
仙台市が先頭に立ち、東京海上日動や電通グループが手を組んで発足した「Xross Innovation BOSAI」(以下:XIB)。
分野や世代、地域や国境を超えて、さまざまな経験から得た知恵や行動が“X(クロス・交差)”し、新たな価値を生み出す共創コンソーシアムとして2025年8月に誕生しました。本コンソーシアムでは、参画する多数のステークホルダーが有する知見や事業基盤などを生かし、地域の防災・減災に資する取り組みを多数創出することを目指しています。

また、テーマごとに分科会を設け、企業同士が連携しながら具体的な取り組みを進めているのも特徴です。

3回目の今回は、「誰も取り残さない、一人一人の安心・安全な暮らしの創出」をテーマに減災・防災に取り組む分科会にフォーカスします。市民の防災意識を高めるために、行政や企業ができることとは――。
XIBの事業運営をけん引する仙台市と東京海上日動、電通、そして分科会の幹事企業であるアイリスオーヤマの4者が、市民の行動変容×防災について語り合いました。
なお本連載では、地域の社会課題の解決に産学官金民で取り組む意義やその可能性、また、B2B2S(Business to Business to Society)型の事業を推進する際のヒントをひもときます。
東日本大震災の経験から感じた、防災意識の重要性
渋谷(電通):XIBでは、現在4つの分科会を立ち上げ、テーマごとにさまざまな取り組みを行っています。今回はアイリスオーヤマさんが幹事企業を務め、「誰も取り残さない、一人一人の安心・安全な暮らしの創出」をテーマに掲げている分科会①についてお話を伺っていきたいと思います。まずは、アイリスオーヤマさんがXIBに参画された背景から教えてください。
阿部(アイリスオーヤマ):仙台市に本社を置き、宮城・岩手に工場を展開する当社は、2011年の東日本大震災で被災したことを受け、防災をはじめとする社会課題の解決に取り組んできました。仙台市とは2023年に包括連携協定を締結し、さまざまな連携を進める中で、XIBのお声がけをいただきました。
防災環境都市を掲げ、まちづくりを推進する仙台市が中心となって取り組むコンソーシアムの趣旨に共感したことも参画を決めた理由の一つです。また、東日本大震災で被災した当時、当社は全国の各方面からたくさんのご支援をいただき、立ち上がることができました。このXIBの活動を通じて、仙台市民への貢献だけでなく、全国に防災への取り組みを発信できるのではないかという思いもありました。

渋谷:地元企業として地域の防災に貢献したいと考える背景には、東日本大震災の経験が大きいのでしょうか?
佐藤(アイリスオーヤマ):そうですね。やはり、あれだけ甚大な被害があった場所に本社があり、従業員含めて被災を経験したことは大きいと思います。地震などの自然災害は、どこにいても起こり得るもので、いつ何時でも被災者になる可能性があります。東日本大震災を経験している私たちだからこそ、同じ意識を持ち、被災者の方々の立場に立って寄り添うことができると感じています。
一方で、15年という年月が経過し、防災意識の風化が進んでいると感じる場面もあります。そうした状況の中、XIBへの参画は私たちにとっても重要な取り組みだと考えています。
神倉(仙台市):仙台市としては、産学官金民それぞれのアセットを掛け合わせ、減災・防災につなげていこうという考えのもと、さまざまな企業へXIBへの参画を呼びかけてきました。防災は、平時と非常時が表裏一体であり、日常からの働きかけが不可欠です。その意味でも、多様な分野のソリューションを持つ企業の参画は不可欠だと考えています。
今回、防災用品とも親和性の高い生活用品メーカーであり、地域に根ざした企業であるアイリスオーヤマさんにご参画いただいたことを、大変心強く感じています。
渋谷(電通):さまざまな生活用品の商品開発を行っているアイリスオーヤマさんでは、防災用品も力を入れて展開されているのでしょうか?
佐藤(アイリスオーヤマ):以前から防災用品は扱っていましたが、東日本大震災を機に、より幅広く展開するようになりました。当社は生活用品を主軸にしており、そうした商品開発の延長で、アウトドアやキャンプ用品も広く取り扱っています。防災用品はこれらの商品と親和性が高いことも特徴です。
とくに備蓄防災品はスペースパフォーマンス(スぺパ)が求められます。例えば、平時はコンパクトに収納でき、災害時には膨らんでマットレスとして使えるといった製品です。こうしたスぺパを意識した商品開発にも、近年は積極的に取り組んでいます。じつは、当社の主力事業であるパックご飯や飲料事業も、元をたどれば防災を起点にはじまったものです。「ある程度保存が利いて、簡単に食べられるものがあったら災害時に役立つ」「災害時に飲み水がないと困る」といった発想から生まれました。
そういう意味でも、当社と防災関連商品は親和性が高く、XIBの取り組みを通して、地域に貢献できることがあるのではないかと感じています。

