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2025年2月に発表された「電通未来曼荼羅2025」。「人口・世帯」「社会・経済」「科学・技術」「まち・自然」の4カテゴリーの中で全72のトレンドテーマを取り上げた「共創型仮説量産ツール」です。

今回は、電通未来曼荼羅2025の共同編集長を務める電通の吉田健太郎氏、加形拓也氏、電通デジタルの高橋朱実氏、電通コンサルティングの山本創氏で座談会を開催。電通未来曼荼羅2025をもとに、「身体」「学び」「つながり」「豊かさ」の4テーマの今と未来について語り合いました。前編では、「身体」と「学び」を、後編では「つながり」と「豊かさ」についてディスカッションします。

前編:「電通未来曼荼羅2025」で深める未来への議論。未来の「身体」と「学び」はどう変わる? 

(左から)電通 加形拓也氏、吉田健太郎氏、電通デジタル 高橋朱実氏、電通コンサルティング 山本創氏

AIやSNSの発展で、人はどのようにしてつながっていく?

山本:今回の「電通未来曼荼羅2025」の中で、特に私が興味を持ったテーマは「つながり」です。前編でお話しした「身体」や「学び」の話ともつながる部分がありますが、今後少子化や未婚化が進んで、単身世帯が増えていくでしょう。さらに、地域の過疎化や人口減少など、社会がバラバラになっていくニュースも多く、孤独になる人が増えるのではと思います。

一方で、ソーシャルメディアを通じていろんなものがつながっていく側面もあります。こういった「人と人のつながり」における二面性は、自分の中でとても関心の高いテーマです。コロナ禍においてはリモート飲みのように「リアルなつながりはオンラインで代替できるのでは」という雰囲気も一時的にはあったと思います。しかし「やっぱり集まらないと」という流れが今では復活してきました。こういった状況も踏まえて、つながりの在り方を考えていきたいです。

電通未来曼荼羅2025の26番に「アジアのポップカルチャー」を取り上げています。例えば、中東に「ドラゴンボール」のテーマパークが建設されるという話がありますが、日本の人気漫画が共通の楽しみを介して世界中の人々をつなげる力を持つ可能性を秘めているのかなと。日本のコンテンツ産業がそうした「人をつなぐ役割」を担うとしたら、ビジネス面でも新しい競争軸をつくれるのではと思います。

電通未来曼荼羅2025より一部抜粋

吉田:孤独は寿命を縮めるといわれていますよね。タバコを1日1箱吸うのと同じくらい健康に悪いともいわれるくらいで、つながりはフィジカルな健康だけでなく、メンタルウェルネスの面からも非常に重要です。

僕は、これからの時代「居場所の見つけ方」がますます多様化しそうだと考えています。居場所とは、個の空間とは別に、他者から「あなたはここにいていい」と認識されることで実感できるものです。昔は会社に席があって、部署や役割を持つことでそれが証明されていましたが、今はリモートワークやフリーアドレス化で、居場所を感じにくい状況もあります。一方で、AIとの対話などで、人ではなくAIが自分を認識してくれることで、居場所やつながりを感じる時代にもなってきている。SNSやメタバースなどでは相手が現実に存在するのかわかりませんから、このようなことも含めて、さまざまな可能性が広がっていく領域だと思います。

山本:最近、ChatGPTのアップデートに際して「前の方がよかった。私のChatGPTを返して」という声が上がっていると海外で話題になりました。この話は、自分のことを理解したリアクションを返してくれる存在であれば生身の人間相手でなくても人はつながりを感じられることの証左と言えると思います。AIが普及していく中で「つながり」への問いはますます深まっていきそうです。

高橋:アメリカの学生は、恋愛などの個人的な相談を友人にするのは「相手の時間を奪うから失礼」という考えがあり、自分が支払える費用内でカウンセラーをつけるそうです。しかし、今はAIに恋愛相談をするケースも増えていて、軽い相談はAIにして、本当に抱えきれない問題だけをカウンセラーに相談するのだとか。その話を20代の日本人女性にしたら「そうですよ。恋愛相談は友達ではなく、AI(スマホ)にするんですよ」と言っており、日本でももう相談相手はAIなのだと驚きました。

参考リリース:「対話型AI」に感情を共有できる人は64.9% 「親友」「母」に並ぶ"第3の仲間"に 

吉田:友だちに話すと、いろいろ気を遣わせてしまうからという考えがあるらしいですね。

高橋:そうなんです。もう一点興味深かったのはSNSの使い方です。その子によるとSNSは好きなものを共有し、つながる場だと言うんです。今の若者は価値観ではなくて、キャラクターや推しの「好きなもの単位」でつながっていくんですよね。だから好きなものが多い人ほど「つながる接点」が多くなり、結果的に界隈(かいわい)も広がっていくのだそうです。私はこの話を聞いて、価値観軸でのマーケティングはもう古く、これからはもう少しライトな「好きなもの軸」での視点が必要になっていくのだと思いました。

