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本連載では、「情報メディア白書2026」の企画「プランニング最前線」の一環として、「AI時代のコネクションプランニング」をテーマに取り上げます。

生成AIの登場によってメディア環境や広告市場が大きく変化するなか、第一線で活躍するプランナーたちが、その実態と対応策について解説します。

第1回では、長年にわたり電通でメディアプランナーとして活躍してきた第4マーケティング局の浅田伊佐夫が、AI時代のメディア環境とはいかなるものか、その基盤となる構造について論じます。

情報メディア白書2026

コネクションプランニング=従来のメディアや顧客接点に加え、生成AIを介した情報流通も含めた、企業やブランドと生活者のさまざまな接点を統合的に設計すること。

※本連載に出てくる数字・データは、特に言及がない場合、「情報メディア白書2026」の調査結果に基づくものです。

メディアプランニングの崩壊。「どう届けるか」が、もう通用しない

はじめに──日々クライアントと向き合いながら、私はある種の違和感を拭いきれずにいます。

これまで十数年、
「どのメディアで、どのターゲットに、どれだけの予算を使って情報(広告)を届けるか」
を最適化することが、メディアプランナーの仕事だと信じてきました。しかし今、その前提そのものが音を立てて崩れはじめています。

2025年時点で、生成AIの月間利用率は個人全体で35.6%に達し、10代では男女ともに8割を超えました(※)。彼らにとってAIはもはや「特別なツール」ではなく、息をするように使う「日常インフラ」です。

※電通独自大規模調査「Tunes 2025 Spring」より

この変化は、単に接触メディアの時間配分が変わるという話ではありません。人が情報とどのように出会い、何を信じ、どう購買行動に至るか──その根本的な構造が変容しています。

本稿では、メディアプランナーの視点から、AI時代の本質的な課題と、プランニングの変化の方向性を論じたいと思います。

AIという「門番」が、情報の前に立った

メディアと人との関係はこの30年で、大きく三つの段階を経てきました。

第1段階は、テレビ・新聞を中心とした「1対多」のマスメディア時代です。

企業から生活者への情報伝達は一方向であり、GRP(延べ視聴率)を積み上げてリーチを最大化することがプランニングの王道でした。広告は何よりも「知ってもらうこと」を目的としており、テレビCMという単一の武器が圧倒的な力を持っていました。

第2段階は、インターネット・SNSの普及による「多対多」のデジタル時代です。

誰もが情報発信者となり、口コミやUGC(ユーザー生成コンテンツ)がブランドの評判を左右するようになりました。ターゲティング技術の精緻化により、情報を「適切な人に、適切なタイミングで」届けることが可能になった一方、情報量は爆発的に増大し、生活者は膨大なノイズの中で溺れるようになっていきました。

そして今、第3の段階が始まっています。「多対1」の時代です。

世界中の無数の情報やコンテンツをAIが学習・整理し、一人一人に最適な答えを返す世界へと向かっています。生活者はもはや自ら能動的に情報を探す必要はありません。企業が発信した情報は、まず生活者の「AIエージェント」という門番によって審査され、生活者の目に届くかどうかが決まります(カテゴリによってAIの影響度は異なる点は注意が必要。後述)。

「どう届けるか」という前提が崩れつつあります。今や「AIに選ばれるブランドであるか」という問いが、プランニングの出発点になりつつあります。

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メンパという考え方。生活者は「検索疲れ」でAIに頼りはじめた

AI時代の生活者を捉える上でカギになるのが、メンパ、すなわち「メンタルパフォーマンス」という考え方です。

現代人は情報不足ではなく、情報過多の時代を生きています。検索結果は数百万件、SNSには絶えず新情報が流れ込みます。その結果が「検索疲れ」「比較疲れ」「判断疲れ」の三重苦です。

AIが急速に普及している本当の理由は、単に便利だからではありません。人間の認知負荷を肩代わりしてくれるからです。

生成AI利用目的の47.1%が「検索の代わり」、30.9%が「思考整理」というデータが、その本質を端的に示しています。つまりAIは、情報探索を効率化するツールではなく、人間のメンタルパフォーマンスを安定させる存在なのです。

※電通独自大規模調査「Tunes 2025 Spring」より

今後、生活者はますます「自分で探す」より「AIに任せる」方向へシフトしていくでしょう。さらに、新情報に翻弄され続けることへの反動として「トレンドデトックス」──あえて流行を追わず、自分だけの「定番」を固める行動も広がっています。「新しさ」より「自分の定番であること」を確立したブランドが、長期的な競争力を持つ時代が来ています。

