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frogが手掛けるデザインとイノベーションの現在・未来No.42

生成AIの時代、ユーザー体験はアプリから自然言語へ生まれ変わる

2024/06/27

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。
 
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いま、私たちは何をするにもアプリを利用します。ウェブサイトの検索や閲覧、調べもの、文書作成、読書、コミュニケーション、人脈づくり、クリエイティブな作業、そしてもちろん仕事でも。しかし、この便利さの裏には、“断片化した現実”が隠れていることをご存じでしょうか。今回は、従来のアプリ中心のデジタル体験が、生成AIの登場によってどう変化していくのか、その可能性と未来について考えます。

<目次>
単一用途のアプリが集まるデジタル世界からの脱却

リアルタイム・インタラクションの出現

自然言語中心のインタラクションを見据えたデザインへのシフト

自然言語中心のエクスペリエンスをデザインするための5つの原則

アプリ不要へのパラダイムシフト

単一用途のアプリが集まるデジタル世界からの脱却

現在の私たちのデジタル生活は、単一用途のアプリという孤島の集まりの中で暮らしているようなものです。一つ一つのアプリが独立していて、絶えずどれかのアプリの操作に集中していなければなりません。このためユーザーエクスペリエンス(UX)は途切れ途切れで、それぞれのサービスプロバイダーのエコシステムが壁となって、時代と共に変化する私たちの多様なニーズは後回しにされています。

現実には、アプリやウェブサイトの活用はやるべき仕事を効率的に終わらせるのに最適な方法とは限りません。特に、たびたびタスクを切り替える必要があり、精神的な負担の多い複雑な仕事には全く適しません。

例えば、飛行機を予約するためにコストを比較する場合を考えてみましょう。まず、あちこちのサイトやアプリを閲覧して、料金やルートを比較してから、これだと思う便のサイトに戻って予約しなければなりません。最新料金を比較できるサイトも存在しますが、まだまだ扱いにくく、スムーズなプロセスで予約まで完了できるレベルではありません。加えて、こうしたサイトは価格表示に透明性がないため信頼性に欠け、検索方法が複雑でナビゲーションしづらいという難点もあります。

それでも、変革が進んでいるのは事実で、アプリ中心から私たちが日常的に使っている自然言語中心のユーザー体験への大きな転換が起きつつあります。最近では生成AIという強力な武器によって、その流れがさらに加速しています。ユーザージャーニーが個々のプラットフォーム間の境界線を越え、ぶつ切れ状態でイライラさせられるアプリやサイトとのやりとりが、全体としてまとまりのある体験に変わろうとしているのです。

リアルタイム・インタラクションの出現

現代の消費者、特に1990年代以降に生まれたZ世代やアルファ世代は、先を予想できるリアルタイムの体験を望んでいます。こうした世代は、AIが目に見えないアシスタントとしてさまざまなタスクやサービスを切れ目なくまとめ、知識や解決策を瞬時に示してくれる未来を思い描いています。

この変革の模範的な例が、革新的なパーソナルAIアシスタント「Rabbit r1」です。Rabbit r1が採用している大規模アクションモデル(LAM)は、いわば「アプリのユニバーサルコントローラー」で、ユーザーの好みを学習するだけでなく、好みに沿ったアクションを実行します。ユーザーのニーズを予測し、各種のアプリからタスクを集めてシームレスにまとめてくれるのです。

例えば、週末の小旅行を計画するとしましょう。ユーザーの好みを学習したr1は、飛行機やホテルの手配からレストラン、レジャーの予約まですべてを管理し、切れ目のない体験を構築してくれるので、一つ一つのアプリを別々に操作する必要はありません。また、請求書の支払いを効率化するように学習させれば、電話番号を探したり、レスポンスの悪いオンラインフォームで問い合わせたりする必要もなくなります。

従来のアプリが立場を失いつつあることを示すAI活用事例は他にもあります。2024年の「モバイル・ワールド・コングレス」(世界最大のモバイル関連展示会)では、ドイツの通信会社Deutsche Telekomがアプリなしの携帯電話を発表しました。同社のティモテウス・ヘットゲス最高経営責任者(CEO)は、「今から5年から10年後には、誰もアプリを使わなくなるでしょう」と宣言しました。

