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公開日: 2023/11/16

金融の枠組みを超えて地域産業を振興。九州みらいCreationがつくる地域の未来(後編)

2023年4月に設立された株式会社九州みらいCreationは、株式会社 肥後銀行と株式会社鹿児島銀行を擁する株式会社 九州フィナンシャルグループの100%子会社です。熊本県・鹿児島県・宮崎県の南九州3県は、食や観光、歴史・文化などの高いポテンシャルを有していますが、地域事業者はDXや海外販路拡大などにおいて課題を抱えています。こうした現状を踏まえ、非金融分野で地域産業振興の課題を解決するため、海外ビジネス支援事業、ECモール事業に取り組んでいます。

同社の設立に際し、伴走を続けてきたのが株式会社電通コンサルティングです。そこで今回の記事では、九州みらいCreationの代表取締役社長 萩原大造氏と、電通コンサルティングの杉本将隆氏と加形拓也氏に設立経緯や事業内容を語り合っていただきました。後編では、海外ビジネス支援事業と並ぶもう1つの柱、ECモール事業について深掘りしていきます。

地域商社に求められる観光事業も視野に入れた攻めの戦略

加形:九州みらいCreationは、今年6月にECモール「よかもーる」を立ち上げました。まずはECモール事業を始めた背景について、教えていただけますか?

萩原:私が銀行に在籍していたころ、各行が次々にインターネットバンキングサービスを始めたり、ネット銀行が台頭したりと、ネットの攻勢が強まっていました。やがてGAFAの時代が到来し、さらにコロナ禍でデジタルシフトが進んだことで、今では消費者がモノを買うツールを選ぶ時代になっています。

私たちの母体である銀行は、地元の小売店をはじめとした地域の事業者と共に歩んできました。ですが、デジタル化が進み、消費がネットに移ったため、今までと同じことをしているだけでは利益が上がらなくなっています。しかも、地方ではなかなかこうした現実に気付きにくい。そこで、地域のリアルをそのままデジタルに持ってきた「地域デジタルプラットフォーム」をつくる必要があると考えました。

株式会社九州みらいCreation 萩原 大造氏

加形:金融業界のど真ん中でデジタルの脅威を感じていた萩原さんが、デジタル化によって地域経済を振興する。その発想が面白いですね。

萩原:少し角度を変えてお話すると、今は経済圏の奪い合いが生じていると考えています。あらゆる企業がさまざまな事業を展開し、コア事業のお客さまと親密な関係を築くための手段を増やしています。金融業界も、規制緩和によって異業種から参入できるようになり、既存の銀行とお客さまの奪い合いを繰り広げています。

だからこそ、私たちも非金融分野に打って出なければなりません。私たちの経済圏、つまり南九州3県のお客さまと、さらに親密な関係を築かなければならない。そのためには、デジタルチャネルをしっかり作り、私たちの経済圏を守らなければならないと考えました。

加形:とはいえ、ECモール事業は既に国内外の大手企業が手掛けており、なかなか厳しい戦いではないかと思います。南九州の経済圏を守る上で、どのような施策を考えていますか?

萩原:南九州の一番の強みは、自然資本です。例えば、奄美大島は世界自然遺産に登録されていますが、これはつくろうと思ってつくれるものではありません。この自然資本を生かすことが私たちの事業における最大の課題です。関係人口、交流人口を考えても、インバウンドを含む観光事業は無視できないと考えています。

杉本:これは私なりの解釈ですが、地域商社は攻めの戦略が重要だと思います。肥沃な南九州の自然遺産を中心に、地域の六次産業化をプロデュースしたり、域外に農水産物を販売するためのプラットフォームを築いたりする。そして、南九州の商材を輸出して外貨を稼ぎ、域内の資金を循環させる。そうやって南九州に活力を生み、持続可能な地域社会をつくっていくのが、九州みらいCreationの取り組みです。さらに、そこに観光が加わればなお良し。現在展開する2つの事業以外にも、昨年から他のプランを検討しているので、今後は段階的に攻めの事業を展開していくことになると思います。

株式会社電通コンサルティング 杉本 将隆氏

加形:ECモール「よかもーる」の現時点での反響はいかがでしょう。

萩原:意外にも、最初に売れ出したのはスイカでした。スイカはかさばるので、遠方から来た方などは実店舗で買って持ち帰るのは大変ですよね。だから、Eコマースに向いているのでしょう。もう1つ売れているのが、フローズンマンゴーアイス。大手百貨店でも期間限定で販売していますが、首都圏のお客さまにとっては「よかもーる」の方が送料込みの価格が安く購入できるため、ご支持いただいているようです。

現在はモノを販売していますが、先ほど申し上げたとおり、今後はコト消費・トキ消費にもつなげていきたいですね。

地域事業者を束ねる「株式会社南九州」を目指す

加形:「よかもーる」が立ち上がったことで、地域事業者とも新たな接点が生まれているのではないかと思います。地域事業者からの期待感や、九州フィナンシャルグループ内の反応はいかがですか?

