新明解「戦略PR」No.34
「マニアがジャンルをつぶす」ってホントだよね!
2016/04/25
えー、最近身辺で頻繁に聞く言葉に「確かにねぇ…」と独りごちてしまうんで、ここでちょっと共有しときます。「すべてのジャンルはマニアがつぶす」は、一時期の低迷状態を脱して再ブーム化に成功した、あるプロレス団体オーナーの名言。今回はこの名言を、ターゲット論ではなくPR的な目線からひもといてみようかなと。
つまり、一時期トレンドとして社会の注目を集めた業界や企業でも、これまでのコアユーザーのみを対象にマーケティングしていては、ポテンシャルユーザーやライトユーザーの取り込み機会を逸してしまうよね、ということ。一定のコアユーザーを確保していても、やはり幅広い層に拡張していかねば成長は見込めないし、コアユーザーさえも離脱の可能性はいくらでもあるわけです。これを情報発信で考えてみると、コアターゲット向けの情報発信で、そのターゲットグループへのリーチだけで満足していたのでは、どんどん社会的な価値観とずれていき、最終的にはニッチな領域としてしぼむよねってこと。
そこんとこ企業は理解して、現在の環境に前向きに適応しなけりゃ先細るよね、と思うわけです。
いやね、これだけ社会環境、そして情報環境が激変してるって騒がれてるから、「そりゃそうでしょ!分かってるし!」と反論されそうですが、適応していこうという積極姿勢を持っている企業と、過去のやり方を踏襲する日和見主義者では、その結果は大きく異なるわけですよ。なんでそんなことが起こるのか、ちと考えてみたんで語ります。実はこの例え、わがPR業界にも当てはまると思いますので、その辺も含めて今月もイッテミヨ!
ちやほやされた業界ほど、進化が難しい
芸能人のはやり廃りを思い浮かべると分かりやすいかも。一時の爆発的な人気にあぐらをかいて、次の成長フェーズでどこに自身のポジションを確保するのか、そういった中長期プランのないタレントさんはあっという間に過去の人となりますよね。「あの人はイマ?」的な番組で、久々にその姿を見せるなんてこともざらにある。もちろん、すでに芸能界を自身の計画で卒業し、別の人生を歩んでいる方もいますので、それはそれで「ああ、波瀾万丈にみえるけど、自分の好きな生き方してんだなぁ」とほっこりしたりもします。でも芸能界の端っこにいまだひっそりと籍を置き、活動している(?)方々も数多くいるわけですね。
そりゃぁ、たまには過去の逸話から急に再ブレークを果たす! なんてチャンスもないわけではない。ということで、その機会を虎視眈々と狙っているという場合もありましょう。一方でアイドル的バンドからソロシンガーとして再デビュー、その後は作詞・作曲を手がける敏腕プロデューサーになってしまったり、はたまたその巧みな話術から、バラエティー番組の司会業で引っ張りだことなったりと、いろいろなプロセスの出世魚がいたりするわけですね。その裏には、巧みにこれらのプランを練っている事務所の仕掛け人がいるのかもしれませんが、それはそれでさすがです。
またデビュー以来、そのポリシーを曲げず、一直線にそのスタイルを貫き通しているスターもいるわけです。しかし、これはメインのファン層がコアグループを成し、元気よく応援できているからこそ。彼らが年齢を重ねていけば、やはりいずれは先細りとなってしまうのは明白です。引退後、伝説になればそれもカッコイイのかもしれないし、それらアーティストはそれでもいいのかもしれないですけど、企業がそれではダメですよね?
