「そんなこともできるの!?」LINEヤフー社と語る、統合で実現するデータ分析とは?
2024/07/16
2023年10月。LINE株式会社とヤフー株式会社が合併し、LINEヤフー株式会社が誕生しました。
日本中のあらゆる生活者に愛用され1to1コミュニケーションに強みを持つLINEと、検索から購入まで約100のサービスを保有し、多様なデータ基盤を持つヤフー。
日本屈指の両プラットフォームを保有するLINEヤフーは、企業のマーケティング活動にどのように貢献できるのでしょうか?
今回はLINEヤフーの山本翔太郎氏と相原茉鈴氏を招き、ヤフーと電通の共同分析プロジェクト「HAKONIWA」のサービスを提供してきた電通デジタルの大下酬人氏、LINE社と共同で「LINE DATA SOLUTION」のサービスを提供してきた電通の赤澤新之介氏が語り合いました。
HAKONIWA
2019年に電通、電通デジタル、旧ヤフー社で発足した、共同データ分析プロジェクト。電通連携のデータ、ヤフー保有のデータ、クライアント保有のデータをセキュアな環境で連携させ、Yahoo! JAPAN IDを基軸として分析ができる。
LINE DATA SOLUTION
LINE User IDを軸としたデータ分析環境。LINE広告メニューの接触データや、LINEが持つデモグラフィック興味関心データと、電通が保有・連携をしている外部データを突合分析し、ユーザーごとに最適なコミュニケーションを実現する。
LINEとヤフー、巨大な2つのプラットフォームが融合!
──LINEとヤフーが合併したことで、それぞれが持っていた「LINE DATA SOLUTION」「HAKONIWA」というデータ分析環境が、どう進化するのかを伺えればと思います。まずは自己紹介をお願いします。
山本:LINEヤフーで、主にデジタル広告の提案営業をしている山本です。合併前はヤフーの広告を、合併後はLINEの広告も販売しています。ヤフー時代から電通・電通デジタルさんを担当しており、またHAKONIWAプロジェクトの推進担当としても、電通・電通デジタルさんと日々ディスカッションさせていただいています。
相原:同じくLINEヤフーの相原です。ビジネスディベロップメントチームに所属し、データを用いた分析・開発の環境提供や、そのサポート、プロジェクトの企画などに携わっています。 LINEとヤフーのデータを使って、パートナーである電通・電通デジタルさんと一緒にクライアントにデータの価値を届けることがミッションです。
大下:電通デジタルで、HAKONIWAのプロジェクトマネージャーを務めている大下です。さまざまな分析手法を使ったソリューションの開発や、運営推進、他部署やパートナー会社との交渉などを行っています。
赤澤:電通のデータ・テクノロジーセンターの赤澤です。私は現場リーダーとして、またアナリストとして、主にLINEのデータを分析し、クライアントのマーケティング活動に寄与する取り組みを行っています。例えば、LINE広告とテレビCMのデータを掛け合わせてコンバージョンを見ることで、どのような相乗効果があるのかを分析したりしています。
──HAKONIWAとは、どのようなプロジェクトですか?
大下:2019年に電通、電通デジタル、旧ヤフーさんとで発足した共同データ分析プロジェクトです。ヤフーさん、国内電通グループ各社とそのパートナー企業、そしてクライアントが保有するデータを、セキュアな環境で連携できる分析環境を提供しています。
HAKONIWAでは「Yahoo! JAPAN ID」という、ユーザー1人1人にひもづいたIDを基軸に、多角的なデータ分析や広告配信が可能です。これまでに100社以上にご利用いただき、250以上の案件に活用されています。もちろん、データ利用基準に抵触しないように、厳密なルールを守り、ユーザーの個人情報を特定しない形での分析を行っています。
参考ページ:
データクリーンルーム
参考連載:
知らなきゃ損する!データクリーンルーム活用術
──どのようなデータをマーケティングに使えるのでしょうか。
相原:HAKONIWAで利用できるヤフーのデータは多岐にわたりますが、Yahoo! JAPAN IDに紐づいたユーザーの行動データが中心です。「デモグラフィック」「興味関心」「広告ログ」に加え、「検索データ」「購買データ」といった、ヤフーの各サービスでの行動データも利用できます。
大下:そして、LINEヤフーさんの保有するデータに加えて、国内電通グループ各社で保有・連携している各種のデータも掛け合わせることができます。
例えば「STADIA」(※)によるテレビの視聴データや、アンケート調査データ、パートナー会社が保有する位置情報データや購買データなどを、一つの分析環境で、ヤフーのデータと突合して分析できます。さらに必要に応じて、クライアント自身が持つファーストパーティデータも利用できます。
※STADIA=電通が提供する、ユーザーの同意許諾を得たテレビ視聴ログを基盤とした国内最大規模のマーケティングプラットフォーム。テレビ視聴ログデータとデジタル行動データを突合することで、オンオフ統合での分析が可能。
──他のプラットフォームと比較して、HAKONIWAの強みはどんなところにありますか?