テレビは減少傾向。しかしデジタルは敵ではない

メディアプランニングの現場では「テレビ離れ」という言葉がしばしば語られてきました。1日当たりのテレビ視聴時間は、2015年181.3分から2025年105.3分まで減少傾向にあり、今後の動向も不透明な状況にあります(※)。

※出典:ビデオリサーチ「MCR/ex」2015年・2025年データ(10-12月調査) /東京50km圏/個人全体(男女12~69才)
/1日当たりの行動分析(週平均/特定の1週間を対象に、15分単位で生活行動を日記式で記録)
 

しかしここで注意が必要です。「テレビが弱くなったからデジタルへ」という単純な話ではありません。本質は、あらゆるメディアがAIという新しい接点へ統合されていくことにあります。

かつて生活者は「テレビ→SNS→Google検索→YouTubeレビュー」と複数メディアを横断して情報収集していました。これからは「おすすめの空気清浄機は?」とAIへ問うだけで済みます。AIがあらゆる情報源を横断学習し、最適解を提示するからです。

生活者が接触するメディアは減ります。しかしその裏側で、AIが接触する情報源は爆発的に増えます。これがAI時代のメディア構造です。

テレビにおいて、例えばドラマを見終わった直後の没入状態に届ける「ポストドラマCM」といった、「熱狂対象」とブランドをセットで記憶させる手法があり、こういった価値は高まっていくと考えられます。

また、逆説的に再評価されているのがOOH(屋外広告)です。街中に飛び込んでくる広告は、AIエージェントが介在できない「偶発的な接触」を生みます。AIのフィルターの外に存在し続けるメディアとして、従来からある手法が新たな価値を獲得しつつあります。

「純粋想起」の重要性と「理解系施策」のAI代替

AI時代のメディアプランニング変化の核心は、二つの大きな転換にあります。

一つ目の転換は、商品認知率より「純粋想起」の重要性が高まることです。

認知は「広告を見たことがあるか」という受動的な指標です。一方、純粋想起は「特定のニーズが発生した瞬間に、自発的にブランド名が浮かぶかどうか」という能動的な指標です。生活者の頭の中で第一想起に入らなければ、購買候補にすら上がれません。

AI時代ではこれがさらに重要になります。生活者だけでなく、AIにも想起されるブランドになる必要があるからです。

AIエージェントは購買判断に介在する際、SNSでの言及数・検索ボリューム・UGC(ユーザー生成コンテンツ)の量・レビューの質をシグナルとして推奨リストを作成します。例えば、損害保険カテゴリの分析でも、ブランドの出現率は想起率と高い相関を示すことが確認されています。

つまり、「AI想起×人間想起=最終選択」という構造が成立します。AIが推薦リストに含め、かつ人間の頭の中でも第一想起に位置付けられるブランドこそが、最終的に選ばれるのです。

二つ目の転換は、「理解系メディア施策」がAIに置き換えられることです。

比較記事・レビュー記事・ランキングサイト・SEOコンテンツ・HowTo動画──これらはすべて「理解を促進する」ためのメディアでした。しかしAIがそれらを読み込み、要約し、一つの回答として返す時代に、「理解させる」ことを目的とした施策はAIが代替する領域になります。広告は、理解を促すものから、記憶をつくるものへ比重を移していく必要があります。

AI時代のプランニングの羅針盤となる三つの軸

AI時代のプランニングの羅針盤は、三つの軸に集約されます。

第1の軸は、純粋想起の戦略的構築です。

認知率ではなく想起率をKPIの中心に置き直します。AIの推奨リスト生成のシグナルとなるオンラインメンション・UGC・検索ボリュームを増やすことを、メディア投資の目的として明示することが求められます。

第2の軸は、AIに引用される可能性の最大化です。

「どのような文脈でブランドが記録されたか」が価値の中心になります。新聞・雑誌などの一次メディアの価値を再認識し、コンテンツ起点のアプローチを加速させます。

第3の軸は、カテゴリ特性に応じた戦略設計の差別化です。

低関与商品では「セレンディピティ」と「定番化」を同時に設計し、耐久消費財・高額商材では「AIの推奨リスト上位に入ること」を第一目標とした純粋想起戦略を構築します。

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以上の三つの軸を踏まえ、人からもAIからも純粋想起が重要なこの時代、単に記憶されるだけでは不十分で、ブランドと人をつなぐ「文脈(意味)」とセットで記憶される(想起させる)必要があります。

そのために改めてポテンシャルがありそうな打ち手として、筆者が注目しているのは 「新聞や雑誌の広告特集」「テレビなどのコンテンツタイアップ」です。

広告特集の価値を再考する──AIに引用されるコンテンツとは

AI時代のメディアプランニングでは、「どれだけ届けたか」だけでなく、「AIが推薦したくなる情報資産をどれだけ蓄積できたか」が問われます。

従来のKPIは、ReachやFrequency、CTR(クリック率)などが中心でした。今後は、ブランド情報の一貫性・信頼性の高い第三者評価・専門性のあるオウンドメディア・PRによる社会的信頼・構造化されたコンテンツ、そしてAIO(AI最適化)などが重要性を増していきます。

