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ブランドの物語を豊かにするためのコンテンツマーケティングの可能性

2017/09/11

オウンドメディアなどを通じて能動的にコンテンツを提供し、継続的な関係を生活者とつくり上げていくコンテンツマーケティング。デジタルマーケティングの新潮流として日本でも数年前から話題になっているが、別記事でも触れている通り、この手法が根源的に持つ、「事業の貢献」という視座に対する認知が進んでいない面がある。

このテーマをめぐって、今年7月からアマナ・グループと提携して日本市場に進出した米ニュースクレドの上級副社長チャールズ・ハフ氏、アウトブレイン創業者のヤロン・ガライ氏とアウトブレインジャパンの嶋瀬宏氏、そして電通ビジネス・クリエーション・センターの青木圭吾氏の4人が議論した。

左から、嶋瀬 宏氏、ヤロン・ガライ氏、チャールズ・ハフ氏、青木圭吾氏
左から、嶋瀬 宏氏、ヤロン・ガライ氏、チャールズ・ハフ氏、青木圭吾氏

嶋瀬 宏(以下、嶋瀬)コンテンツマーケティングの世界では、「コンテンツ・イズ・キング、ディストリビューョン・イズ・クイーン」と考えます。両者は、どちらが欠けても成り立たない。良いコンテンツをつくれば人は見てくれるであろう、という考えは、コンテンツ消費行動がこれまでの世代から大きく変化したミレニアルズには通用しにくくなっています。よって効果的なコンテンツを届けるプランニングも一緒に考えておく必要がある。このあたりは、日本のマーケターの間でも認知されつつあります。

嶋瀬 宏氏
嶋瀬 宏氏

チャールズ・ハフ(以下、チャールズ)ただ大事なことは、コンテンツをつくる人たちがいわばアーティストやクリエーターになってはいけない。素晴らしいコンテンツは大切ですが、これは一つのピース(部分)です。これを組み合わせて全体をつくること。アートとサイエンスの融合、私たちが提唱する「科学的なコンテンツマーケティング」のポイントはここにあります。まずコンテンツをつくって、後でデリバリーを考えようというやり方ではなくて、前もってどういったストラテジーを持って、どのようなコンテンツをつくり、どうやってデリバリーすることで、それを適切な人に届けるかを考えることが、コンテンツやトピックの正しい選定にもつながります。当然ですが全てのアクションは深く関係し合っているからです。

チャールズ・ハフ氏
チャールズ・ハフ氏

青木圭吾(以下、青木)そして「科学的なコンテンツマーケティング」のゴールは、事業への貢献です。コンテンツづくりが目的化してはいけません。例えばニュースクレドではライセンスコンテンツを用意することで、スピード感のあるコンテンツマーケティングのスタートを可能にしています。

チャールズ われわれは、エコノミスト、フォーブス、ウォールストリート・ジャーナルなど約5000社のパブリッシャーと契約を結び、4000万本を超える記事を著作権利処理済みの状態で保有しています。これらのコンテンツを提供することで、クライアントがオウンドメディア上で自社のサービスをブランディングするときに、パブリッシャーの信頼性を生かしてユーザーのエンゲージメントを獲得するサポートができる。またライセンスコンテンツを使うことで一定量のトラフィックを自社のオウンドメディアに生み出すことができるため、オリジナルコンテンツをつくる際の方向性を把握することが可能になります。

ネットフリックスを例にしてみましょう。彼らはサービスの初期段階ではオリジナルのコンテンツはつくらずにライセンスコンテンツ、既にどこかで放送されたコンテンツを大量に用意してユーザーに提供していくという形をとっていました。そのコンテンツ消費の傾向を分析していく中で、どういうコンテンツに対してどのようなトラフィックの傾向があるか、どういうものがいつ見られているかなどを計測し、人々は何を求めているのかということを学習した。その上で、良質なオリジナルのコンテンツをつくり、成功につなげていきました。

これと同じように、われわれのライセンスコンテンツを活用してユーザーの動向を理解した上で、自社のオリジナルコンテンツを提供していく。まずは自社のコンセプトにフィットするライセンスコンテンツを大量に展開してサイト全体のコンテンツ量を確保し、その上でサイトのパフォーマンスを精緻に計測しながらライセンスコンテンツだけでは埋めることのできない“ミッシングピース”を把握して、そこに高い効果が期待できるオリジナルコンテンツを展開する。それによって優れたパフォーマンスを持つメディアを運営することを提案しています。