加形:私は、分断や孤独が進む一方で、そこに一歩踏み込むようなサービスが増えてくる気がしています。今後はSNSや推し活でのつながりも、裏側ではAIが人を理解し、リコメンデーションを通じて「この人なら一緒にいて大丈夫」だとつなげてくれる新しい出会い方が提供されていくかもしれません。そうなれば旅行やイベントなどリアルでも会いやすくなり、つながりの総量は確実に増えていくと思います。

吉田:AIが関わると、人との距離の縮まり方が変わるかもしれません。例えば、関西的な「つっこみ」が関東の人には「きつい」と受け止められることがありました。でもAIがそれをやわらかく、相手が笑顔で反応できるように翻訳してくれれば、これまでは構築が難しかった信頼性が構築できるかもしれません。これまでつながらなかった人とも、AIの力でつながれるようになるかもしれませんね。

ノブレス・オブリージュやポスト・ルッキズム 次世代の豊かさの在り方

山本:最後は「豊かさ」をテーマにディスカッションをしたいと思います。

加形:ご紹介したい電通未来曼荼羅は、29番の「新たな階級社会とは」です。日本版のノブレス・オブリージュですね。貴族の立場にある人は当然のように社会貢献すべきだ、という考え方です。

電通未来曼荼羅2025より一部抜粋

吉田:まさに、「学び」のテーマで話したギブの精神ですね。

加形:日本では昔は富を隠す文化がありましたよね。「うちなんて大したことないです」みたいな。それが今は変わってきていて、次世代のエンジェル投資家が、世の中を良くするために出資し、そのチルドレンたちがさらに成功して次世代に投資する、というサイクルができつつあります。

賢い人たちを見ていると、本当にお金は天下の回りものだなと思っていて。優れたアイデアや実行力さえあれば、投資してくれる人は必ず現れるんですよね。また優れたアイデアに大企業が協力する仕組みが広まることで、社会を前進させる面白い挑戦が増えてくるんじゃないかと思います。

山本:このノブレス・オブリージュの話は個人の倫理観や意識の話だけにしてしまうと「何かいいことしなきゃいけないよね」みたいな道徳の議論になりがちですよね。でも、加形さんがおっしゃったように、投資の仕組みや企業間のエコシステムの中にこういう考え方が入ってくると、単なる意識だけじゃなくて、ビジネスの手法の一つとして実現できるようになる。

そうなると、人の行動も自然と変わってくるシナリオもあり得る気がします。お金はもちろん大事ですが、「お金だけが大事」という価値観は行き過ぎていると感じている人も、少しずつ増えてきているんじゃないかと思います。

加形: もう一つ、豊かさとは物質的な側面だけでなく、精神的な側面も重要だということはここにいる方々はご存じですよね。電通未来曼荼羅の31番では「ポスト・ルッキズム」について記載をしています。見た目だけではない、生きざまや努力が美しさとして認められるようになっていくということです。

電通未来曼荼羅2025より一部抜粋

山本:美の基準の変化によって、男性側の価値観にも変化が起こりそうですよね。若い女性に認められる男性でありたいという固定観念から、解放される部分もありそうです。

吉田:今の話を聞いていると、結局、精神的な豊かさの部分には、やっぱり「誰かが自分を認めてくれている」という実感がすごく関わってくるんだろうなと思います。そう考えると、デジタルや情報技術の進化がとても重要になってくるんですよね。本来なら知り得なかった情報が届くようになったり、それを伝える手段が洗練されてきたりしているわけです。例えばアイドルの生きざまや努力の話を聞いても、「ふーん」と思う人もいれば、「いいね」と感じる人もいる。ただ、多くの人に承認されなくてもいい時代になってきていることで、一人一人が生きやすくなり、自分の豊かさを自覚しやすくなっているようにも感じました。

加形:国民のウェルビーイングを測る新たな指標としてGDW (国内総充実)も注目されていますが、これから豊かさの基準も変わってくる気がしますよね。同調圧力にさらされることなく、自分が美しい、すばらしいと心から思えるものがあること。そしてそんな自分を理解し承認してくれる人がいることが、豊かさにつながっていくのだと思います。  

吉田:もう一つ、精神的な豊かさに通ずる話だと思いますが、人間関係の在り方も少し変わってきている気がします。最近、恋愛リアリティ番組の影響もあると思われますが、理想の付き合い方が可視化されすぎていると思っていて。それがあたかも正しいものとして受け入れられてしまって、人間関係における許容範囲も狭まってきているように感じます。

加形:未来は、さらにパーソナライズされた恋愛のプロセスが提供されている気もしますよね。一目ぼれだけではなくて、徐々にその人のよさがわかるようになる、みたいなプロセスも発達していくかもしれません。

吉田:それはありそうですよね。僕は恋愛や人間関係はフィーリングやタイミング、ハプニングが大事だと思うんですよ。AIがその3つをプロデュースするような時代は来そうですよね。

加形:中国ではハプニングを起こすサービスはすでにあるらしいですよ。恋愛に限らず、仕事や育児などさまざまな場面でのよいハプニングを起こしてくれるそうです。そこにまでお金を使うのかという見方もありますが。

吉田:いいですね。豊かさというのは、ただ存在を感じるものではなく、実感できる形で可視化されることで、より理解されやすくなるのかもしれません。便利な社会の中で何もかもが当たり前になってしまうと、本来の豊かさを意識することも難しくなります。だからこそ、人々が豊かさを実感できるような仕組みづくりが求められる話はなかなか面白いですよね。


電通未来曼荼羅を機に、共に明るい未来を創造したい!

