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「エネルギー小売り自由化」待ったなし!
ガラッと変わる!? エネルギービジネス

2015/04/24

2016年の電力、17年のガスと相次ぐ小売りの全面自由化。エネルギー産業の構造が大転換期を迎える。エネルギー小売り自由化に向けた研究を07年から進めてきた電通グループの社内横断チーム「DEMS(ディームス)」と共に、 電力小売り自由化がもたらす新たなビジネス環境を探った。


おさらい

エネルギーの自由化とは

電力の自由化は1995年に発電が、2000年以降は大・中規模需要家向け小売りが段階的に開放されてきた。そして14年6月、電力小売りの全面自由化を柱とした改正電気事業法が成立し、16年に電力市場が全面的に開放される。今回新たに開放されるのは、家庭や小規模な工場・店舗など契約電力が50㌔㍗未満の「低圧」と呼ばれる電力。その数は約8400万件、市場は7.5兆円に上る。

これで、戦後60年以上続いた大手電力会社による電力の独占販売が完全に終わることになる。現在の電力は発電・送配電・小売りの全てを10社の電力会社と関連会社がほぼ独占しているが、自由化によって「発電事業者」「送配電事業者」「小売電気事業者」の三つに再編される。 電力と並行してガスも、家庭向けを含む都市ガス小売りの全面自由化が17年に実施される。対象となる利用者は家庭を中心に全国で2500万件を超え、市場は2.4兆円に上る。 電力、ガス共に小売りが全面自由化されることで、顧客獲得の激化はもちろん、電力とガスを組み合わせたエネルギーのセット販売をはじめ、総合的なエネルギー事業としての拡大や、地域を超えた事業者の連携が予想されている。


有識者はこう見る

東京工業大 柏木孝夫特命教授が語る
エネルギービジネスの創生、三つの視点〜

安倍晋三首相が今年2月12日の施政方針演説で「改革」という言葉を30回以上使いました。
農業をやり、医療をやり、最後に残された改革のテーマが「エネルギー」。2016年からの電力の自由化の法律が通りましたが、これがこれからの電源構成にどういう影響を与えていくのか。この分野で新たな参入を目指すプレーヤーは具体的・明確に把握をしておかないと、エネルギー自由化の新しいビジネスモデルはできないと思っています。

❶「総括原価」から「デマンドコント ロール」(需要抑制)へ
日本の電力の質が高いのは総括原価方式(*1)による大規模発電のネットワークが電力の安定供給をしていたからです。電力が自由化すると市場原理に基づいた発電設備しか立地できなくなるので、電力の供給側は需要側をコントロールしていくことが重要になるでしょう。
つまりデマンドコントロール(需要抑制)をいかにできるかということです。あるいは、ネガワット(*2)で省エネをやってくれたら、それだけの値段を支払う。あらかじめ乗り遅れやキャンセルを見込んで用意できる席数を超えて予約を受けてしまう飛行機のオーバーブッキングみたいなものです。オーバーブッキングによって、多くの便を満席に近い状態で運航し、空席がある状態より収入を増やすことができるわけです。電気もこの仕組みに似た、新しいビジネスモデルが出てくると考えられます。

❷電源をつくれなくても、市場で 電力の仕入れ・販売ができる
例えば100万キロワットの大規模集中型の発電設備を、電力会社以外、例えば製鉄会社が自社用に持っていたとしましょう。ここで製鉄会社が電力使用量を3割省エネすれば30万キロワット分をベースロード電源(*3)として電力市場で売ることができます。大体13円/キロワット時になります。
一方、大きな発電設備をつくれない事業者も、この電力を電力市場から仕入れることができます。また、さまざまなところから集めた電力を売っていくアグリゲーター(*4)というビジネスモデルも生まれます。

❸あなたの家にも生まれる、新しい エネルギーのキャッシュフロー
自由化によって誰でも電力を取引できるようになれば、キャッシュフローが需要側にも生まれます。そうすればCEMS(*5)に投資をしても回収できる可能性が出てきます。電力のリアルタイム市場ができれば、株と同じように電力のデイトレーダーが登場する時代となるでしょう。
例えばスマート化(*6)している家に住んでいる方は、エネファームのような発電システムを導入して自家発電と自家消費をうまくコントロールすると、電力需要が大きいときに省エネをしながら、発電システムを全開にして余剰分の電力を売っていく。
つまりネガワットとコジェネレーション(*7)のダブルインカムが期待できるわけです。 これからエネルギーシステムは、ガラッと変わっていきます。このことを頭に置いた上で、新しい付加価値のあるビジネスモデル構築を、電力の売買システムと同時に進めていくことが非常に重要になるでしょう。

