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2013年「話題・注目商品」を読み解く 第2回

2013/12/17

      「消費者が選ぶ2013年の話題・注目商品ランキング」を読み解く 第2回

      「話題・注目商品ランキング」から読み解く時代のキーワード

      2013年の時代のトレンドには既に挙げたように三つの大きな方向性が見られた。

      ■未来的なテクノロジーを手に届く商品として提供

      ■デフレ時代の低価格志向を脱し、「納得感のある高級化」=ワンランク上のプレミアム志向

      ■日本や和に対する自信と発信意欲の高まり

      である。

      それを次のような五つのキーワードで表現した。

      1.手が届く未来 ~夢物語の未来から、手が届く未来へ

      多くの人が少し先の未来のものというイメージで見ていたものが、手に届く商品として提示され、驚きを与えた。3Dプリンターが数十万円で購入できたり、軽自動車にもハイブリッドや衝突防止支援システムが組み込まれるなど、手が届く技術として実用化されていることが期待超えとなった。

      2.攻めるが価値 ~待ちの時代から、攻めの時代へ

      デフレ時代には何もしない人が得をし、動いた人が損をしがちだったが、人々の“心のデフレ”が緩み始め、「動かなければ損をする」という気分が高まり、待ちの姿勢から前に動きだそうとするポジティブな姿勢が出てきた。

      自分の死に方をデザインするための「終活」に始まって、保育園入学をめぐる「保活」、涙を流して自分をリセットする「涙活」などの「○活」もその動き。特保飲料で健康な体づくりなどの積極性もみられた。

      また、低価格よりも消費の楽しさを求めてちょっと高めの商品も受容できるようになり、商品のプレミアム・シフトが見られた。プレミアムな冷凍食品、ななつ星 in 九州などが代表的な商品だ。

      3.カジュアル・リッチ ~カジュアルなのに本格派

      本格的なものでありながら手に届くカジュアルさがあり、注目を集めた商品やサービス。

      本格的でありながら価格と手軽さでヒットした「コンビニの本格コーヒー」、立食ながら低価格で本格的なフレンチやイタリアンが楽しめる「俺のフレンチ/イタリアン」、今まで手が届きにくかった豪華客船でのクルーズを身近にした「ショートクルージング」など、「本格的な品質+手軽さ」が受け入れられた。

      また、大体の内容を“ざっくり”と把握できて満足感を高めてくれる商品・サービスも注目された。自らネットサーフィンをして探さなくても欲しい情報が手に入る「まとめサイト」、世界の歴史が“ざっくり”分かるジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』やクリストファー・ロイドの『137億年の物語』、細部まで分からないが大筋で味わって泣ける「鉄拳のパラパラマンガ」などが代表的商品である。

      4.裾野力 ~強い裾野が頂点を高くする

      13年の日本や和への興味は、東京がけん引しているのではなく、多彩な地域の特色が日本や和の在り方を層の厚いものにしている。静岡県と山 梨県にまたがる世界文化遺産に登録された富士山、被災地岩手県を舞台にした「あまちゃん」、伊勢神宮と出雲大社の式年遷宮、ゆるキャラ、なな つ星 in 九州、ご当地B級グルメなど、地域が日本や和の良さを引き立てている。

      このような地域の力が強まっていることが、日本全体の発信力を高めている。強い裾野が広がっているからこそ、日本全体の頂点が高まっているの が、今の日本の姿である。

      5.しんせん、ニッポン ~時を超えた日本の魅力の発見

      2000年代初頭に起きた昭和30年代を対象としたレトロブーム、12年のラジオ体操、デザイン・ステテコ、東京ソラマチの江戸下町情緒を対象とした レトロブームがさらに進化して、時間的な制約を超越して、今のものでも過去のものでも日本には素晴らしいものがあるという“新鮮感”が日本と和 への自信と愛着を高めた。

      おもてなし、富士山と和食の世界遺産登録、東京スカイツリーなど世界に発信し、世界と共有したくなる日本を感じ始めている。

      2014年へのキーワード

      以上五つの世の中の気分とトレンドから14年の消費キーワードは「動き始めた未来~真21世紀元年」とした。“生活の未来化”がますます進むだろう。

      情報の分野では、通信の高速化やつながりやすさが広がり、写真やメール、仕事のファイル、読みたい本、旅行先でのガイドブックの情報など、必要な情報がどこにいても取り出せ、「情報の忘れもののない社会」により近づくだろう。

      3Dプリンターは使い道の広がりがあるので、さまざまなものを自分でつくりたい新たな「DIY世代」が来るかもしれない。作り手と買い手の境界が曖昧になり、80年代にA・トフラーが予言した「プロシューマー」が現れてくるかもしれない。

      前向きな時代の気分を反映して、メリハリ消費が得意な20歳代発の話題・注目商品も期待されるところである。

      消費税増税をきっかけに、無駄な支出を抑え、本当に必要なものを厳選するために、より一層消費の成熟化が進むだろう。豊かさを実感できる消費の未来への第一歩となる年になると期待される。(完)


      袖川 芳之

      (そでかわ・よしゆき)
      1987 年電通入社。マーケティング局、電通総研主任研究員、内閣府経済社会総合研究所政策企画調査官などを経て現職。多摩美術大学、慶應義塾大学大学院で非常勤 講師を務める。専門分野はマーケティング・コミュニケーションおよび家族研究、世代論、ヒット商品・トレンド分析など。著書に『クリエイティブ頭のからく り』など。