大下:主に3つあります。1つ目は、「検索クエリ」(検索時に入力された単語や文章)データです。ヤフーユーザーの検索行動を、分析に活用できるのですが、検索クエリは「そのユーザー自身が能動的に欲している情報」なので、受動的なコンテンツ閲覧よりも、ユーザーの持つニーズや興味関心が鮮明に描けるため課題の理解に役立ちます。
2つ目は、クライアントの課題に応じて分析や配信をカスタマイズできる、自由度の高さです。クライアントの複雑な課題に対しても柔軟に対応し、自由度高く解決できます。
3つ目は、分析だけで終わらず、分析結果をYahoo! JAPAN IDに連携し、ヤフーのサービス内で広告配信できることです。特に広告配信という「出口」がしっかりしているのは、プラットフォームとして大きな強みですね。また、Cookieに依存せずに分析・配信に活用できるため、昨今話題になっているCookieフリー時代の対策としても有効です。
1.検索クエリなどの行動データを分析に活用できる
2.クライアント課題に応じて柔軟にカスタマイズした分析ができる
3.分析結果に基づき、ヤフー上で、Cookieに依存せずにターゲティング広告を配信できる相原:HAKONIWAには、データ分析をもとにした示唆が提供できるという確かな価値があると思いますが、この価値は日々クライアントのマーケティング課題と向き合っている電通さん・電通デジタルさんとの協力で最大化されており、提供する課題解決策の質を高めていると思います。
山本:もう一つ、電通さんとの共同プロジェクトにより、オンラインだけでは不可能な分析もできる点も挙げられます。例えば「テレビもYahoo!広告も両方出稿しているクライアント」の場合、重複リーチや、逆にインクリメンタルなリーチがどれだけ取れているかを可視化・分析できます。
あるいは、検索データ(検索クエリ)を用いて、テレビCM×デジタル広告のサーチリフト(※)も出せます。中でもやはりテレビ視聴データが使えることは大きいですね。マス・デジ横断の広告効果を可視化できるので、次のマーケティングプランニングに活用できるというお声を頂いています。
※サーチリフト=広告配信によって、対象キーワードの自然検索数がどの程度上昇しているのかを測定する指標。
──次に、LINE DATA SOLUTIONについて伺えますか。
赤澤:旧LINE時代から分析を担当している私から説明いたします。HAKONIWAと同じように、ユーザー固有のLINE IDと連携する形で、LINEのユーザーデータ、電通・電通デジタルが保有するデータなどを、ユーザーの同意許諾に基づいてプライバシーを保護した上で、掛け合わせた分析ができる環境です。
LINEが保有する性・年代といったデモグラフィックデータや、興味関心データによって、ユーザーの特徴を把握できます。
LINE DATA SOLUTIONでは、広告施策の効果検証も、セキュアな環境内で詳細に実施できます。そこにSTADIAによるテレビCM視聴データ、パートナー企業から得られる購買データ、位置データ、半年に1回の頻度で実施する数十万人を対象としたアンケート調査データなども掛け合わせられます。
例えば公式アカウントでの1to1コミュニケーションが、どのくらい購買に寄与しているのか。あるいはテレビCMとLINE広告を一緒に実施すると、どんな相乗効果があるのか、といったことまで可視化できています。
──LINE DATA SOLUTIONは、どういったクライアントが利用されているのでしょうか。
赤澤:あらゆる業種のクライアントにご利用いただいていますが、1to1での継続的なコミュニケーションが特徴なので、ブランドや商品の「ファン化」に取り組むケースが多いです。LINE IDを起点に、1to1コミュニケーションにより得られたデータを分析し、あるいはその分析データに基づいてコミュニケーションを設計できることが、LINE DATA SOLUTIONのポイントです。
膨大な行動データを持つヤフー、1to1コミュニケーションに長けたLINE
──LINEとヤフーが一緒になったことで、データ活用において一番大きな変化は何でしょうか?
