社会のペインやニーズをつかみとり、ビジネス化し、スケールアップさせることで飛躍的な成長を遂げるスタートアップ企業。
スタートアップでは、一般的に短期間で急成長が求められるため、ビジネスの資源となる「ヒト」「モノ」「カネ」を、最短で確保する必要がある。
そのため、内部はもちろん、外部リソースもフル稼働させながら、事業を推進させなければならない。そして、時には、他社からの出向社員の知見や経験が、成長を支えるケースもある。
そんな、いわば“伴走者”として、スタートアップに出向して籍を置き、事業にコミットする電通社員に注目する連載「The BUDDIES」。
第1回は、障害のある作家と共に新たな文化の創造を目指す「ヘラルボニー」に潜入し、出向者のリアルにフォーカス。
スタートアップの成長にとって必要なのはどのような人材で、「バディ」は何をヘラルボニーにもたらしたのかに、迫った。
※この記事はNewsPicks Studiosのスポンサード記事からの転載です。
出向先のミッションは「異彩を、放て。」
ヘラルボニーの創業は、2018年。
同社は「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、障害のイメージ変容と新たなカルチャーの創出を目指す、クリエイティブカンパニーだ。
創業者は、松田崇弥氏と文登氏の双子の兄弟で、2人には重度の知的障害を伴う自閉症の兄がいる。
双子の1人であり、Co-CEOの松田崇弥氏はこう語る。
「障害と聞いたときに想起するイメージを変えたいと思っています。
もともと彼らはすごい才能(異彩)を持っており、それを適切な場所、デザイン、PRなどとあわせて展開すれば、経済に合流できるのではないか。そんな仮説を持っています」(松田)
同社では、障害のある334名(2026年7月時点)の作家=“異彩を放つ”作家と、対等なビジネスパートナーとしてアートデータのライセンス契約を結び、彼らの作品を軸に事業を展開する。
その事業は、契約作家のアートを使ってデザインした衣服や雑貨などを販売する「ブランド事業」と、アートを軸に企業や自治体などと共創プロジェクトを展開する「コラボレーション事業」に大別される。
契約作家には正当なロイヤルティとして継続的に還元し、その累計還元報酬は3年間で約15倍に伸長(2024年8月時点)。
そのビジネスモデルやクリエイティビティは国内外で高く評価され、2025年には「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」で、「グラス部門・金賞」を受賞した。

