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電通ライブがつくる「真実の瞬間」No.5

「食」が世界の文化をリードする!(前編)

2017/07/19

電通ライブがつくる「真実の瞬間」。空間開発でもイベントでも、飲食コンテンツのプロデュースはとても重要です。特にSNS時代に突入してからは、「食」の拡散力が注目されてきました。今回は、電通ライブにとっては良き仲間であり心強いパートナーもある、カフェ・カンパニーの楠本修二郎社長と、トランジットジェネラルオフィスの中村貞裕社長をお迎えして、クリエーティブユニットの神志名剛ユニット長が語り合いました。

取材・編集構成:金原亜紀 電通ライブ クリエーティブユニット第2クリエーティブルーム
 
(左から)中村氏、楠本氏、神志名氏
撮影協力:西麻布HOUSE
 

今の時代は、「食」が他の文化をけん引している?

神志名:私は、その時代の文化を引っ張る存在や領域、ジャンルがあると思っています。映画がそういう役割を果たしていた時代もあるし、ある時代はファッション、音楽など、時代時代で中心のジャンルがあった。そして今、時代をけん引しているのは「食」ではないかと思うんです。

例えば誰かと会ってその人を知りたいときに、「どんな音楽を聴いています?」とか「どんな映画見ています?」というよりは、「今、何食べています?」「誰と、どんなふうに食べています?」という方が、その人のことが分かる気がするし、重要な情報なのかなと。そんな文化の中心となっている「食」には、今いろんな才能、情報、テクノロジー、お金や資本が集まってきていますね。

楠本:お金は集まっています。あと、女の子も集まっています(笑)。僕らはずっと食をやっているから「これからは食だぜ!」みたいな意識はあまりない。でも、食を通じて、音楽、ファッション、映画、まさにそういうライフスタイル全般の人たちとのつながりがすごく深くなってきて、それは年々増してきている印象はあります。

周りを見るに、「かつてファッションをやってました」という人が、うちの会社に「(これからは)食をやりたいです!」と言ってきたりする。いろんな業種の人材が食に参入したりトライアルしたり、あるいはコラボレーションしたいといった話が最近はとても多いです。

食は実際にその場所に行って体験しないと共感ポイントが見えないので、SNSが発達するまでは、誰と何を食べているかということをいちいち人にも言わないし、恥ずかしくて言えないしという存在だったわけです。服は持って帰れるとか、映画や音楽はデータで行き交うことができるので、その分だけ新しい情報、トレンド、人をわくわくさせて感動させるものが情報伝達として飛びやすかった。でも、食の体験は、飛ばないんです。それが近年、SNSによってある程度飛ぶようになった。だから、いま食のブームがきたというよりも、一番飛ばなかったものだから、最後についに来たという感覚ですね。

実際に旅をしたり、その経験で共感を得ないとつまらない、みたいな時代になっているじゃないですか。食べることというのは、誰かと分かち合わないことには楽しくない。だからSNSと相まって一番「飛ばしたいコンテンツ」になったのだと思います。

(左から)中村氏、楠本氏

中村:僕は伊勢丹を辞めるときに、たまたま原宿の「ロータス」というカフェに行ったとき、こういうカフェがあったらいいなと思って、仲間からもやってほしいと背中を押されてやったらうまくいった。それで試行錯誤してやっているうちに、もう少し大きなカフェもできるようになるし、それによってまたスタッフも集まってきた。そうして「ビルズ」を運営し、日本初上陸もののノウハウもたまった。できるからさらにやりたいようになったし、できるからさらにやらなきゃいけない。今では、社員のできる能力を生かすために仕事をしているような感じです。

僕は百貨店出身ですが、百貨店は洋服が売れにくくなっているし、他のいろんなものも洋服同様に売れにくくなっているから食だ、みたいになっちゃっているけれど、どっちの方が利益が出るかといったら、洋服が売れた方が利益が出るんです。だから、本来は洋服を売らなきゃいけないんですけれど、飲食をやれば人が来るし、という感じでどこも飲食中心になっている。

ファッションが売れにくくなったといっても、百貨店とか路面店が売れなくなっただけで、ネットでは売れているわけです。20代のSNSとかを見ると、食べ歩きの写真なんてあまり上げていなくて、フォロワー数が爆発的なのは、多分ファッションだと思います。海外セレブはファッションスナップが多くて、食事を上げている人なんて、海外のインスタグラマーではそんなにいないと思う。

