのか」を見直すきっかけになるんですよね。

河合:ただ、今回のワークショップでも、「LONGLIFEに暮らせる空間」のヒントみたいなものは、かなり出ています。でも、それだけだと「なるほどね」で終わる気がしていて。本当は、それ以上に、「いろんな場面で応用できる考え方」みたいなものが見え始めている気がするんですよ。ある種のフレームワークというか。ただ、そういう話をすると、社内だけじゃなくて、外からも「それってもうかるの?」と絶対言われる。

まだ世の中にないからその価値が見えづらいだけで、本当はすごく重要だと思います。まだ体系化しきれていませんが、確かな手応えがある。だからこそ、さっき話していた“編集”が必要だと思います。

山田:油断すると、すぐ「聴覚障害者に限定した空間デザイン」の話に戻ってしまいますよね。

河合:そうなんですよ。ワークショップでも何回もそうなりました。学生さんたちも、一生懸命「困りごと」を話してくれますが、気づくと、「その人向けの解決策」の話に寄っていく。

ワークショップの「その経験を、自分の普段の研究や仕事にどう生かすのか、自分の言葉で整理して、失敗してもいいから試してみないと意味がない」と。今回の経験を個別の知見で終わらせず、他のプロジェクトにも展開できるように、LL総研として「共創活動をどう事業につなげるか」というフレームワークの整理も進めています。まだ発展途上ではありますが、研究員と共有しながら実践で磨いている段階です。

今後は、こうした知見や方法論を社外のパートナーとも共有しながら、より広い領域で活用していきたいと考えています。

山田:まだ完成した型があるわけではないですよね。だからこそ、こうした共創をどう実践として積み重ねていくのかが、この取り組みの大きなテーマなんだと思います。

河合:だから、まずやってみる。失敗してみる。それを積み重ねることが大事だと思います。今回の取り組みは、インクルーシブデザインを概念で終わらせず、LONGLIFEという文脈の中で実装していくための実験でもありました。

山田:今回の取り組みで大きかったのは、当事者の声を集めることよりも、その背景にある感覚や工夫を通じて、企業の側が自分たちの前提を見直すきっかけが生まれたことだと思います。この共創の価値は、1回のワークショップで完結することではなく、そこからどう研究や実践につなげていけるかにある。なので、学生のみなさんにも単に“意見を聞く相手”としてではなく、未来の社会やビジネスを考えるパートナーとして参加してもらいました。次回は、筑波技術大学の学生のみなさんにも入っていただきながら、その先の話をさらにお伝えしていきます。

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著者

河合 慎一郎

河合 慎一郎

旭化成ホームズ株式会社

LONGLIFE総合研究所

所長

1972年奈良県生まれ。一級建築士として戸建・集合住宅約450棟の設計に従事。生活者研究を基盤に、産官学連携によるLONGLIFE思想の社会実装と新たな暮らし価値の創出・普及を推進。

梅本 舞子

梅本 舞子

筑波技術大学

産業技術学部

准教授/博士(工学)・一級建築士

専門は住宅計画・住環境計画。大学できこえない・きこえにくい学生への建築教育に携わりつつ、ケアラー、外国人、引退競走馬支援などさまざまなコミュニティと住環境計画の関係をテーマに研究や実践に従事。近年は働き手の多様化が進む公共施設やオフィスの環境整備にもかかわっている。

山田 健人

山田 健人

株式会社 電通

サステナビリティコンサルティング室 企業価値コンサルティング部

dentsu DEI innovationsメンバー/プランナー

電通入社後、食品メーカーや不動産デベロッパーを中心に、ブランド戦略や統合的なコミュニケーション支援に従事。2016年以降は、不動産業界でのサステナビリティ視点に基づく情報設計やブランド再構築を推進。2023年よりサステナビリティコンサルティング室に所属。「ビジネス×DEI」を主軸に、企業へのインクルーシブデザイン導入や共創型ワークショップ設計などを通じて、持続可能な価値創出を支援している。

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