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キーパーソンと語る、コンテンツマーケティングのあるべき姿とは?

2017/09/12

ミレニアルズが市場の主役として脚光を浴びる今、コンテンツマーケティングに向けた取り組みが本格化しつつある。この分野の先駆者であるアウトブレインは、コンテンツディストリビューションには欠かせないプラットフォームとして、日本でも存在を増している。ただ、当初の盛り上がりは一段落し、「やはりコンテンツを継続的につくるのは至難の業だ」「感覚的にコンテンツマーケティングへの期待はあるが、効果が定量化できなければ実施できない」などの声も現場からは聞こえてきている。

こうした中、アウトブレイン創業者のヤロン・ガライ氏が3年ぶりに来日した。今回は、コンテンツ提供と、支援業務を行うニュースクレドと一緒に日本のマーケターらと交流を深めた他、7月12日に行われたイベントに登壇するなど精力的に活動した。

電通報では、ニュースクレドの上級副社長チャールズ・ハフ氏と彼が行った対談をお届けすることで、ミレニアルズに向けたマーケティングにおいて、コンテンツマーケティングは有効なのかという根源的な問いを読者と一緒に考えていきたい。対談には、アウトブレインジャパンの嶋瀬宏氏、電通ビジネス・クリエーション・センターの青木圭吾氏も参加した。

左から、嶋瀬 宏氏、ヤロン・ガライ氏、チャールズ・ハフ氏、青木圭吾氏
左から、嶋瀬 宏氏、ヤロン・ガライ氏、チャールズ・ハフ氏、青木圭吾氏

──ヤロンさんには2014年7月にも話を聞きました(記事:消費者にコンテンツをどうやって届けるか?)。あれから3年たち、日本のブランドや企業の中にもコンテンツマーケティングに取り組むところが増えました。その一方で、実施し始めたからこそ湧く疑問や、そもそもコンテンツマーケティングって有効なの?という不安を持つ方もいます。

まず、お二人の現状認識からお願いします。

ヤロン・ガライ(以下、ヤロン)アドブロッカーがよく使われていること、フェイクニュース問題など、今マーケティングを取り巻く課題を見るに、われわれが会社をつくった際のテーマが重要性を増してきていると思います。

そもそもコミュニケーションでは、「消費者が何を求めているか」を理解することが重要です。消費者が何に対して一番注意を払うかといえば、自分にとって興味関心のあるコンテンツか否かです。マーケターはこの現実を知るべきです。

チャールズ・ハフ(以下、チャールズ)ヤロンさんに同感です。

そして少し補足をすると、コンテンツを起点としたコミュニケーションを進めていく際、効果検証に対する意識が変わっている。それはテクノロジーに伴い、コンテンツの効果を具体的に可視化したり、アクティビティーのROI(投資収益率)の効果を測定できるようになってきたことが大きな要因ではないかと思います。

アドブロッカーの普及スピードからも明白なように、消費者はコンテンツ体験を邪魔されることに対して明確に反発している。そのような状況を考えれば、コンテンツを起点としたマーケティングは、単なるファンの獲得にとどめずに、もう一歩踏み込んで具体的な事業収益の向上に用いるべきです。そのような、より効果的に本来のビジネスの目的達成に貢献させようという動きが加速しています。

チャールズ・ハフ氏
チャールズ・ハフ氏

青木圭吾(以下、青木)チャールズさんたちは、「科学的なコンテンツマーケティング」を掲げ、コンテンツとサイエンスの良い部分を生かすことで、コンテンツマーケティングは事業の成長に貢献すると考えています。自分たちのソリューションを通じて実際に事業に有用なアイデアを提供することが彼らの重要なコンセプトです。

──野心的なコンセプトですね。でも、このテーマは、コンテンツマーケティングに疑問を持っている人にとっては興味深い話だと思います。

ヤロン:コンテンツマーケティングは、(AIDMA/AISASモデルを前提とした購買ファネルにおける)ファネルの上部にアプローチする、つまり消費者の潜在的なニーズに訴えかけるケースが多いので、ROIを証明するのが難しいというのは実際あるかと思います。

現状では、コンテンツがどれくらい事業に貢献したかを全て可視化し、評価する手法は発展途上段階です。けれどコンテンツがマーケティングに効果のあることを否定するマーケターは恐らくいないはず。なので、今後はこういったトップ・オブ・ファネルに向けて提供したコンテンツに確固とした価値があることを証明することがますます重要になるでしょう。

ヤロン・ガライ氏
ヤロン・ガライ氏

チャールズ:アメリカでも5年前の段階では、オンラインでのコンテンツマーケティングは始まったばかりでした。ですがこの5年の間にブランドはコンテンツをどのように活用すべきかを学び、その経験が蓄積されています。単に数多くコンテンツをつくるだけではなくて、どのようなコンテンツをつくり、どのように届けたら、ビジネスとしての結果が出るかを考えるほうにシフトしていると感じます。

そうした声に応えて当社が提供しているのが「The Content Marketing Maturity Curve」(コンテンツマーケティング成熟度曲線)と呼ぶツールで、これにより企業やブランドは自分たちのコンテンツマーケティングの現状を把握することができます(図版1)。また、このツールとは別に、1~100までのスコアリングを行うCMMI(The Content Marketing Maturity Index、コンテンツマーケティング成熟度指標)という指標も用意しています。このCMMIにはさまざまなパラメーターが包含されていて、過去に成功したコンテンツマーケティングのプログラムの要素などに基づき、自己評価を行えます。このCMMIは、別の使い方もあります。図版2は、コンテンツマーケティングの活用度を業界別に算出したものです。ここではオフラインのリテールは苦戦していますが、オンラインのリテールのコンテンツマーケティングのプログラムは非常に高いレベル、つまり高い成熟度を達成しているということが分かります。