個人顧客との接点を起点に。誰も取り残さない、安心・安全なまちづくりを推進
渋谷(電通):分科会①のテーマや具体的な取り組みについて教えてください。
阿部(アイリスオーヤマ):XIBで働きかけをする対象は、主に一般市民の方と法人を含めた事業者になります。分科会①では、一般市民の生活にフォーカスし、「誰も取り残さない、一人一人の安心・安全な暮らしの創出」をテーマに掲げています。
現在、当社のほか、日本郵便さんや明治安田生命さん、ローソンさんなど、個人顧客との接点を持つ企業が中心となっているのも分科会①の特徴です。こうした顧客接点を活用しながら、「災害リスクを知り、自分ごと化して行動に移す」といった動きを促進し、各ご家庭で防災用品を準備し、災害に備えていただくことを目標としています。
また、XIBのKPIの一つに、電気火災対策として感震ブレーカーの設置促進があります。最終的には、各家庭で感震ブレーカーの設置率の向上を目指していますが、それだけにとどまらず、在宅避難用の食料品の確保や、ローリングストックを根付かせるための活動なども含め、幅広く取り組んでいるところです。
<メディア向け防災ワークショップを開催>
2026年8月20日、アイリスオーヤマとXIBが連携し、地震火災対策の重要性を伝えるメディア向け防災ワークショップを開催。また、XIBでの取り組みから着想を得て開発した新商品「感震ブレーカー(ブレーカー遮断タイプ)」を発表。家庭の防災対策を見直し、地震火災への備えを広く発信する機会となりました。渋谷(電通):市民の方々に向けた発信というところで、とくに意識されていることはありますか?
阿部(アイリスオーヤマ):防災意識の高い方々だけではなく、高齢者や子ども、障害のある方など社会的に脆弱(ぜいじゃく)な方々にも、誰一人取り残されることなく情報を届けることが重要です。そのために、きめ細かな情報発信を通じて市民の皆さまに働きかけ、仙台防災枠組の優先行動①(災害リスクの理解)、優先行動②(災害リスクの管理)の実践につなげることが、本当の意味での防災意識の浸透につながると考えています。
信澤(東京海上日動/以下、東海):市民視点で考えると、日々生活に追われていると、防災などの情報って受け取りにくい側面があると思います。ポストにチラシが入っていても、なかなか目を通すところまで至らないことも多いのかなと……。
一方で、例えば郵便局などの待ち時間といった生活導線の中で防災に関するお知らせに触れたり、保険の担当者から情報を聞いたりする機会があれば、自然と記憶に残りやすくなる可能性はあると感じます。分科会①には、個人の顧客接点を持つ企業が多く参画しているので、そういった機会を生かしていきたいですね。
神倉(仙台市):これまで行政が行ってきた防災の取り組みは、地域の町内会と連携した活動が中心でした。一方で、働く世代をはじめ、町内会を通じた情報に接する機会が少ない方々へは、防災情報が十分に届きにくいという課題がありました。
また、近年は町内会の高齢化や担い手不足も進んでおり、これまでの地域コミュニティを基盤とした取組を継続しつつ、企業等との連携による新たなアプローチも必要と感じています。だからこそ、企業が持つ顧客接点や生活導線を生かし、日常の中に防災を組み込み、行動変容につなげていくXIBの取り組みこそが、これからの防災において重要な役割を果たすものと考えています。