押さえておきたい

用語解説

*1 総括原価方式…事業運営の総費用に比例する形で使用料金を決める仕組み。
*2 ネガワット…電力使用者が節約した電力を発電したことと同様に見なし、その余剰電力を取引できるという考え方。需要の減少分を、通常電力と対比する意味で、ネガ(マイナス)ワットと呼ぶ。
*3 ベースロード電源…ピーク時以外の基礎需要をまかなう安定・低コストの発電。対義語にピーク電源があり、この部分の効率化が求められている。
*4 アグリゲーター…集める人(事業者)という意味で、電力産業の世界では、ネガワットを集める事業者のこと。事業者はあらかじめ電力使用者と取り決めを行い、ひっ迫時に節電してもらう代わりに金銭を支払い、余剰電力を市場を通じ電力会社に売却する。
*5 CEMS(コミュニティー・エネルギー・マネジメント・システム)…地域における電力の需要・供給を統合的に管理するシステム。
*6 スマート化…情報システムや各種装置に高度な情報処理能力あるいは管理・制御能力を持たせること。
*7 コジェネレーション…電気と熱を同時に発生させ、両方を活用する熱電併給システム。


消費者たちはどんな様子?

調査から見えてきた5タイプのターゲットとは?
9電力管内5000世帯「DEMS」独自調査より〜

エネルギーに対する考え方や価値観は、子育てなどライフステージによっても大きく異なる。 調査から五つのクラスターが存在することが分かった。

*調査は2014年12月、9電力会社管内の20~69歳男女5000人にインターネットで実施

①未来社会志向層(ボリューム18%)
自由化後の電力会社変更検討意向(86%)

  • 子どもが独立後の50代以上、戸建て所有者が多い。
  • 省エネや再生可能エネルギーなどエネルギー利用の発展を望んでいる。
①未来社会志向層

②イノベーション志向層(ボリューム14%)
自由化後の電力会社変更検討意向(80%)

  • 子どもが社会人前のファミリー層、オール電化などを利用している世帯年収が高い層が多い。
  • バランスよく多様なエネルギー産業の発展と新しいサービスを期待。外食や旅行レジャーなど幅広い 業界を電力の購入先として考えている。
2 イノベーション志向層

③節電節約層(ボリューム22%)
自由化後の電力会社変更検討意向(75%)

  • LEDや省エネ家電を完備している専業主婦(主夫)家庭が多い。
  • 日頃から節電節約を心掛けており、使用量や料金明細をチェックしている。サービス低下や 安定供給には不安。外部アドバイスによる節電節約を期待している。
③節電節約層

④なんとなく期待層(ボリューム16%)
自由化後の電力会社変更検討意向(71%)

  • 20代や単身、夫婦のみ世帯が多い。
  • まだ電力自由化メリットを具体的にイメージできていない。価格が安くなることを期待しており周囲の様子を見ながら変更したいと考えている。
なんとなく期待層

⑤エネルギー低関与層(ボリューム30%)
自由化後の電力会社変更検討意向(64%)

  • 20代の単身層、男性が多い。
  • エネルギーに対する関心や自由化への期待が高くなく、現状維持でよいと思っている。引っ越しなどのライフイベントがあるときに変更したいと思っている。
エネルギー低関与層

こんなことも明らかに

  • 電力自由化の単語認知は47%、内容認知は7%。電力の購入先が自由に選べるようになることは世の中にまだ十分に知られてなく、内容はほとんど知られていない。しかし、変更検討意向は74%と高く、具体的な購入先や商品が明らかになれば購入を検討したいという人は多い。
  • 電力の購入先として興味のある業界は、地域の電力会社57%、次いで地域のガス会社29%、携帯電話キャリア27%。その他にもさまざまな業界が新たな電力の購入先として興味を持たれている。

電力自由化、海外ではこうなっている

英国、ドイツ、オーストラリア、米国など、欧米主要国では既に電力は自由化されている。
複数の企業が参入し、料金プランやサービスもさまざま。電気代がかさむ季節にはプレゼントや割引など乗り換えキャンペーンが盛んに行われる。そのため、電力会社のサービスを比較するサイトは欠かせない存在だ。また、安さやサービスだけでなく、少し割高でも風力や太陽光といったグリーン電力を選ぶこともできる。エネルギーを考え、選ぶことは、社会の将来像を考え、選ぶことでもある。