図版1

図版1

図版2

図版2

この二つのツールに加えて、私たちは成功に導くための方法論を用意しています。この点は強調しておきたいのですが、コンテンツマーケティングは、ビジネス戦略との整合性を目指さなければならないと考えています。よって私たちの方法論は、戦略からスタートし、トラフィック、エンゲージメント、アクション、マネタイゼーションの五つを段階的に実施し、繰り返し最適化していくことで、成功に導く。そのためのバリュー・フレームワークです(図版3)。

図版3

図版3

青木:チャールズさんたちは、コンテンツマーケティングをコミュニケーションだけの施策にせず、いかに事業全体へ貢献するかを戦略的に考えるべきと提案しています。そのためには現在の置かれた状況を正しく見極め、その上で施策の全体設計を行い、何を目指すかを明確にすることで、初めてコンテンツマーケティングのROIは可視化できる。マーケターが抱える期待値とズレは、そうすることで補正できるのではないでしょうか。

青木圭吾氏
青木圭吾氏

嶋瀬 宏(以下、嶋瀬)私が実際に日本のクライアントとやりとりする中では、メジャーメント(効果の測定方法、計測方法)が適切でなかったり、メジャーメントすべきものを見失っているというケースもあります。

先日、トラフィックの流入のほとんどがメールマガジンからになっているブログについて、こんな相談がありました。来訪者数は安定しているのだが、直帰率が非常に高くて困っているというものです。このケースでは、「直帰率=悪い」を前提に考えると、何か改善策を講じなくてはとなりますが、実際にはほとんどの読者がレギュラーカスタマーで、過去にメルマガ経由でほとんどの記事を読んでいるユーザーが多いので、新しいコンテンツを読むと帰ってしまう。なので、直帰率が高いことは悪くなく、むしろ重視すべきは、コンテンツの拡充、および新規のユニークユーザーの集客・定着に向けた施策などです。デジタルマーケティングには、さまざまな指標がありますが、いずれもコンテクストがある。そのコンテクスト抜きで、指標だけで物事を判断することは良い結果を生みにくいと考えます。

さまざまな技術革新やミレニアルズの台頭など、変化の激しい現在の状況では、デジタルマーケティングの定石が通用しない。むしろ定石通りにやると失敗してしまう。なので、失敗して当たり前、その失敗からいかに学ぶかも含めてROIを考える必要がある。とはいえ、当然ながら失敗は具体的な経験の蓄積から防ぐことができるようになるので、それを確立できた企業がイニシアチブを握ることになる。われわれソリューション側やエージェンシーの存在意義は、いかにクライアントのサポートをできるかにあるでしょう。たとえ当初の目標に届かなかったとしても、ラーニングカーブにおいてどこにいるかなど、マーケターと一緒に考えることができますので。

嶋瀬 宏氏
嶋瀬 宏氏

──ニュースクレドがアマナ・グループと連携し、日本で事業を展開(詳細はこちら)すること、そしてアウトブレインの利用が広がることで、コンテンツマーケティングを加速させるわけですね。そこは期待しましょう。

ただラーニングカーブの途中といっても、やはり自分たちの施策が、どんな貢献をしてくれるのか、コンテンツマーケティングの成功事例での心構えなど、マーケターの率直な疑問はあると思います。いかがでしょう?

ヤロン:繰り返しになりますが、やはり根本的な情報消費の在り方の変化を捉えることが重要です。ミレニアルズたちは、消費性向が変わっている他、広告への反応が全く違う。これはコミュニケーションの在り方を根本的に見直すことを迫っているのです。

チャールズ:私からは、三つの「O」、オーガナイゼーション、オペレーション、オプティマイゼーションを挙げましょう。オーガナイゼーションは、自分の組織が、どういうサービスを提供していて、何を伝えたいかをきちんと理解する。そして、消費者が何を求めているかを理解した上で、何をしたらいいかを見つける。このときに独り善がりになってはいけません。そして、やることがきちんと分かっても、それを実現するオペレーションがなければ、実際に届けることができない。よって、どうやって行うのかをしっかり考えるべきでしょう。三つ目のオプティマイゼーションは、KPIやROIの重要性が叫ばれるパフォーマンスマーケティングの時代には不可避です。そのことを前提として、一つ一つの結果を可視化する。そして可視化の努力を続けることです。

青木:さらに加えるなら、アウトブレインやニュースクレドといった優れた“手段”で自社の“目的”を達成するために何をするべきかという問いに向き合うことが重要だと考えます。その際にわれわれエージェンシーは生活者の動向や業界のトレンドなその知見も生かせるはずですし、彼らの海外での取り組みなどを日本の状況に合わせて、トータルにコンサルテーションすることもできる。

海外の先行事例ではコンテンツマーケティングが事業に貢献しつつあります。日本では、マーケティング手法のひとつと認識されがちで、事業に貢献するという本当のポテンシャルが十分に理解されていない傾向もある。本当のコンテンツマーケティングは、具体的な事業成長へ貢献する。この部分をわれわれが一緒になって考えていく必要がありますし、今後のエージェンシーはクライアントの事業成長にいかに具体的に貢献すべきか、という問題意識が求められると私は思っています。

──「本当のコンテンツマーケティングは、事業成長に貢献できる」というのは、野心的な話ですね。それを提唱するからには、エージェンシーの気構えも変わっていくということでしょう。今後が楽しみです。ありがとうございました。


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