loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

「好き」をもっと好きに。“推し活”変革! 木田裕士氏No.1

推し活に新たな選択肢を。自分だけの物語をつくるMeSEUMとは?

2025/08/12

MeSEUM

富士フイルムビジネスイノベーション(以下、富士フイルムBI)と電通が共同で立ち上げた「MeSEUM(ミージアム)」は、ファンが“推し”の画像を自由に選び、自分だけの写真集やグッズをつくれる新しいコンテンツ体験プラットフォーム。(リリースはこちら

高品質のプリント技術やAI画像認識、オンデマンド制作など、富士フイルムグループの強みを生かしたこのプロジェクトは、単なる“グッズ販売”を超えて、ファンとコンテンツホルダー双方にとっての新たな関係を生み出す可能性を秘めています。

プロジェクトの背景や今後の展望について、MeSEUM(ミージアム)を統括する事業開発プロデューサーのアーロン・ズー氏が解説します。

MeSEUM
 

推し活ファンの“好き”をカタチにする、革新的なプラットフォーム

ライブやイベントに行ったあの日の余韻。スマホに残った写真や推しの表情を、“自分だけの記録”として手元に残しておきたい。そんな思いを抱いたこと、ありませんか?

MeSEUMは、ファンが“推し”のアーティストやキャラクターの画像を選び、自分好みに編集して、写真集やアートパネルといったオリジナルグッズをつくれるサービスです。操作はシンプルで、オンライン上で数ステップだけで完結。富士フイルムBIのプロダクションプリンター「Revoria Press PC1120」を使用することで、仕上がりは商業印刷レベルの高品質を担保しています。

MeSEUM
「MeSEUM」サービスサイト

このサービスの特徴は、ファンにとっての特別なパーソナライズ体験を提供することはもちろん、コンテンツホルダー側にとっても在庫リスクや初期投資を抑えられるという点にあります。そして、推し活の熱量をそのままプロダクトに変換する、新しいファンエンゲージメントのカタチといえるかもしれません。

私は「推しとの関係をアップデートする」ことが、MeSEUM事業の根幹にあると考えています。ライブやイベントで高揚した瞬間やかけがえのない体験を、そのままカタチに残したい。あるいは現地に行けなかった人も、自分なりの方法でその世界に触れたい。そうしたファンの思いを受け止める、温度感のあるサービスになると良いと思いました。MeSEUMは、そうしたニーズに応えるための一つの提案です。

MeSEUM
「MeSEUM」サービス提供スキーム

埋もれた価値を届ける。ファンとコンテンツホルダー双方の課題に向き合う

MeSEUM事業に込められた思いや、推し活をアップデートする可能性について深掘りすべく、富士フイルムBIの取締役 執行役員でグラフィックコミュニケーション事業を統括する木田裕士氏に話をお聞きしました。

アーロン:まず、MeSEUM事業立ち上げの背景についてお伺いしたいです。御社にどのような課題意識があり、また、コンテンツホルダーやファンの皆さんが抱える課題については、どのように捉えていらっしゃったのでしょうか?

木田:富士フイルムのコア技術である「写真」と「プリント」を起点に、まったく新しいコンテンツビジネスを創出していくこと。それが、当社の事業の一つであるグラフィックコミュニケーション事業の成長にもつながるという考えから、MeSEUM事業を立ち上げました。

現状、多くのコンテンツホルダーが膨大な画像や映像資産を保有しながら、それらを十分にマネタイズできていないという課題を抱えています。一方で推し活を楽しんでいるファンの方々に目を向けると、一般的に流通しているコンテンツではなく「自分にとって意味のあるもの」、つまりパーソナライズされた価値を求めていることが分かってきました。

この両者のニーズをきちんとつなぎ、コンテンツホルダーにとっても、ファンにとっても喜ばれる仕組みをつくること。それが私たちの大きなテーマでした。そして、この新しい推し活のあり方は、エンターテインメントに限らず、アートや文学、スポーツなど幅広い分野に共通するものです。そうした意味で、社会的な意義も非常に大きいプロジェクトと捉えています。

木田裕士氏
木田裕士氏

アーロン:そのような課題やニーズを踏まえ、MeSEUMでは具体的にどのような仕組みで価値提供を実現しようとしているのかを教えてください。

木田:まず、コンテンツホルダーが保有している膨大な画像・映像データをデジタルアセットとして整理・管理できるよう、DAM(デジタルアセットマネジメント)化します。そして、ファンはそれらの中から「自分が本当に欲しい」と思えるカットを選び、世界に一つだけのオリジナルアイテムをつくれる。そのような“推し活プラットフォーム”を提供します。

つまり、ファンが心を動かされた瞬間をカタチにし、それが応援の表現方法にもなる。一方でコンテンツホルダー側にとっては、これまで埋もれていたコンテンツを資産化し、管理・収益化の両面で価値を引き出せるようになります。

そのプラットフォームの土台には、私たちが長年培ってきたデジタル技術と、高品質な写真・プリントの技術を生かしています。関わる全ての人にとってポジティブな体験となることを目指し、事業化を進めてきました。

“世界に一つだけのアイテム”を支える技術・ノウハウ

アーロン:MeSEUMの仕組みを実現する上で、御社が事業を通じて培ってきたノウハウや技術が大きな鍵になっていると感じています。具体的には、どういった部分に強みがあるとお考えですか?