相原:それは「LINE IDとYahoo! JAPAN IDの連携」です。それぞれのプラットフォームが保有しているデータを統合し、より詳細な分析や配信ができる状態を目指しています。
インターネット広告も本格的にサードパーティCookieからの脱却が進む中、このID連携により、ユーザーのプライバシーを尊重しつつ、多角的な分析や配信が可能になっていきます。2つのID連携は合併後から順次進んでおり、現時点で約2500万IDがすでに連携済みで、その数は今後も増加する見込みです。
──すごい人数ですね!これはつまり、「2つのIDの連携」に許諾の意思を示してくださったユーザーの人数ということでしょうか?
山本:そうです。現在はLINE、ヤフー、それぞれの分析環境で国内電通グループ各社と協業していますが、今後はこの分析環境の統合を進めていきます。そして、ヤフーの持つ膨大な行動データと、LINEの1to1コミュニケーションの強みを生かした分析を提供し、クライアントにさらに高度な提案ができることを目指しています。
相原:ID連携についてはまさに今取り組んでいるところですが、相互のデータや広告ソリューションを活用した、生活者へのより適切なコミュニケーションの実現が目標です。クライアントからは、「ヤフーのデータを活用しながら、LINE公式アカウントで配信をしていきたい」といった要望も多く聞かれます。
──さらにそこに、電通、電通デジタルの持っているデータも掛け合わせることができるわけですね。電通側の保有データは、どのような形で活用されているのでしょうか。
赤澤:電通では、複数のデータクリーンルームを一元管理できるシステム「TOBIRAS」を提供しており、LINEヤフーとのデータ連携でもこのTOBIRASを用いています。STADIAのテレビ視聴データや位置情報データを、LINEヤフーのデータとシームレスに連携できるため、より多面的な分析をスピーディーに実現できます。
ちなみに電通では、「データ」「アナリティクス」「プランニング」「顧客体験」「効果検証」の分断が現代のマーケティング課題の一つだと考えています。これらをシームレスにつなぐことで、顧客企業のマーケティング変革を統合的に支援し、事業グロースに貢献することを目的に、「Marketing For Glowth」という次世代マーケティングモデルを構築しています。このつながりを実現する重要なパーツの一つが、「TOBIRAS」なのです。
山本:私たちから見て特徴的なデータだと思うのは、電通さんのテレビ視聴データですかね。テレビとデジタルって、ある意味でシェアを取り合うような側面もあると思いますが、クライアントからしてみると、テレビとデジタルを合わせての分析がしたいというニーズは多いと感じます。ですので、こうした協業を続けていけるとうれしいです。
大下:こちらこそ、よろしくお願いいたします!
広告配信から購買、ファン化まで。「Connect One構想」って?
──赤澤さんをはじめとする電通のアナリストは、LINEヤフーのデータを活用してどういった分析を行っているのでしょうか?
赤澤:豊富なデータがあるといっても、そのままではクライアントが活用できないので、異なるデータを掛け合わせた「クロス集計」を行い、ユーザーの特徴量というものを抽出していくのがメインです。
データの活用方法はマーケティングの手法によりさまざまではありますが、LINE DATA SOLUTIONで行うことは大きく分けて二つあります。一つは、配信した広告の効果を検証することです。クライアントが設定したKPIに対して、この広告が当たった人の行動がどうなったのか、といった分析ですね。
もう一つは、データの中から「買ってくれる人の特徴」を抽出することです。例えば「こういう興味関心のある、こういうデモグラフィック属性の人が買ってくれやすい」という条件を探っていく。この2方向のアプローチが中心です。
──電通、電通デジタルとしては、LINEヤフーの統合によって何が変わるとお考えですか?