時代に合わせ、適応してこそサステナビリティーを可能にする
企業としてのポリシーは非常に重要です。しかし、かたくなにそれを守り、時代とのギャップを黙認していてはいけません。ポリシー自体を大きく捉え、そのドメインを踏み外さなければいいんです。頑固さは、時にマイナスを生み出します。「いかに社会と寄り添っていけるか」は、企業の運営と継続性にとって非常に大切な経営判断なのです。
さて芸能人の例えを示しましたが、どの時代にもちやほやされる新興のトレンド市場・領域があります。私がPR会社に就職した1990年代で言えば、自動車、化粧品、ファッション、ゲーム、金融、ITなど、市場そのものがグングン拡張していました。それぞれの業界における専門メディアも多数乱立し、放っておいても企業には取材が入り、メディア露出があるという状態だったと思います。まだ「モノ」を見せれば、皆が欲しがるような環境でしたから。
しかし今や、生活者の購買欲求は極端に下がり、生活者の関心領域からそれぞれの「モノ」はこぼれ落ちてしまっています。そして当たり前ですが、これらの領域をカバーしてきたメディアも軒並み姿を消し、残ったメディアも極端にその販売部数を落としているわけです。これでは社会の関心を高めていくには不十分ですよね。だから、より広範なターゲットを見いだし、またそこに情報を届けるための情報ルートを見つける努力をしなければならないのです。
例えばそれは、自動車業界が世界的な家電の展示会にブース出展するような、他業界メディアの活用なのかもしれないし、ソーシャルメディアでの拡散を目的とした「体験型イベント」なのかもしれません。あるいは、自ら情報発信していくためのオウンドメディア拡充という手もあるでしょう。ターゲットを広げてそこにアプローチしていかねば、という課題を真摯に受け止めている企業は、すでにこの取り組みを加速化しているわけです。しかしこれに気付かない企業もあります。先に述べた、生き延びている業界専門誌などから継続的な取材を受けることによって、いまだ業界的に注目されているのだと錯覚してしまうのです。
日頃やってきたルーティンなメディア対応が続くことで、その先の外部環境の変化に気付けないんですね。どっこい、その取材の先に期待する情報の広がりは、恐ろしく先細ってしまっているのです。このような状態を回避するためにも、一度これまでの情報発信手法を根底から見直し、リセットし、その時々のタイミングに合わせた情報発信プランをニュートラルに組み立てるといった意識改革が求められています。
PR業界も同様、求められるスキルは激変している
わが業界も同様で、クライアントの求める単なるマンパワー補助的アウトソーシング作業がPR活動だと理解していてはいけません。すなわちニュースリリースを書いて、いつものメディアリストに沿って配信するだけ。最近ではワイヤーサービスという業界別のメディアリストをあらかじめセットした配信サービスもありますから、メディアリストの管理もせず、また個別メディアとの対話もせずに終わるなんてこともあるのかもしれません。でもそれって発信しただけだし、メディアに対する広告発信と同じじゃないかと思うんです。要はメディアを生活者の代表と考えれば、やはり認知向上だけでなく、理解促進・共感強化を考えるべきなんじゃないかと。
PR業界ではリテナーという、年間でレギュラー的に作業契約するベーシックなプログラムがあります。企業側の担当者(広報部であったり、総務部であったり、はたまた宣伝、事業部のこともあります)と情報共有会議を経て、発信する情報の取捨選択、発信対象や時期、その成果測定までを議論しながら協働で進めていきます。しかしここでも、これまでのアウトソーシング的リテナープログラムとは異なるオーダーが増えているんです。それは発信するための情報を一緒に作っていこうとするもの。
通常の企業情報や製品情報など、ルーティンのものは先のアウトソーシング的情報発信に乗せていけばいい。しかし求められているのは、やはりメディアや生活者が関心を寄せてくれる情報をいかに社内から掘り起こすか、また作り上げるか、生活者の関心に寄り添ったものに加工できるか、といった知恵なのです。そこに気付くことができなければ、PRというプロフェッショナル職もアルバイトと同様に置き換えられてしまうはずです。こちらも意識を変えていかねば、ですよね。
社会的にPRへの関心が高まっているからこそ、PRを物理的労働として誤解させない啓発活動を自ら進めていくことが大切だと感じています。そしてそのフィールドは確実に、また加速度的に広がっていると言えるでしょう。まだまだ大きな変化がこのPR業界にも起きてくるはずです。ちなみに次回はPR会社もいろいろあるよ! ってことで、さまざまなPRブティックのご紹介などしてみましょうかね。広告業界同様、各種の強みをもったブティック型PRファームも出てきていますので、そういう特化型の組み方も検討してみてはいかがでしょうか。お楽しみに~。