木田:当社の知見が生かされている領域は、主に4つあります。

まず1つ目は、高品質なプリントオンデマンド技術です。商業レベルのプリント品質を、版を使わず必要な分だけ刷れる点が最大の特徴です。MeSEUMで展開する“世界に一つだけのアイテム”を成り立たせる上で、この技術が大きなベースになっています。さらに、クリアトナーやマイクロフォントといったセキュリティプリント技術を用いることで、コンテンツの偽造や転売の抑止も実現しています。

2つ目が、AIによる画像認識技術です。大量の写真データから、たとえば特定のキャラクターやアーティストの画像だけを自動で抽出したり、不鮮明な画像を省いて良質なものだけを選別することが可能です。ファンが閲覧する際にも、AIがより良い一枚を提案してくれるような設計になっています。

3つ目は、素材展開のノウハウです。紙以外にも、布や陶器、アクリルなどさまざまな素材へのプリント実績があり、こうした技術が、ファンが求める多様なアイテム展開に生かされています。

そして4つ目が、コンテンツの制作から流通までを効率化するDX支援の知見です。AIや業務システムと連携することで、コンテンツオーナーの作業負荷を軽減し、より手軽で柔軟な運用をサポートできる点が、私たちの大きな特長だと考えています。

アーロン・ズー氏
アーロン・ズー氏

アーロン:MeSEUMで活用している「Revoria Press PC1120」の特徴について、もう少し詳しく教えていただけますか?

木田:Revoria Press PC1120は、世界で初めて6色トナー方式を採用した高品質なデジタルプリンターです。一般的なCMYK(4色)では再現が難しいRGB領域の色味にも対応しており、特にキャラクター写真やアート写真のような繊細な色表現が求められるコンテンツにおいて、高い再現性を誇ります。

また、インク印刷よりも多様な素材への対応が可能なため、ファンが望む多様なアイテム展開にも柔軟に応えることができます。先ほど申し上げたセキュリティ印刷の機能とあわせて、ファン体験の質を支える要の技術になっています。

アーロン:富士フイルムグループでは、「ランダムプリント」や「プリントデイズ」、「推し文字プリント」など、すでに推し活に関連したサービスも展開されていますよね。そういった経験やノウハウは、今回の事業にも生かされているのでしょうか。

木田:はい、そこはまさに強みの一つです。MeSEUM事業は富士フイルムBI単体で推進していきますが、すでにグループ内で推し活関連サービスを展開している他部門とも連携し、今後さらに質や精度を高めていく予定です。また、推し活ファンは日本国内だけでなく、海外にも多く存在するので、グローバル展開も視野に入れた連携を進めていきたいと考えています。

ちなみに、私自身は推し活に詳しいほうではないのですが、MeSEUM事業に携わるDX事業部のリーダーがかなりの“ガチ勢”でして(笑)。今回の企画を話したときに一番強く反応してくれたのが彼でした。推し活に対する熱量や本当に欲しいものを理解しているメンバーが中核にいるというのは、サービスをつくる上でも大きな力になっていると感じています。

地球上の笑顔の回数を増やしていく

アーロン:富士フイルムグループは「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」というパーパスを掲げていますよね。その実現に向けて、MeSEUM事業がどのように貢献できるとお考えですか?

木田:富士フイルムのグループパーパスは、多様な人・知恵・技術を掛け合わせ、独創的な発想でイノベーションを生み出し、世界に笑顔を届けていくというものです。私たち富士フイルムBIも、その志を共有しながら、全ての活動において「オープン、フェア、クリア」の精神で取り組んでいます。

当然ながら、MeSEUMもその延長線上にある事業です。『「好き」をもっと好きに。』というコンセプトが示しているように、ファンが抱いている“好き”という感情に対して、より深く、自由に、豊かに応えていく。それによって、一人一人の笑顔を生み出していくことが、この事業の核心にあります。

アーロン:とても共感します。ちなみに御社はサステナブル社会の実現に向けた環境負荷低減の取り組みにも注力していますが、そこにMeSEUMが果たす役割について教えてください。

アーロン・ズー氏

木田:環境への配慮は、私たちが重視しているテーマの一つです。たとえばMeSEUMで活用しているデジタルプリント技術は、従来のオフセット印刷とは異なり、刷版といった中間材料が不要です。廃液も出ず、必要な分だけを印刷するオンデマンド方式なので、在庫ロスも発生しません。

さらに、グリーン電力を活用している点や、環境配慮型の用紙を選定できる仕組みも備えています。これにより、制作物には「GreenPowerマーク」を付けて提供することができ、コンテンツホルダー、ユーザーの双方に環境貢献の可視化がしやすくなっています。