こうした観点からも、阿部さんや信澤さんがおっしゃるように、きめ細やかな情報発信を通して、日々の暮らし(生活導線)の一つ一つの中に防災を織り込んでいくことが、分科会①およびXIBの大きな役割を担っていくと考えています。
誰にとってもWin-Winな仕組みで、減災・防災につなげる
阿部(アイリスオーヤマ):じつはXIBがスタートする時に、神倉さんから「このコンソーシアムでは、マネタイズも含めた事業上のメリットと社会課題解決の両立を実現してほしい」というお話をいただきました。正直なところ、企業側から見ると行政との取り組みは、一般的にはビジネスとは直結しにくい側面があります。
立ち上げの理念は共感できても、活動を継続していく中でコストなどの都合でなかなか継続することが難しくなってくる……。しかし、XIBでは、マネタイズや企業のブランド価値の向上など、“自分たちが持つ価値創出への思い”を実現することで、エコシステムが循環する仕組みとなっていることが、とても画期的だと思います。
渋谷(電通):このXIBの理念として、仙台市が参画事業者たちの“企業それぞれの目的や強み”を実現して、地域の減災・防災につなげていくことを掲げてくれているからこそ、企業としては活動しやすい面はありますよね。それに加えて、市民の視点で見ても、このXIBの取り組みは意味のあることだと感じています。
例えば、防災商材を扱う企業が各家庭に防災グッズの備えや感震ブレーカーの設置を呼びかけても、生活者からしてみると、単なるセールスと受け取られてしまうことが多いかと思います。
XIBでは、防災商材を扱う企業だけでなく各参画事業者全体で、防災対策の必要性を伝えています。その際に重要なのが、日常のさまざまな接点を通じて、市民の災害リスクの理解と自分ゴト化を促すことです。そうすることで、市民は納得した上で購入という防災行動を選択することができるようになり、それは市民にとっても大きな利点になります。
東京海上日動さんは、保険などの営業を行う上で、XIBの取り組みのメリットを感じることはありますか?
信澤(東海):私たちは、販売を委託する代理店の担当者とお話しする機会が多いのですが、その中でXIBの取り組みをご説明すると、「XIBから情報発信をしてほしい」とご要望を受けることがあります。
どうしても、チラシなどに一社のみの名前が掲載されていると、お客さまにはセールス目的の情報として受け取られてしまいがちです。一方で、仙台市や複数の企業の名前が連なるXIBの取り組みとして発信することで、中立性や信頼性が高まり、お客さまも抵抗感なく情報を受け取りやすくなります。そうした情報をもとに、保険の必要性を考えていただくきっかけにもつながります。

渋谷(電通):たしかに、生活者側からすると、仙台市とあるだけでその情報の信頼度は高まりますし、複数の事業者名があり各事業者が持つ信頼性を結集させることで、抵抗感なく情報を受け取りやすくなるのかもしれないですね。
神倉(仙台市):XIBが目指しているのは、市民、企業、行政のそれぞれに価値をもたらす共創の仕組みです。
防災をはじめとする社会課題は、行政や企業が単独で解決することが難しくなっています。そこで、それぞれが持つ知見や技術、ネットワークを持ち寄り、掛け合わせることで、新たな価値を創出し、より実効性の高い解決策につなげていくことが重要だと考えています。XIBを通じて、こうした共創の仕組みが社会課題の解決に有効であることを、具体的な成果を通じて示していきたいと考えています。
また、多様な主体が参画するプロジェクトでは、関係者間の調整や合意形成が重要になります。その中で、電通さんにはコーディネーターとして参画企業や行政との橋渡し役を担っていただいており、プロジェクトを円滑に推進する上で大きな役割を果たしていただいています。
佐藤(アイリスオーヤマ):正直なところ、私は電通=広告会社というイメージが強かったので、XIBに参画して、コーディネーターとして役割を担われていることを知り、驚きました。
電通さんが、多様な参画事業者を束ね、防災という社会課題と各者の事業課題を結びつけながら、それぞれが持つ強みや目的が満たされる取り組みのあり方を一緒に議論・推進してくださり、大変助かっています。
公共セクターとしての仙台市、コーディネーターとしての電通、そこにジョインし参画企業をけん引する東京海上日動、この三者がいるからこそ、このコンソーシアムが円滑に機能しているのだと思います。
渋谷(電通):ありがとうございます。電通としても、社会課題の解決に貢献していきたいと考えており、このXIBは非常に意義のあるプロジェクトだと感じています。コミュニケーションを強みとする私たちだからこそ、行政と企業、企業同士を円滑につなぎ、皆さまのお役に立てるとうれしいです。
XIBの取り組みがもたらす社会的インパクトとは?
渋谷(電通):最後に、XIBの取り組みの中で、アイリスオーヤマさんが実現していきたいことなどあればお聞かせください。