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自然言語中心のインタラクションを見据えたデザインへのシフト

いま出現しつつあるこのような環境には、特有の課題と機会があります。自然言語中心への変革が進むということは、デジタルデバイスとやりとりする主な方法が、人間同士のやりとりとほぼ同じになるということです。一つのアクションを完了させるために複数のアプリを苦労して操作する必要はなくなります。チャットや音声認識で、何をしたいかをデバイスに伝えさえすればいいのです。

このパラダイムシフトによって、私たちが製品やサービスのデザインにアプローチする方法も根本的に変わり、自然言語使用のインタラクションが標準になります。企業の競争力がユーザーインターフェース(ユーザーがウェブ上のサービスやサイト、アプリなどを利用する際に触れる接点)だけでなく、サービス提供モデルによって決まる傾向がしだいに強くなるでしょう。

自然言語中心のエクスペリエンスをデザインするための5つの原則

ここで、この新しい時代のデザインの指針となる原則と、それぞれのユースケースをご紹介しましょう。

1.パラダイムとしてのプライバシー 

AIによるアクションが舞台裏で進むことを考えると、信頼を築くことが極めて重要になります。倫理的で透明性のあるAIにふさわしいデザインをし、ユーザーが自分のデータのプライバシーをコントロールできるようにする必要があります。AI革命の初期段階にある今の時点で信頼を築くためには、大規模言語モデル(LLM)やLAMからのデータや出力をユーザーが検証・修正できるようにすることが重要です。

2.スムーズな相互運用性

アプリ間の障壁を壊し、データやサービスをシームレスにやりとりできるようにする必要があります。例えば、予定表とフィットネストラッカーと音楽配信サービスを統合して、ユーザーのリアルタイムのニーズと好みに合わせてスケジュールとエクササイズ、プレイリストを調整してくれるAIアシスタントなどが考えられます。

3.順応性のあるエクスペリエンス   

未来のエクスペリエンスは、コンテキストアウェアネス(状況認識)によってユーザーのニーズに動的に対応できなければなりません。LAMを利用すれば、誰でも自分の望むエクスペリエンスを学習させることができます。例えば、忙しい一日を終えて帰ってきたときには、自動的に暗めの照明が点き、穏やかな音楽が流れるようにして、自宅を癒やしの空間に変えることも可能になるでしょう。

4.効率性と共感性のバランスをとる 

作業の効率性だけを求めるのではなく、ユーザーの気持ちに寄り添うデザインを大事にすることが不可欠です。例えば、ユーザーのそのときの気分や精神状態に合わせて、思いやりのある質問を投げかけたり、じっくり話を聞いてくれたり、対話を通じて内省を促してくれるなど、親身なパートナーとして寄り添ってくれるメンタルヘルスサービスが考えられます。

5.探究、センス、表現 

AIによる推奨やコンテンツ生成、体験の最適化が当たり前になる未来では、個人やブランドの表現の独自性を守ることが非常に重要になります。AIは効率化と統合が得意ですが、私たちは画一性とは距離を置いた空間を作り出さなければなりません。人々や企業には、探究して独自のセンスを養い、生き生きとした表現を構築する自由があってほしいと考えています。このような意図のあるデザイン戦略は、多様性を守り、AIが支援する環境における個人やブランドの表現の豊かさを支えるカギとなります。

アプリ不要へのパラダイムシフト

私たちは新しい製品やテクノロジーの先頭を走るだけでなく、パラダイムシフトの最前線にも立っています。新興のベンチャー企業も確立された企業も、そのことに気づき始めています。未来のユーザーは、思考や感情と同じくらい自然に流れていく体験を求めるでしょう。

自然言語中心への変革はもう始まっています。そのような時代にふさわしいデザインを実践する準備はできていますか?これからのデジタル環境をもっと直感的に使いやすく、ユーザーの思いに寄り添い、効率的で、私たちの人間としてのニーズに応えるものに作り変える旅へ共に踏み出しましょう

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています。

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