「セレクトコンテンツ」から生まれる、推し活ファンとコンテンツの新しい関係性

アーロン:今後、AIによる画像認識の高度化やファンデータの活用も視野に入れています。MeSEUMはこれからどのように進化していくのか、現段階の構想を教えてください。

木田:現在は人物写真の認識を中心にAIを活用していますが、今後はシーンやイラストの自動抽出にも領域を広げていきたいと考えています。また、ファンの行動データやフィードバックを蓄積・分析することで、よりパーソナライズされた提案が可能になります。

たとえば、あるファンにとって思い出深いシーンをAIが把握し、それに近い画像やデザインを提案するといったように、一人一人の“好き”に寄り添えるサービスを目指しています。MeSEUMは、ファンの感情に応えるだけでなく、常に新しい体験を提供できるプラットフォームとして進化していきたいと考えています。

アーロン:これからMeSEUMに参画されるコンテンツホルダーの皆さんと、どのような未来を一緒に描いていきたいとお考えですか?

木田:一言で言うなら、コンテンツを「当たり前にマネタイズできる世界」を一緒に実現したいということです。コンテンツホルダーが保有する素材の中には、ファンにとってかけがえのない一枚が数多く埋もれているはずです。それらを適切に管理・活用し、価値あるカタチで届けることで、ファンとの関係性を深める場を提供できると考えています。

その延長として、収益の一部をファンへの還元に生かすような新たなスキームも、今後検討していきたいですね。そして最終的には、これまでのような一律で販売する写真集のスタイルだけではなく、ファン自身が「このカットが欲しい」と選んでつくる「セレクトコンテンツ」が当たり前になる文化を根付かせていきたいです。

アーロン:まさに、今の時代のファン心理に合った提案ですね。また、タレントやアーティストも人間らしいビハインドストーリーの部分も含めて共感される時代になってきています。MeSEUMでは、その人の背景にある物語や新たな一面も伝えたいという思いがあり、公式YouTubeチャンネルでは撮影風景やオフショットの公開にも取り組んでいます。

木田:その視点はとても重要だと感じています。完成されたカットだけでなく、ちょっとしたオフの表情や裏側のストーリーが伝わることで、そのコンテンツに新たな魅力が加わる可能性があります。そういった、ファンが求める“隠れた価値”を引き出して届けていくことで、コンテンツのブランディングにも寄与できると考えています。もちろん簡単なことではないですが、そういった新しいチャレンジの積み重ねが価値につながるのではないでしょうか。

木田裕士氏

アーロン:では最後に、推し活を楽しむファンの皆さんに向けてメッセージをお願いします。

木田:ファンの皆さんには、これまで通り推しを応援する手段の一つとして、MeSEUMを自由に楽しんでいただきたいと考えています。ただ、これまでと違うのは「自分で選び、自分だけの推し活アイテムをつくれる」という点です。コンサートやイベントを通じて自分が心を動かされた瞬間を自分なりのカタチで残す。あるいは、自分が抱いている推しのイメージを、写真やグッズというカタチで表現する。そういった体験を通じて、“好き”という感情がもっと深まっていくのではないかと思います。

推しがいることは、日々の活力にもつながります。私たちは、ファンの皆さんがその尊い営みを最大限に楽しめるよう、技術とサービスの両面から支援していきます。そして、MeSEUMを通じて、皆さんの暮らしに彩りと笑顔を届けていきたいです。

アーロン:ありがとうございます。私たちもMeSEUMの価値を最大化させるためにさまざまなチャレンジに取り組んでいきたいと思います。

木田:当社はコンシューマービジネスの経験が決して豊富ではありません。だからこそ、この領域に知見のある電通との連携に期待しています。市場分析力や事業開発のノウハウ、そして多様なコンテンツホルダーとのつながりは、MeSEUMにとって非常に心強い資産です。両社の強みを組み合わせることで、より多くの人の心を動かすサービスに育てていきたいですね。

アーロン:この事業を通して実現したいのは、“好き”という感情にもっと自由と選択肢を与えることです。ファンにとっては、思い入れのある瞬間を自分の手で選び、カタチにできる体験を。コンテンツホルダーにとっては、過去の資産を新たなカタチで届けられる可能性を。そして私たちにとっては、技術とクリエイティビティのかけ算で、感情が動く瞬間を支えていくという挑戦を。

MeSEUMが生み出す体験が、人とコンテンツの新しい関係をつくり、その一つ一つの積み重ねが、社会に少しずつ“彩り”と“笑顔”を増やしていく。そんな未来を信じて、これからも一歩ずつ歩みを進めていきたいと思います。

「MeSEUM」サービスサイトはこちら

【事業に関する問い合わせ先】
株式会社電通 BXクリエイティブ・センター
アーロン・ズー(Aaron Z. Zhu)
Contact:https://dentsu-bxcr.com/contact

https://x.com/dentsuho