阿部(アイリスオーヤマ):私が今、考えているのは、参画している企業メンバーの“それぞれの目的や強み”の実現を共有して、どううまく循環させていくかです。
企業の“価値創出”というと、経済的なことを思い浮かべがちですが、じつはそれだけではなく、広報的なブランド価値だったり、CSRとしての活動だったり、目に見えない“価値創出”を求めている企業も意外と多いと最近感じています。
そのためにも、各参加企業がどんな事業上のメリットを実現して、地域の減災・防災につなげていきたいのかをしっかり共有し、連携しながら、さまざまな形の“価値共創”を実現できる環境づくりに取り組んでいきたいですね。
渋谷(電通):そうした環境が整えば、もっと多くの企業にジョインしてもらうことができ、XIBの取り組みにもよい循環が生まれると思います。仙台市として分科会①に期待することはありますでしょうか?
神倉(仙台市):先ほど、お話にもあったようにXIBのKPIの一つに、地震火災のリスクをいかに下げるかということがあります。そのため、感震ブレーカーの設置促進は非常に重要なポイントであり、分科会①の活動に、大きな期待を寄せています。
こうした取り組みを通じて、市民の皆さまが「災害リスクを理解する」段階から、「管理する」、さらに「リスク削減のために投資する」行動へと進んでいくことが重要です。そして、その行動変容の流れが仙台にとどまらず全国へ広がっていくことが、私たち仙台市が目指している姿でもあります。
阿部(アイリスオーヤマ):私はこのXIBの取り組みを通して、2つの社会的インパクトを感じています。
一つは、防災のあり方そのものを変えている点です。従来の自治体の防災というと、避難所の運営や、物資の確保など、災害が起きた後の対応に重きが置かれています。もちろんこれは必要なことですが、XIBでは事前防災の視点から、想定される災害をいかに減らしていくかに取り組んでいます。この考え方が全国に広がることで、防災のあり方は変化していくと感じます。
もう一つは、防災に対する市民の意識改革を促している点です。これまで日本の防災は、避難所に行けば何とかなるといった公助に依存する傾向が強く見られました。しかし、本来は自助や共助が不可欠です。
例えば感震ブレーカーは、その象徴的な取り組みの一つで、自分だけが設置するのではなく地域全体で取り組むことで、初めて地震火災のリスクを大きく下げることができます。
こうした自助と共助を軸とした防災意識を、具体的な行動を通じて広げていくことが、大きな社会的インパクトにつながると考えています。
信澤(東海):そうですね。市民の皆さまの防災意識に対するマインドを変えることが、本当の意味での地域の防災力強化につながります。そういったところも意識しながら、市民の行動を変える働きかけにも力を入れていきたいですね。
また、当社では、今年の3月に仙台支店の従業員を対象にした防災研修を実施しました。当日は、大川伝承の会共同代表の佐藤敏郎氏や東北大学災害科学国際研究所の今村文彦教授など、専門家の方々をお招きし、防災についてあらためて考える機会を設けました。
実施前は、1日業務が止まることの懸念から否定的な声もありましたが、研修後のアンケートでは、「参加してよかった」「日頃の備えの重要性を実感した」に加え、「家族の大切さをあらためて感じた」といった声も多く寄せられ、防災について知識を得るだけでなく、自分自身や家族のこととして考える機会になったと感じています。
こうした取り組みをXIBでさらに広げていくことで、防災・減災の意識をもっと地域全体に広げていけると考えています。
渋谷(電通):地域への防災・減災の意識を浸透させるために、まずは一市民でもある自社従業員から変革していくことも大事ですよね。今後、防災・減災の意識の輪をXIBの参画事業者から広げていきたいと思いますし、その原動力として各事業者が持つそれぞれの目的や強みを使いながら、新しい防災の連携モデルを構築し、安心安全な社会をわれわれXIBから実現させていきたいですね。