萩原:6月にオープンしたばかりで、知名度はまだまだですが、鹿児島銀行と肥後銀行に対して私が発信しているのは、「ECモールは、銀行にとって新しい付加価値サービスである」というメッセージです。「よかもーる」ができたことで、地域事業者のB2Cの動線が一気通貫でつながりました。銀行がお客さまに「よかもーる」を紹介すればお客さまの事業に貢献でき、ひいては九州フィナンシャルグループの収益にもつながります。両行の営業基盤を活用できるよう、今年の下期からはさらに銀行との連携を深めていければと考えています。

加形:「よかもーる」があると、どんなことを目指した事業やサービスなのかということが、お客さまにとってもイメージしやすいですよね。では、今後の展望についてお聞かせください。これから3年後、5年後に南九州でどのようなポジションを築いていたいとお考えでしょうか。

株式会社電通コンサルティング 加形 拓也氏

萩原:3年、5年という短いスパンではなく、10年先をイメージしています。最終的には「株式会社南九州」のような存在で、1つひとつの地域事業者としっかりつながりをつくっていきたいですね。そして、南九州を鳥瞰的に見て、地域を強くするために、私たちにできることは何かを考えていきたいです。かつて鹿児島銀行の前頭取が「着眼大局・着手小局」と話していましたが、まさにその通り。大局を見ながら、1つひとつできることを着実に実行していきたいと思います。

加形:最後に、電通グループに期待することをお聞かせください。

萩原:なぜ電通コンサルティングと手を組んだかと言えば、杉本さんと話して、互いの考えに共感できたからです。杉本さんは宮崎人で、私と同じ九州男児という親近感もありました。世の中にはコンサルティング企業が多数あり、中には目先の利益だけを追う会社もありますが、私も杉本さんも、地域の未来を本気で考えています。私のような人間が「地域のために」だなんて口にするのは恥ずかしいのですが、それでも言わなければならない時がある。そんな時に覚悟を決めて長期的に伴走してもらえるパートナーはどの企業かと考えたら、電通コンサルティングしかないと思ったんです。また、電通グループはさまざまなリソースをお持ちですので、包括的にご協力いただけるのではないかという思いもありました。

杉本:私は複数のグローバルコンサルティングファームに10年以上勤務した後、電通グループにジョインしたのですが、電通グループの強みはクリエーティビティとエグゼキューション、つまり右脳的な想像力と実行力だと思っています。これからもビジネスの成功を目指しつつ、次世代に残せる南九州の地域基盤を、九州みらいCreationと一緒に創造していきたいと考えています。

 


 

長年にわたり、地方銀行として営業基盤を築いてきた肥後銀行と鹿児島銀行が設立した九州フィナンシャルグループ。その子会社である九州みらいCreationは、非金融分野で地域産業を振興するという新たな試みに挑んでいます。自治体とは違った角度から地域活性化を目指し、DXや海外販路の拡大によって地域産業の課題を解決する。そこには、これからの地域振興のヒントがあるのではないでしょうか。

 

南九州3県の魅力的な逸品が大集合した「よかもーる」はこちら

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著者

加形 拓也

加形 拓也

株式会社 電通

電通マーケティング部門~電通デジタル~電通コンサルティングで保険会社の2050年構想/自動車会社のスマートシティ構想/食品企業の新事業など、企業の事業デザインをサポート。都市工学をバックグラウンドとしたコンサルティングと縦割りを打破していくファシリテーションが得意。電通相撲部主将。右四つ。得意技は下手投げ。

杉本 将隆

杉本 将隆

株式会社 電通コンサティング

社内起業家×新規事業コンサル×アントレ教育家の3つの顔を持つ。大手鉄道会社に10年勤務し、複数の新規事業を創出。Deloitte/PwCに10年所属し、顧客戦略/新規事業/地方創生チームや地区事務所立ち上げ の統括責任者。2019年参画。慶應義塾大学総合政策学部/九州大学大学院ビジネスクール卒。九州大学客員教授、亜細亜大学大学院ビジネススクール講師。経営学修士。

萩原 大造

萩原 大造

株式会社九州みらいCreation

鹿児島県鹿児島市出身。鹿児島大学法文学部卒業後、1997年4月、株式会社鹿児島銀行入行。同行営業統括部時代には、2015年4月よりスタートした同行第六次中期経営計画策定の主要メンバーとして尽力。同行営業統括部主任調査役、株式会社九州フィナンシャルグループ経営企画部総合調査室長、同社事業戦略部副部長兼事業開発室長を経て、2023年4月、株式会社九州みらいCreation代表取締役社長に就任。趣味は釣り。座右の銘は「至誠通天」。

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