広告から受注までのビジネスの流れを一気通貫で改革。旭化成ホームズ×電通グループのDX
2024/06/06
※この記事は、2023年12月18日「Business Insider Japan」で公開された記事を一部編集し、掲載しています。
経営層を巻き込んだデータ活用戦略の立案やIT基盤の構築・運用、DX推進人材の育成等々、実効性あるDXの実現には多岐にわたる知見とそれらを連携、統合する能力が必要である。
そこで電通はグループ各社の専門人材を集約した約4000人規模のDX推進チーム「Dentsu DX Ground(DDXG)」を構築し、多くの企業のDX支援を手掛けている。
今回は新型コロナ禍を機に抜本的な営業、マーケティングの変革に取り組んだ旭化成ホームズの「セールスDX」とそれを支援した電通グループの取り組みを見ていこう。
旭化成ホームズが「セールスDX」に取り組む理由
戸建住宅「ヘーベルハウス」や集合住宅「ヘーベルメゾン」を展開するハウスメーカー大手、旭化成ホームズでは2020年からセールスフォース社のSales Cloud導入による営業活動のDX化「セールスDX」に取り組み、業務変革を成功に導いている。
セールスDXに着手するきっかけになったのは新型コロナ禍による集客の激減だったと、旭化成ホームズの中村干城氏は振り返る。
「当時の主要な販売チャネルは住宅展示場で、受注につながる集客のおよそ8割を占めていましたが、いきなりお客さまの姿が消えてしまいました。われわれの業界の集客ピークであるゴールデンウィークやお盆休みも、お客さまや社員の安全を守るために休業せざるを得ず、本当に危機的な状況に陥りました。
ウェブ広告からの集客もあるにはあったのですが、住宅展示場のお客さまは直接顔を見てコミュニケーションができるため以前はそちらに注力しており、ウェブから受注につなげるところにはあまり力を入れていませんでした」(中村氏)
受注の起点となる展示場への集客が封じられ、ウェブ上で住宅を体験できるコンテンツも用意はしていたものの顧客への見せ方が未整理で、集客につなげるには不十分だった。また、ウェブ広告は資料請求をゴールにしているものが中心だったことも悪く作用した。
この局面を打開するには広告によるコンタクトポイントの構築から住宅の受注に結び付けるプロセスを改めて整理し、システムに落とし込んで機能させるセールスDXに取り組む必要があると同社は考えた。そこでパートナーとして選んだのが電通である。
ITコンサルやSIerではなく、なぜ電通だったのか。中村氏は続ける。
「われわれの社内にもシステム部門があるので、システムを構築するだけならいろいろな選択肢があります。しかし今回は最初のコンタクトポイントである広告から受注まで一気通貫のシステムを作りお客さまを分断せず見られるようにするとともに、導入後もマーケティングをスパイラルアップしていきたかった。それには膨大な顧客接点情報を持っている電通と一緒に取り組むのが最適だと考えました。
もちろんわれわれにも自社で取得したデータはありますが、それをどの回路につなげると顧客の解像度が上がるのかといったマーケティングデータの見方そのもので電通が優れているのは、広告でのお付き合いから感じていました。
また、本件とは別に顧客が住宅を購入し、オーナーになっていただいた後のシステムも電通にお願いしていたので、購入の気持ちが芽生えたところから購入後までお客さまを追いかけていくには電通に依頼するのがわれわれとしては合理的で、迷いはありませんでした」(中村氏)
システム導入から現場への定着、変革の実現まで電通グループが伴走
旭化成ホームズから電通への新たな販売チャネルの創出に向けた相談は3点あった。一つはオンラインでの住宅検討を進めるためのコンテンツ拡充、二つ目はオンラインからの集客を増やす広告展開。そして三つ目が商談管理や営業支援、売り上げ予測の機能を持ち、生産性向上やビジネスの成長を支援するSales Cloudの導入で、三つの中でこれが最もビジネスインパクトが大きい。
電通は新たなカスタマージャーニーを作り上げるのと並行してSales Cloudの導入に着手した。電通の荒井克哉氏は当時を振り返る。
「私たちと旭化成ホームズさまとのお付き合いは非常に長く、常日頃からやりとりがありました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まった際は、『住宅販売にもこれからさまざまな不都合が出てくる。われわれにどんな対応ができるだろうか』と、ご依頼をいただく前から社内で議論が始まっていました。
このような経緯でどこに課題があり、システム構造のあるべき姿や取り込むべきデータ、それをどう他につなげていくか、つなげるにはどんなツールを持っておいたほうが良いのかといったことはある程度、見えていたのでスムーズに入っていけたと思います。
Sales Cloudの導入にあたっては、まず当時の電通グループでセールスフォースの導入実績が最もあった電通デジタルにチームに入ってもらってシステム構築をスピード展開し、納入。その後、基盤を強化しながらシステムの定着・活用に向けた体制を整えるためにコンサルティングとシステムインテグレーション機能を持つISID(電通国際情報サービス。2024年1月1日に電通総研に社名変更)に加わってもらいました」(荒井氏)
