2021年1月に立ち上げられた、株式会社電通ライブ内のライブエンターテインメントプロジェクトチーム「spotlight」。世界の第一線で活躍する国内外のクリエーターが集結し、互いに刺激を与え合うことで、今までの日本にはない、新たなエンタメコンテンツを生み出そうとしています。リアルにおけるエンタメが復活の兆しを見せている今、数年先の下準備なども含めた、国内外でのさまざまなプロジェトが進行中だと、同チーム内でプロデューサーを務める山田直人氏と金田実里氏は言います。
後編では、実際の「spotlight」の取り組みや、さまざまなパートナーに向けての提案、そして、今後のエンタメビジネスの可能性について、2人が語ります。
国際色を武器に、国内外のさまざまな案件を担当
Q.2021年の立ち上げ以降、これまで手掛けてきた案件にはどのようなものがありますか?
山田:立ち上げ当初は、やはりコロナ禍ということがあって、なかなか具体的な動きが進んでいくところまでは行きませんでした。ただ、少しずつ規制などが緩和されていくにつれ、引き合いも増えていき、今は幾つかの案件が動いています。リリース前などでまだお話できないものが多いのですが、国際的なイベントには積極的に関わっていますね。チームの国際色を生かし、「今までの日本になかった新しいライブパフォーマンスをやりたい」というクライアントの要望に応えることができますから。
金田:海外の事例ですが、中国の水族館からアシカやイルカなどのショーを、テーマパークで提供するようなエンタメショーにしたいという依頼があり、その計画に携わったことがありますね。その他には、海外のクリエーターからの紹介などもあり、海外の「spotlight」エンタメチームが、日本で興行をする際の窓口のような仕事もしています。
山田:海外でプロトタイプ的に行っている興行を日本でも開催するために、制作パートナー探しにも取り組んでいます。日本ではまだ珍しく、伸び代がありそうなコンテンツは、積極的に取り入れていきたいですね。
株式会社電通ライブ 山田 直人氏エンタメの力で、企業や自治体の課題解決に取り組む
Q.なるほど。いろいろと大きな案件を担当されているようですが、「spotlight」としては、今後どのようなクライアントに携わっていきたい、といった目標はありますか?
金田:ライブパフォーマンスやエンタメが生きる案件であれば、業種問わずチャレンジしていきたいと思っています。実は、さまざまなクライアントが抱える問題解決に、ライブパフォーマンスやエンタメが役立つ案件は意外と多いと思っています。
例えば、何らかの建設事業計画の狭間で、数年間だけ空き地になるようなスペースがある場合、従来であれば駐車場として使うことが多いと思いますが、エンタメの場として活用することだってできます。例えば、「spotlight」国内チームのネットワークを生かし、熱海の老舗ホテルで空いた棟を丸ごと企業イベントの会場として活用したこともありました。エンタメを行うには専用のイベント会場を使わなければいけないと思われがちですが、スペースさえあればどうとでもできるんです。
さらに、街おこしなどについても、お役に立てることは多いのではないかと思いますので、事業を起こすところから携わっていきたいですね。その場所にふさわしいエンタメとは何なのかを、共に考えていきたい。
山田:ライブパフォーマンスという視点で考えると、リアルで訪れるその場所だからこそできることがあると思うんです。伝統産業とか飲食とか、地域のいろいろな業種の人を巻き込んで、アイデアを出し合って、その土地ならではのエンタメをみんなでつくり上げていくのもいいですね。
もちろん、同じエンタメ業界でも、細かいニーズはたくさんあります。アーティストの方で、これまでとは違う演出を取り入れてみたいとか、表現を拡張していきたいとか。私たちが全部を考えて提供するのではなく、ディスカッションしてアイデアの共有をしてみるだけでも、お互いに得られるものは多分にありそうです。
金田:コロナ禍によって一旦は縮小してしまいましたが、海外のパフォーマーと仕事がしたいというクライアントのお手伝いも、今後はまたやっていきたいですね。私たちも進めながら学んでいきましたが、海外ではバックグラウンドとなる文化が違いますから、商習慣をはじめとする仕事のやり方が日本と全く異なります。日本は念入りな確認を丁寧に進めていくのが一般的なやり方ですが、海外は進行が早い一方、途中で大きな変更が入ることも多い。いきなり直接のやり取りとなると荷が重いときには、私たちが良いワンクッションになれればと思います。
株式会社電通ライブ 金田 実里氏エンタメの持つポテンシャルを引き出す
Q.最後に、日本のエンタメ界隈を盛り上げていくために、これからやっていきたいことを教えていただけますか?
山田: 個人でもチームでもやっていきたいと思っているのは、日本発の新しいライブエンタメをつくり上げるということです。漫画やアニメ、ゲームのように、海外展開して高い評価をいただけるような日本発のライブエンタメをつくり上げたいですね。
日本発のライブエンタメと言うと、例えば歌舞伎のような、いかにも日本的な伝統芸能、あるいはアニメやアイドルのようなサブカルチャーが思い浮かぶかもしれません。でも例えば、シルク・ドゥ・ソレイユのようなアクロバットショーでも、日本人がつくればさらに細やかで綿密な構成や演出のショーができるのではないかと思っていて。どの国のものとは分からなくても、世界に通じるようないいライブエンタメをつくりたいですね。
金田:私は、欧米のようなエンタメ文化の醸成でしょうか。欧米と比べれば、今の日本のエンタメ業界は、良質なコンテンツでも、多くの人に見てもらうためにはチケット価格を抑えなければいけない、というような傾向があり、結果的に役者やスタッフなど作り手の待遇面が向上しない。エンタメが経営として成り立たないと、コンテンツの品質も上がらないし、作り手も育たないとか疲弊するといった悪循環に陥ってしまう危険性があると思っています。エンタメが経営として成り立つようなスキームを、きちんと整備しないといけません。その上で、「夜食事に出かけて、その帰りに気軽にショーを見る」というような、日常的にエンタメを楽しむ欧米の文化が、日本でも根付いてほしいですね。
その一歩として、例えば、ハロウィンイベントのように季節イベントとして楽しむエンタメをつくる、といったことが挙げられると思います。他には、スポーツ観戦の合間にショーを楽しむような、スポーツエンタメにも可能性がありそうです。
海外ではシルク・ドゥ・ソレイユのような、アスリートがエンタメ産業でセカンドキャリアを築くことができる環境があります。日本のアスリートは、指導者以外の選択肢が非常に限られているため、そういう方面でもエンタメが貢献できることを広げていければうれしいです。

インターナショナルプロジェクトチームである「spotlight」は、海外のクリエーターとの交流を通して、ハイクオリティーなライブパフォーマンスを提供するだけでなく、クライアントのニーズに応じた新たなエンタメの創造に挑んでいることが分かりました。さらに、今後は、エンタメの力を活用して、企業や社会の課題解決をしていくことにも意欲を持っています。コロナ禍で一旦は縮小した、海外との行き来を含むリアルな交流が、エンタメを通じて復活し、新たなステージへと踏み出していくことが期待できそうです。