電通ライブがつくる「真実の瞬間」No.4
半歩先の、ニュースタンダードを設計する
2017/04/04
電通ライブが掲げる「MOMENT OF TRUTH=真実の瞬間」をテーマにしたこの連載。今回は、電通ライブ執行役員の石阪太郎さんが、普段から仕事や遊びでお付き合いがあり、最高にすてきな空間をつくるお二人、ジョージクリエイティブの天野譲滋さんとサポーズデザインオフィスの谷尻誠さんと深く語り合いました。場所は、谷尻さんがまさに建築中のサポーズの新東京オフィスです。
取材・編集構成:金原亜紀 電通ライブ クリエーティブユニット第2クリエーティブルーム
コンセプト、店舗、コンテンツ、PR、すべてをデザインする
石阪:天野さんとご一緒させて頂いた仕事で、スバルのディーラーがあります。スバルの車ってデザインに無駄がなくて、人間でいうとアスリートみたいなんですが、二つの全く違った世界を店舗で融合させました。
天野:男子が大好きなスペック重視ですよね。
石阪:ひとつは、スバル車のイメージそのものである、無駄な脂肪のない、極力デザイン要素を削った空間をつくりました。モーターショー同様、スバルは車そのものが主役なので、造作は舞台。いかに主役を引き立てる環境をつくるか、という視点。
車が主役の空間に加え、天野さんが得意なスタイリングされた空間です。他の多くのブランドでは「リビングルーム」をテーマに空間開発を行うことが多いんですよね。でもスバルは違う。もっとアクティブ。これから仲間と一緒に、この週末どこかへ行こうかというときに集まってくるような、自分と仲間が能動的になれる場所。リビングルームではなく、ダイニングルームだと言い切ったことで、この空間の在り方が成立しました。
谷尻:僕もその傾向があるけど、一人何役もやっちゃうじゃないですか。譲滋さんのほうが僕より役数も多いと思うけど(笑)。
天野:お互いに、客に憑依するよね(笑)。女の人がメイン顧客のやつは自分も女の人目線になるし、若い人がターゲットだったら若い人になるし。
谷尻:自分たちでコンセプトを立てて、タイトルを決めて、キャッチコピーを書いて、こうやって伝えるときっとPRできるよねというところを考えて、それを形にするというところまでを全部やっちゃう。さらに譲滋さんは、それをどういうふうに陳列して、どういうふうにお客さんを呼んで、どういうふうに売るかというところまでやられますね。
石阪:お二人とも言葉を大切にされますよね、コンセプトをね。コミュニケーション会社の空間開発はコンセプトづくりが命。プロジェクトの核であるコンセプト規定がしっかりすると、小規模なポップアップストアでも、博覧会のような大規模プロジェクトでも軸がずれない。お二人もそうだから会話がかみ合うし、クリエーティブなアウトプットも深く掘れる。
谷尻:手を動かすのがちょっと苦手(笑)。何もなくても、言葉で空間をつくれるじゃないかと思っている。
天野:言葉で最初にデザインや空間をつくる、すごくそれはクライアントも合点がいくやり方だね。「あ、そうそう」と理性的に腑に落ちる。
谷尻:空間の絵を描くと好き嫌いが生まれるので、言葉のほうが想像力をかき立てるというか。いきなり絵を出すと、答えを出しちゃう感じがして。その前に、もしかしたらこういう答え?というのを相手と一緒に探したい。そうするとお互いの答えは違っても、つくる前の段階でコンセンサスがとれていれば、チームとしての仕上がりがブレないから。
普通じゃない普通、半歩先のニュースタンダードを編集する
天野:谷尻くんは、空間をデザインしているんじゃなくて、売り方とか、過ごし方とか、会社のあり方をデザインしているのだと思う。それが決まるから、すごくハマる。デザインの良さだけじゃない。言葉で根本的な思想をデザインしているのがすごい。
言葉の定義によるストーリーがまずあって、そうすると周りのスタッフも理解できて、サービスが決まって、商品や空間が決まって、そうすると空間のにおいも決まってくるというやり方。
空間には、においがあるんです、空間は五感だから。ここが食堂だったら、実際にご飯のにおいがしてくるだろうし、そういうリアルなにおいもあれば、僕らは空間やサービスや企画のあり方で場のにおいを生む。今、主流のデジタルコミュニケーションで使うのは視覚と聴覚くらいだから、五感に対し欠落している感覚があるんじゃないかな。
石阪:何か感覚的にハッとする体験がお二人の設計にはある。われわれの規定でいう「真実の瞬間」的なことが。それをどうやってインテンショナルに企むんですか。
谷尻:僕はとにかく、「いい違和感を設計する」と言っています。人が驚く瞬間には、必ず違和感が存在しているから。知らない新しいものではなくて、みんなが知っている新しいものをつくろうとしているので、それが違和感になるんです。
「ケータイを渡します、譲滋さん」と手渡して、それが石みたいに重いと、譲滋さんはびっくりするわけですよね。受け取る瞬間のケータイの重さは既知だから。世の中の既成概念を理解した上で、それよりもどっちに振るかというのを企んでいるんです。
天野:「真実の瞬間」的にいうと、瞬間ってやっぱり本能的なものだと思う。僕らは小売りをやっていたので、例えばこのコップを500円だなと思って値段を見たら、1000円だったら「要らない」、450円だったら「買おう」となるでしょ。まず手に取ってもらわないといけないと思うと、この商品自体に魅力があったり、誰かのSNSとかできっかけをつくったり、売り場では一瞬のゼロコンマ何秒で買うか買わないか決まるし、その場所に行くか行かないか、入るか入らないかという判断も一瞬なんだから。