──ライセンスコンテンツで一定のトラフィック量を確保し、そこで動向を把握することで、どのような方向性でオリジナルコンテンツをつくればユーザーに支持されるかが分かるんですね。それは、目からウロコの話です。

青木:ライセンスコンテンツでユーザーの傾向を大まかに知っておくと、オリジナルコンテンツのパフォーマンスをより正確に把握できるようになるし、それぞれのオリジナルコンテンツのKPIへの貢献度を可視化できるようになります。オリジナルコンテンツは、コンバージョンへの貢献度は高いのですが、それにはコストも時間もかかる。オリジナルコンテンツの貢献度が個別に分かれば、どういった順序でどのようなコンテンツをユーザーに提供していくのがユーザーにとって快適かつ最適なジャーニーなのか、ということが考えられるようになる。

われわれがニュースクレドに期待していることは、彼らが持つ膨大なライセンスコンテンツを活用できること、そしてコンテンツのパフォーマンスを管理・運用できるプラットフォームを備えていることです。それによって、アウトブレインでどのコンテンツを、どのユーザーに届けるべきなのかが分かるようになる。つまり、まずニュースクレドで質の高いコンテンツを効率的に集め、オウンドメディアに配信する。次に個別コンテンツのパフォーマンスを鑑みながら、ユーザーのコンテンツに対するエンゲージメントの状況を把握して、最適なジャーニーを理解するそうなれば、アウトブレインにおいても的確なコンテンツ配信プランを設計できるようになる。このようにして、クライアントがユーザーにとって価値のあるコンテンツ体験を自社のオウンドメディア上で提供できる仕組みが構築できると考えます。

青木圭吾氏
青木圭吾氏

嶋瀬:そこに加えると、私たちはコンテンツのKPIに対する貢献度を一元管理できる「トレンディーモン」というツールを扱っています。現在の分析ではラストクリックをもたらしたコンテンツへの評価にとどまっていますが、全てのコンテンツジャーニーには興味関心の入り口となるコンテンツがあって、態度変容を促すナーチャリングのコンテンツを経て、最後のアクションにつながっている。その相関性を把握しないことには正しいコンテンツ評価はできません。これを可視化するのがトレンディーモンであり、彼らのツールをクライアントへ紹介することでコンテンツへの正しい評価軸を持っていただきたいと考えています。

チャールズ:あと私たちは、日本のパブリッシャーに大きな期待を持っています。それが、アマナと提携した狙いです。この提携により、世界中のパブリッシャーのコンテンツを日本へ紹介する他、日本の優れたコンテンツをアメリカやアジアをはじめとした世界各国へ発信していくということも、大きなビジョンのうちの一つであります。

──それは、日本のコンテンツマーケティング関係者にも、パブリッシャーにも朗報ですね。

チャールズ:私たちが強調したいのは、こうした活動が従来のものと大きく違うのは、キャンペーン型広告の効果はなかなか蓄積しにくいけれど、「オールウエーズ・オン・マーケティング」におけるコンテンツの効果は蓄積ができること。つまり、コンテンツは企業の資産になるのです。コンテンツマーケティングというのは、従来のやり方に加わった新しいものではなく、それらと競合せずに、むしろ、今までやってきたマーケティングを、より効果的に最適化する。その意味で、マーケティング自体の未来だと思っています。

──その意味では、ヤロンさん、チャールズさんが事業を通じて提案しているコンテンツマーケティングは、マーケティングの先祖返りというか、ピュアなマーケティング、「ザ・マーケティング」になっているようですね。

ヤロン・ガライ(以下、ヤロン)私はアウトブレインを起業する前に、サーチエンジンのマーケティングを支援する会社をしていました。当時、オフラインのマーケティングで、最も最前線にいる方々でさえ、「サーチ上で広告が出せますよ」と言っても、「いや、そんなのはマーケティングじゃない」との反応でした。今となっては、(SEOなど)検索エンジンのマーケティングは当たり前になっています。その経験からいうと、今後コンテンツを通じて、消費者に価値を提供していくということも、当たり前になっていくと思います。