山本:4つのテーマのディスカッションが終わったわけですが、さまざまな仮説が生まれましたね。最後に、まとめとして今後電通未来曼荼羅をどのように活用していきたいかお聞きできればと思います。

高橋:デジタル業界では、どうしても合理性や効率性を重視してツールやプロダクトの導入を推進することが多いのが現状です。でも、本当に新しいデジタルツールの導入で人は豊かになれるのか、幸せを感じられるのか……と考えると、ちょっと違うと思うんですよね。豊かさでのハプニングの話のように、一見非効率でも、人を確実に幸せにできるようなアルゴリズムだってあり得るはず。そういう視点を持ちながら、一緒に議論し、共に未来を形づくっていける企業とご一緒できたらいいなと思います。

加形:電通未来曼荼羅にはテーマごとに未来のヒントになる視点が4つほど入っています。どれか一つのファイナルアンサーではなく、さまざまな切り口があり、かつ、それが一つ一つ矛盾していても別にいいんです。大切なのは議論をすることだと思っています。

個人的に、AIの進化や世界の政治状況を見ていると、「子どもたちに明るい未来を残せるのかな」と暗くなることも多かったんです。でも、本日の議論を通じて気づいたのは、粘り強く対話すれば必ず明るい側面が見えてくるということ。それぞれの企業が持つ技術や資産を生かして「こんな未来を創れるんじゃないか」とひらめく瞬間を、一緒につくっていけるとうれしいですね。

吉田:加形さんもお話ししているように、電通未来曼荼羅にはさまざまな視点での仮説が集まっていて、議論が広がる仕掛けが盛り込まれています。未来の話は、どうしてもネガティブに捉えられがちですが、だからこそ面白い未来を考えたいし、創っていきたいです。これから未来を考える上で求められるのは、新しい価値そのものを創造するクリエイティビティだと思います。それは僕たち電通だけで創るものでは絶対になく、事業会社の皆さんと共に築いていくことが不可欠であり、その共創こそが未来を創る鍵だと考えています。企業の皆さん、一緒に楽しい未来を創りましょう。それが電通未来曼荼羅の本質的な価値だと思います。

山本:ありがとうございました。本日議論した、「身体」も、「学び」も、「つながり」も、「豊かさ」も、一つの正解があるわけではありません。しかし、その答えがない議論を一緒に行うことで、企業として本当に大事にしたいことや、これから取り組みたいことが見えてきます。だからこそ、当たり前なものとして流されてしまうような言葉を掘り下げていくのは面白いんですよね。そういう面白さを感じられる方と一緒に、未来の話をしていけたらいいなと思います。

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著者

吉田 健太郎

吉田 健太郎

株式会社電通

モバイル事業、スマホアプリ領域を中心とした市場分析、戦略プランニング、コンサルティングなどに従事。電通モバイルプロジェクトリーダーとして、CES/MWCに2011年から毎年参加し、TECHトレンドを把握。2021年 電通グループ横断組織「未来事業創研」設立。未来の暮らしの可視化からのバックキャストでの事業開発を得意とする。消費者庁 新未来ビジョンフォーラム フェロー、経営管理学修士(MBA)。

加形 拓也

加形 拓也

株式会社 電通

電通マーケティング部門~電通デジタル~電通コンサルティングで保険会社の2050年構想/自動車会社のスマートシティ構想/食品企業の新事業など、企業の事業デザインをサポート。都市工学をバックグラウンドとしたコンサルティングと縦割りを打破していくファシリテーションが得意。電通相撲部主将。右四つ。得意技は下手投げ。

高橋 朱実

高橋 朱実

株式会社 電通デジタル

電通イーマーケティングワン(現電通デジタル)入社後、クリエイティブディレクションからキャリアを開始し、UI/UXコンサルタント、サービスデザイナーと一貫して顧客視点からビジネスをドライブするプロジェクトに携わる。2022年より未来曼荼羅の推進に参画。共同編集長を務める。

山本 創

山本 創

株式会社 電通コンサルティング

大手飲料メーカーのマーケティング部を経て、2010年7月に電通コンサルティング入社。出戻りの後2023年1月より現職。消費財・メディア・エンタメなどの領域を中心に、企業ビジョン策定や中期経営計画の立案といったプロジェクトに多数従事。日経クロストレンドでの短期連載など、近年では思考法に関する発信も展開中。

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