あまり奇抜すぎたり、一歩二歩進みすぎるとお客さんは生理的に拒否するから、僕らはいつも半歩ぐらい先を行きたい。「普通じゃない普通」ニュースタンダードを目指しています。
商売をやっていると、5~7年続かないと元を取れない。開店時の減価償却があるので、店をつくるときも、約5年続いて、そこからやっと利益が出る、そこまで考えないとダメなんです。一方で、ミニスカートがはやったら、女の子誰もがミニスカートをはきたくなるのも真実。流行の流れも見ながら、できるだけロングライフで続けられるようなリアルショップを提案していきたい。
商品なども、この場所に置くとだめで、何かと隣り合わせにしたら魅力的に感じたり、置き方や置く場所で売れ方がまったく違ってくる。そこは編集力の勝負だと思うんです。
谷尻:関係性のエディトリアルですよね。
天野:前にやっていた「CIBONE」は、セレクトショップと呼ばないでエディトリアルストアと言っていた。敏感に編集し続けていくのが大事です。
石阪:体験の順番は、普通だったら「起・承・転・結」にするのを、「起・結・転・承」としてあげるだけでも、物語の価値が変わるかもしれないですしね。
時代は本音主義、自分たちも楽しんでつくらないと嘘がバレる
天野:今、谷尻くんとかかわっているプロジェクトで、来年渋谷にできるホテルを谷尻君がデザインしていて、僕がホテルのアメニティーやスーベニアやっているんですけれど、「いや、その金額じゃ泊まりませんよ」とか、ホテルのサービスの領域の話までするよね。まさに役割を超えたボーダーレスな感じで話しているよね。
谷尻:打ち合せのときには、自分たちがすごくうるさい、クレーマーぎりぎりのお客さんになりきっているんですよね、僕らは(笑)。
天野:そうだね(笑)。
谷尻:ちゃんと目の利くお客さんで、うるさい人が満足するものってこういうことですよというふうに、クレーマー役を通して検討して、提案したりデザインしたり。
石阪:最後に、お二人の新しい動向をお伺いしたいと思います。天野さんは、放送作家の小山薫堂さんのオレンジ・アンド・パートナーズと資本業務提携されましたね。
天野:はい、以前から一緒にお仕事もさせていただいていましたし、お互いのシナジーがあって「一緒にやろう」ということになりました。薫堂さんの発想と企画はすごく楽しいし、一緒にワクワクするようなアウトプットが目白押しです。
谷尻:僕は、新しい会社を一個つくっちゃっいました!「絶景不動産」っていうんです。
天野:建築家が不動産会社もつくるというのが、谷尻君らしくて面白すぎるね(笑)。
谷尻:絶景ばかり扱う不動産会社です(笑)。
石阪:そこで頼んだら、谷尻さんの設計込みになるの?
谷尻:どちらでも! 使えないゴミみたいな土地に、「いや、建てられるよ!」という僕ら設計者がバックにつくわけです(笑)。最終的に僕らが建てるかどうかは別として、その敷地に建てられる判断までの責任を持つ不動産会社だから、「何ならインフラまでつくってあげますよ」と言ってあげられる強みがあると思っています。
天野:崖の傾斜地なんかは、普通の建築家は断るからね。
谷尻:でも崖なら逆に、安くていい土地が手に入るわけじゃないですか(笑)。
天野:しかも絶景で!
石阪:シンボリックですね。面白いなあ!
谷尻:単純に、すてきな場所に建物を建てたい。すごくシンプルな欲求として、敷地がいいと建物はよくなるから。例えば落水荘みたいに、滝のところに建てたいじゃないですか!実際にアメリカのクライアントから「日本に別荘を建てるから土地を探して」と言われて張り切って、現代の落水荘になるような滝物件を探したんですよ。ひとつ見つけて、施主さんを日本に来たときに連れて行ったら、「too noisy」って言われた(笑)。そこが風流なのに!(笑)
天野:わくわくしますよね、これを聞くだけでも。楽しく仕事もしたいと思うし、自分たちが楽しくなければいいものができないよね。
谷尻:真剣にふざけるというか。
天野:「真実」というか、自分としての本音も大切。世の中が、より瞬間で感じる本音主義になってきていると実感しています。
僕たちのスキルは、地方創生など、あらゆる場所やコトに生かせる
石阪:電通ライブとしては、全国の地方創生のプロジェクトもしっかりやっていきたいと思っているんです。その手がかりのひとつとして谷尻さんが手がけられた尾道のONOMICHI U2を、天野さんと一緒に訪ねましたね。
尾道という広島からちょっと離れたローカルの町で、競争資源としては目立ったものがないように一見見えていた。そこが谷尻さんがつくられたONOMICHI U2という施設をきっかけに、もともと眠っていたようなサイクリングのメッカとしての価値も高まった。
天野:ONOMICHI U2は運営チームも、地元愛がすごいね。ああいう熱量がないと、建物だけではダメ。運営チームがあって、初めてONOMICHI U2は成立しているよね。
石阪:地方創生の仕事は、電通では新聞局が扱わせていただいている地方紙の圧倒的に強いネットワークがあるからこそ。地方紙やその人脈と組みながら、ONOMICHI U2のような地方創生の起点となる場所のリノベーションをやっていきたいとも思っているんです。
僕らとは違う視点で企画に触発をくれる天野さんや谷尻さんとの仕事は、本当に勉強になるし楽しい。新会社の電通ライブでは、ますますコネクトして一緒に真実の瞬間をつくっていきたいのでよろしくお願いします!