一方で、日本のビジネスを動かしている人たち、20代より上の、30~40代、プラス50代あたりになってくると、食が目立っているということなんじゃないかと思います。

楠本:リアルな場所として、食は人が集まりやすいと思っちゃったから、ビジネスの世界では、「人を集めてなんぼ」で食が注目されるというところがありますよね。

中村:藤原ヒロシさんとよくご飯食べるんですけれど、ここ3~4年とか、すごく仕事で世界中食べ歩いていて、話題の店にも詳しくなったんですけれど、ヒロシさんには昔から地方に行けばいろんなところに連れていかれるし、僕がここ2年ぐらいに初めて行った名店とかにも前から行っている。そういう人がファッションではなく食のブロガーとして話題になるということは、多分、いま食が文化の中心になっているということの事実としてあるかもしれない。

その場所に集まってくる人たちこそが、仲間であり「メディア」

神志名:楠本さんは浅草の「WIRED HOTEL」みたいな、食だけではなくて複合的な取り組みもやっている。中村さんは、列車で「東北エモーション」を取り組んだじゃないですか。電車の中で食事もできるし、そこにアートがあり音楽がありトータルな体験をつくった。

電通ライブもそういうことをやっていかないといけないと思っています。お二人とも食にすごくこだわりつつ、そこだけにとどまらず、いろんなものをつないでいく考え方、思想の行き届き方がすごいなと思います。

神志名氏

楠本:僕は最初ノリでカフェをやっていたんだけれど、集まってくる人たちのつながり方が独特でコアだなと思って、それってすごいメディアだなと思ったのです。リアルな場所の方が、よりメディア的。ファッションと違うのは、食はお店に入ってきたら100%お客さまです。入った瞬間に「(その人を)仲間にしたい」となるところが飲食店の面白さだと思います。

そうすると、飲食はコミュニティーだという概念になってきて、リアルな場所とメディア性の連動になってくる。西海岸に行くと、フードトラックがSNSで集まって、そこで食のフェスティバルをやりながら、圧倒的に集客するとか。プラグイン型に限らない、ますますイベントと飲食店の境目がなくなりますよね。車が自動運行になったら、キッチントラックも無人で、お店がいろんなところに行き交っちゃう。

でもそれは、それぞれが好き勝手に行くのかというとそうじゃなくて、何かの仕掛けがあって、今度ここでこういう熱狂的なイベントをやろうよとか、起点になるものがある気がする。多分もう一回、映画だかファッションだか、音楽だか食だか分からないみたいな総合的な楽しみ方というのを、僕なんかよりも若い世代の子たちが、業界とか業種とかをぶっ飛ばしちゃってやっちゃう、という感じになりそうな気がします、これからは。

神志名:徹底的にムーバブルな感じですね、場所も食事もコンテンツも。

楠本:僕は博多もんなので、博多屋台の未来的復活というイメージかな。

神志名:中村さんの「東北エモーション」はどういうきっかけだったんですか。あれは完全にレストランとかカフェの概念を逸脱していますよね。

中村:たまたまJRから、3両編成の列車が震災にあい、復興支援の一環でレストラン列車をやりたいのでアイデアを出してくれと言われて。レストランを中心にいろんなものをミックスするのが好きなので、アートや食、インテリア、ばーっとアイデアを出した。

十和田市現代美術館にアートのキュレーションをやってもらったり、宮城県の音楽家の人にBGMをやってもらったり、インテリアは地元の素材を使うのが得意なインテンショナリーズさんにお願いしたり、さらに地のものを巻き込むというのをどんどん足していった。だからどちらかというと、本業の食というよりも、イベントをつくるみたいな感じでしたね。

東北エモーション
レストラン列車「東北エモーション」
「東北エモーション」の内装

シェフのコーディネートだけは継続的にやってます。そこは僕らがふだん出会っている食関連の人たちを巻き込めた。仕事の楽しさって、出会った優秀な才能をどう仕事に巻き込んで、ただの知り合いから仲間というか、一歩進む関係になるというのが大事なんです。仕事を通して、知り合いを知り合い以上にしている、というのが日々の仕事のやり方です。