ヤロン・ガライ氏
ヤロン・ガライ氏

チャールズ:コンテンツマーケティングというのを別の名前で呼び直すなら、オーセンティック・ストーリーテラー、本当の意味でのストーリーテリングと言えるかと思います。なぜサービスを提供しているか、なぜ商品を提供しているか、その価値は何か、などを突き詰めて考え、ブランド自体が、ブランド自身のストーリーを紡いでいけるかがマーケティング、ということになる。ストーリーのないブランドは、ただの製品です。その意味で本質を突き詰めていくと、ストーリーテリングできるかに帰結すると思います。

ヤロン:ミレニアルズは、あらゆる方法で、可能な限り広告をスキップするし、ブロックもする。彼らに対してメッセージを届けていくには、コンテンツというフォーマットを通しての価値提供以外にはありません。また当然、人それぞれで趣味嗜好は違うので、自分に向けてパーソナライズされたコンテンツであると感じてもらえるよう、多くのコンテンツが必要です。しかも態度変容を起こすことのできる良質なもので、適切なタイミングで届けられなければ意味がありません。そして、これは近未来の話ではなく、今日現在、この瞬間に起きている現実としてそこにあります。

──そうした中で、ニュースクレドでは、“プリセールス”という概念を提唱しているようですね。

チャールズ:私たちが「アドバイザリーサービス」と呼ぶものですね。われわれが事業を始めたときには当然、コンテンツと、それを管理・運用するプラットフォームを用意しました。しかし、事業を進めていくうちに、コンテンツマーケティングはそんなにシンプルじゃないと気付きました。そこで、アドバイザリーというファンクションを強化したのです。

コンテンツマーケティングには優れたストラテジストの存在が重要なことは自明なことですが、それは単にコンテンツの運用を請け負うだけではなく、案件を受注する前にプロジェクトに対するクライアントのKPIをクリアにすること、言い方を換えれば“正しい需要”を生み出すことに合意する必要がある。クライアントからわれわれのサービスのケイパビリティに対する正しい理解を得ながら、一緒にどのような目的を達成していくかをしっかり議論する、これがわれわれのプリセールスの考え方です。

──日本では、手付かずの領域という印象がします。そこの認知には、電通にもやれることがあるのではないでしょうか。

青木:おっしゃる通りです。コンテンツマーケティングが注目され始めた数年前は、とりあえずオウンドメディアを用意してコンテンツをつくり始めれば評価されました。しかし最近は「ところでコンテンツマーケティングって、売り上げに貢献しているのか?」と経営層などから質問されたときに、きちんと説明ができないケースがあることを耳にしています。そういった事態に陥らないためにも、新たな施策を実行する前の段階で最終的に何を目指すべきか、それを実現するためにどのソリューションをどのように活用し、関係する各プレーヤーはどこまで何をするべきなのかをしっかりと関係者全員で合意した上で、施策を実行する。これは別にコンテンツマーケティングだから必要なのだということではなく、パフォーマンスが細かく可視化できるデジタル時代のマーケティングである以上は、必然的なものだと考えます。

そういった意味では、単に優れたソリューションを紹介するだけではエージェンシーの存在価値は出しにくい環境になっています。極論すれば、クライアントにしてみると「良いツールを紹介してくれてありがとう。あとは自分たちでやるよ」というのが本音でしょうから。ただ、ヤロンさんやチャールズさんたちのお話にもありましたが、世界的に混沌が深まり、ミレニアルズの台頭などを含めて時代は大きな変革を迎えています。そうした中で、ブランドマーケターにとって大切なのは自社の事業の成長であり、デジタルソリューションは、その手段でしかありません。さまざまな出来事が目まぐるしく起こり、変化が激しい中で、ブランドマーケターの方々がそういった“手段”の情報収集や、良しあしの判断に時間を費やすことが果たして良いことなのでしょうか。

われわれは、最先端のグローバルブランドや企業と向き合いながら、海外ソリューションの動向を常にアップデートしています。そうしたわれわれのようなエージェンシーが、ツールの単品売りや機能売りをするのではなく、優れたソリューションが持つケイパビリティを組み合わせてブランド企業ごとにカスタマイズして提案をしていく。一方で、ブランドマーケッターは消費者に対してどのような新しく素晴らしい体験を提供できるのか、ということにフォーカスしていく。これこそが「本当のコンテンツマーケティング」のあるべき姿だと考えますし、われわれはそれを加速させる存在になるべきだと考えています。

──なるほど。デジタルマーケティングにおけるエージェンシーの役割も変わりつつあるわけですね。今日はありがとうございました。


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