電通はシステム構築の各フェーズに合わせ、自社グループの専門人材から最適なチームを構成していった形で、「要件を整理しながら、グループ内にある知見を探して相談していった」(荒井氏)という。こうしたマーケティングから基幹システム開発まで一貫した支援を求めるニーズの高まりに応えるための動きが、後述する4000人規模のグループ横断組織DDXG(Dentsu DX Ground)設立の下地となった。
ISIDがチームに加わったのは、開発規模や専門的知見が考慮されてのことである。同社エンタープライズIT事業部の小澤佳範氏が説明する。
「旭化成ホームズさまは全国に7本部あり、関連するスタッフも含めると約1500人が使用する規模です。
また、このプロジェクトはSales Cloudを導入して終わりではなく、MA(マーケティングオートメーション)とつなげてしっかりデータを取得し、営業の方がMAの情報を活用できるようにしたり、Sales Cloudに蓄積したデータを分析したりといった幅広い業務が必要です。われわれが所属する部署は顧客と長期的なリレーションを構築し、さまざまな施策の企画から導入までを幅広くサポートすることに強みがあり、当社に相談があったとき、『これはエンタープライズIT事業部の案件だ』と話がつながっていきました」(小澤氏)
セールスDXは着手から半年のうちに一部限定でリリースしてトライアルを行い、最終的には1年半で全国展開した。
ただし、「システムはリリースした後が本番」とよくいわれるように、今回のケースでも困難だったのは現場の営業社員にシステムを活用してもらうことにあった。「営業として非常に優秀な方が多くすでにアナログで実績を上げているため、今後デジタルを使って営業してくださいとお願いしてもすぐ『はい、そうですか』とはならない」(小澤氏)のである。
そこで電通は旭化成ホームズの各本部に設置されているマーケティング室と協力し、Sales Cloudを活用して成果をあげた事例を収集して発信。例えば新人がSales Cloudを活用して受注を獲得した事例を発信すると、ベテランも興味を持ち、活用するようになっていった。
また、各本部では地域特性や顧客層の違いにより営業のやり方が異なる部分があるため、営業現場からのフィードバックを受け、それぞれの本部に応じてダッシュボードを変更するなど柔軟な対応も行っていった。
DXの実現で顧客体験価値をスパイラルアップ
果たしてSales Cloudの導入による旭化成ホームズのセールスDXは、どのような成果をもたらしただろうか。
「営業の頭の中にある仕事のやり方やトークの内容をデータにきちんと残し、お客さまとの最初の接点からお会いするまでの動線、あるいは興味関心やお会いした後にどう動いているのかをすべてわかりやすくフィードバックするシステムを作っていただいたので、お客さまの行動と営業社員のナレッジが可視化され、営業という業務の姿がクリアになってきたことは非常に大きいと感じています。
ウェブ経由の受注数やお客さまへの接触回数等のいわゆる基礎数字はリリース時点に比べ非常に良く、Sales Cloudを起点に営業活動が全て再編されました。お客さまの困りごとに適切な提案を持って行ったり、興味関心事に対してリニアな資料をお届けしたりといった、昔は営業社員の勘や経験でやっていたことがシステムでリコメンドできるようになったのです。
システムは往々にしてリリースした時点がピークになりがちですが、リリース後も現場の営業から寄せられるさまざまな声を全部聞いて、システムでできることと業務側で対応した方が良いことを切り分け、対応してくれています。
さらに、われわれは電通とプロモーションでも一緒に新しい仕掛けに取り組んでおり、それによって時々刻々と変わる情報を反映して業務のループを回していくという、システムとマーケティングの新しい付き合い方ができるようになりました」(中村氏)
旭化成ホームズのケースのように現在、DXの実現には高度なシステムインテグレーションのみならず、DX戦略立案や顧客体験の設計、マーケティング実行支援など多岐にわたる知見と連携、統合が必要となる。
このため先に述べたように、電通は2021年に顧客企業のDX支援組織であるDDXGを立ち上げた。その特徴はISIDや電通デジタルといったITのプロフェッショナルに加え、マーケティングやデータ活用、経営戦略などグループ各社の専門家からなる約4000人のプロフェッショナル集団が顧客企業の課題に応じてチームを編成し、DXを推進する点にある。
「住宅の購入を検討しているお客さまに対して欲しい情報をどんどん提供していく、そんなDXを実現すると顧客体験価値がどんどん良くなると実感しています。一方で営業の方は顧客理解を深めることができ、それをさらなる顧客体験価値の向上につなげれば、非常によい循環が生まれます。この好循環をどんどん回していき、電通グループとして旭化成ホームズさまの事業に貢献していきたいと考えています」(荒井氏)
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(Business Insider Japan Brand Studio)