そこで改めて注目したいのが、新聞・雑誌の「広告特集」の価値です。

「何人に届いたか」ではなく、「どのような文脈でブランドが記録されたか」が価値の中心になる時代において、媒体社がテーマを設定し、社会的な文脈を与え、読者に新しい視点を提供する広告特集は、AIが代替しにくい「編集思想」を持つコンテンツです。新聞・雑誌は編集責任、ファクトチェック、専門家ネットワークを持つため、AIが引用・参照しやすい一次情報源になる可能性が高いと言えます。

また、広告だけでブランドを形成するのではなく、PESO(Paid、Earned、Shared、Owned)の役割を整理し、それぞれが「AIに学習される情報資産」として機能するよう設計することが求められます。

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「広告を買う」から「体験を共創する」へ──コンテンツ起点のアプローチ

AI時代の広告は、「広告を配信すること」から「AIが引用したくなる情報をつくること」へ重心を移します。そして、さらにその先にある発想が「コンテンツ起点のアプローチ」です。

新たなアプローチの核心は、「没入している『好き』の瞬間にブランドを溶け込ませる」設計にあります。生活者が熱中しているコンテンツ、コミュニティ、体験の中に、広告としてではなく「その体験の一部」として自然に存在することです。

例えば先述のとおり、ドラマを見終わった直後の没入状態に届ける「ポストドラマCM」、ゲームのUI内に溶け込むブランド体験、特定スポーツや音楽という「熱狂対象」とブランドをセットで記憶させる手法があります。

こうしたアプローチは、心理的な受容性が高まった状態でブランドを強く印象付け、純粋想起の獲得に直結します。「○○といえばこのブランド」という文脈的セット認識は、AIが特定の場面での推奨を行う際のシグナルにもなり得ます。

広告は消費されます。しかし良質なコンテンツは、AIにも生活者にも引用され続けるブランド資産となります。広告主とメディアという旧来の「売り手と買い手」の関係から脱却し、クリエイターやコンテンツプラットフォームの「愛されるビジネスパートナー」としての立ち位置を確立することが、今後のブランドに求められる姿勢です。

ジャンルによって影響度は異なる──カテゴリ別戦略の重要性

すべての商品カテゴリが同じ速度でAIの影響を受けるわけではありません。

飲料・食品などの低関与商材は、棚の前で数秒以内に意思決定されることが多く、当面AIが介在する余地は限定的です。こうした商材では「セレンディピティ(偶然の出会い)」や店頭体験、OOHなどリアル接点の設計が引き続き重要になります。

一方、家電・旅行・住宅・自動車・保険・金融・BtoBサービスなど高関与商材では、AIの影響は急速かつ深刻に高まります。情報の非対称性が大きく、条件整理・比較・リスク回避を支援するAIの介在価値が非常に高い領域だからです。こうした商材では「AIが最初にリストアップするブランドであること」が最重要課題になります。

すべてのブランドが同じAI対策を行うのではなく、自社カテゴリの購買行動に応じた戦略設計が、これからのプランニングには必須です。

まとめ──「届けることの設計」から「選ばれることの設計」へ

AI時代のメディアプランニングを一言で表すなら、「届けることの設計」から「選ばれることの設計」への転換です。

AIは広告をなくすわけではありません。変えるのは、広告の役割です。認知を獲得するための投資から、想起を形成するための投資へ。AIが推薦するブランドと、人が自然に思い出すブランドが一致したとき、そのブランドは最も強いポジションを獲得します。

AI時代のメディアプランニングとは、単なる媒体選定ではありません。AIという新たな情報流通インフラを前提に、生活者の記憶とAIの知識、その両方の中にブランドの「指定席」をつくる営みなのです。

これからのメディアプランナーに求められる役割は、「広告枠を買う人」ではなく、「ブランドがAI時代に選ばれ続けるための情報設計者」へと進化していくことになるでしょう。私はそのことを、現場での違和感と格闘しながら、確信を深めています。
 

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著者

浅田 伊佐夫

浅田 伊佐夫

株式会社 電通

第4マーケティング局

メディアプランナー

電通新聞局で10年ほどプランナーを経験した後、MCプランニング局でメディアプランナーに転身。食品飲料・金融保険・通信・自動車・流通など多様なクライアントのメディアプランニングに従事。2025年からは社内のAI横断ユニット「MK AI Bridge」にも所属し、AIマスターとしても活動中。

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