楠本:確かに食の分野って、知り合い以上になりやすい。農家さんとか、すそ野が広いじゃないですか。プレーヤーが本当に多様だから。地域によって人の生活も違うし、何をどうこだわって生産しているかも違うから、会うたび共感しやすい。感動できる場所がいっぱいあるんですよね。

日常の中の非日常、違うものの共通点をみいだす

中村:僕は、僕らが何かをやることによって、今まで東京とか日本になかった、新しいカルチャーをつくりたいというのが根本的なやりがいなのです。僕の勝手な感覚なんですが、「海外っぽいな」と思うと、新しい文化に触れたような感覚になる可能性が高い。

例えば「ビルズ」で朝食を食べていると、「海外みたい」ってみんな思う。うちがやっているシェアオフィスとかも入ってくる瞬間に、「なんか、ブルックリンみたい」って言われたりする。

ギリシャ料理の「アポロ」では外国人がたくさんいて、暗くて広いところで、ご飯が出て音楽が鳴っていると、ほとんどの人がみな、「海外みたいね」って言う。それを演出するのが、今、僕が食でやりたいことです。

神志名:東京でやるということが、重要なのですか。

中村:東京は、そういうのを好きな人が多い。ファッションとか音楽では、「海外っぽいね」と思わせることが僕には全然できないけれど、食とかホテルとか「場」ならつくりやすい。

楠本:多分、海外のようだというのと、それが文化性の高い場所になりやすいということの関係性は、ある意味、日常の中にちょっとした非日常ができるということなんじゃないかな。

神志名:楠本さんはまた、中村さんとはアプローチは違いますよね。

楠本:でも、似たところはあります。中村くんみたいに、海外の雰囲気をそのままバスーンと持ってくるというのは、僕はそんな腕はないですけれど、やはり違うものを混ぜたいとずっと思っているので。

それは地域性の違いみたいなこともあるけど、年代の違いとかもありますね。50年代と今ってどういう共通性があるのかなとか、そういう視点で見ています。僕は映画から物事を見ることがすごく多いですね。ウディ・アレンの「カフェ・ソサエティ」の舞台は1930年代ですが、あの時代ってすごいじゃないですか、ハリウッドのパワーが。

それと今の日本の食とかエンターテインメントがどういうふうに混じっていくか。時代背景もテクノロジーも違うから、もちろんスタイルも違うし、全然違う発展の仕方にはなると思うけど、その違いの中にも存在する共通点は何だろうと。

それをつなぎ合わせると、「あ、これとこれって一緒だったのね」みたいなことを、勝手に自分で発見したような気持ちになったりして、それを表現するために勝手に盛り上がっています(笑)。

神志名:楠本さんはソーシャルロマンチストという言葉があるか分からないけど、そういうのをすごく感じますね。中村さんは好奇心が強くて、狙った獲物は決して逃さないトレンドのハンターという感じ。

楠本:中村くんはアンテナが立ちまくってる(笑)。

中村:僕は日本を表現しようとか、そういう発想が全然なくて、例えば七里ケ浜だったらパシフィックドライブインがありますけれど、根本的にハワイで経験したようなものがここにはぴったりだなと思えば使う。

自分のアイデンティティーの日本人というものにあまり意識がなくて、たまたま、流行っているものがそれだからという感じで、自分自身があまりないんですよ。

楠本:だからこそ、軽やかだよね。

中村:何で日本にこだわってないかというと、東京は大好きなんです。東京で生まれ育っているし、東京に住んでいる友達もたくさんいるし。僕が唯一のほほんとしていないところは、東京が世界の超イケてる都市ということから落ちることにだけはがまんならない(笑)。

だから、オリンピックを開くというのはすごくうれしいんです。東京が輝き続けることには、やりがいを感じる。僕は都市別で物事を見ているので、僕の中で東京のコンペティターはニューヨーク、ロンドン、パリ、上海だから、アジアの中で、上海とかソウルとかシンガポールに東京が負けるのがすごく嫌です。

だからニューヨークにあるものが普通に東京になきゃいけないし、さらに地域別で、五番街にあるものは銀座になきゃいけないし、ソーホーにあるものは表参道にあるべきだし、ブルックリンにあるものは、もしかしたらイーストの方か中目黒が合うかなと思っている。そこを埋めていくのが僕の仕事で、世界のトップシティーは、同じレベルの店があるべきだと思っているんです、最低限。

<了>