一見順調そのものだが、松田氏は課題も挙げる。
「壁はたくさんあります。特に感じている課題は『影響力』です。
現状、一定の方々には関心を持っていただいているものの、それで実際に目指している社会になっているのかと問われれば、本当にまだまだです」(松田氏)
ブランドの波及やビジネスの進捗については、実績が見え始めているものの、同社が見据えるのは“異彩を放つ”作家がもはや異彩と呼ばれない世界の定着だ。
そのためには、カルチャーとビジネスの両輪を、よりスケーラブルに展開していくことが求められる。
現在、同社にはそのビジョンや想いに共感し、眼前にある課題を打破していくべく、さまざまな業界からタレントが集まっているが、そのなかで意外な人物がコミットしている。
それが、電通から出向している現王園(げんのうぞの)章太氏だ。同氏はもともと電通のOOH(屋外・交通広告)のスペシャリストで、これまでアートとはあまり縁がなかった。
なぜ、そんな現王園氏がヘラルボニーにかかわるようになったのだろうか。
自分がいることで、好きな誰かを、勝たせたい
高校・大学の7年間、アメフトに打ち込んだ現王園氏が電通に入社したのは、2012年のこと。
入社後は、OOHのメディア担当プランナーなどを担い、キャリアを積んでいった。転機となったのが、部署の公募で実現したイギリス赴任だった。
「OOHの仕事での赴任でしたが、コロナ禍によるロックダウンでOOH広告の需要が激減し、現地の同僚の約半数が退職する事態になりました。
これを機に、広告業というビジネスの将来にあらためて向き合うようになったと同時に、『自分が本当に熱中してできることは何なのか?』を立ち止まって真剣に考えるようになりました」(現王園氏)
徹底的な自己分析の末、自身が得意で、本当にやりたいものとしてくっきりと浮かび上がったのが、「自分がいることで、好きな誰かを勝たせること」だった。
帰国後は、屋外広告のデジタルプラットフォーム企業「LIVE BOARD」に3年8カ月出向し、悲願だった黒字化をサポート。そして2025年4月、新たに出向することになったのが、ヘラルボニーだった。
「スタートアップの世界に強く興味を持ち、出向先を検討する中で出合ったのが同社でした。
そのミッションに加えて、強烈なCEOの2人に、エネルギーに満ちた社員の皆さん、そして作家さんたちの比類なきパワー。
調べれば調べるほど、雷に打たれるような衝撃があり、この会社で働かなければ一生後悔するかもしれないと感じました」(現王園氏)
社会性と経済性はどう両立するか
では、実際にヘラルボニーではどんな業務に携わっているのか。
現王園氏がヘラルボニーで担うことになったのが、アカウント事業部の営業企画のマネージャー職だ。
役割としては、ヘラルボニーのアセットを生かし、パートナー企業とのコラボレーション案件に対するプロジェクトマネジメントが基本になる。
しかし、実際は非常に多岐にわたる役割を担っている。
たとえば、これまでのリレーションを生かし、ヘラルボニーをもっと多くの人に届けるための施策を推進している。
ある日、現王園氏はかつての出向先であるOOHプラットフォーム会社、LIVE BOARDを訪れていた。
全国にデジタルサイネージを数多く展開する同社が企画した、ヘラルボニー向け広告施策に関する打ち合わせに臨むためだ。
そこで挙げられたいくつかの提案の中でも、特に現王園氏の心を捉えたのが、地域のデジタルサイネージにその地域の作家の作品を流すアイデアだった。
「福祉施設という限られた関係者・環境の中で創作活動をしているケースや、息子さんや娘さんがアートを描いていることを、親御さんとしては地域社会に知ってもらいたいという想いが強くあると感じています。
だからこそ、地域に特化した作家さんの作品を集めて放映する企画は、ヘラルボニーとしてとてもすてきだなと」(現王園氏)
また、ヘラルボニーの認知を広める施策として現王園氏が手がけたものの一つに、東京・大手町駅に直結する商業施設の大型ビジョンへの出稿がある。
ビジネスパーソンをはじめ多くの人が行き交う場所に、異彩作家の制作風景や作品を映したムービーが掲出される仕掛けだ。
この他に、電車をアート作品でラッピングするという企画に参画し、実現を後押しした。
OOHの仕事に長く携わってきただけに、どんな場所にどのようなものを流せばいいかを、イメージしやすいという。
一方、やりがいを持ってヘラルボニーに対してコミットしていく中で、 ビジネスの解像度が上がれば上がるほど、その仕事の難しさを実感している。
「アートの世界では、非常に長い時間をかけてできあがるものが少なくなく、中には5年かけて完成するような作品もあります。
そうした作品を取り扱う一方で、スタートアップとして成長を遂げていくには、ものすごいスピード感の仕事が求められる。
そうしたアートのクオリティや社会性と、スピード、経済性の両立に、ヘラルボニーならではの難しさ、そして面白さを感じています」(現王園氏)
ビジネスの視点で、ヘラルボニーを強くする
彼が出向してからの変化や成果について、ヘラルボニーのメンバーはどう捉えているのだろうか。
ある社員は、パートナー企業との目標設定に関して、新しい視点をもらったと話す。
「数年間一緒に取り組んできたクライアント企業と、この先どこを目指すべきかを考えていたのですが、そのための『指標』については、これまであまり議論できていませんでした。
現王園さんが入ってくれて、こんな指標を追っていくべきだという、新しい観点が生まれました」
また別のある社員は、取り組んできたプロジェクトを定量的に捉えることの重要性を知ったという。
「現王園さんのおかげで、ある施策によって、どんなマーケティング上の効果があるかなど、数字的な根拠と説得力を持ってお客さまにご提案できるようになりました。
その意味で、ヘラルボニーに頼もしい“武器”をいただいたと感じています」
これまで、OOHのプロフェッショナルとして、ビジネスの最前線で広告のROIについて考え抜いてきた経験もあり、「数字」については、現王園氏自身も強く意識しているという。
「感性が重視される世界ではありますが、だからこそ可能な部分は数字で表して、その価値を証明することが大切だなと。 そこで、たとえば調査パッケージのようなものをご用意し、ヘラルボニーとコラボレーションする前後でパートナー企業にどんな変化が起こるのかを定量的に測る施策も導入していますね」(現王園氏)
このように現王園氏の参画によって、多くのパートナー企業とのリレーションが高まり、確実にヘラルボニーのブランド、そして存在が広がりつつある。
「現王園さんが入ってくださったことで、数字や説得力が増し、PRもセットでご提案できるようになりました。これは『影響力』という意味で非常に大きい。
現王園さんには、電通で培った知見とネットワークを活用して、いろいろな案件や取り組みを持ちこんでいただいています。
そのリソースやスキルを社内で受け継ぎ、今後はヘラルボニー自身がそうした施策を行えるようになっていきたいですね」(松田氏)
ナンバー2界の「ナンバー1」になる
東奔西走する中で、現王園氏も自身のさまざまな変化を実感している。
「まずは……服装が変わりました(笑)。
以前は正直なところ地味でしたが、服に興味を持つようになり、今はヘラルボニーのおしゃれなシャツを着たりスカーフを巻くようになったりして。
周りの人がびっくりするくらい、前とは変わっているかもしれません。自分ではまだ違和感を覚えるときもありますが、『すごくいいね』と言われます。
加えて、スタートアップに対する見方が、大きく変わりました。
華やかな世界を謳歌する、あるいは上場を目指してギラギラしているイメージがありましたが、その中身は良い意味で泥臭いものでした。
目の前のチャンスに対して、もう二度と巡ってこないかもという一期一会の気持ちで、最大のパフォーマンスで臨む。
一つ一つの機会に対する集中力やエネルギーといったものが、本当にすごいなと」(現王園氏)
変化といえば、松田氏の脳裏には、現王園氏のこんな言葉が残っている。
「うれしかったのが、合流後しばらくしてから、現王園さんがこう言ってくれたことです。
『僕、当初は電通とヘラルボニーの間に立って、どちらにもメリットがあるようにうまくやっていこうと思っていましたが、今はヘラルボニーに完全ベットしています』と」(松田氏)
電通から成長途上のスタートアップに身を投じ、文字通り一体となりながら、培ってきたものをすべて捧げる現王園氏。
あらためてその熱量は、どこからくるのか。
「まさにヘラルボニーの2人のCEOを見ていても思いますが、世の中にはビジョナリーで人を引きつけて先頭を突き進む、すごい人がいます。
でも、自分はそこを目指すのではなく、その人を支えることで“不可欠な人”になりたい。
あの人物の活躍は、そばにあの人がいてこそだよね、と言われるような。そんな『ナンバー2界のナンバー1になる』ことが、私の情熱の源泉です」(現王園氏)
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執筆:田嶋章博
デザイン:田中貴美恵
編集:海達亮弥
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著者

松田 崇弥
株式会社 ヘラルボニー
代表取締役Co-CEO

現王園 章太
株式会社 電通
Account Manager