大下:クライアントの「抽象的な課題」に対しても寄与できそうです。ヤフーでは多様な行動データを取得でき、LINEでは個々のコミュニケーションでまた違ったデータを取得できます。
例えば「中長期でユーザーと接点を持ちたい」「中間KPIを作りたい」「(クライアントの商圏における)世の中の意識ってどうなっているんだろう」といった漠然とした悩みや、疑問に近いような課題に対しても、臨機応変に対応できるのではないでしょうか。
──いわゆる広告施策といった使い方だけではないのですね。
大下:はい。HAKONIWAではあくまでもクライアントの「課題ベース」で、柔軟に対応してきました。あとは、そもそもの「課題を見つける」という使い方もできます。現在の広告戦略が本当に適切なものなのかどうかを、さまざまな角度から分析することで、課題を洗い出すことができるのです。
山本:あとは、複数のプラットフォームに広告配信しているクライアントに対して、どちらの方がリーチが多いのか、どちらの方が購入に寄与しているのかといった分析のご依頼も多いですね。従来の「プラットフォーム×クライアント」という枠組みだけでは解決できないことにも対応できるので、大下さんのおっしゃるとおり、漠然とした悩みでも、ぜひお気軽に相談してほしいと思います。
──LINEヤフーとして、今後の構想を教えてください。
相原:目指したい世界観として、私たちは「Connect One構想」を掲げています。これは、1to1コミュニケーションをさらに進化させたものです。
データ分析により、ターゲットユーザーに適した広告を届けて、クライアントの商品・サービスを認知してもらうだけでなく、商品を購入、さらにその後の継続的なコミュニケーションによるファン化の促進まで、LINEとヤフーのソリューションで一気通貫させたいと考えています。
──1to1コミュニケーションはLINEの大きな特徴ですが、そこにヤフーデータや電通の保有データを用いることで、そのコミュニケーションがより最適化されていくわけですね。
相原:LINEで企業の公式アカウントをフォローしているユーザーは、その企業に対してかなり関心が高い傾向があると考えられます。そうしたユーザー一人一人のニーズに対して、データ分析に基づいた適切なメッセージを届ける。そうやって世の中を少し良くしていくというか、企業にとってもユーザーにとっても便利でうれしい世界を実現していければと思います。
山本:ヤフーの膨大な検索データ(検索クエリ)を分析すると、LINE上で「友だち」になっているユーザー群が能動的に調べたこと、つまり興味や嗜好(しこう)の傾向がわかります。それをもとに、友だちになったユーザーが興味を持ちそうなメッセージをLINE公式アカウントで配信したり、より適切なユーザーに友だち追加を促進することができます。これにより、ロイヤリティの高いユーザーとクライアントをつなぐことができると考えております。
──ユーザーを不快にさせず、喜んでもらえるメッセージを発信するために、豊富なデータが生きてくるわけですね。電通サイドから見て、LINEヤフーの可能性はどんなところにあると思いますか。
赤澤:LINEヤフーさんは広告のみならず、非常に多様なサービスを展開されています。それこそ、私は今日ヤフーさんの乗換案内アプリを使ってここまでやってきました。なので、それぞれの分析環境には、サービスの数だけの膨大なデータが蓄積されていると考えています。
まずはその膨大なデータを、ユーザーの許諾を得たうえで整理し、分析や配信に使える形にしていくことをご一緒させていただけたら嬉しいです。
大下:それぞれ合わせて100以上あるLINEおよびヤフーのサービスが、今はまだ「点」としてある状態だと思います。その点をクライアントニーズに合わせてつないでいくのが理想ですね。
LINE公式アカウントで企業とつながったユーザーに対して、LINEヤフーさんや電通、パートナー会社のあらゆるデータを活用して、その人にとって役立つような最適なメッセージを配信する、そんな未来を実現できればと思います。これからもよろしくお願いいたします!